オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

76 / 85
そういえばもう初投稿から3年経っているのですね。亀更新を超えてナメクジ更新をお許しください。

世界はこの3年でもかなり変化がありますね。

実は、今回のお話は内容的にコロナの時期に投稿しても大丈夫か気にしていまして……などと言い訳すると思ったか(本当は駄作者の怠慢です)!

ただ、ネタバレするとすこし躊躇ったのは事実かな



目には目を、戦争には戦争を

「ヨウジィ〜もうかなり歩いてるわよぉー」

 

「ロゥリィ、ひょっとしてもう疲れた?」

 

「ち、違うわよぉ!他の娘たちが疲れるでしょぉ!」

 

「私は大丈夫よ」テュカ

「この身もまだ大丈夫だ」ヤオ

「太陽が出てないからまだ大丈夫」レレイ

「こんなの行軍より簡単ですよ」栗林

「はわあ、夜の散歩はなんて素敵なのでしょう」セラーナ

 

「な、何よ!折角気にしてあげたのに私が疲れているみたいじゃないのぉ!亜神なのに、亜神なのにぃ!」

 

「ロゥリィ、我慢しなくてもいいぞ。疲れてたらおぶってやる」

 

「キーッ!ヨウジまで私をこども扱いして!でも……」

 

 

ロゥリィは急に顔を赤らめてもじもじする。

 

 

「おんぶは……してほしいかも……」

 

 

と上目遣いで伊丹の顔を覗き込む。

 

 

「ロ、ロゥリィ……それは反則だ!」

 

 

伊丹は喜んで仕方なくロゥリィをおぶる。

 

 

「お父さん、私足を挫いたみたい」テュカ

「この身は急に貧血が……」ヤオ

「ちょっと血が足りないかも」レレイ

「最近筋トレ不足なんですよ。伊丹2尉、おんぶしてあげましょうか?」ゴリラ女栗林

「よしなに」セラーナ

 

「おいお前ら!何で急にこうなるだけ!こうなるならジープかっぱらってこればよかった」

 

 

という光景を見て他のSの隊員たちは複雑な気持ちになる。

 

 

セイバー(剣崎)、リア充してるアベンジャー(伊丹)をどうしたい?」

 

アーチャー(赤井)、気持ちは分かるが早まるなよ……」

 

 

などとと温度差が出たとき、先頭のランサー(槍田)が停止のサインを送る。

 

そして一同は姿勢を低くし、前方を警戒する。

 

 

「ランサー、どうした?」

 

 

伊丹が無線で尋ねる。

 

 

『……前方の岩陰に人の姿が暗視ゴーグルで確認した。三人の人種が岩陰に座り込んでいる』

 

「敵意はあるか?」

 

『暗視ゴーグルだけじゃ判断できないが、何かから隠れているように見える。武器らしきものがみえないから伏兵ではないと思う』

 

「分かった。細心の注意を払った上で接触を試みろ」

 

『了解』

 

 

アーチャーの援護の下、ランサーがゆっくり前進する。

 

そして小石を軽く相手の近くに投げてこちらの存在に気づかせる。

 

 

「ひっ!?」

 

「敵意はない。自衛隊だ」

 

 

ランサーは銃を肩に担いで両手を空け、現地の言葉で語りかけた。

しかしアーチャーは後方でバレないようにいつでも引き金を引く準備をしていた。

 

 

「ジ、ジエイタイ!?本当に偽物のジエイタイじゃない?ハァ、ハァ……」

 

 

よく見るとひどく怪我を負ったヴォーリアバニーと、ハーピィと耳が千切れてケロイド状に皮膚が焼けただれ、ヒト種と間違うほど重症を負ったヴォーリアバニーだった。ハーピィに至っては両目を布で覆って失明しているようだった。

 

 

「偽物のジエイタイ?どういうことだ?」

 

「……それ以上近づかないでよ……ハァ、ハァ……暗くてまだ本物か分からないんだから……ハァ、ハァ……」

 

 

少女は怯えながらも精一杯威嚇する子猫のように呼吸は荒く、気も荒かった。

 

 

「せめて、傷の手当てだけでもさせてくれないか?」

 

「……銃こちらに渡してくれるなら考えてやる、ハァ、ハァ……」

 

 

ランサーは一瞬悩んだが、目の前の少女と後ろにいる仲間を信じて89式小銃を渡す。

 

そして応急手当てを行う。

 

