オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

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ちょっとペライト(疾病のデイドラ)のお世話になってました。
復活しましたのて安心してください。
味覚嗅覚やられたけど。



全米軍が泣いた

 

「フフフ、これで門の向こうは合衆国(ステイツ)のものだ!」

 

 

合衆国大統領の要人たちは砂漠の実験場でこれから起きることへの期待で一杯だった。

 

異世界のファッ●ンテロリストども(新帝国とジパング)の研究室から奪取した門の研究内容を元に、どこからそんな大金が潤沢な資金(国民から巻き上げた税金)を存分に使うことでとうとう門生成に成功してしまった。

 

そして今、幾度のトライアンドエラー(実証)を終えて、実戦投入直前となった。

 

門となる予定の大きな金属の枠の前には、海兵隊、陸軍の主力部隊が待機しており、後方では空軍も待機している。海軍?知らない子ですね

 

「ふふふ、これはまるで映画の『ファイナルカウントダ●ン』のようではないか。映画同様、ジャップ共を少々お仕置きせなばなるまい」

 

 

ディレルは今後得られる莫大な利益を想像すると口元が緩んでしまった。

 

 

「よし、開始しろ!」

 

 

ディレルの命令で莫大なエネルギーの電力が門へと流れ込む。

 

そしてしばらく流れると、突如停電のように電力が止まると、金属の枠内が眩い光を放出し、薄らと光輝く空気の膜が出来上がる。

 

既に多くの死刑囚などで試し、安全性は確立されている。あとは進むのみだ。

しかしそれでも、未知の領域への一歩を歩み出すのはなかなか勇気のいるものだった。例えそれが世界最強の海兵隊だとしても。

 

 

博士(ドクター)、本当に例の場所へ着くのだな?」

 

 

ディレルは隣にいる老博士に問いかける。

 

 

「ええ、帝都とアルヌスの約中間地点に着くはずです」

 

「そして圧倒的優勢な軍で両陣営を潰すわけだな。そしてジャップのみらならず、チャイナやロシア、その他をさしおいて合衆国がまた世界の覇権を取り戻す!」

 

「左様で」

 

「フフフ、では全軍突入させよ」

 

 

ディレルの命令が各将兵へと伝達し、軍団が侵攻する。

 

30分ほどすると、指揮官から連絡が入る。

 

 

 

『こちら指揮官、何か様子がおかしい』

 

「こちら本部、どうした?」

 

 

現場指揮官から門の前に設置された本部へ連絡が入る。

 

 

『情報によれば、本来ここは草原地だが、あたりは一面砂漠だ。ヘリコプターで当たりを見渡したが、砂漠だ、オーバー』

 

 

本部にいた職員たちがざわめいた。

 

門が開いた先が、全く異なる地点だったのだ。

 

 

「指揮官、簡易GPSは使えるか?」

 

『ええ、一応。なので例の異世界なのは間違いない。恐らく、西方砂漠あたりではないかと推測する』

 

 

一同は胸を撫で下ろす。全く未知の世界ではないことに。

 

 

「大統領、作戦は続行しますか?」

 

 

国防長官が尋ねる。

 

 

「一体いくら金をかけたと思う?たかがスタート地点が異なるだけで中断するとでもおもっているのかね?」

 

「いえ……」

 

「よろしい、なら続けろ」

 

 

国防長官は本部にその旨を伝え、それが現場に伝わる。

 

幸い、中東での経験から、砂漠のでの陣地構築はそこまで苦ではなかった。

 

そして日が暮れる頃になると、簡易的な米軍基地が完成していた。

 

 

「よし、今日はここまで。あとは明日へのブリーフィングを行う」

 

「ここは中東みたいにイカれたジハーディストがいないから楽だな」

 

 

いつも通り、夜が過ぎるはずだった。

 

しかし、悲劇は深夜に起きた。

 

 

『本部!本部!こちら指揮官!緊急事態!緊急事態発生!ウワァァ!?』

 

