とあるヴィラン少女の話   作:サシノット

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久しぶりの投稿です。
区切りの関係で入試は次回から、そして特訓パートは次回になりました(泣)


※今回は主人公がヒロインしてる回です。珍しい。


活動報告6 壁ボンされました

一口それを口に入れれば、甘さ控えめの生クリームとふわふわとした柔らかい感触が舌に伝わる。自然と口角が上がり、目尻が下がる情けない表情になるのは仕方がない。頬っぺたが落ちそうという表現がまさにこのことだろう。

 

「美味しそうに食べるね」

「はい。美味しすぎてつらいです」

「斬新な感想だね!?」

 

満面の笑みで感想を言うとつっこまれた。語彙力を失うほどの美味しさを表現したのだが、伝わりにくかったのだろうか。

 

かれこれケーキを食して8分ほど経過しているが、オールマイトの言うお話はまだしていない。律儀にケーキを食べ終わるのを待っているのである。なんとなくこのままだといたたまれなくなり、促して見た。

 

「お話なら食べながらでもできますよ。どうぞ、なんでも聞いてください」

「…じゃあ、聞くけど」

 

そうとぼけたものの、彼の個性を模倣したクソ泥が目の前にいるのだから、彼が何を言い出すのか大方予想はつく。苺を食べ終わると、重々しい雰囲気で口を開いた。

 

「君、私の個性を模倣したそうじゃないか。まるで個性を盗まれた気分だったよ。それで…どんな個性を使うのか気になったんだけど、教えてくれるかな?」

 

やはりか。あんなに派手なことをやらかしてシラを切るわけにはいかない。

私は苦笑いをしながら答えた。

 

「私の個性は『シーフ』大抵のものなら盗める個性です」

 

予想通りの答えだったのかオールマイトは驚いた様子はなく、ただ指を自身の顎に添えて何か考え込んでいる様子だった。彼が心配してそうなことを私は言及した。

 

「心配しなくてもあなたの個性は二度と使いませんよ」

「…え?」

「あの個性は完成度が高ければ高いほど、ある程度は反動を抑えられますが…あなたの個性を極める前に体が崩壊します」

「崩壊って…その腕のようになってしまうのかい?」

 

オールマイトが負傷した腕を指す。首を縦に振って私は頷いた。

 

「私の放ったSMASHはあなたに比べて劣っていました。つまり、個性の力を100%出し切っていない…いいえ、個性に体がついていけず、100%の力すら出し切れなかった。だからヴィランを倒せなかった」

 

あの場面でヴィランを倒せなかったのは完全に私の落ち度である。他人の個性を一発で完璧にコントロールできるはずもないのに、オールマイトの個性を頼りすぎた。その結果がこの骨折と内出血である。

 

「おそらく、今の私が100%の個性の力を出し切ったら肉片となって散ってしまうでしょうね」

 

再び苦笑いをしてしまった。

 

今の私はあの個性が納まるほどの器がない。オールマイトのように何千人も救えた個性を、一発放っただけでグロッキーになった諸刃の剣へ成り下げてしまった。おそらく、こうして生きているのは無意識に体が個性の力を制御したおかげである。何度も使えば壊れてしまうだろう。

 

それに、この個性を使いこなすほど私に技量があるとは思えない。それほどまでの超パワーであり、特別な力だったのである。

 

しかし、肉片は言い過ぎた…みるみるうちにオールマイトの顔色が悪くなっていた。和ませるために彼の好きなジョークを交えたつもりだったが、本気で信じてしまっているらしい。

 

…せめて四肢がもげると言えばよかったか。いや、これはこれで具体的すぎて生々しいか。アメリカンジョーク難しい…こんなに真摯に受け止めてしまっている彼に冗談だと言いづらくなってしまった。

 

「…随分デリケートな個性だね」

「自分でもそう思います…この個性は母から引き継がれているらしいですよ」

「らしい?」

「母は私が幼い頃に事故で他界しているので、どんな人だったのか覚えていないんです」

 

父の話によると、母は地元で有名なヒーローだったらしい。私のようなヴィラン向けの個性を持っていたが、母は人を救う英雄に憧れてヒーローになったという。

 

