[各国の特色]
─シュマルド
主に冒険者や それらを相手に商売する者が多く 宿の数も鍛冶屋の数も五国の中で最多である。
ただ 把握しきれないとまではいかないが数が多い為 詐欺まがいの手法やぼったくりなど 治安はお世辞にも良いとは言えない。
シュマルドで主に信仰されている宗教は
スタルニル教には各属性の
五つの聖柄はそれぞれの聖堂に保管されており 闇の聖遺物は教会堂で管理している。
─アルジョントメール
ブールジュ銀山 コルマノン鉱山 サノワ炭坑と地下資源に恵まれている土地が特徴である。
鉱山で働く炭鉱夫の数も多く待遇も良い反面 落盤や有毒ガスで事故死する者が絶えない。
資源をあらかた掘り尽くした後は表向きは廃鉱山として閉鎖し 裏では採石場として囚人を働かせている。
アルジョントメールは山が多い地形の為 長い間他方との交流をしなかった。
その為 村単位での独自の宗教が点在しており 国に定められた宗教は存在しない。
─ポースミリア
三日月型の半島と内海が特徴であり 主に漁業が盛んである。
魚の加工技術も進んでおり 燻製や干物 塩漬け等の保存食であれば内陸側にも流通している。
海に関連する事以外はそこまで力を入れていないので 他国との貿易によって物品を調達していたり。
ポースミリアで主に信仰している宗教は 昼の海を神 夜の海を悪魔としたブライナー教である。
夜の魚には悪魔の呪いがかけられているが 日が昇ると神の力で浄化されるというものであり 夜間に漁業はもちろん 釣りですら禁止されている。
神と悪魔は海に住んでいる為 呪いをかけるのも浄化するのも海にいる魚だけと云われており 昼に陸から揚げれば夜に食べても問題はないらしい。
─オーヴィネポリ
商業に力を入れており 交易の中心とされている国。
身近な物はもちろんの事 武具や魔法に関する物資 地方特産の品や珍品まで幅広く取り扱っている。
名のある豪商もオーヴィネポリを拠点とする他 高価な物品を求めて貴族が来る事も。
悲しい事に 商人を騙った詐欺が多い。
他国からの人が多いため 宗教に関しては制限を設けていない。
地味ながらブライナー教徒が多い。
遥か昔にはネデット教という商業神を祀る宗教が存在していたらしいが いつからか神頼みの商売は愚の骨頂として廃止したとか。
─ヘルネラント
騎士を統率する 戒律の厳しい国。
とにかく法にうるさく 些細な喧嘩でも止めに入る程に徹底しており 治安はどの国よりも良い。
ヘルネラントは主に騎士が治安維持の為に存在しており 全体的に見れば騎士が治世しているも同然である。
しかし 国王も飾りという訳ではなく むしろ騎士の見本として恥じない振る舞いを貫いている。
宗教は太陽,月,大地を神格視するビアス教。
また神だけでなく 太陽を騎士,月を罪人,大地を民衆としても扱っている。
騎士も王も宗教を前提に行動するので 戒律に反する行為は当然 冒涜とされる。
海に囲まれた領土といくつかの島を持つ国 ポースミリア。
漁業が盛んであり ここで捕れる魚は他国の王も絶賛している。
また 造船技術も他国の追随を許さず ポースミリア産の船舶は荒波にも耐え得るという。
この国の城は少々変わっており なんと海と陸の境界上に存在している。
建国時代の歴史によると 捕れたての魚が欲しいために半ば無理矢理に海上に露出させたとか。
その証拠なのか 船着場と思われる場所が城から延びている。
現在では使用されておらず しかし飾り気が無いのも寂しいという事で 大量祈願や安全航海の旗が飾られ 一種の観光スポットとなっている。
アルトゥロとドロテアは ポースミリアで屈指の漁獲量を誇る城下町 ノリッチに来ていた。
この町では今日 祭りが開催されるのだが ここに来た目的は祭りそのものではなく 市場で売られる魚が目当てでやって来ている。
海の生魚が欲しいという多少無茶な依頼を引き受けたついでに 自分達も久しぶりの魚を味わおうと思った次第である。
この町は肉より魚が食卓に上がることが多く むしろ肉は祝い事ぐらいにしか出ない。
辺りを見渡せばそこらで魚が売られており どれも美味しそうに見える。
キョロキョロと見回し 品質の良さそうな魚を見定めようにも 素人目ではさっぱり分からない。
「どれにしよっかなー」
「これだけあったら 迷うのも当然だな。
占いで旨いのとか分かったりしないか?」
「う〜ん…… やってみよ」
タロットカードを取り出し 宙に浮かせて呪文を唱える。
それを見た通行人の何人かが 目を丸くしたり 驚いて声をあげたりしていた。
その反応には既に慣れており 普段通りに呪文を唱え続ける。
「えー……『鹿を仔牛だと見紛う獅子。
運命の輪で見通すは真実』と」
「うん 転機か幸運が訪れるって事か?
