オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

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皆様、ご無沙汰しております。コロナで大変かと思いますが乗り切りましょう。おそらくペライト(エルダースクロールシリーズの疫病神)のせいですね。
アルドゥィン様のご加護があらんことを。

最初前話のタイトルが誤植で戦線布告となっていた。戦線布告ってなんやねん……

伏線大好き駄作者からの補足。

加藤は欧米系のオタク文化も好きだから伊丹の聖杯系コードネームに対抗してヒーロ・ヴィラン系コードネームを使ってるという設定。あとまあ、察している人もいると思いますけど……



大戦編
前夜祭


ところで、日本が宣戦布告されてパニックになったのは言うまでもない。

 

狭間陸将はUSBを速やかに最優先で市ヶ谷の防衛省に提出し、宣戦布告をされた旨を報告した。同時に、特地在隊の隊員は全員戦闘準備をさせた。

 

米軍も概ね同様だった。

 

ここまでは全話でお話しした通り。

 

問題は、防衛省から内閣府、内務省、外務省等各所に送付する際に内容を確認したり、「これ、上にあげてもいいの!?」と戸惑ったり、上に行ったら行ったで現実逃避したい官僚たちが「戦争?嘘でしょ?だって憲法9条……」とお花畑の者が一部いるという始末。

 

そんなあたふたしている間に米国はディレル大統領(たぶん本物)が緊急発表として宣戦布告されたことを世界中に発信。もちろん偏向報道やらでトラブルの件は一切言及しておらず新帝国とジパングを悪の枢軸と言いたい放題であるのはご愛嬌。

 

しまったと言わんばかりに日本国政府も後出しで宣戦布告されたことをニュアンスを変えて遠回しに発表したところで曖昧な表現により国民大混乱。

 

食料やら日用品やらガソリンやらの買い占めがやんわりと始まり、オイルショックなどを彷彿させる。

 

さらに特地からどういったわけか例のトラブルの動画と音声の生データが流出したのか意図的に流出したのか、日米双方は国民からバッシングを受けて大変なことになっている。

なお、日米以外はどうなったか考えない方がいいかもしれない。

 

国会議事堂やゲートの前では「戦争反対」のプラカードを掲げた抗議団体もちらほら。

 

開戦日から7日が既に経過した。そして未だドンパチなし。◀︎今ココ。

 

 

「それにしても攻めてこないっすね」

 

「そうだなー」

 

 

待機場所では若い自衛官と古参自衛官が将棋を打っている。

 

すぐ隣では米軍がトランプで遊んでいる。

 

 

最初こそ皆気を張り詰めていたが、だんだんと疲れてほぼ平常運転になった。

 

一応待機中はしっかり休み、その他はしっかり仕事していたが。

 

米海兵隊も、良識派の司令であったためか、独断の行動は取らなかったのも幸いしたかもしれない。

 

 

「おーい、交代だ」

 

 

遠くから米兵が同僚に呼びかける。

 

 

「あー、もう仕事か……」

 

「違う違う、配属の交代だ」

 

「なんだって?俺たちはアルヌスに配属されてまだ一週間しか経ってないぞ?」

 

「そんなことは知らん。上からの命令だ」

 

「はぁ、仕方ねえな」

 

 

米軍たちが何やら英語で話していたので理解した自衛官は一部だが、そこまで気に留めていなかった。

 

 

ただ、司令官室では状況はよろしくなかった。

 

 

「アンダーソン少将、君にはがっかりしたよ」

 

「……」

 

 

米海兵隊アルヌス方面隊の司令は、後ろにいる男の声に対し無言貫いた。

 

 

「君は祖国(アメリカの)の、上司の、国民の、そして世界の意図を理解して動いてくれることを期待してが、どうも違ったようだ。失望したよ」

 

「……私は、軍人でしてね。多少の政治に関する知識は素人よりはあるつもりですが、政治にはあまり関わりを持たない主義なので」

 

 

アンダーソン少将は静かに答える。どこか怒りを抑えているようにも聞こえる。

 

 

「それに、私はアメリカ政府以外に従う義務もつもりもない」

 

「……私は国連軍最高指揮官代行だが?」

 

 

影に身を潜める男は静かに返答する。

 

 

「はて、合衆国憲法に我々(海兵隊)五星紅旗(人民解放軍)の指揮下に入ることがいつ書かれたのかな?」

 