その間、少女は銃口をランサーに向けたままだったが、引き金を引くようなことはしなかった。

そして痛みに耐え続けた。

 

 

「どうやら、貴方は本当にジエイタイのようね、ハァハァ……」

 

「ああ、信じて貰えたかな?仲間を呼んでいいか?」

 

 

少女は無言でうなずく。

 

それを見てランサーはハンドサインで安全を確保したことを伝えると伊丹たちは少女たちを介抱する。

 

 

少女は血を吐きながら静かに呟いた。

 

 

「おい、大丈夫か!?何があったんだ!?」

 

 

伊丹が問いかける。

 

 

「偽物のジエイタイ……ニホンジンそっくりの兵士が……ハァ、ハァ……失明する光を出す兵器を使って……」

 

「アジア系?……中国の人民解放軍か!?」

 

 

ランサーがくそっ、と罵る。

 

 

「人民解放軍か……そして失明は閃光弾か?」

 

 

伊丹がそちらの線を疑うが、セイバーはそれを否定する。

 

 

「いや、多分あれだ。中露が開発していると言われている失明レーザー照射装置だろうな。まさかここで実戦投入してくるとはな」

 

「あ……あと……あと……」

 

 

少女は何かを訴えようとした。

 

 

「もういい、もう喋るな」

 

 

だが、次の言葉を聞いて伊丹たちの血の気が引いた。

 

 

「……息が……胸が……苦しい……」

 

アベンジャー(伊丹)!化学兵器か生物兵器だ!今すぐそいつから離れろ!!」

 

 

皆クモの子を散らすように逃げた。状況を把握できてないロゥリィたちも皆で引っ張って離れた。

 

 

「アベンジャー、呼吸器系に異常はないか?」

 

「俺は、多分大丈夫だ」

 

「念のためにこれを吸っておけ」

 

 

セイバーはボンベのような物を渡す。多分解毒作用がある物だろう。

 

 

「お前たちは大丈夫か!?」

 

 

伊丹はロゥリィたちに尋ねる。

 

 

「大丈夫よぉ。念のためにレレイ、テュカ、セラーナの魔法で治癒してもらってるわぁ」

 

「魔法すげえな」

 

「後でヨウジたちにもしてあげるからぁ」

 

 

少し離れた場所から伊丹たちは少女を眺めるほかなかった。

 

 

「くそ、奴ら(人民解放軍)非人道兵器まで持ち出したか……」

 

「ガスマスクを装着して問題なければ再度救出を試みるか?」

 

(なんだ、この違和感は……すごく嫌な予感がする)

 

 

同僚たちが他国の蛮行を疑い、憤慨している中、伊丹は極めて冷静になっていた。

 

 

「うう……もう無理ぃ……」

 

 

少女は返しそびれた89式の銃口を口に入れると、最後の力を振り絞って……引いた。

 

高く、乾いた音と共に操り人形の糸が切れたように少女は崩れ落ちた。

 

 

「「「……」」」

 

 

死に慣れた世界とはいえ、かなりショクを受けた。特にランサーは自分の銃を使われたことで快く思わなかった。

 

 

「ランサー、大丈夫か?」

 

「……ああ」

 

 

伊丹の問いにランサーは力なく答える。

 

 

「仕方ない、残った者を手当てするか……わっ!?別の生存者か?」

 

 

セイバーはどこからもなく背後に現れた生存者らしき人物に一瞬驚く。

 

 

「あー……」

「うー……」

 

 

「どうした君たち。うまく喋れないのか?」

 

「セイバー!そいつらに触るんじゃあない!」

 

 

セイバーが相手の手を触れようとしたとき。伊丹がタックルでセイバーを離れさせると同時に拳銃を抜いて生存者2人の頭部を撃ち抜いた。

 

 

「アベンジャー、お前一体何を……!?」

 

「セイバー、説明は後だ!何故こいつらがこんなところに……」

 

「ヨウジィ、大変よ!生ける屍たちに囲まれてるわ!」

 

「生ける屍って、ゾンビのことか!いつからこの世界にバイオ●ザードが加わったんだ!?」

 

「セイバー、そういうことだ。だが俺は戦ったことある。とある迷宮でな……」

 

「お父さん!数が多すぎるわ!どうしてこんなところにこいつらがいるのよ!」

 

 

テュカも弓矢で応戦する。

 

皆が奮戦している中、伊丹は奇妙なことに気付いた。

 

迷宮のゾンビは、綺麗な美女ゾンビはだらけだったが、今回は戦闘で散ったと思われる身体欠損、満身創痍の亜人やヒト種の女性の他に、男性のヒト種も含まれていた。

 

 

(馬鹿な、あの風土病は女性だけじゃないのか!?しかもこいつら速い!突然変異なのか!?)

