オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

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タイトルは完全にどっかのステルスゲーとエ●ゲーからですね。ありがとうございます。


恐るべき家族計画

【アメリカ合衆国の秘密研究所】

 

「米国は異世界(フロンティア)への進出に遅れをとってしまった……」

 

 

白衣に身を包んだ屈強な白人男性が静かに独り言を呟く。

 

 

「だが合衆国の予算は世界一ィィイイ!できぬことなど、ナイィィイイッ!

異世界で囚われていた諜報員の回収にも成功し、ある程度の情報は手に入れてある!

加えてワクチン開発に使われるはずの予算、時間、人的資源は全てこちらにまわった!あとは時間の問題であるぅぅう!」

 

 

などとマッドなサイエンティスト的な男が歓喜していた。

 

 

「この科学技術はァァアアーー!!全世界及び異世界の最高知能の結晶であり誇りであるゥゥゥ!!

つまりすべての国、世界を越えたのだァアアアアア!!

 米国の科学力(と予算)はァァァァァアアア世界一ィィィイイイイ!!」

 

 

そんな感じで狂人的な男は不思議な膜が張った小さな鉄の輪っかに指を出し入れする。

 

 

「アヒィ!?指がァァアア!?」

 

 

突如指先が消えてしまった。傷口はまるでウォーターカッターで切断したが如く綺麗な断面をしていた。

 

 

「〜〜くぅ!しかしこの俺は誇り高きドイツ系アメリカ人!祖国(アメリカ)のためには指の10本や20本簡単にくれてやるわァーッ!」

 

 

そしてまた研究に没頭した。

 

 

 

 

「はて、なぜこんなところに指が落ちているのでしょうか?しかもまだ温かい……」

 

 

イタリカで見回りをしていた老メイドは首を傾げるのであった。

 

 

***

 

 

「そういえば、最近馬鹿皇帝……もとい、ゾルザルを見聞きしませんね」

 

「ほんとだ、そういえば」

 

「確かに姿を見なくなった、風邪かな?」

 

「風邪なんかひく奴じゃない」

 

「死んだんじゃないの〜?」

 

「余計ありえないよ」

 

 

などと特地の貧しき人民どもは世界の情勢は大きく変わりつつも、意外と平穏な暮らしをしていた。今のところは。

 

 

伊丹たちを含む自衛隊及び国連軍は全てアルヌスから撤退し、門の外へと追い出された。兵器武器の多くは鹵獲されたが、一部は交渉の末返還されたりしている。

 

これは国連軍、特に米国を筆頭とした列強国の事実上の敗北であった。加えて彼らにとって特に屈辱的なのは、決定となった最後の戦闘ではもはや戦闘すらならず、双方の死傷者がゼロということだ。

 

まだ圧倒的敗北を重ねて撤退するならともかく、最後の戦闘が戦闘らしい戦闘が行われずに帰ったと言うことは素人から見て逃げたとしか見えない模様。

 

例えワクチンと特効薬のサンプルを交換条件としても、テロリストの要求に屈したとみなされてしまい、米軍は本国でバッシングを受けることになった。

 

軍自体が非難されるのも堪えるのに、個人たちにバッシングが来るのでもう救いようがない。

多くの兵士はベトナム戦争よろしく、ストレスに悩まされることとなった。

 

もちろん、表に出てるのだけでこれである。

噂によれば国連も結構荒れているらしい。

 

さらに新帝国が日本を名指しで唯一の連絡先としたため、国際情勢は実は日本はグルでは?と疑われたがここで機嫌を損ねて情報が入らなくても困るのでとりあえず表面上は黙認した。

 

ちなみに、中露は現在()()な国内問題を抱えており、異世界の対応が十分に出来なくなってきたとの噂である。何せ、ある日突然報道規制されて全く情報が出なくなり取り敢えず非常によろしくないことが起きていることだけは推測された。あんだけ色々と主張していたり、干渉しようとした国々急に完全沈黙したのだから、そりゃなんかあっただろうと各国は分析していた。

中露が日米からワクチンと特効薬を大量購入しているあたり、だいたい何が起きたか察せるが。

ついでに、欧州も大国が不利になると消極的になった。なぜだろう。

 

余談だが、特地にこっそり残留しようとした武装工作員はもれなく行方不明になり、本国と連絡がつかなくなったとか。はて、なぜだろう。

 

 

 

一方、アルヌスも多少の混乱は生じた。

 

門は日本と新帝国のDMZ(非武装地帯)となり、自衛隊と新帝国兵が丸腰で睨み合っていた。

 