「残念ながら、憲法に書いていようが無かろうが、君たちはいずれ我々の軍門に下る」

 

「……なんだと?」

 

 

部屋の静寂さは扉が乱暴に開くことで終わりを告げた。

 

 

「司令、大変です!たった今、大統領がアルヌスを国連常任理事国の軍隊で結成された国連軍管轄に置かれることが決定しました!」

 

 

兵士の報告にアンダーソン少将は勢いよく立ち上がった。

 

 

「ほう、思ったより早かったようだ」

 

 

影に潜めていた東洋人の男は静かにつぶやく。

 

そして制帽を取り部屋を後にする。

 

 

「アンダーソン少将、我々人民解放軍が今回の件をキッカケに仲良くなれることを祈りますよ」

 

 

そして静かに扉を閉めた。

 

 

「ガッデム!」

 

 

アンダーソン少将はくずかごを力一杯蹴飛ばした。

 

 

「例の偽大統領といい、今回のありえない選択……神よ、私は一体何を信じれば良いのだ」

 

 

場所は変わって日本。

 

普通なら、日本が東京のど真ん中に他国の軍隊がフル装備で通行することを許可するわけがない。

例えそれが、同盟国アメリカでも戦車が無許可で通ることはない。

 

しかしながら、どうも国連があの手この手を使って介入してきたようだ。

 

まず、日本が紛争地域に指定されたこと。

また、日本は世界の経済に大きな影響があること、多くの外国人が在住しているため、紛争の早期終結が必要となるため国連軍の派遣が決定してしまった。

しかも常任理事国の満場一致で。

 

それでも、国連憲章的にも本来なら当事者の日本が拒否すればいいだけなのだが、これを機に新しい規則が採択されてしまった。こちらも満場一致で。

 

結果、こいつら絶対グルだろう、と某掲示板で炎上したがサイトごと閉鎖されるなど世界の闇を垣間見ることにもなった。

 

そして、なんとかいろいろ揉めて譲歩して折れて、と偉い人たちが頑張ったおかげ(?)で、『治安維持程度の能力』、つまり警察程度なら許可するということで日本が折れた。

 

警察程度、のはずだったのだ。

 

 

「マジかよ……」

 

MBT(主力戦車)、空挺戦車、水陸両用車、自走砲、地対地ミサイル……」

 

「あれ、J-31じゃね?中国の最新の戦闘機じゃねーか」

 

「いいなあ、あんなたくさん送ってもらえるなんて逆に羨ましいぜ」

 

「あっちはイスラエルのメルカバだぜ……」

 

「は、何で?常任理事国だけじゃないの?」

 

「ドイツもちゃっかり小規模だけど来てるな。どいつもこいつもスイスも、だけに」

 

「「「……」」」

 

「……なんかごめん」

 

 

ゲートから続々と運ばれる他国の兵器を見て自衛隊員は呆然とる。各国から色々送られているが、無論中国が一番多かった。

 

中、米、露、英、仏、その他の順に戦力が大きなる。

日本?聞かないでくれ

 

 

(くそっ、マジでやべーな)

 

 

伊丹が建物の影から双眼鏡越しに見る。

 

 

(このままだとしばらく帰れないな。お気に入りアニメの最終回はDVDで我慢しよ……)

 

「ロゥリィ、お父さんがまた泣いてる……」

 

 

テュカがロゥリィの耳元に囁く。

 

 

「……いいのよぉ、どうせまたロクでもないことで嘆いているのだから」

 

 

ロゥリィは呆れたようである。

 

 

せっかく自衛隊も動けると思ったら、また元の世界がいらんことしたおかげで動けなくなってしまった。

というか、米国も動けずあちこちの国がいるせいでお互い牽制している状態でもある。

 

 

***

 

 

一方、帝都は別の意味で似たような感じ(カオス)だった。

 

 

ハラショー(いいよ)!ストライクウィッ●ーズ!」

「シャーロットだ!トレビアーン(めっちゃいい)!」

 

 

などとロシア人とフランス人(のオタク)が歓喜していた。

 

 

「な、何であたいがこんな目に!?」

 

 

そしてデリラは拝み倒されてコスプレさせられていた。足には航空機っぽい装具をつけられている。そう、例のパンツじゃないから恥ずかしくないあれ。

 

 

「しかもこれ、下着じゃないのか!?」

 

 

デリラは顔を真っ赤にして隠そうとする。

 

 

「不是、パンツじゃないから安心するネ」

 

