邪竜百年戦争オルレアン ―英雄殺しの滅亡剣― 作:mobimobi
原作:Fate/Grand Order
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【朗報】麗しの英雄、はぐれサーヴァントとして現る
邪ンヌ、全てを知って開き直る
ジル・ド・レェ、聖杯没収。愛娘に大嫌いと言われた上に左遷
すまないさんには本当にすまないと思っている…すまない、本当にすまない…
なお、邪ンヌのルーラー権限で名前を抜かれた後にワイヴァーンの群れとアステリズムでやりすぎなくらいの飽和・包囲攻撃を仕掛けられ袋叩きにされた模様。
「よう、戻ったぜ。頸を取っても土産にできないってのも湿気た話だがなあ――戦果は上々って所だろうよ」
オルレアンの城、玉座の間。
竜の魔女の元へと、召喚されし魔竜が帰還した。
両の腕には、禍々しい五指を備えた鋼の小手。ギチギチと、カチカチと、不協和音を鳴らす長い爪には赤黒い血の跡がべったりと張り付いている。
瞳に宿るのは熱された泥のような、重く蟠る狂気と我執。牙を剥き出す様に笑う有様はさながら肉食獣、否、邪悪なドラゴンその物だ。
唇から零れるのは、熱を帯びた吐息。言葉尻から捉えるに、今は戦場帰りなのだろう。堪能したぜ、とでも言いたげに深く息を吐き出すその様に鼻を鳴らし、竜の魔女は立ち上がった。
「そう。実際にファフニールを討ち果たしたジークフリードを殺すなんて、もう本家を越えたんじゃない?
「カッハ! おいおい、なんだそりゃあ。自分が贋作だからどうのって当てつけかよ?」
「そういうわけじゃないわよ。ああ、そうそう。ついに聖女様も召喚されたらしい
わ。カルデアのマスターも確認された。いよいよ以って開幕だけど、アンタの目当てはまだ――」
「いいや、来る」
悪竜の眼が憧憬に煌めいた。
ああ、来るとも、奴は来る。
「人理崩壊ギリギリの瀬戸際、奴が統べるアドラーも根っこから消え去る寸前となれば来ないはずがないのさ。本物のジークフリード相手も滾ったが、やっぱり本命は我が麗しの英雄よ」
「あっそ。まあいいわ。好きにやれば? 私の方は本命が来ていることが確定したから、もうどうでもいいし」
竜の魔女の黄金瞳が炯々と燃える。ああ、そうだとも。盃に依って我が身を生み出したジル・ド・レェが父ならば、土台となった聖女は母。
概ね父の責任とは言え、生まれ落ちたばかりの己にこんな物を背負わせてくれた責任の一端は彼女にもまた存在するはずだ――。
組み伏せられ、蹂躙され、侵され、穢され、焼かれて――ああ、ああ、思い返すのも悍ましい責め苦の数々。納得している? そうだろう、自分自身はそれで良いだろう。だが、しかしだ。
その果てに訪れた結末だけを背負わされた、己のこの憤激と憎悪はどうすればいいのか。
眼前の男が召喚直後に言い放ってくれた言葉を思い出す。
――ああ、ああ、ああ……なんだこりゃあ、気持ち悪くて堪らんぜ。まるで生きちゃいねえぞオイ。
最強の邪竜を呼び出さんとした、その矢先にこれである。現れたのが男一人だったという事実に加えてこの言い分、ジャンヌが怒り狂ったのは当然だろう。
激怒に白んだ意識は彼女を数瞬、棒立ちにして――次いで紡がれた言葉が、その空白にするりと滑り込んだのだ。
――おい、これを作ったのはお前さんか? 土台がねえ、薄っぺらだ。全てを憎んでいるようでいてその実、上滑りしちまってるじゃねえか。本気がねえよ、なんなんだ?
