これは、2人の若き虎と9人の女神たちが夢を追いかけると同時に紡いだ伝説から数年後――――


静岡県の片田舎である内浦に新たなスクールアイドルが生まれ、その町に期せずして投錨された三本の矢と、自らの愉悦のために輝こうとする少女たちに目を付けた遊興の王が、少女たちと共に輝きを追い求めんとする物語が始まる、ほんの少しだけ前の物語――――――

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お転婆お嬢様とぶっきらぼうな(元)執事

「やれやれ、ここに来るのも久しぶりだな。と言っても2ヶ月ぶりなんだがね。」

 

ニューヨークのとある豪邸の門前に煙草を吸いながら、皮肉たっぷりな独り言を呟いている男が立っていた。

 

男の名は熊田広樹。彼はあまりにも豪邸への来訪者として相応しくないほどにラフな服装を身にまとい、顔には目つきの悪さを隠すためにサングラスを掛けていた。彼の顔と立ち振る舞いを見た彼の素性を知らない者たちは口をそろえてこう言うだろう。

 

「彼はギャングかヤクザなのか?」と。

 

 

彼は熟れた様子で門をひらりと乗り越え、まるで自分の家の庭に入るかのように豪邸の庭を我が物顔で歩いて行った。そして玄関に辿り着くと彼はチャイムを鳴らした。すると玄関からこの屋敷の執事と思わしき中年の男が出てきた。

 

「なんだね君は?一体どこから入って来た!?」

 

執事は英語で彼を責め立てるようにたずねる。

 

「あ?どこからってそこの門から堂々と入ってきたに決まってんだろ。」

 

広樹は執事の詰問に対して流暢な英語で切り返す。

 

「不法侵入しておきながらよくもぬけぬけと!誰かこのチンピラをつまみ出せ!!」

 

執事が英語でそう叫ぶと、中から何人かの使用人たちが出てきた。

 

「やれやれ、ここを出てから2ヶ月ちょいしか経ってねえってのに顔を忘れちまったのかよお前ら・・・。俺だよ俺、熊田広樹だ。」

 

広樹がそう言ってサングラスを上げながら使用人たちを睨むと、使用人たちは「あっ!」と言わんばかりの表情で驚いた。

 

「ん?なんだお前たち、一体どうしたというんだ!?」

 

使用人たちの様子に執事は戸惑っていた。

 

「みんなそんなところでどうしたの?」

 

そこに金髪で黄金色の目をした少女が中からやって来た。

 

「あ、お嬢様!実は今不法侵入者がやって来まして・・・。使用人たちに追い出させようとしたら皆彼の顔を見るなり困惑したような表情をしているのです。」

 

「不法侵入者ですって?玄関から入って来るなんて結構大胆な人なのね。どんな人なのかしら?」

 

少女はそう言って広樹の顔を見に行こうとするが、

 

「いけませんお嬢様!相手は使用人たちを一睨みで黙らせる極悪なチンピラですよ!!もしお嬢様の身に何かあったら・・・!」

 

執事は少女の前に立ち塞がって思いとどまるように説得した。

 

「おいおい、ここを抜けてから2ヶ月ちょいしか経ってねえってのに随分とまあひでぇ扱い方してくれてんじゃねえの。なぁ、鞠莉お嬢様(・・・・・)よぉ!」

 

広樹が少女に聞こえるように声を上げると、

 

「あら!広樹じゃな~い!!久しぶりね!シャイニ~!!」

 

と、執事を押しのけて広樹のもとへ駆け寄った。

 

「な、お嬢様?そのチンピラはお知り合いなのですか!?」

 

執事は予想外の事態に呆然とした表情で鞠莉に広樹との関係をたずねた。

 

「No、No!知り合いじゃなくて、彼はあなたがここに来る前に私の執事、というかお目付け役をしてくれてたのよ。」

 

「なるほど、つまりこのおっさんは俺が日本に飛んでった後に俺の後任になったってわけか。どおりで俺の事を知らねえわけだ。」

 

広樹はため息交じりに執事の方を横目に見ながら皮肉たっぷりに言った。

 

「も、も、申し訳ありません!まさか私の前任の方だとは夢にも思わず・・・!」

 

執事が顔を真っ青にして広樹にそう言うと、

 

「別に気にしちゃいねえよ。元々こういう顔つきだからチンピラ呼ばわりされてんのには慣れてんだ。それにあんたの俺に対する対応も間違っちゃいねえ。だからてめえが謝る必要はねえんだ。まあ、俺も悪いことしちまったしこれで許してくれや。」