そんな母がどうして父と結婚したのかは謎だが、男を見る目はあまりなさそうだ。我が母ながらクズ男(アレ)を選ぶのはおかしい。

 

オールマイトはその話で眉間にシワを寄せて、拳を握っていた。母がいないことを悲しんでいるのだろうか、出会ったこともない人の死を悲しむとは…本当にこの人は優しい人だ感じた。

 

その彼が険しい顔となって再び尋ねて来た。

 

「では、親族か知り合いに『個性を奪う』個性をもった人とかいるかい?」

 

その質問に目を丸くしてしまう。『個性を奪う』個性など存在していることを確信している発言や真剣に見つめてくるオールマイトは、出会った時のような紳士的な態度のかけらがほとんどなかった。

 

異様な雰囲気にぶるりと産毛が逆立ち、嫌な汗が背中を伝った。

その心の底から沸き起こる恐怖心に思わずゴクリと喉が鳴らしてしまう。震える手を握りしめて素直に答えた。

 

「…知りません。他の親族とは絶縁状態ですし『個性を奪う』個性があること自体初めて聞きました」

「そうかい…」

 

それだけ言うとオールマイトは肩を落として視線を床に落とした。一体、今の尋問はなんだったのだろうか。彼は何を思って尋ねてきたのか。このときの私には理解できなかった。

 

痛いほどの沈黙が流れ、贈り物のケーキを食べる余裕もなくなってしまった。数分しか経っていないだろうに、永遠と時間が止まっているように感じる。

 

「野暮なことを聞いてしまうが、いいかい?」

「…どうぞ」

「どうして、君は彼らを助けようとしたんだい?」

 

その意外な質問に再び目を丸くした。

てっきりオールマイトのことだからそういったことは聞かないと思っていたのだ。何度も言うが、あの時どうして自分でも動いてしまったのか分からない。答えられるはずもなかった。

 

だから、ほとんど反射的に彼に質問を切り返してしまった。

 

 

「誰かを救うのに、理由ってそんなに大事ですか?」

 

 

疑問をオールマイトにぶつけると、彼は一瞬時が止まったかのように静止し、やがてしぼんでいったように溢れでた気迫が抜けていった。

 

「ど、どうしたんですか?」

「今の言葉を聞いて、己が恥ずかしくなってしまった。すまない…」

 

オールマイトは頭を抱えながら俯いていく、本当に恥じているのかその巨体が少し小さく見えてしまう。

 

…ごく当たり前のことを聞いただけなのに、恥じる要素がどこにあったのだろうか。どうやら彼は私の問いかけを答えと認識して納得したらしい。どうしてそう感じたのだろう。

 

どんな超解釈をしたのかわからないが、オーバーなリアクションをする人だと改めて思った。

 

「…最後に一つだけ、()()ヒーロー志望かい?」

 

ボーッとしていると、オールマイトは顔を上げて尋ねてきた。先ほどの怖い雰囲気はどこにもなく、穏やかな表情だった。

 

私は質問の内容に少しだけ戸惑い、それを表に出さないように笑った。

 

「志望校は雄英です」

 

曖昧な言葉とは便利である。その言葉の真意を言わなくても、話した相手にとって都合のいい解釈をされる。時に誤った意味で解釈されても会話は成立する。

 

 

ヒーローになるとは言っていない。

何をしに、そこへ行くのか言っていない。

そして、嘘も言っていない。

 

 

けれど、これで勘違いしてくれるならいいと思った。彼は緑谷くんの憧れの人であって、ナンバーワンヒーローで、もう暫くと会うこともない。

 

次に出会うとしたらそれは敵同士になるときだ。その時まで彼が私のことを覚えているのか分からないが、そう言うことにした。

 

「そうか。楽しみにしているよ!」

 

オールマイトは私の答えに満足した様子で椅子から立ち上がった。ケーキの箱を置き去りにして彼はドアの方へ向いた。首だけこちらに振り返り、彼は笑顔になる。

 