その言葉が向いたのはジャンヌにではなく、傍らに控えていたジルだった。
邪竜は、英雄に焦がれたあの日から常に本気で生きている。身体を、心を、魂を。燃やし尽くして駆け抜けていた。ああ、故にこそ。付け焼刃を見抜く嗅覚が異常なまでに優れていて。
こんな男の言葉は譫言に過ぎないと怒り狂う狂人の姿に、しかし、ジャンヌは機を外された。己以上に怒る相手を目にしたことで、幾らか冷静になるというあれである。
土台がない。薄っぺら。いいや、そんなことはない。積み重ねてきた人生は、裏切りによって終わりを告げた私の物語は確かにあったのだ、と。そうせせら笑ってやろうと、ジャンヌは心の内で己のルーツを探り――そして。
己が空白を知ったのだ。父を問い詰め、その果てに怒りを叩きつけたのだ。こんな汚い物を押し付けるなと、本気の拳で顔面を殴り付けた。張り付けられた薄っぺらい憎悪と憤激ではなく、己の奥深くから湧き上がる衝動に身を委ねて。
鬼の様に歪んだ己の顔を呆然と見上げるジルの顔と、それを目にして心底嬉しそうに爆笑する男――ファヴニル・ダインスレイフと言う名だったのだと、ジャンヌは少し後に知る――の姿を良く覚えている。
フランスを滅ぼす理由はなくなった。
だがそれはそれとして、ピエール・コーションは殺した。いいや、母の火刑に関わった者、その悉くを魔竜に貪り食わせてやった。
ああ、死ね死ね死ぬがいい。私に穢れを負わせた悪徳の一切合切を焼き滅ぼす。
今私が本気になれるのは彼らに対してのみなのだから。――ああ、いいや、もう一つだけあったか。
我が母たる女よ。その生き様は美しかったのだろう。貴女は清廉に生きたのだろう。
だがその結末の苦しみを、汚濁を背負わされた恨み、この手で晴らさでおくべきか。怒りが燃える。憎悪が燃える。憎くて憎くて仕方がない。
八つ当たりだろう。向こうからすればいい迷惑だろう。だが、あの父と知り合ったのが運の尽きだったのだ。お前を引き摺り出して必ずや片を付けてやる。その為ならば――。
本気になれよ、本気でやれよ、と竜が笑う。言われるまでもないわ、と魔女が返した。振り下ろされた腕に従い、フランスの空を飛竜の群れが飛んだ。
それが数日前のこと。そして、ああ、ああ、漸くだ。
「――さ、行くわよ」
「おうよ。カルデアのマスターの方は貰うぜ? こうなっちまうと、英雄を釣り上げる為にゃどうしても必要なんでな」
「別に好きにしなさいな。私の残る目的はジャンヌ・ダルクただ一人なのだし。フランスとかもうどうでもいいわ」
魔女と竜が歩き出す。二人が向かう先は、言うまでもない。――いざ、生の証を示す為に。
「クハッ、アハッ、ハハハハハァ―――!」
竜爪が疾る。鋼が軋む。地を走る邪竜と、空を覆う飛竜の群れ。それらを前に、カルデアは絶体絶命の窮地へと立たされていた。
カルデアの戦力であるサーヴァントは三騎。大盾を持ったマシュ・キリエライト。冬木の縁で召喚が為されたキャスター、クー・フーリン。現地にて合流したルーラー、ジャンヌ・ダルク。
防御も様子見も一切無用と、攻撃に一切合切を傾けた邪竜を抑えることはクー・フーリンとジャンヌ・ダルクには不可能だ。前者ならば強引に突破され、後者ならば瞬く間に押し切られて抜き去られる。故に、マシュ・キリエライトが必要だ。いいや、それでもなお力不足。クー・フーリンの魔術の援護を加えて漸く五分――いや、三分から四分で不利と言うところ。数えることすらままならないほどの鉄火場を駆け抜けてきた邪竜とマシュの戦闘技能など、比べることすらおこがましいというものだ。
クー・フーリンの援護が十分な物であるならまだしも、マスターを狙って一撃離脱で飛来するワイヴァーンの群れの相手をしながらである。致命的な一撃に対しての対処くらいしか出来はしない。
ジャンヌに関しては、当に竜の魔女たるジャンヌ――ジャンヌ・オルタに拘束されている。激情を露わに放たれる憎悪の炎を前に防戦一方の有様だ。槍があれば、とクー・フーリンが臍を噛む。そうであったなら、己が邪竜を抑えて五分にまで持ち込めただろうに――!
対して、竜の方はと言えば未熟ではあるが本気も本気、恐怖を飲み込んで立ち向かってくる少女の姿に大喜びで攻撃の回転率を上げる始末だ。
そらそら守れよ頑張れ命を燃やせ。抜かれたらそれで終いだぞ、と。狂喜を孕んだ笑みで語りながら、一切の容赦なく死を呼ぶ暴風となって刃を振るう。大盾へと叩き付けられた銀閃が絢爛と火花を散らした。
「おーおー、やるねえ。確り俺を見てやがる。お前だけは通さない――目がそう言ってるぜ、嬢ちゃんよォ。
そうだよなあ。旗振りの姉ちゃんは向こうの相手で手一杯、魔術じゃ俺の足が止まらねえ。
木っ端の群れならともかく、俺を大事なマスターに接敵させちまったらその時点で詰み。それが目に見えてるから盾持ちが食い止めるしかないって訳だ!