「こちら本部、どうした!」

 

『ばばば、化け物だぁぁあ!うわぁぁあ!』

 

「何?どういうことだ、状況を説明しろ!」

 

『ああ!私の部下の頭を(かじ)ってる……ここから出してくれー!』

 

 

無線の受話器の奥から、銃声や爆音、悲鳴と怒号に混じって肉と骨を咀嚼するような音が聞こえた。

 

 

「緊急事態!門で待機している部隊は直ちに門を通って援軍に行け!」

 

 

門の前で待機していた米軍は急いで門の中へと突入する。

 

しかし彼らを待ち受けていたのはまさにこの世の地獄だった。

 

 

砂漠から突如現れた巨大な芋虫のような生物(ワーム)に仲間が飲み込まれたり、巨大なカマキリのような生物が人間を狩っていた。

 

無論、人間たちも指を加えて見ていたわけではなく、反撃はした。

 

しかし戦車も巨虫にひっくり返されたり、あまりにも速すぎて照準できない。不幸中の幸いとしては、取り敢えず機関銃でも充分通用するのでダメージは与えられた。

……効かない甲虫もいたけど。

 

そもそもの数が多すぎた。

状況としてはよくある大群系アクション映画みたいな感じ。

分かる人にはスターシッ●トルーパーというとイメージしやすいかもしれない。あとはスペースクラフトのザー●とかも大体あってる。

 

某漫画で誰かが言った、人間大のカマキリは恐らく最強の生物だろう。

 

そんな化け物たちが束になってかかってきたのだからそりゃ人間様も逃げ惑うのも頷ける。

しかもカマキリやワーム、甲虫だけではなかった。

 

援軍に行った米兵たちも勝ち目がないと悟ったのか、積極的に救出はできず、撤退を支援するのが精一杯だった。

そして徐々に圧倒され、とうとう門の外(元の世界)に押し出された。

 

それで終わるわけでもなく、化け物たちがこちらの世界に来てしまった。

 

 

「何としてもでも止めろぉ!」

 

 

米軍は必死に抵抗し、万一に備えた門外の巨大火炎放射器などを使用して撃退する。もちろん撤退中の仲間諸共。

 

 

「国防長官!何とかしてください!」

 

「くっ……」

 

 

国防長官は迷っていた。目の前に門の自爆スイッチがあったが、大統領からの許可は降りていない。今頃ホワイトハウスで起きたばかりの大統領も決断をしかねている状況だろう。

 

その時、大統領からの返信電話が来た。

 

「おはようございます。いえ、それともこんばんは、ですかね、大統領」

 

『そんなことどうでもいい!だいたいの話は聞いてる!それで、対処できるのか!?』

 

「率直に申し上げますと、大変危険な状況です。既に化け物が共が何匹かこちらの世界に足を踏み入れてます。まだ対処できてますが、このままでは押し切られてしまうのも時間の問題でしょう」

 

『では、やはり……』

 

「門の破壊を、進言致します」

 

『国防長官、君はこれにかかった予算、そして各々の期待全てを無駄にするのを承知した上です言ってるのか?』

 

「……ええ、それに加えて、私の部下10万人の大半を門の向こうに残してでも、やるべきことだと信じています」

 

『……』

 

「大統領、決めるのは貴方です。ノー、と言うなら無言ではなく、はっきりと言ってください」

 

『……許可する』

 

「ありがとうございます」

 

 

国防長官は返事を待たずに走り出す。

そして部下に命令する。

 

 

「焼け!」

 

 

そしてナパーム弾と地下貫通弾(バンカーバスター)が門に投下される。

 

 

***

 

 

ピニャはエルベ藩王、デュランの前で片膝を着いていた。

 

デュランは四肢の一部を失っており、五体満足ではないものの王としての威厳はまだ失っていなかった。

 

 

「ピニャ殿、もう一度要件を聞こうか」

 

「……援軍を、可能な限り多くの援軍を至急動員してもらいたい」

 

