さて、元気に楽しく、外に遊びに行こう。一体誰がそんなことを言い出したのだっけ。
「ああ、俺か」
ぼそっと呟いて、ペットボトルの水を飲み干す。公園の木陰に座り込んだまま、そのペットボトルを少し離れたゴミ箱に放り込む。一発成功、流石はバスケ部主将の俺だ。
「何が? この中で一番バカなのは誰かって話? それならカイトで間違いないと思うけど」
ぼそっと、同じようにしかし悪意百パーセントで呟いたのは、幼馴染の少女、アヤカだ。完全に苛ついていて、正直怖い。
「そうだよ、コンチクショウ、一体ここはどこなんだよ!」
「隣の県」
「おう知ってる。充電の切れたスマートフォンからの遺言だったもんな。なぁ、どうすんだよ、コレ!?」
「知らないわよ! 夏だし、冒険に行こうぜ! とか言い出したの誰よ!? 帰ろうとして真逆の方向に突っ走っていたのは誰!?」
ギャーギャーと言い合いをして、徐々に勢いがフェードアウト。そのまま黙り込んで、そのまま再び座り込む。その程度の口喧嘩はいつものことだが、ぼそっと「この方向音痴のクソ童貞……」と言われたのは何気にメンタルを抉られた。
「暑い……、死ぬぅ……、死ねぇ……」
セミの声がうるさい、日光が嫌味のようにこちらに笑顔を向けてくるのもまた鬱陶しい。ついでにアヤカの嫌味交じりの嘆きも鬱陶しい。おかしいな、外に出る時はあんなにも楽しそうにみえた外だが、こうなるとどうにも邪魔で仕方がない。クーラーが恋しい。
「……とりあえず、動こうぜ」
止まっていても仕方がない。どうせ動かなければ帰れない。だというのにアヤカは木に抱きつくようにして引っ付き、その冷たさを甘受していた。
「やだぁ……、死ねぇ……、もう無理ぃ……、文化部なめんなよぉ……、死ねぇ……、一歩も動きたくなぃ……」
「死ね死ね言い過ぎだろ……、悪かったっての、背負ってやろうか?」
「密着したくない……、間に何か冷たいもの挟んでくれるか、冷たいものでも奢ってくれなきゃヤダ」
「そのでかい胸で十分だろ」
「あ?」
「すいませんっした、今すぐ濡れたタオルとアイスを用意して参ります!」
全力ダッシュで最寄りのコンビニに向かう。あの目は本気だった。
タオルとアイスを二人分買って、元の公園に戻る。残り残金は千円と少し、これであと二週間弱を生きていかなければならないらしい。
陽の光を避けるように屋根の陰なり木陰なりを駆使して公園にたどり着く。アヤカがいたはずの場所に行くが、アヤカはいない。
「アヤカ!? は、アイツどこに!?」
焦って周囲を見回すとベンチに一枚の紙が。
『友達の家族と出会ったので、車に乗って帰ります。自分独りで帰ってね、方向音痴』
読んで一秒硬直、意味を理解して硬直。
「…………」
絶望して硬直。
残されたのは、ここまで来る時に使った、壊れてしまった自転車二台。……これを持って帰れと?
さて、三度の硬直を繰り返して、改めて、思う。元気に楽しく、外に遊びに行こうなんて言い出したバカはどこのどいつだったか。
「……ああ、俺か」
翌日、何とかして帰宅した俺だったが、もう二度と冒険――知らないところに無計画に行くこと――はやめようと思った。
方向音痴には、少し冒険過ぎる挑戦だったようだ。
地図を持った時に、自分の進行方向に合わせて(自分の進んでいる方向を上に)回していくと、道に迷いにくいらしいです。それでも無理なら、もう諦めて誰かについていきましょう。人間には限界というものがありますので。