アルヌスでは日本への亡命又は難民として逃れる派と、残る派で別れた。

 

新帝国は去る者は特に気にしていなかった。しかしながら、やはり日本側で難民申請が難航し難民は立ち往生することとなった。

 

残った者は当初不安はあったが、施設等は新帝国がそのまま引き継ぐ形でそのまま使用することになり、大きな変化はなかったので彼らは胸を撫で下ろした。

結果、難民申請をやめて残ることに方針転換する者も多くいた。

門の向こうからの特産品が来なくなったのは大打撃だったが。

 

 

 

一見平和的統治をしている最中、DMZの個室では密会が行われていた。

 

 

「草加さん、貴方からお会いしたいと聞いた時は驚きましたよ」

 

 

駒門がお茶をすすりながら静かに語った。

 

 

「なんせ、貴方は加藤と違って完全に行方が掴めなかったですからね、我々公安をもってしても」

 

「買い被りですな。運が良かっただけですよ」

 

 

草加も微笑んでお茶をすする。

 

 

「やはり、公安は侮れませんな。あの制限下で情報網を構築していたのは事実でしたか」

 

「ええ。その公安をもってしてもあなた方の動機や行動がよく分からない。この際、お互い腹を割って話しましょうや」

 

「そうしたいところだが、まだ時期早々かと」

 

「では、今回の密会はそれ以上に価値、又は緊急性があると言うことでしょうね」

 

「ええ……情報は確かなものですよ」

 

 

駒門は渡された封筒の中身を流し読みする。

 

 

「こ、これは……!?」

 

 

あまりにも驚いた勢いで立ち上がってしまう。腰痛も忘れて。

 

 

「時が来たら、これを実行してほしい」

 

「いてて……失礼。しかし、流石にこれは……」

 

「公安にしか頼めない。手段を選ばず、かつ制限を掻い潜るノウハウを一番有している君たちに」

 

「しかし、これは……」

 

「頼む。自衛隊は、単にルールを破ることはできても、合法的なルールの破り方の経験値が少ない」

 

「……あんたには世話になってますからね。しかし今までの借りはこれでチャラになりますよ」

 

「それでいい……世話になった人への借りは、返しておきたいからな」

 

「草加さん、あんた……本当に行くんですかい?」

 

「……ええ」

 

「……」

 

 

そして二人は別々のドアから部屋を出た。

 

 

***

 

 

「なんで私たちがこんなことを……」

 

「アルドゥインめ……わしらの身体に小細工を……」

 

 

アンヘルとヨルイナールは帝都及び異世界(日本とか)にある書物を読み漁っていた。

文字は読めないので絵本を読むようにページを見ていた。

ちなみに、本は小さいのでジゼルを始めとする龍人族たちが震えながら目の前でページをめくっていたりしていた。

 

無論、彼ら自らの意思で読んでいるわけでは無かったが、何故か無性に知識の収集への衝動に駆られた。文字も読めないのに。

 

 

「く、苦痛だ……」

 

 

 

そんなことはつゆ知らず、アルドゥインはアカトシュの下で彼女らの目を通して知識の収集に励んでいた。

 

 

「ふむ、あちらの世界も面白いものだ。特にこのキリスト教とやら、神とその子が同格または同等とな。まるで我とアカトシュの関係に似ている」

 

 

あちらの世界の知識にもご満悦の様子である。

 

特に、こんぴゅーたとやらや、いんたーねっとやらは非常に知識欲をそそった。

 

人類が築いてきた知識をものの数秒(当社精神世界比較)で理解した。

 

 

「やはりヨルイナールたちに我の力の断片を埋め込んで正解だったな」

 

 

次に下界へ行くのにまだ時間はかかるので、このようにしてしばらく知識の涵養に集中することにした。

 

そんな様子をアカトシュはやれやれと言わんばかりにため息をつく。

 

 

***

 

 

「おいおい、嘘だろ」

 

 

日本で集中治療を受けていた柳田は裏で情報収集に注力していた。

 

というのも、一時帰国した伊丹から調査依頼があったので極秘で調べていたのだ。

 

 

「どんだけ探してもみつからねえ。あるのは偽装用のデータだけ……今時Sや特警でもその経歴はなんらかの形であるぞ」

 

 

柳田は裏のツテで既に内閣情報調査室、防衛省情報本部、警察庁警備局、法務省公安調査庁など、調べられるものは片っ端から調べた。

もちろん、伊丹が加藤から譲り受けたパソコン等一式はとうの前に調べ尽くしている。内容はほとんど伊丹にとってしか有益ではなかったが。

 

 

