力と耐久ないけどダンジョンにいるのは間違っているだろうか? 作:血濡れの人形
~ダンジョン 18F~
無数の水球が浮かぶ中、真っ先に動き出したのは兎の様な少年だった。
彼は小さな黒いナイフを構え、ドラゴンに向かって走り出す。
それがきっかけだったのだろうか。動きを止めていた全員が、すさまじい勢いで動き出す。
とはいえ、真っ先に動いた少年が接敵する方が速く、少年はドラゴンの足を斬りに行く。
軽く、薄く切るように動かされたナイフは、少年の予想とは裏腹に、鱗を切り裂き、
その肉を軽く露出させた。
『なっ!・・・そうか、貴様がこの世界における英雄・・・主人公か』
直後支援として飛んできた魔法たちは、その鱗に弾かれて無力化された。
これは単純に、ドラゴンの装甲が魔法防御に特化している・・・というだけではなく、
ドラゴンの持つ特性ゆえだ。
その特性の効果は、『特定対象以外から受ける攻撃を無力化する』というもの。
さらに、その特定対象というのは、本来の話における主人公、
そして、そんな主人公の影響を強く受けている人物であるということに限る。
この世界で言うなれば、リリルカ・アーデ、
もしくはヴェルフ・クロッゾがギリギリ入るだろう。
しかしその二人は現在地上で少年の帰りを待っている。
ゆえに、このドラゴンに致命傷を与えられるのは少年のみとなるのだ。
しかし、この能力にもデメリットが存在する。
そう、特定対象からの攻撃に対してのみ、装甲がほぼ機能しなくなるのだ。
それも、主人公に近い存在であればあるほどに。
『だが、まだまだ未熟だな!』
まるで咆哮の様な声とともに、ドラゴンはその巨体からは考えられないような速度で移動し、
地面に向けて尻尾を振り下ろす。
轟音、それと同時に発生した地割れによって、少年たちはバランスを崩す。
そこに追撃をかけるように、割れたところから水が刃のように吹き出る。
「っ!ファイアボルト!」
少年の口から咄嗟に出た魔法、それによって発生した炎によって少しだけ水の威力が弱くなり、
少年の肌を薄く切る程度にまで弱める。とはいえ、そんなことができるのは少年一人、
それ以外の者たちは、腕や足、脇腹などが深く切られ、倒れている。
すぐに治療をしなければ、おそらくそのまま死に絶えるだろう。
しかし、少年にそれを行うだけの暇などない。少しでも目を離そうものなら、
現在も地面から吹き出ている水を操って攻撃を仕掛けてくるかもしれないからだ。
それだけではない。この水竜王を名乗る存在以外にも、
どこからか召喚された異形たちが残っているのだ。
召喚された存在達は、現在ベート達が動きを止めているものの、
処理が間に合わないのだろう。包囲網を通り抜けた異形たちの半数以上が、
魔法使いたちのもとに向かって走ってゆく。
そして残りの魔物が、前衛たちに向かって牙をむく。当然、少年も例外ではない。
「って、なんでミラちゃんの方にまで向かってくるのぉ~!」
しかし、そんな雰囲気とはまるで関係ないといわんがばかりに、
かわいらしい女の子の声が聞こえる。全員がそちらを勢いよく見ると、
そこにはなぜか魔物に追いかけられている少女の姿があった。
「なっ!何でこんなところに子供が!?」
少女の姿を見た冒険者の一人がそう声を上げる。それもそうだろう。
なにせ、魔物から逃げているのだ。戦闘手段を持っていないと思われたのだろう。
「そんなこと言われても、マスターさんにお願いされてここにいただけだからぁ!
ミラちゃん戦闘する予定ないって言ってたじゃんかぁ!
・・・あれ?そういえば、もしかして魔力補給してくれたのって、
私が戦う予定だったからじゃ!? ふぇぇ~、マスターさんのバカァ!」
涙目になりながら、彼女が腕を横に振ると、
直後、まるで巨大な怪物を相手にしているような威圧感ともに、
彼女を追いかけていた魔物が灰となって消える。
「でも、そうだよね。マスターさんがこの戦いが終わったら頭撫でてくれるって言ってたし、
うん、なら、私が今出せる全力で!邪魔する人たちを全員やっつけちゃうよ!
・・・でも待って?別に私お留守番でもよかったんじゃ・・・!?
モアちゃんとかルナちゃんとかもいるんだし!」
フンス!とでもいいそうな少女が、やはりまだ少し涙目を浮かべながらそういう。
「あ、私も一緒にいいですかね?この戦いが終わったら、
マスターさんがマッチ買ってくれるっていうんです!これはもう頑張るしかありませんね!」
少女の背後から現れた白髪の少女が現れる。
「はぁ、マスターさん、そんな約束をホイホイするとか、
どういう神経してるんですかねぇ?というか、あんなにいっぱいお嫁さん作って、
体が持つんですかね?まあいいです。さ、マスターが救うところを見るためにも、
全力でこの冒険者?たちを倒しましょうか」
最後に、空中からそう言いながら二人の前にウサギの耳をつけた少女が着地し、
冒険者の方を向く。
周辺の魔物は、彼女たちの出現とともに姿を消した。あの蒼い竜すらも。
ただ、悪夢は終わらない。さらなる脅威が、魔物たちの代わりに現れたのだった。