肩書。非常に曖昧な概念だ。

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「お前、肩書似合わないな」「肩書。非常に曖昧な概念だ」

人類史を揺るがしたカド事件からはや三年。東京オリンピックに異方の技術は大いに活かされ、人類の推進を多かれ少なかれ誰もが感じるようになった今日このごろ。SettenとNNKを中心に、世界の大事件である「カド」のドラマ化が進行していた。そこに集められたのは真道幸路朗、ヤハクィザシュニナをはじめ、事件の当事者ばかり。半年に渡る超劇団「パンドラ」での稽古により、素人に毛が生えた程度には演技ができるようになっていたのだった。

「国家公安委員会会務官補佐官カド現地対策本部の浅野です」

「外務省国連政策課、真道です」

「カーッと!」

品輪彼方の隣でニコニコとクラッパーボードを鳴らした映画監督は、四度目で浅野修平が長い役職をきちんと言えて満足していたようだ。

「よかったですよ、ねえ? 独立研究法人統合科学技術研究所理論物理学博士の品輪彼方さん」

「そうですねえ。これだけの長台詞もようやく浅野さんが言えて私も満足だったと思いますけどそれよりも舞面さんどうやってカドの再現をしたんですかまだアメリカでもフレゴニクス」

品輪彼方がうるさかったので、陸上自衛隊自衛官一等陸曹の阿方が連れ出した。

「監督、お客様がいらしていますよ」

「お客?」

「ええ、正解されたものだって」

「通してください」

 

羽田空港の会議室を貸し切って、真ん中から前髪を分けてピンで留めている女監督は来客のもとにたどり着いた。

「久しぶりですね」

「ああ」

「異方存在ヤハクィザシュニナ、あなたの撮影はまだ先ですよ」

「それはわかっている。しかし、真道に昨晩言われてな、肩書というものに興味をもった」

「肩書、ですか」

監督は先程のやり取りを思い出す。

「修飾語と同じに思う。高貴なものも卑下なものも肩書で大げさに扱われているように思う」

「そうですね。例えば、鈴木友子、在原露、【AnswerAnswer】、【答えを持つ物】、それぞれどのような印象を持ちますか?」

後半は名前か? と異方存在ヤハクィザシュニナは思ったが、自分も異方存在ヤハクィザシュニナなので深く考えるのはやめた。

「一人目、鈴木友子は平凡な女の子。悪い言い方をすればモブキャラだ。在原露は優雅な、貴族のような姿が浮かぶ。AnswerAnswerと聞くと、わたしの求める人間像とも思う。そして答えを持つ物。それはあなたと同じではないか? この四人に修飾語をつけると印象がかわるということか?」

「いえ、この四人は同一人物です」

「なんだと」

異方存在ヤハクィザシュニナは驚いた。鈴木友子が【答えを持つ物】というのはちょっとずるい。自分も多摩警察署の叩き上げ刑事(デカ)、九字院偲(くじいんしのぶ)らへんの名前だったら印象はだいぶ違っただろう。

「その辺を頭においていただけると、なおさらこの世界は美しいと感じますよ」

監督はそう言って、異方存在ヤハクィザシュニナを滑走路に連れ出した。

 

「やあ、久々だな」

内閣総理大臣犬束構造は笑顔で握手を求めてきた。文字数こそ少ないが、内閣総理大臣の肩書は強い。

「今日はよろしく」

異方存在ヤハクィザシュニナはこの男の実直さに惚れているのだ。決してそのつよい肩書に惹かれているのではない。現に、長い付き合いになっている東京地方検察庁特捜部検事正崎善は好きになれないし、日本で最も富を持っている舞面銀行、舞面商事、舞面不動産、舞面重工、舞面グループ会長舞面真面とは犬猿の仲である。

「ザシュニナ!」

「真道」

久々の再開に、2人は仰々しく包容しあった。国家公安委員会会務官補佐官カド現地対策本部の浅野と真道の包容は演技だが、いまの2人のそれは本物の友情だ。その大胆な様子を、外務省国際交渉官にして(音声の乱れ)徭沙羅花と内閣官房国家安全保障局情報班長夏目律は悔しそうに見ている。外務省統合外交政策局国連政策課事務官花森舜が怒りのオーラを感じ取りそろりそろりと逃げ出そうとしたが、外務省国際交渉官にして(カメラの不調)徭沙羅花に硬直させられた。ザシュニナからすれば、徭沙羅花と夏目律と花森舜と思いたいが、真道幸路朗と同等ではない。残念なことに。

「次のシーンまであと一時間です! 由利さんが差し入れを持ってきてくださいました!」

監督の隣でいつも雑用をしている奴が大声で叫んだ。

「みなさんお疲れ様でした」

NALのCA、憧れのキャビンアテンダント、由利縞子さんがおおきな紙袋を掲げた!異方存在ヤハクィザシュニナはその手で受け取りに行く。

「間に合いましたかっ!?」

画面では決してクールな表情以外を見ることのできない、超美人なニュースキャスター深水ソフィーさんがこれまた大きな袋を持ってきた! 異方存在ヤハクィザシュニナは腕だけでなく自分も複製して挨拶に小走りになる。

「みなさーん、おにぎりです」

いつみても割烹着姿の美しいお義母さ……、真道美晴さんがお盆に並んだつやつやのおにぎりを持ってくる。異方存在ヤハクィザシュニナは自分が行こうとしたが、そこはぐっ、と我慢して照れながら母親のもとに向かう真道をみてうっとりしていた。愛には正解がある。これは、きれいなお姉さんでも、親でも、恋人でも一緒だ。

 愛の前に肩書は関係ない。異方存在ヤハクィザシュニナは人類からこの簡単で大切なことを学んでいたのだった。

 

「順調ですね」

ぼくは監督とテントの下でお茶を飲んでいた。

「そうですね。ヤハクィザシュニナもだいぶ慣れました」

「でも、最原さんが監督になるとは思いませんでした」

ヤハクィザシュニナにとって真道幸路朗はひとりの真道幸路朗であるように、ぼくには最原最早は最原最早でしかない。

「そうですか?」

たぶん、最原最早にとって僕は二見遭一ではない。ひとりの映画役者だ。

でもそれでいい。彼女にしてみれば僕個人よりも役者の方が大切だ、ということをぼくたちはよく知っている。

「ええ。あのカド事件をここまで理解しているとは思いませんでした」

「そうですね。当事者だから知り得るってやつですから」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

「カドの出現から映画化するまで、その全てを三年かけて一回リハーサルしていますから。あとはわたしの映画にするだけなんです」

最原さんの言葉に希望的観測はない。あそこで楽しんでいる異方存在や官僚や世界一企業のCEOは役者でしかないらしい。

最原最早はぼくの彼女で、結局は映画監督最原最早だった。

 

 

 


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