国連の艦隊に出向したウォースパイトは、ビスマルクと出会う。前世の記憶から、彼女を嫌うウォースパイト。しかし、共に過ごすうち、別の感情が芽生えていく。
貴女が振り向かない理由。
貴女を振り向かせたい理由。
二人の関係が、少しずつ、変わっていく。
※
Twitterに投稿したものを、加筆、修正しました。
作者は百合派です。レズ派ではありません(何が違う)
どうぞよろしくお願いします
上手く、笑えただろうか。
この艦隊で貴女に会った第一印象は、決していいものではなかった。
前世の貴女は、私から大切な人―――フッドを、奪った。祖国が誇りとした、私の愛する人を、奪った。それが許せなかったのも、一つの理由だけど。貴女にも、原因があったのよ?
お世辞にも人付き合いがいいとは言えない、貴女。私に見向きもしようとしない、貴女。固く口を閉ざし、冷たい目だけを輝かせる、貴女。
だから私は、貴女が嫌いだった。
それと同時に、無性に腹立たしかった。
私たちのことなど、憶えてすらもいないようなその態度が、気に食わなかった。
絶対に、振り向かせてやる。否応なく、私を意識させてやる。
最初は、そんな子供じみた、復讐心だったわ。
けれども、なかなかその機会には恵まれなかった。
一緒に戦闘に出ても、足が遅い私は、いつも貴女に置いていかれて。振り向かせる、なんて息巻いておいて、結局は私が必死に追いかけるしかなかった。
貴女は絶対に、後ろを振り向かなかったわね。今は、その理由を知っているけど。それでも、悔しかったものは、悔しい。
海の上では、どうしようもなく、縮まらない距離。だから仕方なく、私は陸の上で、貴女と戦うことにした。振り向かせて見せると決意した。
お菓子を振る舞ったり。食事の時に席を近くしたり。書庫で貴女を待ち受けたり。不器用なりに、頑張っていたのよ?
それでも、貴女の態度は変わらなかった。
いつしか私の目的は、方法に取って変わられて。貴女を振り向かせる、そのためだけに、私は毎日、あれやこれやと考えていた。
いつからだろう。それはきっと、貴女を振り向かせるために、貴女のことをたくさん知ろうとしたから。
好きな食べ物は?好きな花は?どんな本を読むの?どんな話をするの?
新しい貴女を知ることができた日は、夜眠れなくなるくらい、嬉しくて。明日はどんな貴女に会えるのか、楽しみで仕方なかった。
それでも、貴女は私を見てはくれなかった。むしろ、私が近づこうとすればするほど、離れていくように、思えた。
私の苛立ちの意味は、すでに変わっていた。
どうして私を見てくれないの?
どうして私を避けようとするの?
貴女は・・・私のことが、嫌い、なの?
「待って」
胸のつかえが堪えられなくて。私はある日、貴女を引き留めたわね。袖を摘まむなんて控え目な止め方になったのは、貴女に嫌われてるんじゃないかって、怖かったからよ?
「・・・何?」
氷のような貴女の言葉に、なぜか涙が出そうになった。
「貴女は、私のことが、嫌い?」
貴女は一瞬だけ、驚いたように目を見開いて。でもすぐに、こう返したわね。
「あなたこそ、私が嫌いじゃないの?」
雷に打たれた気分だった。
私は貴女のことが嫌いだった。なのに今は、貴女に振り向いてもらえないことが、こんなにも苦しい。
それは、どうして?