 

などといいながらカメラに収める中国人(オタク)。

 

 

「これだからオタクは……」

 

 

J(ジュリエット)はその様子を横目に呆れながら歩いていた。

 

 

「絡み合う漢達の肉体美……じゅるり……」

 

 

別の場所ではピニャたちはロシア人とアメリカ人がレスリングをしてるところを別の視点で見ていた。

 

 

「こっちもか……」

 

 

Jはもう考えるのをやめた。

 

例え視界の片隅に異種族の女性を口説いてるフランス人がいようと、異種族交えてウォッカの飲み比べしてるロシア人がいようと、異種族メイドに紅茶を振舞ってもらってる英国紳士淑女がいようと、アメリカ人と携帯ゲームを勤しんでいる隊長を見かけようと……

 

 

「ってお前何やっとるんやー!?」

 

 

思わずツッコミを入れてしまった。

 

 

「なんだJ。お前の関西弁久しぶりに聞いたな」

 

 

加藤は微笑んでゲームを続ける。

 

 

「そ、そんなことはどうでもいいんです。ていうか、あなたは何してるですか!戦争仕掛けといてゲームする馬鹿がどこにいますか!」

 

「戦争もゲームも似たようなもんだよ」

 

「この人は……もう」

 

「何か報告あったんじゃないの?」

 

「あ、そうでした。例の偽大統領たちの尋問は終えました。やはり、各国の情報機関の工作員でしたね。ただ、使い捨てなのでほとんど有益な情報は得られませんでした」

 

「だろうね。それでも何か情報は得られたか?」

 

「ええ、米露が門の管理をし、中が大量の人的資源を提供し発展という形でこの世界を得るつもりだったそうです。欧州はこれを機に難民問題を解決しようとしていたようです」

 

「まるで植民地時代だな。日本も人のこと言えないが」

 

「で、工作員たちはどうしますか?」

 

「捕虜交換のときとかのために取っておくか。牢にでもぶち込んでおけ、待遇は日本の警察基準でいいだろう」

 

「わかりました。あと、戦闘員全員分の予防接種は終わりました。みんな予防接種未経験だったのでまず予防接種とは何か、の説明からでしたので大変でしたが」

 

「ピニャ殿下達も受けたか?」

 

「ええ、注射器になど負けぬ、いっそ殺せ、注射器には勝てなかった、など訳のわからないことを言ってましたが」

 

「最高だな(笑)、そのくっころセリフ直接聞きたかった。まあ、まだ非戦闘員もいるから引き続きよろしく」

 

「ええ、わかりました」

 

 

そう言ってJは去る。

 

 

「またどんかつだぜ」

 

 

隣でゲームしてるアメリカ人が呟いた。しかしあまり嬉しそうじゃない。

 

 

「BOT相手にやっても虚しいな……」

 

 

加藤は呟いた。

 

 

「しかし、ここで電子製品使えるとはね」

 

「まあ、最初は墜落したヘリの発電機を改造したりして使ったが、そろそろガソリンも切れそうだったからな」

 

「どうやって電力供給してるんだ?」

 

 

アメリカ人が興味津々に聞く。

 

加藤は携帯の画面を変えてカメラモードにすると、遠隔カメラ越しに部屋で電気魔法に勤しむ魔導師たちがいた。

 

 

「まさかの魔法の無駄遣い……」

 

「まあ、他に人力やら風車やらいろいろ頑張っているよ。もう少ししたら安定供給の基盤の目処が立つし」

 

「……なんか申し訳ないなあ。俺ゲームやめて筋トレを電気に替えて来るわ」

 

「いってらっしゃい」

 

 

そう言って加藤は携帯を横向きにして操作する。

 

 

加藤はモニターに映し出される現状を見て静かに呟いた。

 

 

Wars never change(人は過ちを繰り返す)……」

 

 

携帯画面に映し出されていたのは、ゲームではなく、ゲートを潜り抜けるあちらの世界の軍隊たちだった。

 

 

***

 

 

「それにしても、暇じゃ」

 

 

アンヘルが羽を休めながら言う。とはいってもここ最近飛んですらいないが。

 

 

「ヨルイナールよ、暇だな。ワシとゲームをしないか?」

 

「今度は何をするつもり?一撃で何人の人間を葬り去ることができるか、ならしないわよ。あなた強すぎるもの」

 

