Fate/stay night Ideal alternative(アイディール・オルタナティヴ)   作:紗代

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九日目・夜 答えの出ない問答

遠坂の今日の魔術講座が終わり、日課の鍛錬をするために土蔵に籠る。今日の強化する獲物の鉄パイプを握り、一呼吸置いてから回路を起動する。

 

「――――――同調開始(トレースオン)

 

遠坂の教えてくれた切り替えと刹那のくれたリボンのおかげで時間は短縮され、成功率も上がったがそれでもまだ集中を失えば成功率は落ちるし、ひょっとしたらまたやばいことになりかねない。だから集中を切らさないように慎重に魔力を込めていく。構造を解析し鉄パイプ全体に必要な分だけ魔力を流す。

 

「―――成功」

 

さっきよりも固くなった鉄パイプを見ながら自分の力不足を痛感する。俺にできるのはこいつ(強化)と投影だけ。それも初歩的な強化でこのざまである。

 

「見るに堪えんな」

「!アーチャー」

 

振り返って土蔵の入り口に寄りかかるようにして立つ気に食わない男の声に俺は思わず眉をひそめる。

 

「何しに来た」

「何、ちょっとした老婆心と確認だ」

「?」

「衛宮士郎、おまえは前提からして間違えている。おまえの本質は使い手でも担い手でもない。おまえは造り出す者だ」

「造り、出す者」

「そうだ、おまえの魔術は強化などではなく投影。空の自分を虚構で埋めそれを現実へ映し出す。故に―――おまえの投影には中身がない。それはおまえのイメージが脆弱なものだからだ、どうせイメージするのであれば決して折れない最強の剣をイメージしろ。それだけでもまだマシにはなるだろう」

「悪かったな、ショボくて」

「ふん、何を分かり切ったことを」

「っおまえな―――」

 

しかし言い返そうと思った言葉は出てこない。まさにぐうの音も出ないほど的確に的を射ている正論である。

 

「そして確認のほうだが―――最近式波の娘と仲がいいらしいな。」

「それが、どうした」

「本来ならば排除するところだが、まあ彼女はイリヤスフィールにさえ手を出さなければそうそう出てくることもないだろう。しかし問題はおまえだ、衛宮士郎」

 

アーチャーは射貫くような鋭い眼光をこちらに向けてくる。それは目を逸らすことを許さない、俺の動きを止めるには十分な視線だった。

 

「おまえは彼女のことをどう思っている」

「どうって・・・大切な妹だ」

「それだけか?」

「それだけって・・・」

「聞き方が悪かったか。私が言っているのは彼女がおまえにとってどれほど大切な存在であるかだ」

 

言われて、考える。刹那は、あいつは俺にとっての家族で妹で守りたい、一番好きな、一番大切な女の子。

しかしアーチャーは俺の答えなど関係ないとばかりに口を開いた。

 

「おまえは彼女のために理想を捨てられるか?」

「何言ってんだ、おまえ」

「この先、形はどうあれ必ず彼女はおまえの前に立ちふさがることになる。その時おまえは理想と彼女どちらかを選ばざるおえなくなる。その時おまえはこれまでの理想を捨てて彼女を選べるのか?」

「――――――」

「彼女を選べないような、そんな覚悟で彼女と関わっているのならもう関わるのをやめろ。そんな者に彼女は救えない。あれは強いがその反面儚く脆い、彼女を想うなら半端に関わるのは逆に彼女を傷つけるだけだ。―――では、私はもう行く。この場での答えなど期待していないからな」

 

去り行く背中を見ながら浮かぶのは刹那の笑顔と、あの理想を継いだ寒い月夜のこと。そうだ、刹那は敵で魔術師殺し。聖杯を破壊しようとする俺にとっておそらく一番厄介で絶対に衝突を避けて通ることが出来ない存在。それは理想を追い求めるうえで何としても越えなくてはならない壁になるのだろう。でも刹那の笑顔を思い浮かべるたびに本当にそれでいいのかとこれまで自問自答を重ね続けてここまできたのだ。本来ならおそらく俺は奴の問いに対し「理想」と即答えていただろう。でも今は言い切る自信がなかった。

 

「怖いのか、俺は」

 

あいつを失ってしまうことが。

たった数日の出会い。けれどもその数日が俺に多大な影響を与えていることは事実だった。

 

―――『やっぱり―――愛する人と一緒に生きていたい、かな。』

 

―――『大切な人が私のすぐ傍で幸せな笑顔でいてくれたらそれで』

 

そう言って微笑んだ彼女が酷く儚げで、寂しそうで、尊くて、綺麗で―――何よりも愛しくて。俺の答えは出ないまま、約束の日を迎えることになる。

 


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