 

 

そして、その疑問への答えを決定づけるものを彼は見てしまった。

 

中国軍を主体とする国連軍兵士のゾンビ、そして極少数だが自衛隊員のゾンビである。

 

その瞬間、全てのピースが繋がった。

 

 

迷宮で謎の勢力に迫撃砲で支援を受けたのを。

 

加藤が自分たちをいつも監視していたことを。

 

 

(あのクソ野郎(加藤)、とうとう超えてはいけない線を越えやがった!)

 

「アベンジャー!まずいぞ、見えるだけで300以上に囲まれている!」

 

 

Sの隊員たちは一発一発をゾンビの頭部に当てる。

 

 

「ちょこまかとぉ、うざいのよぉ!」

 

 

圧倒的にロゥリィが一番奮闘していたが、それでも苦戦していた。ロゥリィはともかく、他の仲間を守るのでかなりギリギリの様子であった。

 

 

「くそっ、セラーナ!頼む!」

 

「お任せを」

 

 

セラーナはゾンビ化してない屍を動かし、ゾンビ同士で戦わせた。そのとき、一瞬の脱出口を見つける。

 

 

「よし、逃げるぞ!」

 

 

そして一同は辛うじて包囲網を無事突破した。

 

 

***

 

 

「くだらん。まったくもってくだらん修行だ」

 

 

アルドゥインは一息ついてる様子だが、彼の周りにはアンヘル、ヨルイナール、バゼルギウス、バルファルク、そしてミラルーツ(たちの魂)が力尽きていた。

 

 

「なぜじゃぁあ……ここは精神世界のはずなのになぜ痛いのだぁ」

 

 

といってアンヘルら気を失った。すぐに強制的に起こされるわけだが。

 

 

『アルドゥインよ。少々手こずっておるようだな』

 

「アカトシュよ、邪魔をするつもりなら消えるがいい」

 

『少しお前に助言を与えよう。とある者と闘ってもらう。彼に勝てば、現世に帰る力は戻られよう』

 

「ならばさっさとそいつを出すが良い」

 

 

すると、目の前に一つの魂が現れた。

 

 

『お前のよく知る者だ。しばし懐かしむのもよかろう』

 

 

そう言ってアカトシュの声がフェードすると同時にアルドゥインを含む龍たちの体が実態を持ち始めた。

 

もちろん目の前の魂も。

 

その姿を見てアルドゥインらニヤリと嗤う。

 

 

「……Paar(野心) Thur(大君主) Nax(残酷)、久しぶりだな」

 

 

目の前にいたのは、アカトシュが2番目に作りし龍、パーサナックスだった。

 

 

***

 

 

イタリカにて

 

 

「ミュイ嬢たちを安全な場所に退避させたのは正解だな」

 

 

皆が作戦を練っている傍ら、加藤は漆黒の刀を手入れしていた。

 

 

「しかし加藤殿、妾たちは包囲されてしまったぞ」

 

 

そして遠くで轟音がすると天井が揺れ、砂が落ちてくる。どうも場所は地下室らしい。

 

 

「我々は特殊部隊、包囲され孤立無援には慣れてますので」

 

「それは安心してよいものなのか!?」

 

「安心していいよー」

 

 

などとコントチックな展開になっていたところ、戦闘から帰還した怪我だらけのヴォーリアバニーが一人割り込んで来た。

 

 

「お、デリラ少尉。ご苦労、状況を報告し……」

 

 

加藤が言い終わらないうちにデリラが加藤の頬を思いっきり叩いた。

 

 

「貴様!貴様ぁ!よくも同胞を……よくもぉ!離せ!離せぇぇ!」

 

 

今度は殴りにかかろうとするが、周りに止められる。

 

 

「どうした。理由によっては上官不服従でよくて懲罰房行き、悪くて銃殺刑だぞ」

 

 

加藤は叩かれた頬をさする。

 

 

「よくもあたいらの同胞を化物に変えやがって!」

 

「はて、なんのことやら」

 