 

広樹は自分が吸っている煙草の箱を詫びの品として執事の胸ポケットにねじ込んだ。

 

「それで?広樹は今日は何の用で来たのかしら?」

 

「なあに、ちょっくらお嬢に渡したいもんがあって来ただけさ。」

 

「まあそうなの?だったら応接間で待ってて。お茶とお菓子を用意させるから。」

 

「いや、それには及ばねえよ。用が済んだら俺はすぐ日本に戻る。それとあんたと2人っきりで話がしてえ。構わねえな?」

 

「・・・ええ、いいわ。じゃあ私の部屋に来てちょうだい?」

 

「おう。」

 

2人はそのまま階段を上がって鞠莉の部屋に向かって歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

「それにしても随分急にやって来たわね広樹。普段のあなたなら来る前に一言入れると思ってたんだけど。」

 

鞠莉は紅茶の入ったティーカップを片手に広樹に語り掛けた。

 

「ハッ!俺はもうお前の執事でもお目付け役でもねえんだろ?一言入れる必要はねえと思ったんだが。」

 

広樹はこれまた鞠莉に対して皮肉を言うと紅茶をグイッと飲み干した。

 

「ふふ、それもそうね。あなたを浦の星女学院に教師として送り込んでおきながら流石に冗談がきつすぎたかしら。」

 

「なあに、あんたの冗談がきついのは今に始まった事じゃねえから気にすんな。」

 

「それで、渡したいものがあるって言ってたけど何をくださるのかしら?」

 

「おお、忘れてた。こいつがその品だよ。」

 

広樹は鞠莉に用件についてたずねられるとリュックから小さな小包を取り出した。

 

「・・・これは?」

 

鞠莉は怪訝そうな表情で小包を手に取った。

 

「今日はあんたの誕生日だろ?そのプレゼントだよ。」

 

「まあ!・・・でも私の誕生日は明日よ?アメリカは日本より時間が遅いのは知ってるでしょ?」

 

「うげっ。俺としたことがやらかしちまったぜ・・・。」

 

広樹は鞠莉にツッコまれるとバツが悪そうに頭を掻きながらそう言った。

 

「ふふっ、広樹は詰めが甘いところがあるわよね。そういうところはcuteだと思うわよ?」

 

「うるせえ、可愛いって言われても全然嬉しくねえぞ。んなことよりさっさと包みを開けたらどうだ。」

 

「あら?いいのかしら開けちゃっても。」

 

「俺がいいって言ってんだ。さっさと開けな。」

 

鞠莉はそう広樹に促されると小包を開けた。そこには貝殻で作られたネックレスと手紙が入っていた。

 

「ワオ、可愛いネックレスね!それとこれは・・・手紙?誰からかしら?」

 

「読んでみな。」

 

鞠莉は封筒を開けてみると、そこには達筆な字で、『親愛なる小原鞠莉さんへ』と書かれていた。

 

「これって・・・!」

 

鞠莉はその文字を見た瞬間、驚いた顔で広樹を見た。

 

「ああ、お前の想像通りさ。そのプレゼントの送り主はお前の友達だった黒澤ダイヤと松浦果南だ。」

 

事の発端は、1週間前に遡る―――――

 

 

 

 

 

 

「一体こんな所に呼び出して何の御用なんですの?広樹さん。」

 

「そうだよヒロ兄、私これからお店の手伝いがあるんだけど・・・。」

 

屋上に呼び出された黒澤ダイヤと松浦果南は、訝しげな様子で広樹に自分達を呼び出した理由を尋ねた。

 

「だからてめーら学校ではあだ名じゃなくて先生って付けて呼べっつってんだろうが。それにそこまで余計な時間はとらせねえよ。」

 

広樹はタバコに火を付けながらダイヤと果南にそう言った。

 

「広樹先生、学校ではタバコを吸わないようにとあれほど言ってるじゃありませんか!」

 

「うるせえなぁ、屋上なんだから別にキレるこたぁねえだろ。」

 

ダイヤが広樹の喫煙をたしなめると広樹は面倒くさそうにそれを受け流す。

 

「それで用件ってなんなのさ。」

 

「おお。それなんだがな、お前らあと1週間後・・・6月13日にに何があるか覚えてるか?」

 

広樹が2人に向けてそう尋ねると、

 