「あれは飽きたから別のだ。人間界では時焉牙(ジエンガ)という遊びがあるらしくてな」

 

「ほうほう……」

 

 

アンヘルはヨルイナールに簡単にルールを説明する。

 

 

「それなら我々龍のように手先がそれほど器用じゃなくてもできそうね。でもここら辺にそんなブロックはないじゃないの」

 

「そうだなあ……あ、これを使うのはどうじゃ?」

 

「っ!?そ、それを使うなんてあんたバカじゃないの?」

 

 

透明な残骸があったので氷かガラスと思ったら……

 

まさかのアルドゥィンの外殻である。

 

 

「殺されるわよ!」

 

「いや、大丈夫であろう。やつの本体は今この世にいないのだから」

 

「しかし……罰当たりでは?」

 

「まあよいではないか、たまには」

 

「……そうね、時にはこんなのもいいかもね」

 

 

ヨルイナールは考えるのをやめた。

 

そしてアルドゥィンの透明な外殻を積み上げてジェンガーを始めた。

 

 

(こいつらは一体何をやってるのだ……)

 

 

世界の様子を見たあと、ついでにたまたま様子を見に来たミラルーツ(魂のみ)は困惑した。

 

ヨルイナール、アンヘル、バルファルク、バゼルギウスがアルドゥィンの外殻でジェンガをしていた。もちろんミラルーツの存在が見えるわけもなく、ジェンガは続行された。

 

これが100歩、いや、億歩譲って普通のジェンガならまだ理解できる。例えそれがアルドゥィンの外殻を使っていようと。

 

異世界の龍が、異世界の地でオリジナルジェンガをしたところで普通のジェンガになるわけなどなかった。

 

ヨルイナールがミスをする。

 

崩れたアルドゥィンの外殻(パーツ)が全身性感帯爆薬野郎(バゼルギウス)に当たる。

 

赤くなったバゼルギウスの鱗を見て危険を察知したバルファルクが高速で上空に逃げる。

 

事態を飲み込めなかったヨルイナールとアンヘルは爆発に巻き込まれる。

 

怒った2頭はバゼルギウスを攻撃するがまたも爆発して自分たちで首を絞めることとなった。

 

 

(世界も大変だがこちらも大変であるな。やはり龍による世界の平定は無理なのか……取り敢えず、アルドゥィンに外殻が玩具にされたことは黙っておこうぞ)

 

 

そう心の奥にしまうとミラルーツはアルドゥィンが授業中の空間へと戻る。

 

ちょうど戻ったところで、アルドゥィンは瞑想していた。

 

 

「例の世界はどうだった?」

 

「うむ、実に混沌(カオス)としておったぞ(いろんな意味で)」

 

「グフフフ、カオスか。いいぞ、争え、もっと争え。愚かな人間どもが殺し合えば我はさらなる力を手に入れるだけだ」

 

(愚かなのは人間だけではないかもしれぬがな……)

 

「なんだ、人間以外にも愚かな種族がいたのか?」

 

(あ、今精神の世界だから心読まれておるのか……)

 

「何だ、何か不都合なことでもあったのか?」

 

「……今現世へ戻るのはやめた方がよいということだけは伝えておこうぞ」

 

「……?」

 

 

アルドゥィンは首をかしげる。

 

 

「もう少し力をつけて行った方がよいということだ」

 

「ふん、言われなくとも分かっておる」

 

『アルドゥィンよ、次の段階へと行こうか』

 

 

姿は見えないが、二頭の頭にアカトッシュの声が響く。

 

 

「ああ、早めにしたいからな。ペースを上げても我は構わんぞ」

 

『時間を早めてもこの修行に意味はない。「(まこと)」と「(ことわり)」を理解せねば、成し遂げられないのだ』

 

「ではさっさと真と理とやらを教えてもらおうか?」

 

『それはできない。それは自ら見つけるものだ』

 

「ちっ、まどろっこしいな。そもそもなんの真理だ」

 

『それもお前が考えることだ』

 

「うぬぬ……」

 

『では、ヒントをやろう。お前が今求めているものは何だ?』

 

「愚問だな。力だ、圧倒的な最強な力だ」

 

『では、お前はどのようにして力を得る?』

 

「無論、魂を屠ることだ。特に人間の、そして力があるやつから奪うのが一番だ」

 

『では聞くが、魂を食い尽くしたらどうする?』

 

「新たな魂を求めるだけだ」

 