「とぼけるな!戦で倒れた亜人、ヒト種が、生ける屍になったんだぞ!」

 

 

それを聞いた一同はどよめく。

 

 

「それに、まだ生きている同胞にも噛まれた者が多くいるだ!そいつらも生ける屍になるだぞ!」

 

 

デリラはかなり興奮した様子だった。

 

周りもかなりざわついていた。

 

 

「あたいらに予防接種とかいうもので変なものを入れただろっ!?」

 

「……なるほどな」

 

 

加藤はデリラにゆっくり近づくと、身体を舐めまわすように見る。

 

 

「腕に噛まれた跡が複数あるな」

 

「だからなんだ……」

 

「ほれ」

 

 

加藤は手を差し伸べる。

 

周りは加藤が何してるのか理解できなかったあ。

 

 

「なんだ、せっかく噛まれても大丈夫なことを証明してやると言ってるんだ。好きなところ噛めよ」

 

「……どうなっても知らないよっ!」

 

 

デリラは加藤の手首に思いっきり噛みつく。

そして血が飛び出る。

 

 

「痛えな。本気で噛みやがって。まあいい、今回は大目に見てやる。懲罰房でしばらく頭を冷やしておけ」

 

 

そう言うとデリラは連れていかれる。

 

 

「……加藤殿、さっきの話は本当なのか?」

 

「さっきの話?」

 

「予防接種とやらでへんなものを妾たちの体に得体の知れないものを入れたと……」

 

「まあ、予防接種もある意味異物を身体に入れているようなものだ」

 

「え゛」

 

「まあ話は最後まで聞いてください。こちらの世界でも、毒を微量ずつ摂取して体を毒に慣らすという方法があるのは知ってますか?」

 

「妾も聞いたことはある」

 

「それを病でも同じことをしているだけ。だから、我々は生きている間は生ける屍の病(ゾンビウイルス)には感染しない」

 

「待て、その言い方だと……」

 

「さすがピニャ殿下お気づきになられたようで」

 

 

加藤はニッコリと微笑むと、スマホの遠隔操作で監視カメラの映像を見せる。

 

 

「こ、これは……!?」

 

 

ピニャはショックのあまり口元を押さえてしまう。

 

 

「死してなお、戦い続ける兵士。そして新しい戦い方。コスパも半端なくよい。そうだな、名前をつけるなら『不死戦』あたりか」

 

「あ、悪魔の所業だ……」

 

 

ピニャは映像から目を離せなかったが、直視もできなかった。

 

 

「悪魔ねえ……俺的には、人間だからここまでできるのだと思うのだけどね」

 

 

映像に映っていたのは、包囲していた敵に襲いかかる多種多様、無数のゾンビだった。

 

 

「さてと、反攻作戦だ」

 

「マスター加藤、我々の出番で?」

 

 

加藤の私兵(オルタ)が尋ねる。

 

 

「いや、まだだ」

 

「?」

 

「我々が何もしなくても、天が片付けてくれるさ」

 

 

***

 

 

終始アルドゥインが圧倒していた。否、もはや勝負とは言えないほどパーサナックスは一方的にやられていた。

 

 

「ガハハハ!パーサナックス、貴様弱くなったな!?竜戦争時代よりも遥かに弱くなっておるぞ!」

 

「……お主は強くなったみたいだな」

 

「怠惰か?老いか?それとも貴様が愛したかわいいジョール(人間)どものせいで丸くなりすぎたのではないか?」

 

「……そうだな。確かに我は弱くなったな……だがな、Fus()を手放しても得られたものは沢山ある」

 

「貴様、今さりげなくFus()を撃ったな?」

 

「あ……」

 

「ジョールの矢ほど感覚もしなかったぞ。弱くなりすぎだ、我が御手本を見せてやる。FUS()!」

 

「ぐはぁぁぁあああ!?」

 

 

精神世界とはいえ、アルドゥインの放ったスゥームはパーサナックスの存在そのものを消し去りかけた。

 

 

「凄まじい……だがアルドゥインよ、それでは奴には勝てんぞ」

 

「やつ?」

 

ドヴァキン(ドラゴンボーン)……」

 

「はっ!なら貴様は知っているのか、やつを倒す術を!?」

 

「分からぬ……だが可能性はある」

 

「ほーう?」

 

「それは、愛だ」

 

「……」

 