「かろうじて見つけられたのは、CIAの端末にあったSAWとWASという秘密部隊、そこに彼らが在籍していたことぐらいか」

 

 

しかも正式文書には乗っていなかった。たまたま見つけたメモ程度の草案のデータに辛うじて残っていた程度だ。

 

 

「伊丹の野郎に『恐るべき家族計画』とか訳の分からんことを調べてくれって言われてもここまで手がかりがねえとな……」

 

 

柳田は頭を悩ます。ここまで謎のベールに包まれた人物は初めてだった。

 

 

「あとは俺が防大生だったころに(加藤)が俺の先輩だったこと、そしてその上司(草加)が奴の先輩だったことぐらいが手がかりか……」

 

 

そのとき、柳田の頭にある考えが過ぎる。

 

 

「防大……そうか、防衛大学校か……」

 

 

柳田は防大に勤務中のその手の知り合いに連絡し、確認を取る。

 

そして校内のネットワークに入り込むと、あらゆるデータをスキャンする。

 

めぼしいものは無かったが、加藤の過去の個人情報が手に入った。

 

 

「……賭けになるが、行くしかないな」

 

 

柳田はすぐに防衛大学校への移動手段の手配を市ヶ谷に要請した。

 

 

***

 

 

【十年ほど前、中東のどこか】

 

 

加藤は薄暗いテントの中にいた。

目の前にはスーツ姿の女性がいた。

この国は中東に関わらずイスラム教の影響が少ないため、女性が西洋風の服装をしていることに何ら問題はなかった。

 

 

「加藤少尉、はるばる遠い地からようこそ。君にはニックネームやコードネームはあるか?」

 

 

どこかアジア系が混ざったような中東風の褐色女性は男に尋ねた。

 

 

「加藤……」

 

「なるほど、名前が偽名のパターンか。しかしそれじゃあ芸がない。私がここにいる間の呼び名を考えてやろう。キットゥ、君の名はキットゥだ」

 

「あまり変わりませんな」

 

「まあ仕方がない。私は猫が好きだからな、キットゥはアラビア語で猫だ。まあ似てるから間違えても誤魔化しが効くからな」

 

「はあ……」

 

「改めてよろしく、キットゥ。私はここの責任を任されておる、(マオ)だ」

 

「中国語で猫のマオ?」

 

「そうだ、よく知ってるな。紹介を忘れていたな、私は元人民解放軍特殊部隊出身だ」

 

「ご冗談を。モサド(工作員)として成りすましていただけでしょう」

 

「そこまで見抜くとはな。日本の諜報員も優秀じゃないか」

 

 

マオはイスから腰を上げると握手のため右手を差し出す。

 

 

「ようこそ、秘密の国連管轄組織、War Annihilation Service(戦争殲滅執行部隊)、通称WAS(人間だった者)へ。君を家族の一員として迎えよう」

 

 

 

 

「キットゥ、そっちへ行ったぞ!」

 

「了解」

 

 

加藤は対象の背中を狙い、引き金を引く。

 

するとスコープの中心にいた対象はまるで糸の切れた操り人形の如く倒れた。

 

そのようなことをしばらく繰り返して戦場を制圧すると、敵の建造物に突入して同じことを繰り返す。

 

 

「こちらキットゥ、対象を確保した」

 

 

檻の中に閉じ込めている子供たちを保護し、解放する。

 

 

『ご苦労、対象たちは速やかに回収する』

 

 

 

 

師匠(マスター)……いや、マオ……なぜだ……なぜだ!」

 

「……なぜかって?そうしたいからさ。所詮、この世界は私にとっての暇つぶしでしかない」

 

 

マオが乗っていてヘリコプターが地を離れると、彼女はタバコをひと吸いすると、それを投げ捨てた。

 

そして周りは火の海に飲み込まれ、爆発で加藤は気を失った。

 

 

 

 

「生き延びたのは、これだけか……」

 

 

加藤は生存者の数、様子を見る。

 

全員満身創痍で欠損している者いた。

中にはまだ10にも満たない子供もいた。

 

眠るように息絶えた者もいれば、本当に人間だったのか怪しいほど損壊した者もいた。

 

 

奴ら(WAS)に我々は見放されたのか、それとも計画だったのか……」

 

 

加藤は色々と足りない右手を眺める。

周りには生き延びてしまった部下たちが加藤を見ていた。

 

 

「我々は家族と思っていたが、どうも違ったらしい。だが、ここに残ったもので新しい家族を作ろうと思う」

 

 

加藤は残った指で咥えていたタバコを掴むと、床に落として踏む。そして側に落ちていた血まみれの医療鋸を見てつぶやいた。

 