で それが来る前に選ぼうとしたら 間違えるって寸法と?」
「かもね」
「ふーむ 幸運かぁ」
「じゃあ ちょっと早いけど どこかで昼食食べようよ」
「うん」
近くにある食堂を探す二人。
市場から少し離れた位置で宿屋を兼業している酒場を見つけた。
時間が時間だけに 席は二割ほどしか埋まっておらず とりあえず入口に近い席に向かい合って座った。
適当な魚料理と野菜炒めを注文し 暫くの間雑談する。
「そういえば 今回の依頼は生魚10人分って話だけど コレって魚なら何でもいいって事?」
「うん 海産物であること以外の指定は無かったなぁ」
「う~ん でも出産祝いの料理だからねぇ。
それなりに品質が良いのが望ましいよね」
「わっちには魚なんてどれも同じに見える」
「アタシも」
「……うん ホントなんで こんな依頼受けたんだろう」
「……まあ 報酬はそこそこ良いし」
少し経ってから野菜炒めが机の上に置かれ アルトゥロとドロテアは早速野菜炒めを味わう。
野菜の食感が活かされており 噛む度に旨味が広がっていく。
半分ほど食べたところで待望の魚料理が届く。
これまた脂がのっており 一口食べただけで濃厚な旨味が口内を支配する。
久々の魚料理という事も相まって 2人の舌を満足させるには充分過ぎる程だった。
「ん〜! 美味しい〜!」
「うん 旨いうまい」
料理を堪能し 暫くの間余韻に浸るアルトゥロとドロテア。
そろそろ転機とやらが訪れてもいい頃合かな と思いながら席を立ち 代金を支払ってから酒場を出ようとする。
その時 出入口で大きな荷物を抱えた 小柄な女性とぶつかりそうになった。
「うおっと アブナイ」
「おっととと 失礼〜。
……ん? アレ?」
「えっ?」
女性とドロテアは 互いに顔を見合わせる。
隣にいるアルトゥロも 女性の顔を見つめる。
波打つセミロングの緑髪に黄色い瞳 明らかにヒトではない青みがかった肌。
そんな特徴を持つ人物を 二人は知っていた。
「アリス? まさか
「え~っ! ドロテア~!?
なんでここにいるの〜!」
「依頼でチョットね」
バッタリ出くわしたのはアルトゥロ達と同じ ウェルドに所属するメンバー アリス・モーラン。
普段は行商人として各地を転々と移動し たまにシュマルドに滞在するという生活を送っている。
稀に掘り出し物を見付けたり 売上の一部をウェルドにあてたりなど 陰ながら活躍している。
ちなみに彼女はグールであり この世界のグールはゾンビのような死霊生物などではなく ちゃんとした種族として認知されている。
「うん アリス 久しぶり」
「アルトゥロもいるの〜?」
「うん そりゃな」
「それで ここにいるって事は依頼を受けてるんだよね〜?」
「うん 海魚が欲しいって事でここまで買いに来てな」
「ねえ アリス。
新鮮な魚とか見分けられるよネ?」
「う~ん まあ 分かるといえば分かるけど〜」
「なら 一緒に来てくれない?」
「わっちには魚の善し悪しはともかく より良い物は分からんのでな」
「えぇ~? 何でそんな依頼受けたのさ〜!」
「……報酬がね」
「うん 良かったから」
「……そんなんじゃあ あのスマイル司祭に笑われるよ~?」
「言葉もないね はい……」
「本当に申し訳ない」
「ま そんなダメダメな2人の為に このアリス様が頑張っちゃうぞ〜!」
ひょんなことからアリスも同行する事になった。
まさかこんな形の幸運が来るとは思わなかったドロテアであった。
───
城下町ノリッチの大通りでは 各々が露店を開いて様々な物を売っており 広場では数人の牧師を中心に神に祈りを捧げる聖歌を唄っている。
市場からは四方八方 店の物を自慢する声があげられ 思わず目移りしてしまいそうになる。
「ウチの魚は捕れたてで新鮮!