「・・・嫌いなんてこと、ないわ」
私は正直に、全てを話した。貴女が嫌いだったこと。子供っぽい復讐心。そして、今の胸の痛み。
今までで一番恥ずかしかったわ。心の内、自分の醜い部分を晒すのだから。初めて裸を見られた時より、ずっと恥ずかしかった。
でも。そうしないと、貴女に私の気持ちを、信じてもらえないと思ったの。
全てを話し終えるまで、貴女は静かに私の話を聞いてくれた。初めて、まともに話ができて。こんな時なのに、嬉しくてたまらなかった。
「貴女のことは、嫌いじゃない。・・・いえ、好き。私は、貴女のことが、好き」
隠しようのない本音。土壇場で気づいた気持ち。
素直に、最初からそうしていればよかったのに。最初から、貴女と向き合おうとしていればよかったのに。
「・・・悪いのは、あなただけじゃないわ」
そう言った貴女は、そっと、頭を下げたわね。
「ごめんなさい。私はずっと、あなたから逃げていたわ。あなたを避けていたわ」
貴女もまた、同じように、全てを話してくれた。
「あなたに嫌われているのはわかってたわ」
「あなたはきっと、私とは関わりたくないだろう、って」
「できるだけ距離を置こうとした」
「でも、結局、逃げていただけね」
「あなたに恨みをぶつけられるのが、怖かった」
「だから、避けていた」
お互いの思っていたこと。すれ違った理由。
なんてことは、なかったのね。私たちはきっと、最初から、お互いのことが気になって仕方がなかった。
「嫌いなわけ、ないじゃない。逃げてばかりの私を、追いかけてくれるあなたを、嫌いになんてなるわけない」
ああ。貴女はちゃんと、見ていてくれた。私が気付いていなかっただけ。気付こうとしていなかっただけ。
そっと、二人の手を重ねる。
貴女はちゃんと、そこにいたのね。
「ビスマルクッ」
感情の限りに、貴女の名前を呼んだ。勢いそのままに、貴女を抱き締める。
ようやく目があった。私を見てくれた。その嬉しさが、貴女にも届くように。喜びが鼓動となって、貴女に伝わるように。
抱き締めた貴女の心臓も、私と同じくらい、ドキドキしていた。
それから、たくさんの話を、貴女としたわね。
艦娘として産まれてきた時のこと。自分たちの祖国のこと。祖国で待つ仲間たちのこと。
ううん、そんなことだけじゃない。好きな食べ物を教えてもらった。好きな花が同じだった。本を読むのが趣味だった。私と話すのが楽しいと言ってくれた。
それ以外にも、他愛のないことをたくさんたくさん、話したわ。
話してみて気づいたことは、貴女は私が思っていたほど、完璧超人ではなかったこと。冷徹な鉄仮面どころか、優しくて、暖かくて、表情豊かだったこと。
私が知らなかった、可愛いところがたくさんあったこと。
それを私が見つける度、恥ずかしそうに赤くなる貴女が、益々好きになった。
デートに行ったこともあったわね。二人で休暇を合わせて、街に繰り出して。お茶をしたり、ご飯を食べたり、時々お泊りも。
そんな、貴女との一日一日が、私はとてもとても好きだった。幸せだった。
けれども。そんな日々は、長くはなかった。
私と貴女は、祖国も、艦隊も違う。たまたま、国連の艦隊に、出向していた身にすぎない。
貴女の帰国が決まった。同時に、私も別の場所に出向することが決まった。
やっと、会えたのに。貴女と想いが通じたのに。離れ離れになるのは、とても悲しかった。
でも、私には何もできない。貴女を引き留めることも、貴女についていくことも、許されていなかった。
私にできたのは、貴女との思い出を、より一層積み重ねることだけだった。
貴女が出立する朝。いつもより念入りに身支度をし、貴女が選んでくれた口紅をつける。これが貴女との、最後の戦い。
上手く、笑えただろうか。
「元気でね、ビスマルク」
私の笑顔は、寂しげではなかっただろうか。
「ええ、ありがとう。あなたも、体には気をつけて」
涙はこぼれていなかっただろうか。
きっと、そんなものがなくたって、私の心は、貴女にはお見通しだったんでしょうね。
「ウォースパイト」
名前を呼ばれるなり、貴女の手が、私の腕を掴んで、引き寄せた。
化粧っけの少ない貴女の唇と、貴女の色に染まった私の唇が、重なる。
長い長いキス。その間ずっと、貴女の想いが伝わってきて。
寸でのところで堪えていた涙が、はらりと頬を伝った。
永遠とも思える時間が過ぎ、貴女が唇を離す。名残惜しげに引いた糸が、重力で切れた。
それでもなお、貴女は私を強く強く抱き締める。
「必ず、迎えに行く。またあなたに会いに行く」
耳元で囁く言葉に、私は年端もいかぬ少女のように、小さい返事と頷きを返すことしかできなかった。
「約束するわ。もう一度あなたに会って、抱き締める。キスをする」
「・・・うん・・・うんっ」
「私はあなたのことが大好きよ。愛している。だから絶対に迎えに行く。それまで、待っていて頂戴」
それだけ言って、離れていく貴女。その服を、渾身の力で掴んで。
もう一度、唇を重ねる。
今度は、私の番だから。私の想いを、貴女に伝える番だから。
「ずっと、待ってる。ビスマルクのこと、いつまでも、待ってるから。だから、迎えに来て。もう一度私を抱き締めて」
その日まで。今のキスと、数々の思い出を胸に、私も貴女を想い続けるから。
出港を告げる、汽笛が鳴り響く。貴女を乗せた貨客船が、ゆっくりと埠頭から離れていった。
私の愛しい人は、もう、手の届くところにはいない。
それでも、また会おうと、誓ったから。
夕焼けの水平線へと消えていく船影を、いつまでも見つめ続ける。その姿が、完全に見えなくなるまで。
三年後。私たちは極東の島国で、再会を果たした。
ウォースパイトさんとビスマルクさんはいつか絡ませてみたかった
はあ・・・ウォービス尊い。やばい
お付き合いありがとうございました