『では、全ての魂を食い尽くしたら?』

 

「あり得ないな。世界は広い。現に、例の異世界のように様々な星が存在する」

 

『しかし、もしそれすらも食い尽くしたら?』

 

「……(確かに、我は不死の存在だ。その至極長い時間で、食い尽くさないという保証はない)」

 

『色々と考えているようだが、そういうことだ。それが、「真」と「理」へのヒントだ。お前の求める、本当の力というものがその先にある』

 

「ふん、すぐにでもその真理とやらに辿りついてみせるわい」

 

 

そういうとアルドゥィンは深い瞑想に入った。

 

 

「この先、一体どうなるのやら……」

 

 

ミラルーツは彼を静かに見守ることしかできなかった。

 

 

***

 

 

射击(撃て)

 

 

号令とともに人民解放軍の自走砲が次々と火を噴く。目標は新帝国軍管轄の砦。

 

戦闘は唐突に開始した。列強同士の牽制を最初に崩したのは人民解放軍だった。

 

どこから得たか知らないが人民解放軍は地図情報を元に共通の敵の砦を一斉砲撃した。

 

もちろん、各国は抜け駆けするなと猛抗議したが、案の定証拠のない根拠(でっち上げ)らしき理由で強引に押し通した。

 

数の暴力の前に砦はあっけなく崩壊、瓦礫の山の化した。

 

不幸中の幸いか、元々人もそんないなかったので被害は最小限であった。

 

 

(マー)大校(大佐)、我々の大勝利です。こちらの被害はなし。敵、死者6名、重軽傷者13名、捕虜は非戦闘員を含め47名」

 

 

人民解放軍の将校が上官に報告する。

 

 

「ふむ、そこそこの戦果だな。とりあえず練習にはちょうどよいか」

 

「捕虜はどうしますか?国連軍収容所に連れて行きますか?」

 

「何を寝ぼけたことを。捕虜は我々が管理する。使い道ありそうだからな。明日は本番だ、速やかに撤収するぞ」

 

 

そう言って撤収していった。

 

 

「見せしめだな。新帝国だけではなく、俺たち(各国)への……しかしなんて奴らだ」

 

 

遠方から偵察していた陸自の偵察隊がつぶやく。

 

 

「全くだよ……」

 

 

と隣から女の声。

なぜか迷彩ペイントを施したヴォーリアバニーがいる。

 

 

「……あ、どーも」

「……ど、どーも」

 

 

お互い初対面であり、なんか気まずい雰囲気である。

 

 

「では自分は帰るので」

「わ、私も帰るので……」

 

 

二人は逆方向に急いで去った。逃げたの方が正しいかもしれない。

 

互いに余計なことは喋らなかったが、勘ですぐにわかった。

 

 

(緑の人は残念だが今は敵だ……)

(新帝国かジパングの斥候か)

 

 

***

 

 

「あー、ダメだダメだ!」

 

 

伊丹は自室にこもって色々と計画を練っていたが、どれも非現実的なもので困っていた。

 

 

「うわ、もう朝かよ。取り敢えず食堂で朝飯だ……」

 

 

夜更かしは学生の頃からアニメを見ていたりしたからそこまで苦痛ではなかった。

 

しかしどうしようもない状況に苛立ちを隠せない。聞くところによれば昨日戦闘が発生したとか。

 

 

「どうしよう……」

 

 

と悩みながら行列に並ぶ。

 

規模は変わらないのに多国籍の国連軍が来たせいでいつも行列のできる自衛隊食堂になってしまった。味はあまり変わらないのに。というか最近少し質が落ちている気さえもする。

 

 

セイバー(剣崎)、お前何やってるの?」

 

 

かつて特殊作戦群(S)の時の同僚があられもない姿で見つけてしまった。

 

 

「お前のエプロン姿みても俺は嬉しくないぞ」

 

「裸エプロンなら喜ぶか?」

 

「やめろ。事案では済まなくなる」

 

「やらねーよ。俺だって好きでこんなことしてねえよ」

 

 

剣崎3尉は食堂の厨房に立って食堂の係隊員と共に炊事していた。

 

 

俺たち(S)も動けないし、食堂は大忙しで大変だからな……こうやって臨時で編入してもらったわけよ」

 

「かつてサーヴァント(伊丹によるSの隠語)お前がこんなことに……オヨヨ」

 

