Fate/stay night Ideal alternative(アイディール・オルタナティヴ)   作:紗代

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九日目・昼 約束と本心

ひょっとしたらまた刹那に会えるんじゃないかと期待して公園に顔を出すとやはりそこには刹那の姿があった。

 

「刹那」

「あ、兄さん」

 

声をかけると刹那から返事が返ってくるがなんとなくいつもより顔色が良くない。それにどこか辛そうだった。

 

「大丈夫か?顔色悪いぞ」

「ああ、うん。大丈夫、ちょっと城の準備に手こずって寝てないだけだから」

「城の準備?」

「えっと、簡単にいうと城の要塞化、かな」

「城の要塞化って・・・」

「あ、城そのものには色々仕掛ける予定だけど周辺には何もしてないよ。それに今のところは感知式の結界張ったくらいしか出来てないし」

 

それじゃああの城の周辺にはむやみに近寄れないってことか。いくらイリヤが心配だからと言ってもやり過ぎの域を超えている気がする。

 

「いくらなんでもやり過ぎじゃないか?」

「戦争が何日かかるか分からないのに自陣を固めずにどうするの。私たち魔術師は本丸取られたらほぼ終わりなんだから」

「・・・それもそうか」

「まあ、前の第四次は結構短期間で終わったらしいけどね。たしか期間は二週間くらいだったかな?やっぱりルールブックがちゃんと出来てたのと先代の魔術師殺しがいたのが大きいんだろうけど」

「え?その前にルールは出来てなかったのか?」

「ルールっていうか・・・シンプルに殺し合え、ってしかないような状態で聖杯が降臨したはいいけど皆全滅して優勝者なしとか、第三次なんかは起動してない聖杯が破壊されたりしてまともに機能せずに終わってるから、そうね。ちゃんとした聖杯戦争が行われたのは四次くらいかも」

「そうだったのか、たしかに今まで優勝者が出てなかったからこうして今も開催してるわけだしな」

「そういうこと。そういえば気付いた?柳洞寺の結界が消えてること」

「え?」

 

刹那に言われて気を集中させるとたしかに昨日まで張り詰めていた空気はなくなり、柳洞寺の方からの気も禍々しいようなものは一切感じなくなっている。こんなことができるのも刹那の礼装あってのことなのだが。

 

「・・・ああ、たしかに。昨日まであったはずなのにもうなくなってる」

「普通、こんな物騒なことが起こってるなかで自分の工房を引き払うような魔術師はそうそういないわ。自分に適した霊地であっても急ごしらえな工房なんてたかが知れてるし、それだったらいっそのこと私たちみたいに守りに徹して籠城するのがセオリー。だからあそこを陣取っていたのはキャスターか、敗退したサーヴァントのマスターっていうことになる。キャスターの場合はクラススキルに「陣地作成」があるから霊地さえあればどこでも工房化できるわけだしね」

「なるほどな・・・」

「でも、昨日確実に一人減ったよ。キャスターかどうかは分からないけど」

「?なんでそんなことわかるんだ」

「・・・元々聖杯はアインツベルンが造り出したものだし、そのアインツベルンの協力者として来てるわけだから多少はね」

 

なんだか納得できるようなできないような理由だった。しかし、雰囲気がこれ以上聞くなと言っているようでこれ以上聞くことはできそうにもないので、ここはまず話題を変えることにした。

 

「なあ、刹那は聖杯を手に入れたら何を願うんだ?」

「マスターはイリヤなんだしきっとアインツベルンの宿願かな」

「そうじゃなくて、もしもおまえが聖杯を手に入れたらっていうことだよ」

「私の願い・・・?」

 

刹那は意外そうに目を瞬かせ、少し考えながら話し出した。

 

「うーん、そうだね。小さい頃の私なら正義の味方になりたいとか、世界平和とか願ってただろうけど・・・今、今かあ・・・」

「わ、悪い。そこまで考え込むようならまた今度に・・・」

「待って、ちゃんとあるから。ただちょっと色々整理してたの。そうね、やっぱり―――愛する人と一緒に生きていたい、かな。・・・うう、ちょっと恥ずかしいね、私」

「そんなことない。いい願いじゃないか」

「そ、そう?・・・愛してる人なら恋人とかじゃなくてもいいの。大切な人が私のすぐ傍で幸せな笑顔でいてくれたらそれで」

「――――――」

 

ほんの少し赤くなりながら微笑む刹那からは最初の時のような張り詰めた雰囲気は全くない。ただそのどこか遠くを見つめる眼差しには羨望と憧れと諦観―――色々な感情が込められているように見えた。

 

「なあ、明日とかって用事あるか?」

「え、特にはないけど・・・どうして?」

「ないなら明日一緒に出掛けないか?」

「・・・いいの?」

「ああ、なんならイリヤも一緒に」

「・・・なら、お言葉に甘えようかな」

 

ふふ、と笑顔で応える刹那が眩しくて、同時に何処かに消えてしまいそうな儚さを感じる。敵でありながらもこいつに消えてほしくないと思ってしまうのは、俺のわがままなのだろうか。

そう思うと胸の奥が軋んだ気がした。

 




刹那ちゃんは具合悪いまんまですがまだ動けるので士郎の誘いを受けました。士郎の方はやっぱりまだ迷ってます。受け継いだ理想と今手元にある恋心の間で揺れてる状態。
だから理想を追い求めるなら刹那ちゃんとはどうあっても相対しなきゃいけない人間だと分かっているからこその葛藤です。要はZeroの切嗣状態になる手前の段階。まだ切り捨ててないから想像して心が痛むみたいな。失っていないのでその程度で済んでいるという何とも言えないところにいます。

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