オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

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読んでいただいた方ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


あえて言おう、ゲスであると!

 

「どひー!なんで俺は空飛んでんだぁ!」

 

 

伊丹が空中で目を覚ました結果、大変なことになっていた。

 

 

「ちょ、耀司!暴れたら落ちちゃうわよ!」

 

 

ロゥリィが注意するが、伊丹は別に暴れているわけではない。必死にしがみついているだけなのだがそれが災いし翼竜が暴れていた。

しかも今回は伊丹単独で乗っていた。

 

 

「あっ」

「「「えっ」」」

 

 

伊丹は手綱を放してしまう。

 

 

「ギャぁぁああ!」

「いやぁぁああああ!!耀司ぃいい!」

「いやぁぁああああ!!お父さぁぁああん!」

「いやぁぁああああ!!伊丹殿ぉぉぉお!」

 

 

伊丹が空中に放り出されると同時に女性陣が悲鳴を上げる。

 

 

「あらあらまあ、どうしましょう」

 

「隊長は運がいい人ですから大丈夫ですよ、多分」

 

「そうですわね、栗林さん。万一のことが有れば私の 死霊術(ネクロマンシング)で蘇生すればいいのですから」

 

「セラーナさん、それはどうかと……それに多分まずロゥリィが先に大変なことになるかと」

 

「まあ、それは大変。でもそれなら尚更安心ですわ。ところで栗林さん、以前頂いた日本の日焼け止めおかげで肌の調子が太陽光下でも良いのですのよ」

 

「へ、へー……」

 

 

こんなやり取りをしている間も伊丹は降下し続ける。皆もそれを追いかけようと急降下する。

 

 

「きーっ、耀司が叩きつけられたら私が木端微塵になるのよぉ!バラバラになったら私までしばらく活動不能になるじゃない!レレイ、あんたの新魔法の爆発で加速できないの!?」

 

「理論上不可能ではないが、今の状態だと対応遅すぎて無理。仮に可能であっても、ロケットブーストを行えばソニックブームによって翼竜、搭乗者、そして落下中の耀司も大変ことになると思う」

 

「よくわからないけど無理ってことねぇ、ちくしょぉぉお!」

 

 

ロゥリィは翼竜を急降下させて追いつこうとするが、自由落下している伊丹に追いつけない。

 

 

「耀司ぃ!少しは手を広げるなりして空気抵抗増やしなさいよぉ!」

 

 

残念ながら伊丹は既に気絶していた。空挺降下経験者とはいえ、心の準備ができていない上、落下傘(パラシュート)もない状態である。

 

まだ高度はそれなりにあるが地上はどんどん近づいてゆく。

 

しかし何という主人公補正かご都合主義か天は彼を見捨てなかった。

 

突如雲の合間から大きな赤い龍が現れた。

 

 

「炎龍!?」

 

 

テュカはかなり驚いた様子だが、炎龍には攻撃の意志は全くない。むしろ本当にたまたま遭遇してしまっただけのようだ。というか炎龍はこちらの存在にすら気づいていない。

 

 

「「「ぐへぇ!?」」」

 

 

伊丹とロゥリィと炎龍は同時に似たような声を上げた。

伊丹は炎龍の背中に当たった衝撃で。

ロゥリィはそのダメージの大半を受けて。

炎龍は予想外の背骨への衝撃で。

 

そして伊丹を乗せた炎龍は緩やかに降下していった。

 

緩やかにとは言ったが着陸というよりは不時着のような感じで、その巨体は地面を一部えぐるように激しく平地をスライドした。

 

伊丹はその勢いで前に投げ出されたものの、持ち前の強運のおかげか茂みに突っ込んで軟着陸(?)を果たした。

 

ロゥリィは木端微塵こそ免れたが(伊丹のせいで)全身打撲と骨折はした模様。

 

 

「お父さーん、大丈夫!?」

 

 

テュカがいち早く着陸して駆け寄る。

 

 

「な、何とか……それよりもロゥリィは大丈夫か!?」

 

「ば、バラバラにはならなかったわよぉ……」

 

 

普通の人間なら明らかにやばい状況だが本人が言ってるので多分大丈夫だろう。

 

 

「しかし伊丹殿もなかなか強運の持ち主……この身であったら確実に死んでいた」

 

 

ヤオが気絶中の炎龍をマジマジと見つめながら感心していた。

 

 

「む、これは例の炎龍ではないか!?エルフの里を焼き払ったのと、アルドゥインとやらの配下にいるやつに違いない!」

 