「給食係も大事だからな。某アニメで世界最強の部隊は給食部隊で次がデルタフォースとか言ってたぜ。まあ取り敢えず特別にこの卵豆腐やるから元気だせよ。誰にも渡すなよ」

 

「……ああ」

 

「あと、周りをよく見ておけ」

 

「……」

 

 

伊丹は剣崎の口元とトーンがほんの少し変わったのを逃さなかった。

 

なお、ロゥリィたちは地元食堂なので朝は別行動だ。

 

朝飯をゆっくり食べながら周りをなんとなく見渡す。

 

以前よりも外国人が増えているのは当たり前であるが、気になる点がいくつかあった。

 

やたらと美女、イケメン、美男子、美少女が多い。それこそ日本ではモデルや芸能界に行けそうなほど。

 

国籍問わず談笑してる姿も見える。

 

 

(……なるほどな。そういうことか)

 

「お隣よろしいですカ?」

 

 

カタコトの日本語で美少女が微笑みかけた。

 

牛乳パックを吸いながらリア充爆発しろなどと思っていると、案の定美少女が隣に座ってよいかと聞く。

 

 

「あ、もう終わるんでどうぞ、自分は失礼するんで」

 

「あら残念。二重橋の英雄とお話をしたかったのに」

 

「すみません、自分仕事あるんで」

 

 

伊丹は卵豆腐のパックをポケットに入れて退席する。

 

食器を返納すると、今度は剣崎は食器洗いの係をしてる。

 

 

「お前忙しいな……」

 

 

伊丹は剣崎の姿を見て苦笑いする。

 

 

「ならお前も手伝ってくれ。で、分かっただろ?」

 

 

剣崎が小声で話す。

 

 

「ああ……スパイか?」

 

「それだけじゃない。ハニートラップもだ。現に表には出てないが自衛官も男女問わずハニートラップに引っかかった疑いが数件聴いてる」

 

「なるほどな。やはりお前はすごいな」

 

「ああ、挙動が完璧すぎて逆に怪しいやつの顔も覚えた。例えば、今食堂に入ってきたあの男、イスラエル諜報機関(モサド)だ」

 

「マジか。その情報は公安からか?」

 

 

伊丹の問いに剣崎は首を横に振る。

 

 

「まさかの、新興国からだ……」

 

「加藤からか!?」

 

「そのようだ。残念だが、自衛官に奴の協力者が紛れこんでいることしか掴めなかったが、この際利用できるものは全て利用しないとやってられねえよ。現に、米軍にも協力者がいると向こうから匂わせてきやがった」

 

 

剣崎はため息をつく。

 

 

「俺も、何を信じればいいのかわからねえよ。日本か、それとも上官の言葉か、それとも同僚か?最近はあの加藤というクソヤロウの行動がまともに見えてきた。伊丹、あの時の訓練よりも俺は精神的きつい……」

 

「剣崎……」

 

 

伊丹は悩んだ。ここは自分勝手に判断してはならないのは分かる。規模が大きすぎる。

下手したら伊丹も全世界を敵に回す。

 

 

「剣崎……いや、セイバー。みんなを集めろ」

 

「……」

 

聖杯戦争(特殊作戦)の開始だ」

 

「伊丹、いいんだな?」

 

「ああ……」

 

「わかった、アベンジャー(伊丹)。今夜決行だ」

 

 

***

 

 

「また夜逃げぇ?」

 

 

装備、荷物を整える伊丹にロゥリィ後ろから言い放つ。

 

 

「ロゥリィ、人聞き悪いこと言うんじゃない。夜間戦術的脱出と呼んでくれ」

 

「夜逃げよぉ、それ。というか、前にも似たようなことなかったぁ?」

 

「やはりね、夜が一番バレにくいのよ、こういうのは」

 

「そうしゃなくてぇ、時には正面突破でもやりたいのよぉ!」

 

 

ロゥリィはハルバードを軽く振りながら文句を垂れる。

 

 

「それ、できるのロゥリィだけだから!」

 

「で、もう夜逃げは確定だから仕方ないけどぉ、なんで私の知らない人たちもいるのよぉ」

 

 

見ると少し離れたところでセイバー(剣崎)を筆頭にサーヴァント(S)数名が現地民の服装を羽織ったり、顔を黒く塗ったりと準備していた。

 

 

アベンジャー(伊丹)、こちらは準備できているぜ」

 

「よし来た、こちらも準備オーケーだ」

 

 

伊丹がサムアップのサインをする。

 