 

「我々はWASとは違う。この世界の闇を()()証人として、WASと関係者に復讐するものとして、新しく家族()を結成する。

SAW(見た者)、とな」

 

 

***

 

 

「……またつまらん夢を見てしまった」

 

「マスター、少しうなされてましたね」

 

「問題ない。薬の代用品はある」

 

 

加藤は錠剤を飲むとヘリから下の景色を眺める。

辺りは白い面と緑の面が境界線を成していた。

 

 

「……どれくらい進んでいる?」

 

「昨日より約2キロほど広がっています」

 

「そうか……」

 

 

大分前から雪が降らないとされる帝都で降雪が観測されて以来、非常に緩やかではあるが、気温が下がりつつあった。

 

さらに積雪地域の拡大に伴い、避難民が押し寄せてきたりと色々大変だった。

 

 

「ハ、ハミルトン……さ、さぶいな……」

 

「で、殿下……そ、そうですね」

 

 

ピニャたちは歯を震わせながら別のオスプレイから下を眺めていた。

 

冬に慣れていない彼女らは華やかさもクソもないような冬季戦闘服に不満を言いながらも着込んでお互いに寄り添うように温まっていた。

 

 

しばらく飛行しているとオスプレイの各機器に不調が出始めた。

 

 

「ここが限界か……昨日より狭まってきてるな」

 

「マスター、引き返します」

 

「ああ」

 

 

既に斥候は以前から出しているが、全てが音信不通ないし行方不明になっていた。その原因を探るため、加藤自ら現地偵察に来たが想像以上に進むことは出来なかった。

 

 

(やはりこいつはただの雪じゃねえな)

 

 

既に科学魔法技術局長のアルペジオにも調べさせていたが、電波妨害などの能力がある以外は特に特徴は見られなかった。

 

 

(桜花改にも使用したはいいが、ここまで広がるとこちらが危ないな……)

 

 

実際に確認はできていないが、測量などにより高確率で西方砂漠のどこかを起点に広がっているようであった。

 

加藤は難しいことはまた後で考えよう、とまた一眠りすることにした。

 

 

「な、何だあれは!?」

 

 

しかし無線越しのピニャの声ですぐ目を覚ますことになった。

 

加藤はその方向を見ると、眠気は一気に覚めた。

 

 

山の峰の白い地平線上に、黒い点が複数見えた。

人か?獣か?

 

などと思っているとその点の後ろから大量の点が現れ、それは線となり、やがて面となった。

 

 

「パイロット、全速前進で前哨基地に戻れ。その後、すぐにベルナーゴ(ハーディのところ)に向かう。ジゼルにもすぐ来るよう伝えろ」

 

 

加藤の命令により、全機が猛スピードで帰投した。

 

 

「……さて、今回は上手くいくといいが」

 

 

加藤は外の様子を伺いながら呟いた。

 

 

***

 

 

冒頭で説明した通り、世界は色々と大変なことになっていたが、日本は比較的マシだった。(無傷とは言ってない)

 

某国の工作員の刺客なのか、多量の某感染者が乗った工作船が一時日本に向かって押し寄せてきたが誰にも知られず処理されていたのは一部のみぞ知る。

 

皮肉なことに、特地から撤退した自衛官たちはこれらの対処及び念のためのワクチン接種作業に大きく貢献したのはまさに偶然の一致ともいえる。

 

 

日本に戻った伊丹たちは世界のズレを解決する手段として門を閉める可能性もあるので、それの解決方法として原作通りまずレレイ門の生成の検証実験が行われた。

 

元々魔法の才能の高いレレイにハーディの能力の一部が引っかかっているのもあり、すんなり作れた。

 

試しに通した先の世界がどう見てもどっかのSF世界の異星人がいそうな場所だったり、色々と問題が多いところだったところまではお約束だ。

 

門は生成できたので、上層部はこれを利用して加藤たちから特地奪還を考えたがレレイが門は世界に一つしか生成できないと言われ、肩を落とした。

 

 

ということで、別世界と接触したのがほんの数秒とはいえ、伊丹たちは大事をとって中央病院で隔離されることとなる。そして色々とポカをやらかして現在軟禁とも言える入院中。

 

ちなみに、伊丹が柳田に調査の依頼したのはちょうどここで柳田と会ってたりしたからである。

 

 

「しかし、良くも悪くも暇だ」

 

 

伊丹は任務中に溜め込んでいたアニメや漫画や同人誌やらを病室で消化中であった。

 

 

「そうねぇ、日本は平和すぎて刺激がないわぁ」

 