「な、何ですって!?」

 

 

テュカとレレイが戦闘態勢に入りとどめを刺そうとした。

 

しかしこれまで従順であった翼竜たちが間に入って庇おうとしていた。

 

 

退()きなさい!あなたたちもろとも撃ち殺すわよ!」

 

 

テュカが弓の弦を目一杯引く。彼女の目には復讐に燃える炎が上がっていた。

 

 

「待って、様子がおかしい」

 

 

レレイが状況を分析しながら行った。

 

 

「翼竜は炎龍の非捕食者。普通は逃げるが、庇うことはありえない」

 

「何か相当な理由があるのかもしれませんわね」

 

 

セラーナも冷静に分析する。

 

 

「……くっ」

 

 

テュカは何とか怒りを抑えて踵を返した。

そして単独で皆から離れた場所で座り込んだ。

 

 

(テュカ……)

 

 

伊丹は彼女の心境を察してしばらくそっとしておくことにした。

 

そして目の前の炎龍に目を向ける。

 

 

「全身に深い傷があるな。何かに襲われたか?」

 

「炎龍も弱くはない。それこそ他の同等の龍ではないと太刀打ちできないほどには。それにこの炎龍はエンシェント・ドラゴンと呼ばれるかなり年月をかけて生き抜いた猛者にあたる。それこそ数百、数千年に一度見れるかの希少性」

 

 

レレイが状況を詳しく補足した。

 

 

「となると、これに対抗できるのがアルドゥインしかいないわけだ。仲間割れか?」

 

「否定は出来ないけどぉ、命からがら逃げてきたというよりは意志をもってぇ、目的を持って逃げてどっかに向かっていると思うわぁ」

 

 

再生を終えたロゥリィが後ろから声をかけてきた。

 

 

「聖下、何故そのように判断を?」

 

「あらヤオ、私ほどのぉ経験を積んだ存在ならぁ、ある程度のことは分かるわぁ。特に人間の言葉を話さない動物などの意志などもよぉ」

 

「さすが聖下!伊達に1000年近く生きてはおりますまい」

 

「しかしロゥリィ、それはそうだとしてなぜだ?」

 

「そうねえ、彼女が飛行していた方向は……」

 

 

一同は向いた方角に気づいて険しい顔をする。

 

 

「……アルヌスねぇ」

 

「つまり、アルヌスへの攻撃を行うつもりと?」

 

「耀司、それは早計よ。炎龍はバカではないわぁ、貴方たち自衛隊の強さは痛いほど分かってるはず。無謀な攻撃は行わないはずよぉ」

 

「なんだか色々と矛盾して分かりづらいですね」

 

 

栗林が頭を抱える。

 

 

「この怪我の具合からしても、攻撃しに行くとは考えにくいわぁ。特攻するならまだしもぉ、彼女からは敵意を感じなかったわぁ」

 

 

ロゥリィは半開きの炎龍の瞳を覗き込む。

 

 

「むしろ焦り、恐怖はあれど、使命感を感じるわぁ」

 

 

そして笑みを浮かべる。

 

 

「レレイ、テュカ、彼女に治癒魔法をかけてあげてぇ」

 

「ちょ、なんで炎龍なんかを助けるのよ!?」

 

 

テュカがすごい剣幕で怒り出した。

 

 

「テュカ、貴方の気持ちは分かるわぁ。でも今ここで死なせてしまえば何か重要な手がかりを失うと私の勘がいってるわぁ」

 

「でもこいつは……こいつは……」

 

 

テュカは拳を握りしめて、唇を噛んで叫んだ。

 

 

「私のお父さんを殺したのよ!!」

 

 

テュカはそのまま走って行ってしまう。

 

 

「おいテュカ!」

 

「耀司っ!少しほっておいておきなさい」

 

「でも……」

 

「今の彼女に優しい言葉をかけるのも逆効果よぉ。下手したら以前のように壊れるかもしれないわぁ。心の整理ができるまで見守りましょう」

 

「……」

 

 

伊丹は小さくなってゆくテュカの背中をただただ見守るしかできなかった。

 

 

***

 

 

ピニャと加藤が対峙し、なんとも言えない静寂が訪れる。

 

 

「……加藤殿、あの部屋について説明してもらおうか」

 

「……冷蔵食料保存庫のことですかな?」

 

「……」

 

 