「ピニャ殿、先のジエイタイとの戦闘で旧帝国 は各藩に支援を要請した。そして我々連合諸王国軍は見るも無残な敗北を味わった」

 

「……」

 

「しかし、その目的の一つに各藩の戦力を弱めることであることを我々が知らなかったとでも?よくおめおめと来たものだ」

 

「……その件については申し訳ないと思っている」

 

「確かに、あれは貴女の父君、亡きモルト皇帝の策略であったのも事実だ。しかし一度そのような仕打ちを受けて、はいそうですかと言うわけにはいかないのだ」

 

「デュラン殿、後生だ。少しでいい、一刻を争う事態なのだ。他の藩王にも掛け合ったが、やはりデュラン殿の言う通り誰も妾たちに助け舟を出そうとはしない。頼む」

 

「ピニャ殿、貴女の覚悟はその程度か。新皇帝ともあろう方がわざわざこちらに出向いて膝を着くなど、その懸命さは脱帽ものだが、足らん。お主の覚悟がまるで響かないのだ!」

 

「……っく」

 

 

ピニャは唇を噛み締めると、両膝を地に着けた。

 

 

「ピニャ様……!」

 

「ハミルトン、来るな!」

 

 

ピニャを止めようとするハミルトンを制すると、ピニャは両手を地に、そして額を地につけた。

 

土下座である。

 

しかしデュランはそれをつまらなさそうに見下し、溜息をつく。

 

その様子を見たピニャは心を決めた。

そして少し前に進むと、デュランの足元に平伏したまま近づいた。そして足の甲に唇を近づける。

 

 

(ああ……ピニャ様……)

 

 

ハミルトンは悔しさのあまり目を背けてしまう。

できるものなら自分が変わりたいと思った。

 

 

「……帝国も堕ちたものだな。どうせ今お前を支援しているジパングとやらにも女の武器を使って籠絡したのだろ」

 

 

それを聞いたピニャは動きを止めた。

唇が靴に触れる直前ぐらいに。

 

 

「今……なんと?」

 

「女の武器使うとは帝国も堕ち……」

 

 

次の瞬間、デュランは玉座ごと吹き飛ばされていた。ハミルトンも衛兵も何が起きたのか分からなかったし、理解も追いつかなかった。

 

 

「人が下手に出れば調子に乗りおって!貴様はまだ事態を理解しておらんのかぁ!?ヒト種どころか、世界が滅亡しようとしておるのだぞ!それをつまらぬ意地でなどでぐだぐた言いおって!」

 

「え、あ……うむ……はい」

 

「それに女の武器だと!?妾はまだ生娘だ!」

 

「いやそこまで言ったつもりは……」

 

「貴様がそこまで出し渋るならもう良い!妾は貴様などの支援など要らんわ!例え妾が最後の一人になろうと、囚われの身となって●●(ピー)されたり××(ビー)されても、屈しなどせぬ!」

 

 

今度はピニャがデュランを見下すような形となっていた。

 

 

「デュラン殿、失礼御免を蒙る。だが妾は失望、いや正直ガッカリしたぞ!ハミルトン、帰るぞ!」

 

 

衛兵どころかデュランも気迫に押されて鼻の痛みすら忘れてしまうほどだった。

そしてやっと我にかえると衛兵たちがデュランの手当を行う。

 

 

「いやはや、まるでかつての亡き妃を思い出したわい」

 

 

デュランはどこか満足そうであった。

 

 

「この老ぼれ、惚れ直したかもしれんわい」

 

 

***

 

 

「以上で、新型擲弾の教育を終わる」

 

 

教育を終えた兵士たちは配られた擲弾投射機を折りたたんで配置へと急いだ。

 

 

「ところでマスター(加藤)、例の擲弾どう見ても旧日本軍の……」

 

「ベノム、言いたいことはわかるぞ。しかし簡単な構造でこの世界の人間が間違いなく使えるような代物を開発した結果、似てしまっただけだ」

 