 

ロゥリィは伊丹のベッドでゴロゴロしていた。

 

 

「まあ、よう●べ?とかで、ぷろれすや総合格闘技とか見て暇つぶしにはなるけど」

 

「頼むから次見るときは素面で見てくれ……」

 

 

先日、格闘技動画を見て酔った上に熱の入ってしまったロゥリィと栗林がパイプ椅子やらを振り回して大騒ぎになったことを思い出した。しかも病院で。そして黒川に説教されるところまでセットである。その時なぜか伊丹も説教された。

 

などと時間を持て余すとレレイがやってきた。

 

 

「お、レレイいつもの?」

 

 

伊丹の言葉に対しレレイは無言で頷く。

 

伊丹は腕をまくると、レレイは優しく歯を立てて伊丹の程よく筋肉質の腕から血を啜る。

 

そして終えると、軽く舌なめずり恥じらいの表情を一瞬見せてそくさと部屋を後にする。伊丹の腕は噛まれた後はほとんど残っていない。

 

 

今まで省略していたが、実はレレイ定期的に伊丹から血を分けて貰っており、そのうち効率的に摂取してもらうために直接飲ましていた。

 

無論、最初はうっかりで直接飲ましてしまい、当初こそ吸血鬼になるのではと騒がれたが、幸いにしてレレイは半吸血鬼であったことで吸血症のように病というよりは魔法的な要素が強かった。

故に、レレイが強く望まない限り大丈夫だろう、とセラーナが先日言っていた。それ以来直接飲ましているのだ。

ちなみにセラーナはこっそりすれ違う人から魔法で微量の血と生命力を吸収していたので表立って血を吸わなくてよかった。最近は病院の余った輸血パックをもらったりもしている。

 

 

「あぁ、なんだかレレイの吸血って癖になる心地よさがあるのよねぇ」

 

 

なぜかロゥリィが恍惚な表情をしていた。

 

 

(そういや最近怪我してないから忘れていたけど、眷属である俺と身体がリンクしていたったけ……)

 

 

などと冷静に伊丹は分析していた。

しかし、彼はオタクであり、変態紳士でもある。

 

 

(ということは……)

 

 

伊丹は大変けしからぬことを思いつく。

自分の小銃(意味深)に刺激を与えるとどうなるのだろう。

 

エ●同人みたくロゥリィは『何この新感覚ぅ!?』のようになるのか。

 

いっそのこと、とことん行くとこまで行くとどうなる?

 

さらに過激になって『らめぇ、感覚が二重になっておかしくなっちゃうぅ!』みたいになるのだろうか。

 

妄想を募らせると大変誉れ高い叡智な光景が脳内を占めてゆく。

 

断っておくが、試さないぞ。試したくなっても、試さないぞ。

 

伊丹は実に紳士寄りの変態紳士である。

 

自らの暴走を抑えられず、お巡りさんのお世話になる者などオタクの風上にも置けない。

 

真のオタクは聖者であり、賢者であり、大魔法使いである。そこまでには至ってないというか、既に結婚経験のある彼はその境地に至ってないが、その手の妄想は妄想に留めるだけのオタクの鑑であった。

 

イェスヘンタイ、ノータッチをモットーに、どこかの同人作家(職人さん)たちが描いてくれないか切に願うだけである。元嫁(りさ)に頼もうと思ったが、どう転んでも違う方向(BL)に行きそうだったからやめた。

 

などと妄想(瞑想)や思いに浸っていると、いきなり元部下の黒川2曹(白衣)が珍しく慌てた様子で入ってきた。

 

 

「ようクロちゃ……ぶふぉ!?」

 

「隊長!今は遊んでいる場合じゃありません!」

 

 

黒川は伊丹を押し退けてテレビのリモコンを手に取ると、テレビをつける。

 

テレビから緊急ニュースが流れていた。

アメリカ合衆国大統領が映される。

 

 

『全世界の諸君、人類はさらなる一歩を踏み出した。これは、人類が初めて月に足を踏み入れたのと同等、否、それ以上の功績である』

 

 

いきなりの展開に一同は呆然としていると、予想だにしない言葉が出てきた。

 

 

『諸君、我々(合衆国)は異世界への門を生成する技術を手に入れた』

 

「「「へー……ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!???」」」

 

 

それは病院の窓ガラス全てを割るんじゃないかと思うほどの声量だったとか。

 

なお、同じことが国会や首相官邸などでも起きたとか起きてないとか。

 

 

***

 

 

【ベルナーゴ神殿】

 

 