「アルドゥインよ、貴様に足りぬは愛だ!他者を愛し、敬う心だ!我はそれを、人間を通して知った。エイドラのキナレスに同じことを言われ、我も半信だったが……貴様もいずれ分かる。分かる日が来る!分からなければ奴には勝てん!」

 

「……パーサナックス」

 

「アルドゥイン……」

 

 

パーサナックスはゆっくりとアルドゥインに近づいた。

 

 

「人間と、和解するのだ」

 

「……パーサナックスよ、貴様は力だけではなく知力までも衰えたか?」

 

「な、アルドゥイン!?」

 

 

パーサナックスは半透明の触手に捕われて身動きが封じられてしまった。

 

 

「貴様の精神に入らせて貰った。我が倒されたあと、とんだ災難だったようだな」

 

 

アルドゥインは見下すように微笑う。

 

 

「一時停戦だった世界は我という共通の敵が消えたことにより戦禍にまみれ、挙句に貴様はブレイズとやらにそそのかされた愛弟子(ドヴァキン)によって、殺されてここにいる。これが貴様が言う、愛とやらか?」

 

「くっ……」

 

「愛というものがあるのなら、なぜジョールどもは隣人を、自身を愛さない?我々ドヴァに対して愛を向けず、憎悪と恐れを抱く奴らになぜ愛を持って迎えなければならない?違うか、パーサナックス?」

 

 

アルドゥインは触手と粘液まみれのパーサナックスの耳元で囁く。

 

 

「あるのは勝利して支配する、それだけよ」

 

 

それを聞いたパーサナックスは、彼の中の何か、決定的なものが事切れたのを感じた。

 

視界も真っ暗だ。

 

 

「我の糧になるが良い」

 

 

パーサナックスの精神的肉体が崩壊し始めた。

 

 

「ア、アルドゥインよ……」

 

「なんだ、まだ死んでないのか」

 

「やつ……貴様が、対面したドヴァキンは……異形のドヴァキン、などではない」

 

「は?奴は我の知る者ではないぞ。異世界や並行世界とやらから来た奴に決まっておる」

 

「違う……奴は、我々の世界のドヴァキンだ……」

 

 

パーサナックスの体が無になる直前、こう叫んだ。

 

 

「やつがあのようになったのは我を殺した罪悪感と世界に対する憎悪だ!」

 

 

そしてパーサナックスは消えてしまった。

 

 

「……はっ、だからどうしたというのだ。奴自身が言ってたではないか。奴と我は異なる世界線だと……」

 

 

だがアルドゥインが気にしていたことはあのドヴァキンが知り合いかどうかなどではなかった。

 

 

(世界に矛盾が生じ始めている……)

 

 

いくらアルドゥインといえ、これがどんなにまずい状況か分かっていた。

 

 

「おいアカトシュ、さっさと我をあの世界に戻せ」

 

『それはお前自身が知っているのではないかな?』

 

「は?パーサナックスを倒しても全く分からんぞ。分かったのはジョールは尚更信じられぬということだ」

 

『彼をもってしてもお前を覚醒できなかったか」

 

「さっさとしろ、我は急いであの世界に戻らねばならん」

 

『残念だが、私の力を使うことでそうしよう。だが、貴様の力を全て送ることはできない』

 

「は?貴様エイドラなのにそんなこともできないのか?」

 

『エイドラだからだ。私自身、強大すぎる力は世界に直接干渉できないのだ』

 

「使えぬエイドラだ」

 

『お前たち全員を送るのに、アルドゥインよ、お前の力の99%を必要とする』

 

「なんで、我が下僕たちのために1/100に弱体化されねばならないのだ。置いていけば良かろう」

 

「アルドゥイン様、ひどいです……」

 

 

ヨルイナールが小声で呟く。

 

 

『そういうわけにもいかんのだ。彼らを先に送ってお前の骸を確保せねば』

 

「そういうことか……仕方あるまい」

 

『そしてもう一つ、お前が骸を触媒に戻され3日しかその力を保つことはできない。その後、強制的にここに戻される』

 

「なんとも制約が多いな。どうせ他に手段がないのだろう。それで良い。3日で全てを片付ける」

 

『良かろう、しばらくお前は休眠状態となる。次に起きるのは向こうの世界だ』

 

「さっさと始めろ」

 

 

そういうとアルドゥインの精神が漆黒の闇へと吸い込まれて行った。

 

 

***

 

 

「こいつはひでえ」

 

 