それに旨いときたモンだ!」
「ルーシャー海で捕った魚は 海神の御加護が授けられる!
祝い事ならコレで決まり!」
「特産のリンゴで作った
「海産物は何も魚だけじゃねぇ!
俺ッチの貝は旨味がギュッと詰め込まれてるぜぇ!」
「塩漬けした干物なら お土産に丁度いいよ~!
ぜひ内陸でも 海の味を〜!」
「ロージアン島の岩塩 いる?」
大体は魚を売りに出しており たまに副産物や海産物以外の品も出ているのが見える。
あちらこちらを縫うようにして移動し 魚を見定め 時々質問をしては また別の出店へと移動する。
市場の隅から隅まで歩き回るかの如く品定めを行った結果。
「うん ビミョーだね〜!」
「えぇ……」
「どれも美味しそうに見えたんだけど 全部ビミョーだったの?」
「多分だけど ここで売り出されてるのは売るのに十分な二級品ばかりで 一級品は国に献上か自分たちで消費するんだと思う〜」
「うん なるほど」
「最高の物を手に入れるとしたら~……。
漁に行くしかないかな~」
「漁かぁ……」
「どうにかならないかな?」
「ふっふ〜ん♪ わちきはタダの商人じゃないよ~。
行商で鍛えた交渉術で 同乗してもらえるよう頼んでみるよ〜!」
「ふーむ」
三人は船着場へと移動し 小魚を肴に酒を飲んでいる漁師達を見つける。
アリスがここで待ってて と言い残し 漁師達と会話を始めた。
身振り手振りで大げさに話したり 大きなリュックから異国の物を取り出したりするなど 彼女なりの交渉を披露する。
暫くすると笑顔でこちらへ戻ってきた。
「ダメだった〜」
「ダメなのかい」
「えーっ じゃあどうするの?」
「もう二級品でいいんじゃないかな〜」
「いや まだ手はある」
「ホント?」
「うん」
「なになに〜?」
「王に直接交渉する」
「えっ!?」
「おっ 王様にぃ〜!?」
「わっちの記憶が正しければ マスターと王は面識があったハズ。
ウェルドとマスターの名を出せば 可能性は0じゃない」
「いけるかなぁ……」
「やってみようよ~!
それにわちき 一度王様に会ってみたいんだ〜!」
「よし 決まりだな」
「いや アタシは行くとは一言も……」
「レッツゴ〜!」
「うわっ!ちょっと!」
アルトゥロを先頭に アリスに手を引っ張られながら城へ向かったドロテア。
果たして 無事魚を手に入れることは出来るのだろうか。
───
ポースミリアの礎とも言える城 フィンダミア城。
先代国王の意向によって様々な改修が施されており 生簀や噴水 人工滝など水を主軸に置いた風景を取り入れている。
また これらを見物させるという名目で 条件付きではあるが城内を自由に散策できるよう 城門を開放している。
主な客は貴族や旅人であり また石版に掘ってある とある吟遊詩人が水の城をテーマに詠った詩を目当てに来る詩人もいる。
三人が城門まで近付くと 見張りをしている2人の衛兵がこちらを見る。
その視線の先は アルトゥロを捉えていた。
「そこの鎧の方」
「うん 知ってる。
はい 剣」
「うむ」
「念のため ボディチェックをさせて頂く」
入城する条件の1つ 凶器及び凶器になり得る物の持ち込み禁止。
当然といえば当然の処置なのだが 国家転覆でも目論む輩がいない訳でもない。
過去に一度も王が他殺によって死亡した事はなく それは厳重なセキュリティによる賜物といえるだろう。
仮に凶器を持ち込まれたとしても 城内には多数の衛兵が目を光らせているだけでなく 王を護衛する親衛隊も複数名存在する。
王を殺害しようものなら 手練れの暗殺者でもない限りそれこそ国家レベルの軍事力で攻撃を仕掛ける必要がある。
「その小手も外して頂こう」
「はいな」
「その兜も外して……」
「それは無理かな。
外せないし」
「外せない?」
「うん 何度か試みたんだけど ダメだった」
「……少し失礼」
衛兵の1人が兜の留め具を外し 兜を取ろうとする。
が まるで頭にへばりついているかのように取れる気配がない。