頭の隅っこではわかっていたことだが、いざ現実を突きつけられると言葉が喉から出なかった。

 

 

「何か問題でも?」

 

 

加藤はそう言いながらピニャの横を通り抜け部屋に入る。その時、加藤肩掛け鞄の如く仔ヴォーリアバニーの耳を持ちながら担いでいた。

 

そして台の上に置く。

 

 

「採れたてぴちぴちの若いメスですな」

 

 

そう言って肉包丁を高く振り上げると、頭部を躊躇いもなく落とした。

そして真っ赤な血が溢れる首元を下に、足を縛って吊るした。

 

 

「血抜きの次は内臓処理と皮剥ぎですな」

 

「加藤、貴様何やっている!」

 

 

ピニャはすごい剣幕で怒鳴りつける。ハミルトンは横で吐いていた。

 

 

「何って、下処理ですが」

 

 

加藤は手を止めない。今度は腹部を裂いて手を突っ込んだ。

 

 

「食うのか!?それを食うのか!!?」

 

「食わんのですか?」

 

 

加藤はさらっと聞き返したが、ピニャは背筋が凍るような思いがした。

 

 

「そういや、私の計画の一つを伝え忘れましたね」

 

 

加藤は臓物を慣れた手つきで取り払う。

 

 

「バニー・ソルジャー計画……なぜこれほどまでにヴォーリアバニーを重要視しているかを」

 

 

加藤は一旦作業を止めて、そこにあった椅子を後ろ向きに跨るように座り背もたれに腕を置くように座る。

 

 

「まずはその戦闘能力、優秀な兵士や労働力が見込める。さらに性欲が強く、容姿も良いし多産であることもその効果を大きく発揮できる。

次にメスが多い上に多種族と交えることが可能。爆発的に数を増やすことが可能である。

これらにより、戦場における人員不足、性欲問題からなる性犯罪の抑止、各種労働力問題、少子高齢化問題などの解決ができる。

さらに、闇ルート経由ならマニア向けの供給も可能だろう。

あちらの世界なら引く手数多でこの帝国の資金源になるに違いない」

 

 

加藤は立ち上がると先程下処理していた肉塊に近づく。もう血もだいぶ抜けていた。肉を叩きながら呟いた。

 

 

「そして何より、死んでも食料不足や臓器供給不足の解消にもなる」

 

「加藤、お前がやろうとしているのは……悪魔の所業だぞ……お前が食おうとしているのは、亜人(ヒト)なんだぞ、わかっておるのか!?」

 

「私がやろうとしているのは遺棄されたタンパク質の有効活用ですよ。自然界ではよくあることだ」

 

「ヒト種だぞ……こちらの世界でもあちらの世界でも禁忌のはずだ!」

 

 

ピニャは心の底から訴えかけるが、加藤の耳に届いても心には響かなかった。

 

 

「ヒトだったら、ダメなんですか。人間が、そんな偉い存在ですか?」

 

 

加藤はどこか悲しくも怒りの念の篭った視線を向ける。

 

 

「無論、誰も受け入れないでしょう、最初は。なので段階を踏んでそうするつもりです。もしかしたら1000年ぐらいかかるかもしれない。しかしその頃までには人間はヴォーリアバニー無しでは生きていけない社会(システム)になっているでしょうね」

 

 

加藤は下処理を終えた肉塊を愛撫する様に撫でながら、最後にこう呟いた。

 

 

「段階的に失敗しても、歴史上の先輩たちのわうに最後は(武力)によって都合の良い世界を作ればいいだけのこと」

 

「貴様、まさか……人間を弱体化させるつもりか!?」

 

「弱体化?いやいや、それは人間次第ですよ。もしその程度で滅ぶのなら、そんな人間はこの世にいらない。それに……」

 

 

加藤はため息をつく。そして誰にも聞こえないように呟いた。

 

 

「こうでもしないと、アルドゥインへの魂の供給量が不足してしまう……」

 

 

そしてもう一度ピニャに向かって問いかけた。

 

 

「さてと、ピニャ皇帝陛下。ここまで話したからには協力してもらうか、私の言いなり(傀儡)になってもらう。さもなくば、分かりますよね?」

 

 

そして加藤は包丁に手をかける。

 

しかし次の瞬間、背後の扉が蹴開けられグレイが入ってきた。

 

 

「ピニャ様、伏せてください!」

 

 

ピニャたちは言われるがまま伏せるとグレイの手元から閃光が走った。

もちろんかめ●め波などではない。

 