「貴様ら、何用だ!ここはハーディ様の神殿だ、招かざる者は来てはならん!」

 

 

エロい露出の激しい神官服を纏ったハーディの神官たちが加藤たちを取り囲む。

しかし加藤はとてもめんどくさそうに辺りを見渡す。

 

 

「ジゼルのやつまだ来てないのか。申し訳ないけど緊急事態だから通してもらうよ」

 

「ここは通さん!一歩でも踏み込んでみるがいい、八つ裂きにしてやる」

 

「……あまり強い言葉を使うなよ」

 

 

加藤はうすら笑いを浮かべる。

 

 

くっころ(エ■いこと)したくなるじゃないか(威圧)」

 

 

くっころの意味は知らなかったが、神官たちはただならぬオーラを察した。女の勘というやつで、これ逆らったらダメなやつだと察する。

 

このままではやられる。何をされるかはわからんが、確実にやられる。

 

 

「ま、待て。ハーディ様に確認を……」

 

「時間がないと言ってるのが聞こえなかったのか?」

 

「悪い、待たせたな」

 

 

間一髪でジゼルが現れたことで血を見ることにはならなかった。神官たちはジゼルに対して平伏している。

 

 

「ジゼル、遅いぞ」

 

「ジ、ジゼル様を呼び捨てにするとは……この男は一体……」

 

 

神官たちが恐れ(おのの)く。

 

 

「カトウ、せめて神官の前では俺のことをもうちょい立てて貰いたいのだが……」

 

「なんだ。いつも呼び捨てにされるのがそんな嫌か。少なくとも俺は管理者(アルドゥイン)から見てお前よりは序列は上だが」

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

 

ジゼルは横目で神官たちを見ると、やはりと言うか、何やらヒソヒソと話している。

 

 

「たかが人如きが亜神のジゼル様を呼び捨てにするなんて……」

「もしかして意外と実力者?」

「いや、もしかしたらアレかもしれん。念願の男……」

「なるほど……ジゼル様にもやっと春が来たか。どうりで呼び捨てにするほど親しいわけだ」

「私、心配でしたのよ。ジゼル様が男を知らずに神へと昇華するのではと」

 

 

「こんな感じにな……」

 

 

ジゼルは気まずい気持ちになる。

 

 

「何か問題でも?俺はケモナーでもあるし、トカゲ系も悪くないと思うが。」

 

「ト、トカゲじゃねーよ!」

 

 

ジゼルは顔からほんのり熱気を感じた。肌が青くなければ頬を赤らめていたかもしれない。

 

 

(こ、これってもしかしてロゥリィお姉様みたいにつがい……じゃなくて眷属を手に入れるチャンスなのか……!?)

 

 

「何をぼけっと突っ立ている。早く案内しろ」

 

「え……ぬうわはっあぁぁあ!?」

 

 

深淵部へと続く階段前でジゼルは臀部を軽く足蹴にされ、文字通り転げ落ちて行った。

 

 

(あ、亜神を……足蹴にした……だと!?)

(わ、私じゃなくてよかった……)

 

 

神官たちはもうそれは生まれたての小鹿のように震えていた。

 

とまあ色々ありながらも加藤たちはハーディのいる深淵部に辿り着く。

 

そこでは、既にハーディが待機していた。

 

だが、伊丹たちを迎えた時とは異なる、まるで視線そのものが氷の剣のように冷たい表情であった。

 

 

「伊丹の言う通り綺麗な人だな」

 

 

加藤はまるで決まり文句のように話す。その言葉は本心だとしても、言葉に感情がなかった。

 

ハーディは唇を動かし、加藤と会話を始める。霊体なので声は聞こえないが。

 

ジゼルが伝達しようとしたが、加藤は止めた。

 

 

「読唇術で十分分かる」

 

 

そして奇妙な会話が始まる。

 

 

「無礼者?今はそんなことを言っている場合じゃないでしょう、それは神である貴女が一番知っているはずだ」

 

 

ハーディの声は聞こえないが、意思疎通は難なくこなしていた。

 

 

「この際だから単刀直入に言おう。ベルナーゴにいる全市民、物資をいただきに来た」

 

 

ジゼル、神官そして加藤の部下など、周囲にいた者は一瞬空気と時が凍ったような気がした。

ハーディは表情は以前冷たいままだったが、明らかに目の奥から怒りの炎を感じた。

 

 

「さて、今の状況が神であるあんたですら修正が困難であることは理解しているだろう。何せ、神をも凌駕する勢いの勢力が複数衝突しようとしているからな」

 

 

加藤の言葉に対し、ハーディは怒りを込めたような表情で何かを話す。

 