このまま無理に外そうものなら 首が取れて
「……っ」
「まあ 危害を加える気は全く無いし」
「それを判断するのは我々の役目だ」
「うん そりゃそうか」
肘当て 膝当てに続き 腰のマントの内側まで丹念にチェックされるアルトゥロ。
ここまでに厳しいのは 鎧という姿が災いしているのか。
ドロテアとアリスの方はというと 荷物の中身を確認し 怪しい物がないかを調べている。
ドロテアはグローブ以外は特に凶器になり得そうな物は持っていないが アリスは行商人という立場上 様々な物がゴロゴロ出てくる。
「このナイフは?」
「それは動物を解体するためのナイフだね〜」
「ではこのブーメランは?」
「投擲用〜」
「これは……何だ?」
「
「この酒は……」
「ヘルネラントにある大麦の町 レスデアの特産品 レスデア・エールだよ〜!」
「この粉は何だ?」
「それは黒色火薬だね~。
下手したらドカ〜ン! だよ〜?」
「……これは?」
「それ? テキトーに拾ったやつだから わちきにもわかんない〜」
結局 アリスは大量の荷物の殆どは預ける事に。
アルトゥロに至っては 許されたのは兜と鎖帷子だけと なかなかに情けない姿になってしまった。
ドロテアは元から軽装なのもあって 預かったのはグローブと荷物だけ。
「う〜ん 肩が軽い~!」
「奇遇だな わっちも身体が軽い」
「アリスはいいけど アルトゥロはそんな格好で歩くの?」
「うん ダメか?」
「ダメというか ビンボー騎士みたい」
「ビンボー騎士 ビンボー騎士〜!」
ただのエルフ ただのグール 貧乏騎士の3人で 荘厳な城門をくぐる。
くぐった先には 城のシンボルともいえる噴水が水を噴き上げている。
噴水には寒色系の宝石で派手に装飾されており まるで煌びやかな水滴が埋め込まれているかのようにも見える。
だが当然 それを見に来た訳ではなく そのまま噴水の横を通り過ぎ 室内へと通じるアーチ状の入口に近付く。
そこで警護している2人の衛兵に話し掛けた。
「いきなりだけど 王に会わせて欲しい」
「何?」
「イヴェット・バーレイをマスターとするギルド ウェルドから って言えば多分通してくれる」
「……しばし待たれよ」
衛兵の1人が早足で室内を駆けていく。
鎧を着用しているというのに その足に重苦しさは感じられない。
鎧よりも思い使命感を背負っているからだろうか。
暫くすると衛兵が戻ってきた。
「……謁見の許可が下りた。
くれぐれも粗相の無いように」
「言われなくとも」
───
城は初めて来る場所だが 大体の構造は分かっており 王が居る場所など検討が付く。
もっとも 城に来る機会自体少ないものではあるが。
そこまで迷うこと無く玉座の前へと辿り着き 目の前を見据える。
王といえば 腹の突き出た重々しい身体を 財と権力を示す為だけに豪華に飾られた玉座に預けるようにして デンと座っているイメージがある。
間違ってはいないが何も悪い事ではなく むしろそうでもないと他国に嘗められる。
まあ この世界ではそこまで気にする事ではないのだが。
改めて玉座に座っている王に目をやる。
そこまで太ってはいないが腹は少し出ており 顔には皺も多少見られる。
玉座の左右にいる四人の親衛隊は まるで置物の如く動く気配が無いが 兜越しに伝わる鋭い視線が彼らはただの置物ではないことを感じ取らせる。
アルトゥロ達を見た王は 久々の客人を相手にするかのような笑顔を見せた。
「よく来たのぉ ウェルドの諸君」
「やはりマスターのイヴェットとは面識が?」
「あぁ モチロンだとも。
彼女には何度か良くして貰っておるよ」
「……ホントに何してるんだ あのマスター」
「それで王様 頼みがあってですね」
「ふむ? 何じゃ?」
「お魚を分けてほしいのです〜。
1番いいのを〜」
「魚とな」
「うん 実は依頼にて かくかくしかじか──」
「なるほど なるほど」
「分けてくれないですかな〜?