剣崎(セイバー)は目の前の光景に驚くばかりであった。

 

 

伊丹たちはイタリカ近くで包囲のため人民解放軍が設立した簡易キャンプまで来ていた。

 

既に捨て去った後で無人となり、あちこちに戦車や自走砲が置いてあり、地面には人の身体の一部が落ちていた。不思議なことに遺体は見当たらない。

 

 

「遺体はゾンビとなった、というところか」

 

「そうねぇ、この地は不浄と化しているわぁ」

 

「遺体がなければ生ける屍の軍勢は作れませんわ」

 

 

とロゥリィが言うとセラーナは残念そうな顔をする。

 

 

「ちっ、ゾンビの体温が低いせいか熱源探知装置に反応しねえ」

 

 

赤井(アーチャー)はそう言うとゴーグルを外す。

 

 

「まずいな。敵がどこから来るか分からんとうかつに動けないな」

 

「あちらこちらにいらっしゃいますわ」

 

「セラーナさんわかるの!?」

 

「ええ、伊達に吸血鬼はしておりませんわ」

 

「よし、セラーナレーダーを頼りに進むぞ」

 

「セラーナレーダーって……」

 

 

伊丹の言葉に周りは半ば呆れていた。

 

 

そうしてゾンビをうまく避けながらイタリカにかなり近づくことができた。

 

 

「しっ、今度は生身の人間だ」

 

 

伊丹の熱源探知ゴーグルに生者が反応したので皆とっさに地に伏せた。

 

どうも新帝国の兵士と加藤の私兵らしい。

カタコトで指示を出していた。

 

 

「Ahraan、ahraan」

 

「Horvutah Niin」

 

 

すると負傷者と思われる米兵と中国兵を担架に乗せる。

 

無論、そうしている間にもゾンビがワラワラと集まってきだが彼らは冷静に火炎放射器などでゾンビたちを蹴散らしてゆく。

 

 

「オブツハショウドクダ〜!」

 

 

(あ、あの中に日本人のオタクか、そいつらに変なこと吹き込まれたやついるわ)

 

 

などと伊丹は隠れながら見るのだった。しかし焼いた後はしっかり合掌していた。

 

ゾンビが全滅すると、彼らは担架を担いで帰っていった。

 

 

「……変なやつもいるんだな」

 

 

伊丹はため息をつく。

 

 

「しかし今のは新しい単語かな、それとも別の言語かな?レレイ知ってるか?」

 

「知らない。初めて聞いた」

 

「物知りのレレイでも知らないか」

 

「私もぉ、初めて聞くわぁ」

 

「1000年近くを生きたロゥリィでも分からないか」

 

「歳のことは言わないでくれるぅ?」

 

「しかしなんかどっかで聞いた言葉に近い気がするんだよね」

 

 

などと皆が頭を悩ますと、セラーナが唐突に口を開いた。

 

 

「ドラゴン語、ですわね」

 

「そう、それだ!ってええ!?セラーナさん知ってるの?」

 

「意味は知りませんが、いわゆる太古の言葉なのでしょう。子供のころ良く空でドラゴンたちが叫んでいましたわ。そのせいでお城の一部が壊れたりしましたが」

 

(そういや異世界の太古の吸血鬼だったな……)

 

 

意味はわからないが、取り敢えずドラゴン語という事が分かっただけ良しとしよう、と伊丹は思った。

 

 

「ドラゴン語って、あのアルドゥインとやら漆黒龍が話していた言葉よね」

 

 

テュカが思い出したかのように話す。

 

 

「どうりでどっかで聞いた気がしたわけだ」

 

「でも、彼らはなぜ知っているのかしらぁ」

 

「アルドゥインとやらに教えてもらったんじゃない?」

 

「そうかしらぁ。あの横暴極まりない漆黒龍がそんなめんどくさいことするかしらぁ」

 

 

疑問が一つ解決するとまた新たに疑問が出てきたが、それは後で考えることにした。

 

 

「とにかく、通りすがりの兵士がゾンビを消してくれたおかげで動きやすくなった。近すぎない程度に尾行するぞ」

 

 

そして尾行しようとしたとき、たまたま自衛隊の迷彩の鉄帽が落ちていることに気付いた。

 

 

「……」

 

 

伊丹は何かを察した。

 

 

「そういえば自衛官のゾンビもいるんだっけ……。サーヴァントに告ぐ、自衛官の遺体を見つけ際は可能な限りドッグタグなどを回収せよ」

 