「じゃあ、受験頑張ってね! 応援してるよ!」

 

エールを送ると彼は颯爽と部屋を去っていった。あっという間に姿は見えなくなり、遠くで看護師さんが怒鳴る声がした。きっと病室で騒いだので怒られるのだろう。

 

病室に1人残された私は彼のある言葉に引っかかり、首をかしげた。

 

「…楽しみにしてるってどういうこと?」

 

1年後、この言葉の意味を知り、茫然とするがそれはまた別の話である。

 

 

 

 

その後、私は『リカバリーガール』と呼ばれる『治療系』個性の中でも優れた個性を持つお婆さんが偶然、この病院に出張していたしく、私を『治癒』で怪我を治した。

 

『治癒』とは対象者の体力を削る代わりに治癒の活性化を促進させる個性である。治癒をする際に唇を怪我の部分に触れる必要があるらしく、ゴムのように伸びてきた唇が迫ったときは思わず身を引いてしまった。

 

Copyできるのか微妙な個性だ。ああいった回復系や、地味な発動系の個性はコピーしたことがない。もしかしたら何度も視ればできるかもしれないが、あまり期待しないでおこう。

 

その後夜中に父が迎えにきてくれて退院した。退院したものの腕は包帯で巻いて固定している。骨はくっついたものの万が一の処置だとリカバリーガールは言っていた。しばらくは通いながら様子を見て包帯をとるらしい。

 

…余談だが、なぜか迎えに来た父を見た看護師さんたちが「いいお父さんね…」と呟いていたので頭が痛くなった。アレのどこがいいのだろうか。

 

 

 

数日後、片腕は包帯で巻かれたまま学校に復帰した。そして登校する際に私に視線が集まった。あのヘドロ事件で顔を知ってしまった影響なのか街行く人は私の顔を見ては何か小声で騒いでいた気がする。

 

正直、視線が集まること自体はどうでもいい。一時の有名人になって注目しているだけである。優越感で嬉しくもなく、嫌な思いもあまりしなかった。周りがどう思おうといつも通りにするだけだ。

 

マイペースで生きるのが一番。これは我が家のモットーでもある。いささか父は自由奔放過ぎるがアレが特殊なだけだ。目をつむっておこう。

 

「お、おはよう狩野さん!」

 

そのとき、背後から聞き覚えのある男子の声がした。振り返るとそこには会いたかった彼がいた。

 

「おはよう。久しぶりね緑谷くん」

「う、腕は大丈夫?」

「うん。治癒個性のおかげでだいぶ治ってきたから」

 

そう言って緑谷くんは私の隣に来て一緒に歩き出した。しかし、普通、友人としていつも一緒にいた相手に道行く人が注目しているのが気になるのか緑谷くんはキョロキョロして落ち着かない様子だった。

 

そして、彼に会って言いたいこと1つあった。歩幅を合わせて歩く彼に話しかけた。

 

「緑谷くん」

「なに?」

「あの時、助けてくれてありがとう」

 

入院中、あの事件のことを考えた。

ヴィランの殺意、ヒーローたちの判断、市民の目、そして友達の勇気。

 

すべての要素から推測できるのは、それらによってあんな馬鹿なことをやってしまったと結論づいた。

 

 

彼の勇気がなかったら、

私はあの人を見殺しにしていたのかもしれない。

 

彼が飛びださなかったら、

私は闘うこともできなかったかもしれない。

 

彼がいなかったら、

私はこの世界を嫌いになっていたのかもしれない。

 

 

そんな思いが頭の中で交錯した。改めてお礼を言うのは気恥ずかしいが、こうでもしなければ気が済まないのだ。

すると、緑谷くんは一瞬、ポカンとした表情を浮かべていた。

 

「あのときは体が勝手に動いたと言うか…とにかく必死だったからお礼を言うのはこっちだよ」

「そんな謙遜しなくてもいいのに」

「だって…僕は何もできなかったんだから…」

「…ん?」

 

お礼の返事がまさかの否定で耳を疑った。あっけらかんとしていると、彼はブツブツと話し始めた。

 