お金も珍しい物も用意出来ますよぉ〜」
「ふぅむ……」
王は目を閉じ 少しの間考える。
数秒間の沈黙だったというのに 長い時間 時が止まったかのように感じた。
思案し続けた後 目を開き 親衛隊に声を掛けた。
「少し 席を外してくれんかのぉ?」
「えっ……!? しかし……!」
親衛隊は驚きのあまり狼狽えるが無理もない。
王を守る使命を持つ親衛隊が 得体の知れない三人組と共にする王から離れろと言われたのだ。
だが 命令に逆らう理由も意味も無く 仕方なく退室していく。
「……よし 行ったの」
「いいの……ですか?」
「あぁ ちょっとな
威厳に関わるからのぉ」
「……?」
「オヌシ達は質の良い魚が欲しいと申したな?」
「うん」
「流石にタダでくれてやる訳にはいかんがぁ……。
いやしかし 自慢ではないが金も珍しい品もここにはある」
「まあ 城ですしな」
「そこでじゃ ワシの望みを叶えてくれたら オヌシらの望む魚をいくらでもくれてやろう」
「王様の望み~?」
「なぁに 無理難題を押し付けるつもりは無い。
ワシの望み…… それは……」
「………」
王が求める希望を叶える事など出来るのだろうか。
そんな考えが3人の頭でシンクロする。
伝説の怪物の鱗を取りに行けだとか 深海に存在する遺跡の遺物を持ち帰れだとか そんなギリギリ達成可能な頼み事ではないんじゃないかと不安がよぎる。
が それは杞憂に終わった。
「城下町を遊び歩きたいのじゃ」
「……うん?」
まさかの望みに アルトゥロは素っ頓狂な声が出てしまった。
遊び歩きたい──
確かに聞き間違いではない。
しかも城下町で。
「……えっと そんな事でいいの……ですか?」
「そんな事とは何じゃ!
ワシにとってはこれ以上無い望みじゃ!」
子供が怒るかのような 幼稚な怒りを見せる王。
失礼だと思いつつも 王冠を戴いた大きい子供のようであると感じる三人。
威厳の欠片を微塵も感じられない 民の上に立つ国王とは遠くかけ離れた存在がそこに居た。
「ワシだって人間なんじゃ!
城下町で遊びたいんじゃあ!」
「えぇ……」
「だけど王という手前 表立って遊ぶ訳にもいかぬというもの!
もう他国の王との形だけの食事も飽きたんじゃあ!」
「えっと……王様〜……?」
「それにヘルネラントの国王! あやつムダにねちっこいんじゃ!
なんでワシの国政にいちいち口を挟むんじゃあ!」
「もう完全に手が付けられないや。
このまま吐き出させてあげるかな」
「……そうだね」
「城を一般開放するなど 随分と平和ボケしているようだな と言った時の顔もムカつくしのう!
そもそもそれはワシの父上がした事じゃあ!」
王の愚痴は 暫くの間続いた……。
───
「……ふぅ 見苦しい所を見せてしまったのぉ」
「うん」
「ちょっと アルトゥロ!」
「よいよい ワシも年甲斐もなく騒ぎ過ぎた。
じゃがしかし 城下町で遊びたい気持ちは変わらん!」
ポースミリア国王の目は 童心に帰ったかのような 若々しいというより幼い子のような そんな純粋な輝きが感じられる。
ただ やろうとしている事は子供が遊ぶようなものではないだろうが。
「んー 別に協力してもいいんだけど 具体的にはどうするの?」
「城をコッソリと抜け出して 変装すればよかろう」
「それだと 王様が居なくなったと気付かれたら大問題じゃない〜?」
「そこは我が息子を 王政の勉強とでも言って一日王様をさせるつもりじゃ。
もちろん 妃と親衛隊もサポートとして息子に付きっきりにさせる」
「自分の欲の為なら 息子すら利用する王とは」
「一日! 一日だけじゃから!