閃光と小さな爆発音と共に光のようなものが加藤の身体を複数箇所貫く。

 

 

「ピニャ様、ハミルトン殿、小生について参れ!」

 

 

ピニャは一瞬加藤がいた場所を見るが、すぐにその場を走り去った。

 

 

「……一度ならしも二度までも同じ武器でこの加藤に深手を負わすとは……グレイ、侮れん男よ」

 

 

加藤はゆっくりと立ち上がると注射器のようなもので手当をする。するとみるみる傷が塞がっていった。

 

 

 

 

「ピニャ殿下、ここを脱出しますぞ!」

 

「脱出って……どこへ逃れるというのだ!?」

 

「どこへでも、ここから遠く離れたところへ!」

 

「兵や民を見捨ててなどできるか!」

 

「貴女は皇帝なのですぞ!」

 

「民なくして皇帝など務まるか!」

 

 

しかしグレイから返って来たのは平手打ちだった。

 

予想だにしない出来事にピニャは足を止めてしまう。

 

 

「グレイ、貴様ぁ!これは立派な反逆罪……」

 

 

しかし今度はもう一つの頬に平手が襲い掛かる。

 

 

「二度もぶった! 今は亡き先代皇帝の父上にもぶたれたことないのに!」

 

 

ピニャは某どっかのアニメで聞いたような台詞を吐く。

 

 

「殿下、貴女は正義感が強く、優しい……優しすぎるのです。民なくして皇帝が務まらぬのも承知ですが、皇帝がいなくなれば国が消えるのですよ!国が消えれば、民はの運命はどうなるのですか……」

 

 

グレイは訴えかけるようにピニャに懇願する。

 

 

「もっと、ご自身のことを思ってください!」

 

 

グレイは片膝をつき、ピニャの手を両手で握りしめる。

 

 

「……余は幸せ者よ」

 

 

ピニャ自らを妾ではなく、余と呼ぶ。

頬には涙が流れている。そしてもう片方の手でグレイの肩に触れる。

 

 

「グレイ、貴殿の心からの願い、しかと受け止めたい。しかし、もはや帝国どうのう言ってる局面ではないのだ」

 

 

ピニャの目には涙が浮かんでいた。

 

そして城壁から異常を知らせる角笛の音が鳴り響く。

 

 

「この世界が、滅びるか否か……」

 

 

 

 

城壁外の地平線からは、敵の大群が押し寄せているのが見えた。

 

 

「うわあ、これはマジでやべえな……完全に包囲されているじゃねえか」

 

 

ジゼルは空中からその様子を見ていた。

 

 

「でもきっと、また加藤らが転移門(ゲート)開いてくれるから大丈夫駄よな……大丈夫だよな、きっと……」

 

 

それでもジゼルは内心恐怖抑え切れなかった。

 

 

***

 

 

あたりは暗くなっており、伊丹たちは野営をすることになった。

レレイが一人で治癒魔法をかけることになり、思ったより時間がかかってしまってる。

 

他の者も水を運んだり、見張りをしたりとそれぞれのできることをしていた。

 

炎龍も落ち着いたのかなされるままに眠っている。

 

テュカは皆から少し離れたところで川を眺めていた。

 

 

「落ち着いたか」

 

 

伊丹が夕食を持って近づいた。

 

 

「……」

「……」

 

 

返答なかったが、隣に座り込んで一緒に川眺めることにした。

 

どれくらい時間が経っただろう。

最初に口を開いたのはテュカだった。

 

 

「……ごめん」

 

 

ポツリと小さい声だった。

 

 

「お父さん、さっきみたいに取り乱してごめんなさい……」

 

伊丹は何も答えず、ただただ聞いた。

 

 

「……やっぱり私、炎龍のことは許せないわ。だって、お父さんが……本当のお父さんが殺されたのに……」

 

 

テュカの目には大粒涙浮かんでは溢れ、頬を伝って落ちていった。

 

 

「瀕死の炎龍を見た時、仇を取れると思って歓喜したわ。そして治療すると聞いた時、怒りと殺意が湧いたわ……おかしいかな……おかしいよね……」

 

「……おかしくなんかないさ」

 

 

伊丹もゆっくりと静かに話す。

 

 

「テュカの気持ちはわかる、なんて俺には言えない。テュカの気持ちはテュカにしかわからない。でも一つだけわかることは、もし俺が同じ立場で、テュカやみんなの誰か大事な人が殺されたら……殺したやつを許せないと思う」

