人混みに飲まれながら○○駅を降りて、はぁ、と溜息を吐く。どうにも自分の帰る頃というのは帰路に就くサラリーマンで溢れている。
一旦、家とは反対の方向に行って駐輪場に止めてある自転車を取りに行く。百円を払って自転車を取り出す。
久しぶりだね。
さて、自転車に乗って、というところでそんな風に声を掛けられた。
中学、高校と同じ学校にいた、一つ上の先輩だった。既に周囲は暗かったがすぐに分かった。驚きながら「久しぶりですね」と返す。
先輩に会ったから少し遅くなる、と家族にメッセージを送り、自転車をお互いに押して歩く。もしかしたら帰れないかもしれないと、そんな文もついでに送っておく。
先輩と自分の家はすぐ近くで、誕生日もかなり近い。こちらが四月で先輩が三月、早生まれで実のところは先輩とはほぼほぼ同い年だった。先輩は色々と博識で、様々な雑学を披露してくれる。役に立つ薀蓄ではなく、役に立たない雑学であるところなのが先輩らしい。
帰り道には、高速道路の下を横切れる自転車専用道路、その下には歩行者用通路があるのだが、自転車専用通路の方が歩行者が多い。
何故、歩行者は下に行かないと思う? 自転車しか通らない場所よりも、人間しか通らない下の方がはるかに安全なのに。
「さぁ、面倒臭いからじゃないですか」
歩行者用通路で、そんな風に答えると先輩は微笑んだ。
その通り。面倒臭いから、さ。面倒臭いから、という理由はあらゆる理屈を超越する。これまでにだってあっただろう、そういう事例が、フィクションでもノンフィクションでも。面倒臭いから、これでいいや、って妥協していて大惨事になったことがこれまでにも。
「そう、ですね」
と答える。そうとしか答えられなかった。目の前の信号が赤になる。信号待ち。赤信号。面倒臭いからと言って、渡っていたこともかつての自分にはあった。様々な種類の車が、とりあえずぶつかればひとたまりもないだろう速度で横切っていく。
「それで先輩は、一体、僕に何の用なんですか?」
特にないよ。こうして、嫌がらせをしているだけさ。君はとても反省しているしね、恨みがないと言えば嘘になるけど、まぁ、本当にそれだけさ。
「嘘吐きですね、じゃあ、どうして、今、僕を突き飛ばそうとしているんですか、先輩」
あらら、バレてしまったか、と先輩は笑った。笑って、消えていった。
直後、まるで受信が何か妨げられていたかのように、家族からメッセージが飛んでくる。
『先輩は、一昨年、死んだでしょう? 貴方は今、誰と会っているの?』
ほら、よくあることだったでしょう?