 

「俺が神にでもなったつもりかって?ハハ、笑わせるじゃないか。確かに、どの神かは知らんが、神が人間を作ったかもしれない。少なくとも、俺が信じている神の聖典(旧約聖書)によれば、人は土から作られた」

 

 

加藤はハーディに近づく。それも極至近距離に、数センチで接吻できるほどに。

 

 

「しかし『神』という概念、宗教と信仰……これを作ったのは紛れもなく人間だ。神が働きかけたと解釈も取れなくはないが、神はその人間がいないとそれすら作れないと解釈もできる。人が消えれば信徒はいなくなる。信徒のいない神に存在意義などない」

 

 

 加藤はハーディの目を真っ直ぐ見る。

 

 

「ましてや、レレイに力の一部を預けたままの君に何ができる。今すぐ世界を救えないのなら、せめて信者を救う努力でもしてみろ」

 

 

そして加藤は地図を広げて見せる。

 

 

「敵はすぐそこまで来てる」

 

 

ベルナーゴと西方砂漠の境界線を指で軽く叩く。

 

 

「このままだと、ベルナーゴは地図から消えるぞ?」

 

 

***

 

 

【例の境界線付近】

 

 

ゾルザルの顔をした()は満足げに当たりを見渡した。装備はこの世界にあるはずがない、デイドラ鉱石で作った凶々しいものであった。

 

攻城塔の上からでは総兵力を把握することすら難しいほどに規模が膨らんでいた。

 

当初オブリビオンゲートから呼び出した異怪だけであったが、侵攻して小規模の村や町を焦土としながら進んでゆくうちに、ならず者や脱走兵、闇堕ちした者やハリョなども雪だるま式に増えていった。

 

本来なら、普通のヒューマノイド(人型知的生命体)は怪異を前に嫌悪感を示して忌避するが、これも集団心理なのか、それともなんらかの働きかけがあったのか、瞬く間に闇堕ちしていった。

 

数十万、いや下手したら100万は下らない。

 

兵装は豪華ではないが、それを十分にカバーできるだけの数であった。

 

相手が銃や戦車、戦闘機で来るならこちらは文字通り相手の弾薬が尽きるまで兵士を送り、燃料が尽きるまで追いかければいい。

もっとも、戦車や戦闘機が使えたらの話だが。

 

などと彼は思いながら積もった雪を掴んで握りしめると、雪は溶けずにパラパラと落ちてゆく。

 

そして彼立ち上がると一つ士気を上げることにした。

 

ほとんどが人語も解さない怪異で、昆虫のごとく本能で動くような者が多いが、人間や多少の知的生命体もいる。

 

 

「それに、カリスマに感化された下等種ほど面白いことをしてくれるからな」

 

 

彼が塔の上に姿を表すと、それを伝えるための角笛が吹かれる。それに気づいた兵は手を止めて注視する。

 

 

「君たちはこの世界を統べる新たな勢力である。勝利は既に君たち掌中にある。

今宵、大地は下等なヒト種とそれに与した者どもの血で染まるであろう。ヒト種の地へと侵攻せよ(すすめ)、誰一人として生かすな!」

 

 

様々な種族の雄叫びと歓声が湧き上がる。その声量は文字通り天を貫くほどであった。

 

 

「戦へ進め!!」

 

 

そして彼らは、進んだ。

 

大義名分や欲すらもない。

 

全ては、ただ一つの目的のために。

 

 

破壊

 

 

「これでこの世界に、夜明けは来ないだろう」

 

 

***

 

 

【イタリカ】

 

 

「あちゃー、やっぱりダメだったか」

 

 

加藤は雪のようなものに塗れた田畑を見渡す。

 

 

「アジア系の隊員のためにお米育てようとしたけど、ダメになったかー。特地産の銘柄(ブランド)を日本に売って外貨得ようと思ったけどなあ」

 

「加藤殿は一体何しようとしてるんだ……」

 

「ついでに新帝国印で売る、て計画だったんだけど」

 

「いや、聞きたいのはそこではないのだが……」

 

 

ピニャ殿下防寒着の中で震えながら尋ねるが、お互い話が噛み合わない。

 

 

「それはそうと……そんな悠長なことしていても大丈夫なのか?」

 

 

ピニャが心配そうに話しかけるが、彼らの後ろでは兵士たちが慌ただしく動いていた。

兵士だけではなく、非戦闘員も動員されベルナーゴ前衛基地へと列をなして行軍していた。

 

 

「敵はまだ遠くとはいえ、かなりの数が押し寄せてきてるのだろう?本当に大丈夫なのか?」

 