『『了解』』

 

 

と無線で連絡すると、早速見つけた。

 

 

「南無三」

 

 

伊丹は合掌してドッグタグを回収しようとすると、動いた。

 

 

「ひぃ、ゾンビか!?」

 

「待て私は人間だ」

 

 

伊丹は拳銃を向けたが、それよりも声を聞いて驚く。

 

 

「健軍1佐!?」

 

「やっと、救援が来たのか?」

 

「え、まあ、どちらかと言えば斥候ですが」

 

「どちらでも良い……だが、これを頼む」

 

 

健軍は伊丹にカメラを渡す。

 

 

「色々と情報を残してある。これを本部に……」

 

「健軍1佐、すぐにアルヌスへお連れします!」

 

「ダメだ、もう遅い。私も、やられたよ」

 

 

健軍がふくらはぎを見せると、そこには噛まれた跡があった。

 

 

「……」

 

 

伊丹はかける言葉が見つからなかった。

 

 

「伊丹2尉、そんな顔をするな。このようなこと(死ぬこと)は想定していた。だがな、このカメラに残した各国と加藤の行いを託さずには死ねんのだ」

 

 

健軍は腰の拳銃を抜く。

 

 

「狭間陸将に伝えてくれ。預かった部下の命を守れなかったと」

 

「健軍1佐、やめてください!」

 

 

剣崎をはじめとするSの隊員が健軍を抑える。

 

 

「放せ!俺はこのままだと余計に迷惑をかける!放せー!」

 

「テュカ!健軍1佐を眠らせてくれ!」

 

「分かったわ!」

 

 

テュカの精霊魔法により、健軍は深い眠りへと落ちた。

 

 

「取り敢えず、なんとかことなきを得たな……」

 

「しかしどうするよ、起きたらまた自決しようとするぞ」

 

 

伊丹たちは悩んだ。

 

 

「セラーナさん、以前レレイの病気を制御したみたいにどうにかなりませかね……」

 

「できることでしたら、既にやっていますわ。黒魔術による生ける屍ならともかく、ここの生ける屍は恐らくペライトの影響が強過ぎますわ」

 

「ペライト?」

 

「失礼いたしましたわ。私の元の世界の、病のデイドラのことですわ」

 

(病の神ということか……まあ、この世界のゾンビもウィルス性の可能性が高いしな)

 

 

伊丹は迷宮での出来事を思い出す。

 

 

「希望はまだある」

 

 

レレイが呟いた。

 

 

「もしこの生ける屍の原因が迷宮の病由来なら、ロクデ梨で治療できる可能性がある」

 

「「おお」」

 

「でも男性にも感染し、感染後も活発に動き回るというものに変性している可能性もあり、確証は持てない」

 

「「ああ……」」

 

「だから、確実なのは加藤のところに連れてゆき、交渉すること」

 

「レレイ、なぜそう思う?」

 

「加藤はああ見えてかなり慎重で合理主義。この程度のこと、想定しているはず。だから日本で言うワクチン?と言うものを必ず用意してあるはず」

 

「……確かに。生物兵器を使う場合は自身の身を守る必要もある」

 

 

剣崎がレレイの言葉に納得する。

 

 

「よし、そうと決まればさっさと動くぞ」

 

「ソノヒツヨウハナイ」

 

 

突然の声に全員が手に武器を取るが既に遅かった。

 

 

「抵抗しなければ危害は加えない。だが、少しでもそぶりを見せたら容赦はしない」

 

 

ロシアの特殊部隊、スペツナズの装備をした兵士が日本語で話した。

 

 

「剣崎、こいつら……」

 

「ああ、恐らく加藤の方に寝返った方じゃない……ガチのほうだ」

 

 

伊丹と剣崎が小声で確認する。

 

 

「あらぁ、この私を誰かだと思ってぇ?」

 

 

ロゥリィがバルバードを地面に突き立て、戦闘態勢に入る。

 

 

「ロゥリィ・マーキュリー。通称ヒト種の亜神。不死の存在、年齢は900歳を超える。そして隣のイタミ・ヨウジを懇意にしている」

 

「だ、誰がこんなやつ懇意にしてるですってぇ!?そんなのただのデマよ!ぶ●すわよぉ!」

 

 

しかし他の女性陣の視線が痛い。

 

 

(絶対懇意にしてる)