「そうだが、間違いなく使えるって……あれのニックネーム……知らないわけではあるまい」

 

「……」

 

「人間工学的に、運用的な意味で間違いというか事故起きるぞ」

 

「……あ、やべ」

 

 

などと気づいた頃にはすでに手遅れだった。

試射訓練で発砲音と同時にあちこちで悲鳴が聞こえた。

 

 

「あ、脚が!」

「膝砕けたぁ!」

 

 

膝砕き(自分)の効果でも付いていたのだろうか。

 

この件により、多くの兵士が兵士から衛兵へと転属し、後にこう語られた。

 

 

『俺もお前みたいな新帝国兵だったが、膝で擲弾を撃ってしまって……』

 

 

ただで少ない兵力がさらに少なくなってしまった。

 

そんな悲しい訓練を終えたところで、ピニャたちが帰ってきた。表情に疲れがあるところから、あまり成果はよろしくないように見える。

 

 

「ダメだった……」

 

 

ベルナーゴに着いたピニャはひどく落胆していた。全く増援を得られなかったわけではないが、雀の涙程度しか集まらなかった。

 

新帝国民、ジパング特殊国防軍、デリラ率いるヴォーリアバニーやその他亜人の兵、イタリカの武装メイドとベルナーゴの神官や民を総動員したが、まだ足りなかった。

 

 

「ピニャ殿下、取り敢えずよくやりましたぞ。デュラン殿をぶっ飛ばした時は小生もスカッとしましたぞ」

 

 

グレイが励ますが、ピニャ少し悲しげに笑うだけだった。

 

 

「ピニャ殿下、戻りましたか」

 

 

加藤が部下に指示を与え終えるとピニャを迎える。

 

 

「ああ……しかし妾は期待に応えられなかった」

 

 

ピニャは肩を落とすが、加藤はその両肩に優しく手を置くと真っ直ぐピニャの目を見る。

 

 

「時間がない中、よくやった。あとはしばらく休んでください」

 

「うむ……そうするとしよう」

 

 

身体と心も疲労困憊のピニャだったが、少しだけ心が晴れた気がした。

 

 

 

 

身辺整理を終えて軽食を摂りながら明日のブリーフィングを行い、その後体の疲れを癒すために浴場へと赴く。そして軽く汗を流し湯船につかる。

 

 

(彼の見立てでは、明日か……)

 

 

ピニャは湯船に浸かりながら天井を仰ぎ見る。

短時間ではあったが濃密なブリーフィングの内容が頭の中を駆け巡る。

 

今まで様々な戦闘を経験してきたが、明日ほど不安なものはなかった。

 

 

(推定、10万対1万か……)

 

 

しかも敵は恐れを知らぬ怪異が大多数と言われている。対してこちらは年端も行かぬ少年少女を動員してやっと揃えたくらいだ。

 

それに今回は自衛隊のバックアップはない。

一応、加藤たちがいるが例の雪のせいで電子部品系統がすこぶる調子が悪い。

 

スマートフォンなどという代物も機能していないとか。

 

となると鉄のトンボ(ヘリコプター)鋼鉄の飛龍(戦闘機)も使えない。

 

つまり仮に自衛隊が参戦しても、力を発揮できないということである。

 

現状としては非常にまずい。圧倒的不利である。

 

イタリカにおける賊相手の戦闘が可愛く見えてきたほどに、ピニャは笑ってしまった。

 

 

「人間どうしようもないところまで来てしまうと、笑ってしまうというのは本当のようだな……」

 

 

ピニャは湯船から上がると、湯の雫がほと走る身体を丁寧に拭く。

 

 

「ふぃー、いい湯だった。日本のことを思い出すな」

 

「ピニャ様、お召し物を」

 

「うむ」

 

 

ハミルトンが差し出した下着、衣服を身につけていく。

 

そして浴場を出ると、ちょうど加藤の部下たちが浴室前で待機していた。

 

 

「あ、ども」

「うむ、貴殿らか」

 