 

「アベンジャーって、お父さんのこと?」

 

 

テュカが不思議そうに尋ねる。

 

 

「うん、そうそう……ニックネームみたいなもん」

 

「なんか無駄にカッコよくてムカつくんだけどぉ」

 

 

ロゥリィも伊丹をからかう。

 

 

「ところで、ジープとやらはどれを使うのだ?」

 

 

ヤオが辺りを見回すが乗り物がない。

 

 

「使わないよ」

 

「「「え?」」」

 

「今回は途中まで徒歩だ。運良ければ馬とか調達したいな」

 

「「「えええええ!?」」」

 

 

少女たちは驚愕する。

 

 

「この亜神の私に歩けとぉ?」

「お父さん、ここから帝都までどれくらい距離あると思っているの!?」

「この身は伊丹殿に捧げたがこれは過酷すぎる」

「運転したかった」

「夜なら私は歓迎ですわ。よしなに」

 

 

盛大なブーイングの嵐(吸血鬼を除く)だが、伊丹がロゥリィの前に片膝を着くと一瞬で静かになった。

 

 

「え、ちょ、何よぉ」

 

 

伊丹はロゥリィの手を取った。

 

 

「普段なら、お前たちを危険に晒しさわけにはいかいと言って残ってもらうかもしれない」

 

 

伊丹は力強く、ゆっくりとはっきり話す。

 

 

「だが今回は違う。各国の思惑が混沌としている。だから改めて言う、お前たちを守るために、ついてきてくれ」

 

「ば、バカじゃないのぉ!?そんなこと言われなくてもついていくわよ!」

 

 

ロゥリィの表情が珍しく赤い。

 

 

「そ、それにあんたより私の方が強いんだからぁ。自分と仲間の身くらい守るわよぉ」

 

 

ロゥリィは恥ずかしそうに顔を背ける。

 

 

「ロゥリィ、お前は強い。だがやはり、加藤に負けたこともあるだろう。やはり女の子は俺が守る」

 

「ーーっ!?」

 

 

ロゥリィの脳内で「女の子➡︎ロゥリィ」と見事補完された結果、顔から湯けむりが出たかと思うほど赤面してしまった。

 

 

「ヨウジったらぁ!」

 

 

軽く小突いた、つもりだった。

 

 

「おい、意識がらないぞ!」

 

「やべえ、だれかAEDもってこい!」

 

衛生兵(メディック)えーせーへーい(メディーーック)!」

 

 

剣崎たちが小声でで伊丹を起こそうと奮闘する。

 

 

「あ……」

 

 

ロゥリィは自分がしでかしたことに気づいた。

 

結果、少し出発が遅れた。

 

 

***

 

 

場所、帝都

 

 

「特地のピンクのお店……やばかった。隊長許可してくれて感謝だよ」

「俺、ケモナーなんだけど夢叶ったよ。隊長についてきて良かった。ウウッ」

「ミーなんかトカゲっ娘と……クレイジーだったけどワンダフルだったよ」

「ヴォーリアバニーやべぇ」

 

 

などど酒に酔った隊員たちが何やら大人の話で盛り上がっていた。

 

 

「これで思い残すことはないアルね」

「アイヤー、まだ死にたくないね」

「俺、帰ったらウォッカ飲むんだ」

「死亡フラグ来た」

 

 

などとみんな盛り上がったり下がったりしていた。

 

 

(隊長がいない。草加さんもいないけど、指揮官がいないのは流石にまずいわね)

 

 

Jは酒を飲みながら辺りを見回すが、やはりいない。

 

部屋を出て王立資料室に行くと、やはりいた。ソファーに深々と腰をかけて古文書などを解析していた。

 

 

「隊長、そろそろお時間です」

 

「もうそんな時間か。ありがとう」

 

 

加藤は書物を閉じて本棚に戻す。

 

 

こんな時(出陣前夜)にまで、何を読んでいたのですか?」

 

「まあ、テキトーだよ」

 

「好きなんですね」

 

「知識は最高の武器だ。知れば知るほど、さらに知りたくなる」

 

「私は隊長のことがもっと知りたいですね」

 

「これ以上何知るつもりだ。俺はお前のことを知っているからいいが、知らん人ならその発言はハニートラップを疑うぞ」

 

「隊長が仰ったように、知れば知るほどさらに知りたくなる、それだけです。隊長は私をここまで育てた。全ての知識経験を吸収したと思っていた。でも違った。全てを、教えてほしい」