『鞠莉(さん)の誕生日(ですわよね)だよね・・・。』

 

2人は苦い顔をして口を揃えて答えた。

 

「流石に覚えてたみてえだな。」

 

広樹は2人の言葉を聞くと、空に向かって煙を吐いた。

 

「当たり前じゃん。友達なんだもん・・・。」

 

「ああそうだ。お前らはまさに『3本の矢』って言葉がよく似合う小学生の頃からの友達だった。付き合いの長さなら俺を遥かに上回るほどのな。そこであいつの友達であるお前らを見込んで頼みがある。」

 

果南の言葉にしんみりとした表情で答えると、今度は少しばかり威圧感のある表情で2人に本題を切り出した。

 

「何、ちょっとした宿題みたいなもんさ。あいつの誕生日の遅くても2日前・・・、11日くらいまでにあいつへのプレゼントを用意して欲しいんだわ。」

 

「鞠莉さんへの・・・。」

 

「プレゼント?」

 

「ああ、そろそろお前たち3人があいつの留学の決定とともにスクールアイドルを解散して別れちまってそろそろ1年が経つ。あいつも顔には出してねぇだろうがお前たちの事を恋しく思っててもおかしくねぇ・・・。」

 

「それで私たちにプレゼントを?」

 

「そうだ。まあ嫌だって言うなら無理にとは言わねえ。時間は11日までたっぷりあるから、考える時間が欲しいってんなら9日までは待ってやる。・・・良い答えを期待してるぜ。」

 

広樹がそう言って去ろうとすると、

 

「待ってよヒロ兄。」

 

「待ってください広樹さん。」

 

果南とダイヤはほぼ同時に広樹を呼び止めた。

 

「誰もやらないなんて言ってませんわ。」

 

「そうだよ!直にお祝いできなくっても鞠莉の事をお祝いしたい気持ちは変わらないよ!」

 

そして2人は鞠莉を直接じゃなくても祝いたいという気持ちを広樹にさらけ出した。

 

「・・・あのお転婆なお嬢に聞かせてやりてえくらい良い台詞だな。じゃあプレゼントの事は頼むぜ。」

 

『うん(はい)!!』

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ってわけだ。」

 

「そう・・・。」

 

広樹からプレゼントについての話を聞いた鞠莉は寂しげな笑顔で呟いた。

 

「全くお嬢にはもったいねえって思っちまうくらい良い奴だよあいつら、その話を切り出した次の日にもうそれを俺ん所に持ってきたわけだからな。ダイヤの手紙はともかくとして、果南のそのネックレスはその日のうちに海に潜って採って来たんだろうよ。」

 

「ええ、果南ならきっとそうすると私も思うわ。」

 

鞠莉は果南が海で貝を探している様子を想像して微笑んだ。

 

「それで広樹のプレゼントは何かしら?」

 

「おい、そこでいきなりその話に話題変えんのかよ・・・。」

 

「だってこのパターンだったら次は広樹の番でしょ!?」

 

「はぁ・・・、ほらよ。」

 

鞠莉が広樹からのプレゼントを期待して目を輝かせてるのに呆れながら小さな箱を渡した。そこには青い石で作られたブレスレットだった。

 

「これは・・・サファイア?にしてはちょっと色が違うわね。」

 

「そいつはカイヤナイトって言うらしい、お嬢の誕生石だ。」

 

「まあ、広樹ってば私のためにわざわざ誕生石まで調べてこれを選んでくれたのね!?」

 

「う、うるせえ!チンケなもん送ったら色々ブー垂れるからめんどくせえだけだよ!まあ、それは冗談としてあんたは俺にとっちゃ2人目の(・・・・)主なんだからな。それぐらいはするさ。」

 

広樹は喜ぶ鞠莉に対してぶっきらぼうに答えた。

 

「もう、広樹ってばツンデレさんなんだから~!でも2人目って言う事は1人目の主って言うのは昔に(・・)仕えてた『毛利輝元』さんの事かしら?」

 

「おい、そのことはみだりに口外しねえって約束だろうが。」

 

広樹は目に殺気を込めて鞠莉を睨む。自分が戦国武将、吉川広家が生まれ変わった人物であることは鞠莉と今までに接触した同類たち以外には秘密にしておきたいのだ。

 

「ハイハイ、分かってるわよ。これは私と広樹・・・。いいえ、Mr.広家との秘密ですものね。」

 