せめて一晩だけでも!」
「しかし まあ 言っちゃあアレだけど 王も結局は人間の上に立つ人間なんだね」
「そうだな」
「で 協力してくれるかの?」
「わちきは面白そうだからオッケーだよ〜!」
「うん アリスがやるならわっちもやる」
「アタシだけ断る訳にもいかないし どうせ乗り掛かった船だし」
「おぉ! 心から感謝するぞよ!」
「それでだ 流石に策もなしにというのはキツイから……」
───
太陽は殆ど沈み 赤く染め上げられていた城が色を失っていく。
ポースミリア国王は 魚をふんだんに使った夕食を食べ 早々に寝室に戻ろうとする。
その際に 部屋前の見張りをしている衛兵に 息子の勉学の準備をする為に今日はもう寝るという事を告げる。
もちろん 寝るというのは城を抜け出す為の嘘である。
衛兵はやや不思議そうな顔をするも 特に言及する事は無かった。
寝室に入った王はまず ベッドの上に枕や外出用の衣服を等身大になるよう調整しながら置き 上から布団を被せる。
少なくともこれで直ぐにバレる心配は無い。
何より 王妃が王のいびきが五月蝿いという理由で 現在は寝室が別になっているのも大きい。
粗方準備を終えた王は アクセサリーをいくらか外す。
派手に着飾っていれば怪しまれるが 逆に何も飾り気が無いのもかえって奇怪な目で見られる。
指輪を幾つかと アメジストのネックレスを残し 金糸の刺繍が施された上着を脱いだ。
シルクの肌着一枚と少し寒々しいが 後で相応の上着を持ってきてくれる予定だ。
「さて そろそろかの……」
なるべく音を立てないように窓を開け 事前に立て掛けてある木製の梯子に脚をのせる。
強度が不安だったが 木の軋む音は聞こえず 無事に下まで降りる事が出来た。
降りた場所は 今は使われていない旗だらけの船着場。
そこで辺りを見回すと 暗い海に紛れて一隻の小舟が近付いてくるのが見えた。
王に気付いた影は近くに寄せて止め 舟から下りると軽い調子で話しかける。
「お迎えにあがりました~ 王様~」
「今は王ではなく ランディー……。
いや アメシストと呼んでくれんかの」
「了解です 王様~。
あ いえ アメシスト様~」
影ことアリスは変装用の毛皮の上着に両刃の斧 くたびれた腰布を差し出し 王はそれを受け取って着用する。
傍から見れば 斧戦士やパワー型の狩人に見える
「どうじゃ? 似合っとるか?」
「はい~ 少なくとも王様には見えないですねぇ~」
「そうかそうか」
気を良くした王は笑みを浮かべ 小舟に乗り込む。
それに続いてアリスが乗ってオールを手にし 静かに暗い海へと姿を消した。
目立たない場所に小舟を停め 陸に上がる二人。
そこには既にアルトゥロとドロテアもいた。
昼間に会った時とは違い チェインメイルではなくフルアーマーの剣士がそこに居ることに王は内心驚くが 徹底したセキュリティチェックの仕事ぶりを知るいい機会でもあった。
「オヌシ 普段はそんな姿なんじゃな。
ワシと会った時は なんとも貧相なナリじゃったが」
「うん 門前の兵士が鎧はダメだとな」
「ふぉふぉふぉ 仕事はしっかりしとるようじゃの」
国王改めてアメシストが加わったパーティーは 城下町へと進み始める。
その道中 こちらを振り向く者は誰1人としておらず まさか国王が町を歩いているなど知る由もなかった。
暫く歩き続けて辿り着いた場所は 国が公式に認定しているカジノ。
アメシストが1番行きたがっていた場所でもある。
何でも オーヴィネポリの国王が賭け事で大勝利したという自慢を聞いてから どうしても行ってみたかったらしい。
「ほほう ここがカジノかのぉ」
「どうです?」
「ふむぅ 賭け事となるとちと気が引けるが……。
貴重な体験を逃したくないのでなぁ」
「まあ 賭博だけが楽しみじゃあないですよ〜」
カジノへ入ると 表とは違った光景が飛び込んでくる。
拳を上げて喜ぶ者 膝をついて嘆く者 一枚のカードを凝視する者 裏を向いたコインに怒鳴る者。
結果の為に祈り 結果が出れば感情を噴出させる。
良くも悪くも人間性が顕になる場所でもある。
「さて どれからやってみるかな」
「ちょーっと待ったぁ〜!」
「うん?」
アリスがストップをかけ 備え付けのバーを指差す。
カウンター席にはあまり人が座っておらず 四人が座ってもまだ空きはある程だ。
「シラフでやっても面白くない〜!