 

軽く挨拶して浴場に入ってゆく。

 

 

「ハミルトン……」

 

「はい、ピニャ様」

 

「これは絶好のチャンスだな」

 

「ゴクリ……ええ」

 

 

そして二人は戸に耳を立てる。

 

 

「一体男同士の裸の付き合いとは一体どういうものか」

 

「これはよい参考資料になりますね」

 

「そんなに気になるならもう入って見ちゃえばいいのに」

 

 

なぜか最後は男の声である。

 

 

「か、かかかか加藤殿!?」

 

「いつのまに後ろを!?」

 

 

ピニャとハミルトンは背後にいた不審者加藤にビビり散らして腰を抜かしてしまった。

 

 

「ピニャさん、それ普通男がやることですよ。いや、最近こんな発言すると男女差別とか言われるかな?」

 

「なに、男どもは見るに飽き足らず盗み聞きまでやるとな!なかなかうらやま……いや実にけしからんな!やはり妾も男に……じゃなくて最後のは忘れてくれ」

 

「……まあいいや。今日はもうお休みください……と言いたいところですが」

 

 

加藤はピニャの耳元に囁く。

 

 

「大事な話があるので、部屋で待機をお願いします」

 

 

そして去っていた。

 

 

「ピニャ様、彼はなんと?」

 

「……だ、大事な話があるから部屋で待つように、と……」

 

 

なぜか顔が少し紅い。

 

 

「それって……」

 

「そうだ!これはきっと夜這いとかいうやつだ。ど、どどどうしよう、ハミルトン!」

 

「ピ、ピニャ様落ち着いてください!」

 

「妾は生娘だ、まだ心の準備が……」

 

「だ、大丈夫です……こういうのは勢いでなんとか……」

 

「そうだったな、ハミルトン……お前は一番進んでいたな……」

 

「人をまるで好色みたいに言わないでください!」

 

「もう何でも良い!取り敢えず作法やら全て教えてもらうぞ!」

 

「ひ〜!」

 

 

そして自室に籠ることしばらく、準備を終えた。たぶん。

 

 

「よし、これで妾もこ心の準備が整った。夜這いでも奇襲でも来るが良い!どうせ滅びゆく運命、ならばこの身体の一つや二つくれてやろうぞ!いざ夜戦へ(意味深)!」

 

 

とまあ気合入れて部屋でソワソワしながら待機していたのだが、深夜の静寂をノックが破った。

 

 

(き、ききき来たか!?)

 

 

口から心臓がでるかと跳ね上がったピニャだが、咳払いをして心を落ち着けると可能な限り威厳ある声色で静かに返した。

 

 

「入るが良い」

 

 

しかし案の定というかお約束というか、肩透かしを喰らう羽目になった。

 

 

「……なぜ貴殿らもいるんだ」

 

 

加藤、グレイ、ハミルトン、あと加藤の部下のジュリエットである。

 

 

「なぜって、ピニャ殿下の新しい装備の着付けにきたんですけど」

 

 

加藤が大きな箱を見せる。

 

 

「うう……」

 

 

ピニャは顔を真っ赤にして目に涙を浮かべる。

 

 

「うわぁぁぁああああああ!!」

 

「なんで叩くの!?痛いからやめて!おい誰がこの姫さまを止めろぉ!」

 

 

しかし誰も止めなかった。というか止めれなかった。

 

 

「……小生はしばらくこのままがよろしいかと」

 

「そうですね、ピニャ様が落ち着くまで待ちましょう」

 

 

グレイとハミルトンはウンウンと頷いた。

 

 

「マスターはしばらくそのまま反省してください」

 

「反省って何をぉぉ!?」

 

それ(無自覚)ですよ」

 

 

加藤は非情にも見捨てられた。

 

 

***

 

 

取り敢えず色々と落ち着いて、誤解(?)も解けたので、箱の装備を取り出す。

 

 

「こ、これは……」

 

 

目の前には和風の甲冑(武者鎧)が置いてあった。

 