「そもそもあのヴィランは僕のせいでオールマイトがせっかく捕まえていたのに逃がしちゃったし、君に話しかけられる前に色々あって頭回らないこともあったけどヴィランが現場にいた時動けなくて怯えていたし、飛び出した僕がせいぜいやったことはヴィランに荷物を投げただけで、その後君がヴィランと僕の間に入ってくれなかったら入院送り、下手すれば死んじゃったかもしれないしあのとき、君は必死で僕らを逃がそうとしていたのに突っ込んじゃったしヒーローたちにも、君にとってみたら迷惑行為そのものだし、それにオールマイトがいてくれなかったら…」

 

「はいストップ!」

「痛い!」

 

聞くに堪えられず思わず負傷していない腕でチョップをかました。もちろん、手加減している。

 

緑谷くんは自分でやったことをそこまで立派なことを為したとは思っていないようだ。彼の人間性を考えればそういう思考になるのは分かる。だが、今その反応はない。

 

「なに? 緑谷くんはネガティブの化身でも宿しているの? それとも先に否定しないと死んじゃう病気でも持ってるの?」

「そんなキテレツな化身はいないし、ファンシーな病気はないよ!」

「よかったわ。そんな病気持ちだったら救急車呼んで病院に行かせるつもりだったわ」

「そこまで!?」

 

割と本気で思ったことを話すと驚かれた。しかし私からすれば、お礼言ったのに反省点ばっかり言われるとショックなのだ。そこは無難に『どう致しまして』と返せばいいのにどうして否定的に捉えるのだろうか。

 

呆れた私は彼に感謝した意味を伝えることにした。

 

「言っとくけど、あの事件は緑谷くんが解決したのよ」

「…え?」

「世間だと私が勇敢に立ち向かってピンチになったところをオールマイトが助けたおかげで事件は終息したってなってるけど、私とオールマイトが飛び出す前に緑谷くんが助けに行ってたわ」

 

きっとあの場にいなかった人は緑谷くんのことを自殺願望者だというだろう。けれど、実際にあの場で先陣を切って助けに行ったのは彼だけだった。人を動かせる人ほど凄い人物はいない、一種のカリスマ性と言えばいいのだろうか。緑谷くんには、そんな不思議な才能があった。

 

振り向くと彼と視線がぶつかる。私は照れながら笑った。

 

「あなたの勇気ある行動は、私とオールマイトを動かしたの。だからさ、もう少し自分のことを誇りに思っていいのよ…あなたは私のヒーローなんだから」

 

彼はその言葉を聞いて立ち止まった。足を止めて振り向くと、彼は口をきつく結んで目を大きく開いていた。

 

その様子から今頃頭の中で様々なことをぐるぐると考えているのだと簡単に予測できた。私の言葉をどう感じ取ったのか分からないが、余計な事まで考えそうでヒヤヒヤした。彼の頭が落ち着くまでじっと待っていると、それは突然だった。

 

緑谷くんの目からポタポタと音もなく涙が地面へ落ちていったのである。

その涙は、自然とこぼれたかのように静かに流れていく。場違いにも私は綺麗だと思ってしまった。

 

「なに泣いてるの?」

「あれ…? いつの間に…なんでかな…」

「ちょっと待って、確か鞄のポッケに…」

 

目をこすって涙を拭く彼を見ていられず、地面に鞄を置いて片手で器用にハンカチを取り出す。それを差し出せば、彼はお礼をしながら使ってくれた。

 

「あの事件の後も同じようなこと言われて、泣いたばかりなのに…なんでだろう…」

「…情けないわね。そんなんじゃ、オールマイトのように笑ってみんなを救えるヒーローになれないわよ」

「え…?」

 

キョトンとした顔で緑谷くんはこちらを見る。私は小首をかしげた。

 

「なりたいんでしょう? 最高のヒーローに」

 

緑谷くんは、ずっと憧れのヒーローになりたいと言っていた。最高のヒーローになりたいなら、オールマイト以上のヒーローになるつもりなのだろう。なら、数人救えただけで涙ぐむようじゃダメだと思ったのである。

 