 

ピニャは不安を隠しきれず、ソワソワしている。

 

 

「ピニャ殿下、国のトップがそんな顔を見せるんじゃあない。士気に関わる」

 

 

加藤は膝の泥と雪を払い立ち上がる。

 

 

「ピニャ殿下、頼みたいことがある」

 

「このような混沌とした状況で妾のような小娘に何ができると言うのだ……だが、聞こう」

 

「この世界からかき集められる全ての援軍を集めて欲しい」

 

「……嫌だ、無理だと言っても、行かせるつもりだろう?」

 

「ああ……無理やり集めるだけなら、俺がやってる。だが、そう言うわけにはいかないのだ」

 

「先日ベルナーゴで神を脅迫した男とは思えんな」

 

 

ピニャは少しだけ笑う。

 

 

「妾の援軍が到着するまで、野垂れ死ぬようなことはするでないぞ?」

 

「当たり前だ」

 

「それを聞いて安心した。貴様のやることだ、妾を死なせないためにわざと援軍の招集の任務に就かせると思ったぞ」

 

「あ、それいいな」

 

「やったら妾は怒るからな、泣くからな。本気で」

 

「取り敢えず、我々は夕飯にでもしましょう。腹が減っては戦はできぬ、ですからな」

 

「ああ、妾は明日の朝一出発するとしよう」

 

 

そして彼らは食堂に行くと、思いもよらぬ事態に遭遇する。

 

 

「よぉ、カトォ!暇だったんでつい食っちまったぜ」

 

 

ご満悦のジゼルが腹を撫でて舌舐めずりをしていた。テーブルには皿が山のように積み上げられている。

 

 

「「……」」

 

「いやあ、ここの料理人の飯うまいからなあ。それに保存食?レーション?あれも悪くなかったな」

 

「全部食ったのか?」

 

 

加藤は必死に感情を抑えていたが、声が微かに震えているのをピニャははっきりと感じた。

 

 

「いいや、まだ倉庫に少し残っていると思うぜ」

 

 

加藤はそれを聞いて無言で確認しに行くと、数分後戻ってきた。

 

そしてジゼルに近づく。

 

 

「な、なんだよ?」

 

 

そして有無を言わさず尻尾掴んでひきずる。

 

 

「痛え!痛えって、尻尾はやめて!」

 

「テメェあれで残っていると言えるかー!あれは兵糧、つまり戦略物資なのにあれで足りるかー!」

 

「分かったから!謝るから!尻尾は敏感なんだ、やめてえ!」

 

「ジゼル、貴様は新帝国とその民に対する罪を犯した。何か釈明はあるか?」

 

「お、俺をどうするつもりだ!?腹減っていたんだよ!謝る、謝るから許してくれ!」

 

「謝って済めば衛兵(けいさつ)はいらねえんだ!お前には仕事をしてもらうぞ!」

 

「な、何をさせるつもりだ!?」

 

「そのいやらしい身体で稼いで貰ってもいいが、今は金など必要がないからな。武器庫にある全ての、槍を磨け」

 

「いやぁぁああ!もう槍(普通に武器の方)を磨くのはいやだあ!!」

 

 

そして二人の姿は廊下の暗闇の奥へと消えていき、声も次第にフェードアウトした。

 

 

「……本当に大丈夫なのか?」

 

 

ピニャは心配になった。

 

 

***

 

 

そんなやり取りをテューレは隣の部屋からぼんやりと聞いていた。別に盗み聞きしていたわけではない。聞こえただけだ。

 

 

「ご機嫌よう」

 

「貴女、しばらくお会いしていなかったわね。何をしていたのかしら」

 

 

暗い部屋の中でテューレはデイドラ装備の女に尋ねた。

 

 

「貴女に是非世界を面白くしてもらおうと思ってね。私のデイドラロード(主人)の一人にお会いしていただこと思うの」

 

「ふーん。貴女のご主人様はどんな方かしら?」

 

「貴女も是非気にいると思うわ」

 

「勿体ぶるわね。単刀直入に言ってくれないかしら?」

 

モラグ・バル(強●王)(威圧)」

 

 

テューレはこの言葉を聞いた瞬間、初めて聞いたのにも関わらず、魂が抜けるような恐怖を感じた。

 

 

 




ちなみに、異怪の演説シーン、某指輪物語の映画のワンシーン引用。てかほぼそのまま。昔印象を受けたので拝借しました。
https://m.youtube.com/watch?v=TQq4LjSF2rc

まあ、パクr……オマージュし過ぎて今更ですが。

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