 

「貴女に昔献上した、巨龍(ラオシャンロン)の身体で作った物ですよ」

 

「……そうだったな。まさかこれを着る日が来るとは。ただの装飾防具ではあるまいな?」

 

「ええ、対物ライフルゼロ距離で数発撃っても擦り傷しかつかなかったから大丈夫でしょう」

 

「なんと」

 

「作りは日本古来の鎧をベースにしているので、着付けは私がしましょう。あとは他の3人も助けてくれます」

 

「……き、着付けをお前がするのか!?妾はこう見えても乙女だぞ!?」

 

「知ってますよ。だがここは戦場、戦場に男も女も年齢も関係ない。今更貴女の肌を見たところで私は何もしませんよ」

 

「う、うむ。そうだな……(やはり妾には魅力はないのか……?)」

 

「ピニャ殿、小生は出たほうがよろしいですかな?」

 

「いや、気にするな。貴殿については大丈夫だ」

 

 

少し落胆するが、肌着になって試着を始める。

 

 

(よくよく考えてみれば男に肌着を見せるのは初めてではないか……!?)

 

 

などと内心ドキドキしながら加藤の様子を見るが、全く気にしていなかった。

 

 

(うう……これではまるで妾だけ気にしていてバカみたいではないか……)

 

 

そんな感じで複雑な気持ちと思考が頭の中を駆け巡っていると、いつのまにか着付けは終わっていた。

 

 

「……似合ってますよ」

 

 

鏡の前の自らの姿に、ピニャ自身も驚いた。

 

勇ましさと凛々しさ、そして優美さを兼ね備えた気品のある戦士が目の前にいた。

 

 

「……美しい」

 

 

自分で言うのもあれだが、ピニャは自らの姿に惚れ惚れとしてしまった。

女性的な美というよりは、純粋な『美』という意味で感嘆してしまう。

 

 

(これは、イケる……妾が執筆しようとしている戦場物語(BL)のモデルとして完璧だ……伊丹殿や加藤殿との戦場における熱き戦友の友情()(意味深)を……執筆意欲が(そそ)る……たまらん、濡れるっ!)

 

 

涎が垂れそうになるのをグッと堪えた。

しかし興奮が収まると、ひどく落胆する。

 

 

(ああ……妾が男であったら……男でないことが悔やまれる)

 

 

そのとき、彼女の脳裏にある言葉が蘇る。

 

 

『戦場に男も女も年齢も関係ない』

 

 

それを思い出し、拡大解釈したピニャは意を決した。

 

 

「加藤殿、先程戦場に男も女も年齢も関係ない、と言ったな」

 

「え?あ、はい……」

 

 

なぜか加藤が押し倒されていた。

 

そしてピニャは横に置いてあった蒸留酒を飲み干す。

 

 

「加藤……脱げ」

 

(あ、これやばいやつだ……)

 

 

加藤は周り助けを求めようとしたが、何故か3人がいない。一瞬閉じられる扉の隙間から何かを悟ったような表情が一瞬見えた気がしたが。

 

 

「ということで、今宵は付き合ってもらうぞ!」

 

「……は?」

 

 

その夜、その部屋からすんごい声が聞こえたとか。

 

 

「もうダメ」

「死んじゃう」

「許して」

 

 

全部男の声だったけど。

 

 

***

 

 

「うぅん……」

 

マスター(加藤)のやつ、朝からどうしちゃったんだ?」

 

 

加藤の部下の一人が別の隊員にこっそり尋ねる。

 

なるほど、城壁から地平線を死んだ魚のような目でただただ眺めていたのは例の加藤だ。敵が来ると予測される地平線をただひたすら眺めていた。

本当にただ見ているだけである。

 

 

「ゆうべはお楽しみでしたね、じゃねえの?昨晩ある部屋を通ったらすごい声聞こえだぞ。男の方だけど」

 

「え、マジで?俺もマスターの部屋行ったら相手してくれるかな」

 