彼は乱暴に涙を拭き取ると目を腫らしながら宣言をした。

 

「僕、やっぱり雄英に行きたい」

「……そう」

「無個性で、どうしようもなくて、何度も逃げようと…何度も諦めようとも考えたけど……でも、ある人に言ってもらえたんだ」

 

 

「『()()()()()()()()()()』って」

 

 

風がなびき、桜の花弁が散り、髪が揺れる。

そういった緑谷くんの目は、輝いていた。それは大きな決意をした覚悟を決めたような輝きを持っていた。その光は私には眩しすぎた。

 

きっと、彼は憧れのあの人に『ヒーローになれる』と言われたのだ。あの事件の真実を知っているヒーローに、目を付けてくれたのであろう。彼も彼なりに努力をし始めている。言葉通りなら、彼は雄英に入学できるだろう。

 

一見すると遠く、険しい道だ。無個性な彼を見れば、普通はそれでも合格できないと断言してしまうだろう。

 

しかし、覚悟を決めてやると決めた彼がどれだけすごいのか知っている私は”彼は必ず雄英に来る”と思ってしまった。

 

だからこそ、アレを言わなければならないだろう。

ポケットに入れていた紙を取り出す。

 

「じゃあ、私もあなたに言わなきゃいけないことがあるわ」

「え?」

「雄英に行くことにしたの」

 

それは『第一志望校 雄英高校ヒーロー科』と歪んだ文字で書かれた紙だった。それを眼前に突きつけると緑谷くんは目を大きく開き、歓喜のあまり紙とともに私の手を強く握った。

 

「頑張ろうね狩野さん! 絶対、一緒に合格しよう!」

「…合格する自信あるの?」

「正直…まだ自信が完全にあるってわけじゃないけど…君が一緒に頑張ってくれるって思うと、もっと頑張れるから!」

 

その純粋な思いの言葉と、特訓でできたであろう肉刺だらけになった手で強く握られて、心が温かくなる。

 

同時に身を引き裂かれそうになるほど、ズキズキと胸が痛くなった。

 

自分への苛立ち、嫌悪感。彼への罪悪感、哀れみなど負の感情が複雑に入り混じる。大きく深呼吸をしてそれらを無理やり抑え込んで、私は笑みを浮かべた。

 

 

私は今、うまく笑えているのだろうか。

友達として彼を応援できているのだろうか。

彼に、私がヴィランだと伝わっていないのだろうか。

 

 

不安な気持ちを押し殺して、目を逸らした。

 

「…そろそろ手、離してくれるかな?」

「え…? あああ!! ご、ごめん!」

「そんなに謝らなくていいのに。変なの」

 

誤魔化すように言うと彼は頬を赤らめながら離してくれた。

 

その後、くしゃくしゃになった紙を見て彼は焦り、私はもう一度先生に頼んで紙をもらうことを決意した。

 

 

 

 

「狩野だ…狩野が登校してきたぞー!!」

 

まるで珍獣が街にやって来たと言わんばかりにクラスメイトの男子に叫ばれた。それを合図に私の周りに人が集まっていき、教室に入るやいなや、あっという間に私は取り囲まれた。

 

「マジで!? もう退院したの?」

「テレビで見たけど腕がつぶれてたじゃん!? なんでこんな早く復帰出来てんの!?」

「すごかったわね、ヘドロ事件の活躍! 見直しちゃった!」

「狩野があんなに勇気あるとは知らなかったぜ。カッコよかったな!」

「そうそう! テレビでも『将来有望なヒーローの卵』って言われてたよな!」

「やっぱり高校はヒーロー科に行くんでしょ!? どこに行くの? 雄英? それとも士傑?」

 

見渡す限りの人だかりと一気に質問が来て頭がくらくらする。いつの間にか隣にいた緑谷くんとはぐれてしまった。きっと人集りの中に埋まってしまったのだろう。

 

生憎、私は聖徳太子のように同時に言われたことを一つひとつ認識できる超人ではない。せめて一つずつ質問してほしいのだが、興奮しきっている彼らの耳には届かなそうだ。

 

「え、えっと…」

 