 

 

伊丹はテュカの方を抱き寄せる。

 

 

「テュカ、君は良く耐えた。私情を抑えて、頑張った。君は弱くなんかない、おかしいとも思わない。ここまで頑張って、そして話してくれて本当、ありがとう」

 

 

これを聞いたテュカは一気に感情が解放され、大声を上げて泣いた。

 

 

 

 

「さすが耀司、上手く収めたわねぇ」

 

 

寝ているテュカをお姫様抱っこで連れてきた伊丹にロゥリィは笑みを浮かべる。

 

 

「ロゥリィの助言のおかげさ。俺も少し冷静に対応できた」

 

「べ、別に褒めても何もでないわよぉ」

 

 

ロゥリィは頬を赤らめてそっぽを向いた。

 

 

「で、炎龍の様子は」

 

「だいぶ傷は癒えてるわ。多分明日の朝には目を覚ますわぁ」

 

「そうか。おーい、レレイ、ヤオ、セラーナさんに栗林。今日はその辺にしてもう……」

 

 

言いかけたその時、炎龍が突如目を覚まして首を持ち上げた。

 

 

「あら、思ったより早かったわぁ」

 

 

ほとんどの者が唐突な出来事に驚き、固まってしまった。

炎龍は伊丹たちを睨みつけた。

 

 

「く、来るか!?」

 

 

ヤオが小銃を構える。

 

しかし炎龍はしばらく睨みつけたあと、周りに気をかけながらまた腰を下ろした。

 

 

「……敵意は無さそうだ」

 

 

皆は胸を撫で下ろす。

 

 

「しかし困ったわねぇ、意思疎通ができないわぁ。ジゼルならできるかもしれないけど、相変わらずどこにいるかわからないしぃ」

 

 

一同が頭を捻らせていると、炎龍は突如ある方向をジッと見つめた。

 

 

「……アルヌスの方向だな」

 

「ええ、何かあるのかしらぁ」

 

 

伊丹は少し考えた後、意を決した。

 

 

「ロゥリィ、一つ頼み事をお願いしてもいいか?」

 

「何ぃ?高くつくわよぉ?」

 

「炎龍と一緒にアルヌスに戻って欲しい」

 

「……私の個人的な意見わぁ、嫌ですぅ。でもぉ、何か考えがあってのことよねぇ?」

 

「ああ……本当は俺も行きたいが、そさこのままだと引き返して帝都に行くことになるから時間がかかる。でもピニャたちはそう待ってはくれないだろ、それに現地の状況を一刻も早く伝えないといけないからな」

 

「ふーん、それなら仕方ないわねぇ。でも、どうすのよぉ、炎龍がアルヌスに近づけば自衛隊に攻撃させたされるのは目に見えてるわぁ」

 

「そこでだ、俺にいい考えがある」

 

 

言葉はわからなかったが、炎龍はすごく嫌な予感を感じた。

 

 

***

 

 

アルヌスの奪還とした準備を終えた自衛隊は、奇妙なものを発見した。

 

 

「何すかね、これ?」

 

「自衛隊の爆発物処理隊によれば、IED(即席爆弾)や地雷の可能性はないことが分かったんだが」

 

 

駒門がSATの隊員と奇妙な装置を訝しげに眺めながら話していた。

 

 

あの野郎(加藤)、妙なものを残しやがって。今は電波通信、情報処理、暗号解析など色々調査中だ」

 

 

その様子をモニター越しに眺め、狭間陸将や柳田1尉たちと共に結果を待っていた。

 

 

「駒門さん、結果が出ました!」

 

「おお……で、結果は?」

 

「超音波を発する装置です。どうも機械学習やディープラーニング、ニューラルネットワークにやって構成された人工知能が発した音を超音波として出力してます」

 

「何、では何と発している!?」

 

「ええと……ヨル……イン……アール……?」

 

「何じゃそりゃ」

 

「何かしらの暗号かと思いますが、『ヨル・イン・アール』という言葉を繰り返し一定の間隔で発しています」

 

「そうか、急いで分析しろ!」

 

 

 

しばらく後に、日の丸が描かれた、というか白いドーナツのようなものを腹部に描かれた炎龍が背中にロゥリィを乗せてアルヌスに来た時は一同は腰を抜かしたという。

 

なお炎龍は日の丸についてかなり不満そうな顔をしていたとか。

 

 

***

 





現実世界も大変ですが、皆様お身体におきをつけください。

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