(でも抜け駆けは許さない)

(お父さんは私のものよ)

 

 

「確かに、不死の貴方なら我々スペツナズすらいとも容易く蹴散らせるだろう。だがその間に仲間は何人生き残るかな?」

 

(……こいつら相手が最も嫌がることを心得ていやがる)

 

「我々は君たちが目的ではない。君たちの友達に用事があるのだ」

 

 

***

 

 

「アルドゥイン様!」

 

 

アルドゥインは目覚めるとヨルイナールが覗き込んでいた。

 

どうやら成功したようだ。身体はデイドラに会う前の通常状態。力はスカイリムにいた頃程度と感じた。

 

 

「ふむ、あの純白の古龍(ミラルーツ)と一同がいないようだが」

 

「……あやつらならお主を戻すための力となって消えてしまったぞ」

 

 

アンヘルがなぜか不貞腐れた様子で答えた。

 

 

「ふん、少しは役に立ったようだな」

 

 

アルドゥインは特に気も留めず身体の調子を確かめる。

 

 

「久々だからな。おいお前ら、少し力を分けろ」

 

「え、アルドゥイン様ぁぁぁぁああ!」

「こ、断るぅぅぅぅう!?」

 

「ふむ、だいたいこれでデイドラに魔改造された時の半分か。我はやることがあるのでな、この力は永久に借りておく。我のものは我のもの。世界のものは我のものだ」

 

 

そしてアルドゥインは飛び去る。

 

 

「あの暴君め……」

 

 

アンヘルは力なく呟く。

 

 

アルドゥインは取り敢えず近くにある大量の生命を探知すると猛スピードで向かった。

 

驚いたのはそのスピードである。アルドゥイン自身驚いていた。

 

 

「ふむ、我の力となった3頭のドヴァ()の影響か。スゥームを使わずこのスピードか、悪くない」

 

 

急なカーブ、急停止はもちろん、逆方向へ即発進も可能であった。恐らく、戦闘機バルファルクの影響だろう。

 

そんな感じで少し遊びながらもあっという間にその場についた。場所はイタリカに近い平原。

 

下を見るとたくさんの下等生物(ジョール)どもが何かからか逃げ惑うのが見えた。

 

 

「ふむ、生ける屍か……ペライトの力を感じるがそんなことなどどうでも良い。早速命を頂くとしよう」

 

 

このまま『生命吸収』のスゥームで根こそぎ喰っても良かったが、アルドゥインは試してみることにした。

 

糧となった龍の能力を。

 

結果は、それはそれは(アルドゥインにとって)素晴らしいものだった。

 

スゥームを唱えずとも念じるだけでICBMのごとく大気圏外から突入してきた小型隕石が精密誘導弾の如く、しかも雨のように地面を焦土と化した。

 

 

「|Koraav! Joor Los Med Ag Skeever!《見ろ!人がまるで焼スキーヴァー(ネズミ)のようだ!》」

 

 

下にいるジョールは人種、老若男女、生死問わず焼き尽くされた。

 

地対空兵器で応戦する暇さえ与えないどころか、航空兵器の要請すら出来なかった。

 

 

「質は高くないが、量は良しとしよう。さて、時間がない、次に行くとしよう」

 

 

アルドゥインは魂を吸収し終えると、空高く飛び上がった。

 

そして地面にはこれからの出来事を表すかのように、各国の旗が燃えていた。

 

余談だが、ここで奇跡的に生き延びた者は後にこう語る。

 

炎龍が空飛ぶ戦車なら、この漆黒の龍は空飛ぶ空母打撃群と。

 

 

***

 

 

「人間はほんと鈍臭い。遅すぎるんだな、全てにおいて」

 

 

ゾルザルの顔をした何かは西方砂漠を一人で歩いていた。彼の通った後には、多くの龍の骨が落ちていた。

 

 

目的地に着くと、岩陰に()()を見つけた。

 

 

「ほう、アルドゥィンのやつはここからこちらの世界に来ていたのか」

 

 

オブリビオンゲートが機能停止した状態で見つかった。

 

 

「人間どもよ、まどろっこしいのだよ。私が、手本を見せてやる」

 

 

彼がゲートに触れると、それは起動した。

 

 

「さて、(パーティ)を始めようか」

 

 

そして門から次々と怪異が流れ出してきた。

 




やっとアルドゥイン様復活しましたよ。ちょい強引だけど

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。