 

「……時に、知りすぎること害になることもある。後悔するぞ?」

 

「構いません」

 

「なら今回の戦いを生き延びたらな」

 

「男に二言はないですよ」

 

「ああ」

 

「ならさっさと宴会の締めに行きましょう」

 

 

二人は資料室を後にする。

 

 

加藤が会場に入ると拍手と歓喜の声が聞こえたが、壇上に立つと静まり返った。

 

 

「ここに、残りわずかとなったSAWの隊員、果敢な義勇兵が集結し、最強の部隊として明日(戦い)を迎える。そして、新帝国と共に戦うが、俺からの要望はただ一つ、『生きろ』」

 

 

加藤は一呼吸おき、再開する。

 

 

「得られた情報によれば、我々の兵力は5万に鹵獲した戦車10台、武器も平均して中世に毛が生えた程度だ。対し、敵は50万の大兵力に現代兵器だ」

 

 

聞いている者から笑みが消えた。

 

 

「……この中で、この状況で俺についてくる者は、いるか?」

 

 

加藤の問いに、誰も答えない。

 

 

「俺のためについて来い、なんてカッコつけた言葉はお前らにかけない。国のために戦え、など大それたことなんぞ言わん」

 

 

皆は静かに聞いていた。

 

 

「俺に付いてきて、戦えとは言わない。たが、お前らの大切な人、信条、理由、そしてお前ら自身のために……その力を貸してくれ」

 

「……隊長、利子は高いですぜ」

 

 

SAWの数少ない生き残りが拳を挙げる。

 

 

「……マスターの頼みなら仕方ねえな」

 

 

と今度は元米軍の男が拳を挙げる。

 

すると、一人、また一人と拳を上げ、全員が拳を上げた。

 

 

「感謝はしないぞ、勝つまでは。そして、次会えた時は、『よくやった』と互いに言えるように、全力を尽くせ」

 

 

拍手と怒涛の歓声が上がる。

 

 

「最後に、SAWという名前を改変する」

 

 

またも一瞬で静寂に包まれる。

 

 

 

ALTERNATIVE(代わり)という言葉をしっているか?」

 

 

そしてポケットからコインを出す。

 

 

「我々は、表の世界の者の代わりに、裏の世界の仕事を続けていた。だが、このコインのように表も裏も、無くてはならない存在だ。文字通りの表裏一体、表という存在がなければ裏は存在できない、だが逆も然り」

 

そしてコインを投げると、音を立てて床に落ちる。その音が何かを意味するかと思われるほど耳に響く響く。

 

皆がそれを息を飲んで見守る。

 

裏面が上を向いていた。

 

 

「だが、このコインの表裏を決めたのは誰だ?」

 

 

加藤はコインを拾う。

 

 

「同様に、我々が裏だと誰が決めた?世界が押し付けてきた我々の仕事は、元々表の世界が世間体を気にしてやらなくなった仕事だ。ならば、我々が表でも良いではないか?いや……」

 

 

加藤はコインを人差し指と親指で握り潰す。

 

 

「表裏、というものがナンセンスだ。我々は誰かの()()()ではない。これからは表の弱者に()()()強者だ」

 

 

日陰者の中の日陰者たちが、光を求めて這い上がろうしているのだろうか。

 

 

「これより、特殊実験部隊第1中隊、SAWは名称を、代行者の意味として『ALT(オルタ)』に改称する」

 

「隊長、それf●teネタですか?」

 

「人がいい話をしてるのに話を折るな!そぅだよ、俺たちのf●te(運命)にかけてもな!」

 

 

会場が笑いに包まれる。

 

 

「まあいい、最後の晩餐にならないようお前ら明日は頑張れよ!」

 

「「おおーー!」」

 

 

加藤は皆の乾杯を見届けると部屋を出た。

付き添いでJが来ていた。

 

 

「あとは任せた。あいつら騒ぎすぎないようにな」

 

「了解です、おやすみなさい」

 

 

Jは軽くお辞儀をして会場に戻る。

 

 

「さてと、俺は寝るか」

 

 

寝室に入る前に、加藤はポケットから先ほど潰したコインを取り出して眺める。

 

 

FATE(運命)、か……」

 

 

それを窓から投げ捨てると寝室に入っていった、

 

***




皆さまもコロナに負けないように世界の喉で自粛しながら修行しております。

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