「そっちかい……まあ、どうせいつものことじゃないのか?また興奮剤でも注射して貰えればよかろうに。それか冷たい水バケツか」

 

 

などと話していると、橙色の武者鎧(ラオ装備)に外套を羽織ったピニャが新帝国旗を担いで現れた。その姿は凛々しく、美しく、神々しかった。

まさに戦場に現れた戦姫、女神だった。

 

加藤とは対照的に、水平線を睨みつけていた。

 

 

「……加藤殿、いつまで腑抜けておる。敵が来ているのだぞ」

 

「……あうあう、本当だ。こんな時に……」

 

「しゃんとせぬか!いつものお主はどこに行った!」

 

「いやピニャ殿、こんな感じにしたのはアンタ……」

 

「ええい、御託はいいから戦闘準備を行うぞ」

 

「おい……」

 

 

などとピニャはいつもよりハキハキと動いていた。

 

 

「なんだかピニャ殿下いつもより雰囲気違いますね」

「何か吹っ切れたというか、一皮剥けたというか」

 

 

周りの従卒などはそんなピニャを見て頼もしく感じた。

 

 

「ああ……こんな時に薬は切れるし、昨晩は色々大変な目にあったし……」

 

「マスター、これを」

 

 

ジュリエットがなんだかおっきな注射器を加藤の肩にぶっ刺す。

 

 

「オウイエア……」

 

 

先程と違い目に活気……否、殺気が溢れていた。

 

そしてもう一度水平線を見る。

 

 

「……圧倒的(不利)じゃないか、我が軍は」

 

 

しかし笑っていた。

 

 

***

 

 

「よう、伊丹。意外と元気そうだな」

 

「太郎閣下じゃないですか……なんでこんなところに……」

 

「なぜって、お前さんがいるからだよ」

 

「いや、ここ……病院ですよ」

 

「見舞いだよ、見舞い。ついでに少しな、話し合いでもしようかと」

 

「いやいや、だからなんでこんなところで会議を……」

 

 

伊丹は困惑していた。記憶が正しければここは病院のはず。しかし、周りは防衛省のお偉いさんたちを始め黒服やら制服組に背広組、他にも私服の訳あり的な偉い人とか集まって病院の会議室を占拠して会合が始まった。

 

どうも伊丹、が重要らしく、諸事情で病院をまだ出られない伊丹の為にわざわざ偉い人たちが病院に出向いたということらしい。

 

そして会議は始まった。

 

 

「単刀直入に言いますと、アルヌスの奪還を行います」

 

「なぜそんな急に……」

 

「内々の話ですが……米軍が既に新しい門の技術にて特地への接触を試みたと情報が出でおります」

 

 

それを聞いた一部偉い人たちがざわめいた。

 

 

「あのニュースのことか!」

「まずい、まずいぞ……」

「アメリカのことだ、このままでは西部開拓の如く奪われちまう」

 

 

などと皆が焦りを露わにする。

 

 

「……しかしながら、試みは失敗した可能性が高いとの情報もあります」

 

 

司会の言葉に皆は今度は別の意味で驚く。

 

 

「あの米軍が?」

「一体何が……」

 

 

皆が信じられない、と言った感じにソワソワしていた。

 

 

「この情報は、米軍が救難要請を我が政府に対して行ってきたことからほぼ確実と考えられます」

 

「それは、米国政府からなのか?」

 

「……米国政府ではなく、米軍から直接連絡があったことだけお伝えします」

 

「つまり、アメリカはこれを公にしたくない、または米軍が独自で動いているということか」

 

「米国が独自で門を開いたことですら我が国の特地への影響力の喪失の危惧があるというのに……救難要請とは話がややこしくなり過ぎている……」

 

「しかし何故我が国に?」

 

「効率を考えると、新帝国に助けて貰ったほうがいいが、そうすれば新帝国を認めたことになるからな」

 

「いっそのこと我が国が新帝国を限定的に認めて救難をお願いしてみては?」

 