鞠莉は思わせぶりな表情で広樹の耳元でそう囁いた。

 

「まったく、黙ってりゃ美人なんだがな・・・。」

 

広樹はそう言って踵を返し、部屋を出ようとすると、

 

「あら?もう帰っちゃうの?あなた非常勤教師なんだから少しくらいゆっくりしてってもいいのに。」

 

鞠莉がそう言って引き止めた。

 

「悪いな。次の便で帰らねえと明日の授業に間に合いそうにねえんだわ。」

 

「ふぅん、あれだけ教師をやりたがらなかったのに律儀ねえ。」

 

「一応あんたの命令だからな。主の命にはそれなりに従うってのが俺の流儀でね。」

 

「ふふ。じゃあ広樹、いつも通り浦女で起きたことは月一で報告してね。チャオ~☆」

 

「ああ、そっちも学業頑張れよ。」

 

広樹はそう言い残すと振り向かずに手を振りながら出て行った。

 

「さて、ダイヤの手紙には何が書いてあるのかしら。」

 

広樹が出て行くと、鞠莉はテーブルの上に置いておいたダイヤからの手紙に手を伸ばして読み始めた。

 

「え~となになに・・・?『親愛なる鞠莉さんへ。あなたが留学のためにニューヨークへ旅立ってからもうそろそろ1年が経とうとしていますがお元気ですか?長く暮らした日本とアメリカでは環境が大きく変わって大変でしょうがお体には気を付けて』・・・ってお母さんか!!ていうかダイヤってば達筆すぎて逆に読みにくいし!」

 

と、途中で読むのを放り出したりしたものの、結局はダイヤの便箋10枚分の手紙をちゃんと最後まで読み終えた。

 

「ふふっ。ダイヤも果南も元気そうでよかった・・・。結局あの時はスクールアイドルを諦めちゃったけど、私はここで終わる気は無いし、絶対日本に戻ってリベンジしてやるんだから!!そのためには色々とパーフェクトな計画を練らなきゃね!」

 

読み終わったダイヤの手紙をテーブルに置き直した鞠莉は、決意を新たに机に向かった。

 

 

 

 

 

「ふぅ、やっと終わったぜ。」

 

鞠莉のニューヨークでの家を出てから真っ直ぐに空港に向かって飛行機に乗り込んだ広樹は大きなあくびをした。

 

(さて、あのお嬢さんは何のために俺をわざわざ浦の星女学院に教師として送り込んだんだか。今は皆目見当もつかないがあのいつも突拍子もない事を言い出すお転婆お嬢の事だ、何か誰も予想しないような計画でも立ててるんだろうな・・・。そういう所はテルに似てやがるからな・・・。)

 

広樹は鞠莉が何かをやろうとしている事を気づくと同時に、自分と同じようにこの時代に生まれ変わって教師を目指しているという、従兄にしてかつての主君であった毛利輝元改め吉田輝久に思いを馳せていた。

 

「まあ、あの天下分け目の戦いみてえに焦る必要はねえんだ。ゆっくり様子見としゃれ込むか。」

 

広樹はそう言うと、そのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

これは、2人の若き虎と9人の女神たちが夢を追いかけると同時に紡いだ伝説から数年後――――

 

 

静岡県の片田舎である内浦に新たなスクールアイドルが生まれ、その町に期せずして投錨された三本の矢と、自らの愉悦のために輝こうとする少女たちに目を付けた遊興の王が、少女たちと共に輝きを追い求めんとする物語が始まる、ほんの少しだけ前の物語――――――




いかがでしたでしょうか?

これはあらすじに書いた通り、筆者が現在書いている『若虎と女神たちの物語』の数年後にあたるもので、時系列はμ'sが解散してから数年経った後の出来事です。

なぜこれを書きたくなったのかというと、筆者が「サンシャインのアニメに沿った二次創作書きたいな~!!」と言う欲望が、『若虎と女神たちの物語』を書き終わってないにも関わらず湧きだしてきたので、それを解消するために鞠莉ちゃんの誕生日に便乗する形で書き上げました!

この作品の主人公である熊田広樹という人物に関しては筆者が書いている『若虎と女神たちの物語』の人物紹介を読んでくださると大まかな事が分かります。



『若虎と女神たちの物語』を書き終えた暁には必ずやこの物語を書きたいと思っておりますので、なにとぞ応援よろしくお願いいたします!あと感想もよろしくお願いします!!

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