大変だなァ、けど負けられねえよなァ。なら、限界の一つや二つ越えてみな。出来ないって言うなら、そら、手助けをしてやるぜ――!!」
そして。未熟な英雄の奮戦に大して、遂に邪竜がその牙を剥く。
もっと本気を、もっと、もっともっと。もっともっともっともっともっと、まだまだまだまだ絞り出せ、さあ見せてみろ、その真価を、と。
心の底から、人の輝きに焦がれながら。そして、その果てにこそ焦がれ求めた輝きが生ずることを確信しているから。
「創世せよ、天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星ぃッ!」
「――ッち、おい嬢ちゃんっ!!」
「令呪を以って命ずる! マシュ、宝具を展開して!」
紡ぎ出された起動詠唱。膨大な魔力が収束し、感応する。
それに不吉なものを感じたクー・フーリンの警句に即応し、藤丸立香は躊躇いなく令呪を切った。
マシュが大盾を構える。守護の光が溢れ出し――。
「――仮想宝具擬似展開……っ!
「
そして轟く、魔竜の咆哮。爆発するのは人間大の超新星。
緑の大地が蠕動し、生じた竜の大顎が真下から三人を食らい尽くさんと牙を剥いた。
清浄な輝きは竜の口内へと呑み込まれ――直後に荒れ狂う炎の巨人の手によって、咢が焼き尽くされる。
幸いだったのはマシュの宝具によって、クー・フーリンの宝具発動までの時間を稼げたこと、そして三人を包み込む炎の熱波を完全に防ぎ切れたことだろう。しかし、プラスがあればマイナスがあるのもまた道理。否、この状況においてはマイナスの方が遥かに膨大と言える。――何故ならば。
「
「ハッハァ、まだまだァ――ッ!!」
襲い来る巨人に向けて叩きつけられる、物量、物量、物量物量物量物量――!
生贄が欲しいのだろう? ならば好きなだけ食らうがいいと殺到する竜鱗、龍牙の大津波を前に燃え盛る炎が徐々にその勢いを減じ、そして訪れる崩壊の瞬間。
炎が消え失せ、燃え残った木々が今度こそ大顎に食い破られる、その陰から姿を現すのは言わずと知れたダインスレイフ。星を宿した両足が緑の草原を踏み抜く度に支配領域が広がっていく。
――ワラキアの大領主たるヴラド三世の宝具、極刑王。支配下に置いた空間から生じるものが杭か、竜の五体かと言う差はあれど、英雄殺しの滅亡剣はそれに酷似した性質を備えた星辰光である。故にこそ、その本領は物量による飽和攻撃。
つまりこの状況は敵軍総戦力が爆発的に増大したに等しい。
「っちぃ……! 一旦引くぞ嬢ちゃんっ! 手数が足りやしねえ!」
最早支え切れないと判断したクー・フーリンがマスターを抱えて身を翻した。それに続いてマシュもまた。行き掛けに一撃を食らわせてひるませ、その間に諸共離脱するつもりなのだろう、駆け行く先には聖女と切り結ぶ魔女の姿がある。
だが、それをこの男が通すかと言えばまた別の話だ。逃がすか、とばかりに星を滾らせたその刹那に――絶対的な死の予感が邪竜を襲った。
「そこまでだ」
鋼鉄の声と共に、光の波濤が迸る。
触れるものすべてを焼き尽くす殲滅の一閃を、操作した竜体を足場に間一髪躱しきったダインスレイフが勢い良く振り向いたその先には、彼が焦がれ、求め続けた男の姿が確かにあった。
それは運命へと挑むもの――覇者の冠を担う器。
目に宿る光の密度も、胸に宿した情熱すらもが両手に携えた光の刃に負けず劣らず輝いている。
荘厳にして激烈な闘志と怒りを叩きつけられ――竜が哭く。歓喜の絶叫が蒼天を震わせた。
特異点が消えれば、それに連れて儚く消え行く物語。されど――さあ、括目せよ。いざ讃えるがいい。
ここから始まる新たな英雄譚を。それを見届け、更に先へと歩みを進める少年少女の物語を。邪竜百年戦争は、今この瞬間より始まった。
だが続かない
遅ればせながら、誤字報告ありがとうございました!