「そんなことしたら我が国が国際的に孤立するぞ。それにテロ国家を認めるという実にまずいことになる」

 

「……ならやはりアルヌスの奪還か」

 

 

などとお偉いさんたちは話をどんどん進めていく。そして唐突に伊丹に振られる。

 

 

「伊丹2等陸尉殿、アルヌスを奪還するあたりで何か意見は?」

 

「え?俺?」

 

 

皆の視線が伊丹に集まる。

正直めんどくさいので何も言うつもりではなかったのだが、こういうときはだいたい発言を求められているのだ。

 

 

「……門で戦闘が起きますかね?」

 

「なるほど、貴殿は銀座で戦闘が起こることを危惧しているか。それなら問題ない」

 

 

お偉いさんの一人が答えると同時にほくそ笑む。

 

 

「既に公安が対処済みだ」

 

「え?」

 

 

伊丹は駒門の方をチラ見すると、駒門は含み笑みを浮かべていた。

 

 

協力者(スパイ)は、我々にもいるのだよ」

 

「そんなこと俺みたいなやつに言っていいんすか?」

 

「……大丈夫だろ?」

 

「ならいいんですけど……こんなことして、加藤の組織(ジパング)とやらはともかく、新帝国のピニャさんたちは外交的な意味でも大丈夫ですかね」

 

「それのことなら問題ない」

 

 

駒門は資料を取り出して見せる。

 

 

ジパング(加藤たち)がクーデターを起こす情報を得た。そして新帝国(ピニャ)がそれを阻止するのを日本に要請した」

 

「え?」

 

「つまりだ、新帝国とジパングとやらを切り離して考える。ジパングはテロ組織、新帝国は旧帝国の後継者という認識のもと、日本政府は新帝国を限定的かつ段階的に容認するつもりだ」

 

 

そう言うと、嘉納太郎(外務大臣)は口の前で手を組むと、ニヤリと笑った。

 

 

(エ●ァのゲン●ウじゃねえか……狙っただろ)

 

 

伊丹は口にはしなかったが、なぜかニヤケそうになってしまった。

 

 

***

 

 

【遡ること1日ほど、例の深夜】

 

加藤は半裸で某有名な死にキャラ(ヤ●チャ)の如く倒れていた。

 

隣ではピニャ殿下が上機嫌に鼻歌を歌っていた。

 

 

「……ピニャさん」

 

「む?どうした加藤殿」

 

「先程の大事な話、聞いてました?」

 

「大事な話……?」

 

「これからの計画(プラン)……」

 

「あ、うむ……えーと……」

 

「新帝国が日本政府に救援要請すること」

 

「あ、それだそれだ」

 

「頼みますよ……」

 

「しかし、もっと内容があった気が……」

 

「詳細はまた後ほど紙面で残しますから……この後こちらで作成した公文書に署名お願いします」

 

「うむ分かった。では、もう一回するぞ!」

 

「え゛?」

 

「次はこれを着ろ、そして続行だ」

 

 

ピニャはボロボロの甲冑を取り出す。

 

 

「もういっそ殺せ……」

 

「そう!それだ!妾もくっころというものを見てみたかったのだ!屈強な男の、騎士のくっころが!できれば伊丹殿をここに投入したかったが」

 

(く、腐っていやがる……)

 

「続きをやるぞ!……野球拳をな!」

 

「……くそ、誰だこのジャンケンが異様に強い腐姫様に野球拳教えたのは!」

 

「どうした加藤、負けたらお願い聞いてくれるのだろう?次は騎士が屈辱的に脱がされるのが見たい」

 

「……(恥ずかしくて)死んじゃう」

 

 

加藤は考えるのをやめた。

 




まあ、米軍が異世界に行くのは映画『ファイナルカウトダウン』と、装置は某世紀末ゲーム(第四作)に出てくる物質転送装置(テレポート)をイメージしてもらえれば……

実は野球拳にするかガチムチパンツレスリングにするか迷った。

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