だから最初はお酒〜! コレ 常識〜!」
「……そうなのか?」
「そんなワケないじゃない。
ただアリスが呑みたいだけでしょ」
「バレちゃったか〜」
「まあ ワシも酒はいただきたいのぉ。
民衆はどのような酒を楽しんどるのかも気になるんじゃ」
四人並んでカウンター席に座り 各々好きなように注文する。
大抵は賭けに勝った者が勝利の美酒として浴びるように煽る事が多いが アルトゥロ達のように賭けの前に楽しむ者も少なくはない。
「わちきはブドウ酒〜」
「ワシは一番高い酒を貰おうかの」
「蜂蜜酒ある?」
「アタシもブドウ酒で」
注文した酒がカウンターに置かれ 各々それを手に取る。
アメシストは酒を一口含んだ後に若干複雑な顔をするも 二口目以降は特に気にする様子も無く満喫していた。
アルトゥロとドロテアは割と早く呑み終わり 残りの二人が酒を呑み終わるのを待っていた。
一方でアリスはまだまだ足りないのか追加でエールを注文し 空になればまた注文と繰り返す。
「……もうアリスほっとく?」
「そうだね」
メインはアメシストを楽しませる事であり 自分たちが楽しむ訳ではない。
仕方なく 酒に溺れたアリスは放置して アメシストを連れてカジノ内を練り歩く。
町一番のカジノという事もあって 様々な賭け勝負が存在する。
中でも人気なのは トランプを使ったバカラである。
バカラとは
基本的に客はその勝負事に介入する事は出来ず 出来る事といえば賭けとカードをめくる事ぐらい。
だが どちらかに賭ければ良いだけというシンプルなルールと
ちなみにカジノで使用されているトランプは 少々特殊な物を用いている。
客は必ずしも物を大事に扱うとは限らない。
怒りに任せて引きちぎる事もいれば 手元が狂って酒をこぼし カードが濡れてしまう事もある。
その度に廃棄するようでは勿体無いと考え 魔力で修復できるトランプカードを採用している。
折り目や傷 落書きも無かったかのように綺麗になる為 不正防止にも一役買っている。
アメシストは周りを見回しながら歩き その後ろをアルトゥロとドロテアが付いていく。
そして アメシストはあるテーブルの前で足を止めた。
「ふむぅ これなんか面白そうじゃのぉ」
「ブラックジャックか。
まあ うん いいんじゃないかな」
ブラックジャックとは
ただし 21を超えてしまった場合はその時点で負けとなり 賭けた金額は没収される。
これもまた カードを追加するかの駆け引きを楽しむ為に人気である。
「よーし やってみるかの」
「んじゃ わっちも」
「1人だけ仲間外れってのも寂しいし アタシもやるね」
「仲間外れとなったアリスはいったい」
「酒がいるから寂しくないでしょ?」
「なるほど」
それぞれ賭け金額を決めると トランプがディーラーの分を含め各二枚配られる。
アルトゥロは7,5 ドロテアは9,A アメシストは6,Q。
ディーラーは二枚の内一枚は6であり もう一枚は裏向きにして伏せてある。
裏に伏せたトランプは プレイヤーの行動が全て終わる つまり
ちなみに
J Q Kは10として数え Aは1か11のどちらか好きな方で数える。
現在最も21に近いのは Aを11とした場合の合計点が20のドロテア。
もちろん Aを1として数え カードを追加する事も可能である。
「12かぁ……。
うん 10はそう簡単には来ないと信じて」
とりあえず
配られた数字は3であり 合計点は15となる。
ただでさえ微妙だった数字が 更に微妙になってしまった。
少々悩み 仕方なくもう一度ヒットするも 出た数字は8。
21を超えてしまい 勝負は自動的に負けとなった。
「なんてこった」
「ふふん アタシはアルトゥロのようなヘマはしないよ」
「………」
「スタンドで」
「おい」
安全を考慮し 20として勝負に出る。
堅実といえば堅実ではあるが 悪く言えば臆病ともとれる。
賭博では その臆病さに助かる事も無くはないが……。
「ワシは……そうじゃのぉ……。
せっかくじゃし 追加するかの」
16という数字から強気に出て ヒットするアメシスト。
だが 配られたのは9であり 合計は25となってしまう。
ここまではドロテアの一人勝ちだが ディーラーはまだ勝負に出ていない。
全員の行動が終了したのを確認した胴元は 裏返しにしていたカードをめくる。
表となったトランプの数字は2であり 合計点は8と少ない。
ディーラー側は合計点が16以下の場合はヒットし 17以上になった場合はヒットしてはいけないルールとなっている。
一枚目のカードを引いたところ 数は3と小さく 更にヒットするとQが出てしまい 合計点が21。
胴元の勝利となってしまった。
「うあぁぁ~…… 負けたぁぁ」
悔しくも悲しくもある 力の抜けた声で嘆くドロテア。
それを見たアルトゥロは小馬鹿にした感じで笑い アメシストは次で取り戻せばいいと励ました。
一方アリスは まだ酒を浴びていた。
「よし 次からは本気出す」