困り果てていると、教室の奥から激しく『爆破』する音が聞こえた。

どよめくクラスメイトの先に見えたのは、いつも通り机に足をかけて座っている爆豪くんだった。

 

彼の手のひらから煙が出ており、個性を使ったのが分かった。鋭くこちらを睨みつけた。クラスメイトはその眼光に恐れたのか私の周りから遠ざかった。

 

「か、勝己…」

「うぜぇ、モブども…どけ」

 

クラスメイトは私と爆豪くんの間の一本道を作り出すように避けていく。彼はそれを合図に机にかえていた足を下して、こちらに歩み寄ってくる。その風貌は果たし状を持ってきた不良と大差ない。

 

思ったより元気でなによりだが、近づくたびに眉間の皺が普段の3割増しで深くなっているのが良くわかる。あれは相当不機嫌な証拠だ。何されるのかまったく予測できない。今日一番の命の危機を感じた。

 

一種の恐怖にビビっていると爆豪くんは私の包帯が巻かれている腕を一瞥し、大きく舌打ちした。

 

「おはようございます。今朝から人を中国から招待されたパンダと勘違いしているのか人が集まってきたのでビックリしました。あなたが威嚇していただいたおかげで助かり…!?」

 

いつも通りに挨拶をした次の瞬間、彼は私の負傷していない方の腕を掴んで引き寄せて来た。耳元に顔を近づけられる。その距離は吐息が聞こえてくるほどであった。予想外の行動に私も含めて周囲は硬直し、静寂が訪れる。

 

こんなに至近距離まで来られたのは初めてで言葉が出ない。心臓がバクバクと鳴ってうるさい。何を言われるのか身構えていると、彼の口が開いた。

 

「放課後、校舎裏な。バックレたら殺す」

 

ドスの効いた声で呼び出しされた。それだけ言うと彼は自分の席に着いた。

 

なるほど。これが死亡フラグか。

そう冷静に分析したのと同時にHRを知らせるチャイムが鳴り、爆破されると思ってドキドキして損をしたと思った。

 

 

 

その放課後はあっという間に来た。

同じクラスであるため、HRが終わると爆豪くんに顎で呼ばれた。緑谷くんは申し訳無さそうに視線を送っていた。私は手を振って別れの挨拶をすると青い顔で手を振り返してくれた。

 

我が校は上空から見ればH型の形をしており、校舎の裏にまわればカツアゲ現場に成りうる場所につく。

 

そこへたどり着くと爆豪くんは私を逃げられないように奥へ誘導すると睨みつけられる。話を切り出すのに時間が掛かっていた。どうやら爆豪くんはあまりしたくない話をしようとしているらしい。

 

「あの。私になんの用があるのでしょうか?」

「…わかってんだろ」

 

このタイミングの呼び出し的にヘドロ事件のことしかないが、あまりにもすごい不機嫌オーラに言いたくない。少しでも雰囲気を変えたかった私は場違いなことを言うことにした。

 

「今日夢で…爆豪くんが可愛いクマさんパンツを履いるという強烈なものを見たことがバレたからですか?」

 

 

ボン!!

 

 

瞬間、顔の真横で爆破が起こった。

横を見れば壁についた彼の手から煙が出ていた。

 

正面を向けば、こめかみに血管を浮かばせて近年稀に見る凶悪顔を間近で見る羽目になってしまった。

 

あ、話題ミスったわと他人事のように思う。

どうやら私は火に油を注いで怒りのキャンプファイヤーを起こしてしまったらしい。公共の場での個性使用禁止を気にするほど今の彼に余裕はないようだ。

 

「今朝からずっと不機嫌だったので和ませようとしたジョークですよ。怒らないでください」

「ジョークがキメェわ」

「それにしても新しい壁ドンですね。というか、壁ボン? 背後にある壁からほのかに香るニトロとコンクリートが焦げた匂いがするので夏の風物詩になりそうですね。今は春ですけど」

「ホンット、てめぇは人の神経を逆なでする天才だな…」

 

