ぶっちゃけモデルは彼です(笑)
小説家になろうにも掲載しています。http://ncode.syosetu.com/n9931ea/
僕は僕のことが嫌いだ。
自分に自信がないせいで人の真似をするようになったところが嫌いだ。
友人とも呼べない人と仲良くするために笑って話を流すことしかできないところが嫌いだ。
そんな風に自分が嫌いと言ってなにもしない、変わろうとしない自分が大嫌いだ。
だから
「……相手を怒らせた人間の行動としてそれほど失敗してることないから今度同じようなことあったら気をつけろよ。黙りこくったままでいるとか馬鹿にしてんのかって絶対になるからな。」
「すいません。」
だからこうやって無感情に頭を下げる。なんで自分が謝っているのかなんて分からないが、とにかく波風を立てないようにとへりくだる。
「ほんとにわかってんのかね。謝って済むなら警察はいらないんだよなぁ。」
馬鹿にされようと傷つかなくなったのはいつからだろうか。嫌いな僕の悪口はむしろ共感できると、そう思っても口に出すほどの気概はとうの昔になくなってしまった。この絡んできている男も別に僕をけなすのが楽しいというわけではないのだろう。ただ腹が立ったとかそんな下らないこと、でもそんなことにも理由はあってそれはたぶん僕だ。おどおどしているだけで絡まれるのは心外だが、きっとそれだけ僕がうざったかったのだと思う。
「すいません。」
「はぁ~、散々人が真面目に話してるのに糞みたいな反応したのお前だからな?」
さっきから延々喋っているこの男はさっきユキと名乗っていた。肩がぶつかったあとの謝り方に始まり、いまや生き方まで指導されている気がする。平日の昼間からこんな風に時間を浪費しているなんてロクな人間ではない気もするが、彼だって僕にだけは言われたくないだろう。睨みつける視線に耐え切れずもともと小さな声がさらに聞こえなくなる。
「さっきからすいませんばっかりでさ、もう少し話したいこともあるからちょっと付いてきてもらうぞ。」
「ほんとに暇なんだ……。」
「は?やっぱお前反省してないだろ。反省してるならそれ相応の態度をしろよ。」
まずい。すこし冗長になってきた話をいつものように聞き流していたせいで口が滑った。このまま啖呵をきれてしまうような人ならまずここまで話に付き合っていないのだろうなとか、まとまらない考えが頭をよぎる。波風立てないようにしていたのにここまで来て失敗してしまうのは普段のコミュニケーションが不足しているからだというのは容易に思い当たる。現状維持しかせずにいれば落ちぶれることはないと思っていたのに、現実は随分とせっかちで零れ落ちた人を待つことはしてくれなかった。
「…………」
本当にどうして僕は僕なんだと嫌気がさしてきた。こんな僕でも変わろうと思えばチャンスはあるのだろうか。何度も見逃してきたはずのそれだったが今更になって惜しくなってきた。どうして僕はこんなに嫌いな僕を放っておくのか。次にきっかけがあれば、きっとそのときは手を伸ばしてみよう。だからそれまでは今までと同じように……。
「ほらいくぞ!サ店にでも入ろうと思ってたけど、お前には路地裏で十分だな。その後はそっちの反省次第だな。」
そう言ってぐいぐい引っ張ってくる彼になすがままについていけば、人通りの少ない路地が見えてくる。ああこのままボコボコにされたりするのかな、痛いのは嫌だななんて他人事みたいに考えていた。だから僕は次の瞬間起こったことにしばらく頭が追い付いかなかった。
「あそこでい「推せる!」
目の前で手をつかんでいた男が視界から消え、多少の痛みとともに自由になる。叫びながら突っこんできた何者かは自分で吹っ飛ばしたユキを見て声を上げて笑っていた。屈託のない笑みを浮かべる彼は僕の方に向き直り躊躇わず声をかけてくる。
「あいつはあんな風にクソ長文でまくし立てるのが好きなだけの自分を工作員だと思い込んでいる精神異常者だからさ、相手してたらきりないよ。」
「……」
初対面のはずの僕にもペラペラと話し出す彼には、でもさっきのと違っていやな気分はしなかった。彼の眼になんとなく惹きつけられるような気がして目を合わせているのが理由かもしれない。久しぶりに真正面から見た他人の顔は思っていたほどの怖さがなくて自分はこれの何が怖かったのかわからなくなってきてしまう。
「大丈夫かい、あいつの相手めんどくさかったでしょ?」
「ありがとうございます。」
「おっ、しっかり礼ぐらいできるんじゃん。なんで突っかかられたんだかねぇ、ほらあれ見てみ。」
彼指さすほうに目を向ければ、ユキが着地したゴミ箱に突っ込み随分と間抜けな姿をさらしていてあんなのにおびえていたのかと思って笑えてくる。目の前の彼は僕を見てニヤリと口角を上げた。
「やっと笑ったな。」
再び自分に向けられる笑みにもしかしたらこれがチャンスなのかと思い至る。もしそうならばさっきの誓い通りに手を伸ばそう。考えていたよりずいぶんと早い到来に今までの苦労は何だったのかとも思うが、かぶりを振る。
「俺は朝陽、ゴモラって呼ぶ奴もいるけどな。」
これで僕は変われるかもしれない。
「僕はケン……佐原ケンです!」
惰性で過ごす夏の日にぼくはちっぽけ世界からいともたやすくひきずり出されてしまった。