怒りのボルテージがフルスロットしたのか爆破の威力が増した。真横の爆破に鼓膜が激しく振動して痛くなる。それを顔に出さないようにして私は切り出した。

 

「それで…私に何を言いたいんですか?」

 

爆豪くんの息がつまる音がした気がした。血走った目で彼は私を見つめた。

 

「あの時、別に俺は一人でもなんとかなったんだ。俺は、てめぇとデクに助けられたわけじゃねぇ。見下すんじゃねぇぞ…勘違いすんな」

「…爆豪くん」

「なんだよ?」

 

彼の言い分はある程度予想通りだったが、一箇所だけわからないところがあった。疑問に思ったところを私は正直に言った。

 

「…どうして、助けられたら見下したことになるんですか?」

 

その問いに彼は奥歯を噛み締めて肩を震わせたが、やがて何かが堰を切ったかのように涙を浮かべながら小さく叫んだ。

 

「助けられるっつーのは、弱ぇから助けられるってことだろうが…!!」

 

その答えに、私は全身に雷が走るような衝撃が走った。同時に納得してしまった。

 

強者は弱者を助ける。

そのヒーローらしい道理が彼の心のどこかであり、同時に彼を縛っているのだ。

 

口ぶりからして、彼はヘドロ事件以外で誰かに助けられた経験があり、その出来事が今の彼をつくってしまったのではないかと推測できた。

 

彼は天才なゆえに、挫折をあまり味わったことがない。それゆえに今回の事件は相当堪えたのである。普段の彼なら決して弱音を吐くはずない。だが、今の彼はプライドが傷ついているせいでポロリと弱いところをみせてしまったのだ。

 

……なんだか、見ていられなくなった。

 

「なら、いつか私がピンチになったら助けてください」

 

気づいたら、私はそんなことを口走っていた。予想外の言葉に爆豪くんは固まっていた。

 

「…あ?」

「助けられたら弱いんでしょう? その定義通りであれば、私を助けたあなたは私より強い証明になりますよ」

 

そう諭すと爆豪くんは奥歯を噛みしめしながら、睨んできた。きっと心の中で「ふざけてるなこいつ」と思っているだろう。残念ながら、ふざけているつもりは一切ない。

 

ここで同情すれば、彼はそれこそ嫌悪もすれば激怒する。

中途半端に突き放せば、傷つけられた自尊心を立ち直るには時間が掛かるだろう。

 

だったらいっそ、彼の思想に合わせた約束すれば元気づけられると思ったのである。我ながら不器用な励まし方だ。けど、何もしないで放って置けなかったのである。なかなか反応がない彼にとどめを刺した。

 

「まあ、そんな日が来るとは思いませんけどね」

 

鼻を鳴らしてわざと挑発をすると、耳元で再び爆破が起こった。どうやら今のが決定打となったらしい。彼はギラギラとした目つきで()()()()()にキレていた。

 

「いいぜ…その時が来たら、てめぇを助けてやるよ」

「へぇ。約束してくれるんですか?」

「ああ。無傷で完膚なきまでヴィランを倒して、ズタボロのてめぇを嘲笑ってやんよ」

「…それは楽しみですね」

 

助ける場面が、ヴィランに襲われている前提で助けると言うあたり彼らしい。壁から手を離し、爆豪くんが校門の方へ歩き出す。数歩移動したところで爆豪くんはこちらに振り返った。

 

 

「余裕ぶってんのも今のうちだ。てめぇもデクも、石コロ同然の存在ってことを思い知らせてやる!!」

 

 

ヒーローらしい約束をしたにも関わらず、帰り際に見せた顔は完全にヴィランであった。しかし、一応目標ができたことですっかりいつもの調子に戻っていた。さすがタフネス、立ち直りも早い。

 

「塩、送りすぎたかな?」

 

そっとその背中を見送って、私は今更ながらそう思った。




送りすぎだわ。
おかげで緑谷くんと爆豪くんに心の強化フラグ立ちました(やったね!)


次回、入試開始まで飛ばします。

アンケートにご協力してくいただいた皆様、ありがとうございます。
主人公と絡む相手はケロっとしている子です。
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