「アタシも負けっぱなしじゃいられない」
「フォッフォッフォ 若いのぉ」
真剣に勝負するためか アルトゥロとドロテアは賭け額を2,3割増やす一方で アメシストは前回と同じ額を賭ける。
手際よくカードが配られ 各々数字を確認していく。
アルトゥロはJ,10 ドロテアはA,4 アメシストはA,5 そしてディーラーは2と裏となった。
「……うん スタンド」
合計点が20のアルトゥロは 迷うまでもなく勝負に出る。
流石にAを引くのは厳しいと直感で判断した結果である。
対してドロテアはヒットするかと思いきや。
「ここはダブルダウン!」
ベットした金の同額を置き 人差し指を立てる。
この動作はダブルダウンの宣言である。
ダブルダウンとは 配られた二枚のカードを見てから 賭けた金額を倍にして一枚引くというもの。
ただし 引く事が出来るのは一枚だけであり 負けた場合は当然倍増しした分の金も没収される。
なかなかにリスキーな行為だが その分見返りも大きい。
ダブルダウンを宣言した後 5のカードが配られる。
Aを11とした場合は20となり 1とした場合は10となる。
ドロテアはやや嬉しそうな顔を見せ 20の数でスタンドする。
「流れ 来てるよ……!」
「さて ワシはどうするかのぉ」
とりあえずといった形でヒットし 6が配られる。
12か22となってしまっては 前者を選ぶしかない。
そして更に追加するかを迷うも 22以上になる確率は低いと踏んでヒットする。
8を引き 合計点は20となったアメシストはすかさず勝負に出る。
ここまで三人とも合計が20であり 胴元に勝てば全員勝利である。
ディーラーがひっくり返した裏向きのトランプの数は9
合計は11とプレイヤー側に厳しい数字である。
まずは追加し 出た数は4で計15。
更にヒットし Aを引いて16となる。
まだ20,21になる確率は残っているものの 最初と比べると危険は去ったも同然である。
ディーラーがカードをヒットしたところ 引いた数は10。
21を超過してしまった為 プレイヤー側の勝利となった。
「おっ」
「ぃやったぁぁ!
ドロテア様の力 思い知ったか!」
「ホッホッホ 元気じゃのう」
ダブルダウンで勝負に出たドロテアは 負けの分を差し引いても大きくプラスとなったので 気分が良くなるのは当然である。
一方アリスは まだ酒を呑んでいた。
次のゲームを楽しむべく ブラックジャックから移動する三人。
アメシストが次に目を付けたのはポーカー。
ポーカーにも様々な種類があるが ここで設けられているのはクローズドポーカーのみである。
対戦相手を待っていたのか 偶然にも三人分の席が空いている五人用のテーブルを見つけ そこに座る。
位置的に並ぶ事は出来なかったが ポーカーは皆 敵しかいないようなものなのであまり関係ない。
ディーラーから見て左から ドロテア スカーフェイスの銀髪男 アメシスト 黄金色の毛並を持つ
アルトゥロ達が座ったのを見た傷顔の男性は 長い銀髪をたなびかせ 口元に笑みを浮かべる。
「お前らは 何の為に戦っている?」
急に問い掛けてくる男。
疑問というよりは 興味本位で訊いてくるような口振りだ。
「戦いってのは 賭けの事か?」
「あぁ」
「そりゃ 勝つためさ」
「いやいや お金の為でしょ」
「オヌシら ワシの事を忘れてはおらんか?」
バラバラの答えが出た所で 銀髪の男は静かに首を横に振ってから語り出す。
「俺は 金でも勝利でもなく『賭け』そのものの為に戦っている。
命を賭けてもいいと思える そんなスケールのデカイ『ロマン』を 俺は求めてるのさ」
「ニャんでもいいけど さっさと始めるニャ」
ケット・シーが話をぶった斬るようにして割り込み ゲームのスタートを急がせる。
参加料を全員支払い終えると トランプカードが各五枚裏向きで配られる。
一枚ずつめくって確認したり とりあえず五枚全て手に取って確認したりと個性が出てくるが 何も個性が出るのはここだけではない。
カードを確認し終えたら まずはベットをする。
ディーラーから見て左にいるドロテアから順にベット権がまわり 条件を満たすまで繰り返される。
最初は
「……んー」
ドロテアは暫く考えた後 チェックを選ぶ。
行動権が傷顔の男に変わり 男は迷うことなくベットを選んだ。
誰か一人でもベットを選んだ場合は 可能な行動が
コールは前の人が賭けた金額と同じ額を賭けるというもの レイズは更に上乗せするものである。
フォールドは 払った賭け金は払い戻されないが 降りた時点で更に損失する事はない。
例として 銀10を賭けたが相手がレイズをし コールすれば銀20を賭けなければならないという時に降りれば 損失は先程払った銀10だけで済む。
不利と見て潔く身を引くのも懸命だが 敢えてハッタリとして強く出て 相手を降りさせる策もある。
アメシストは少し考えるもコールを選択し 黄金色のケット・シーは渋い顔をしてフォールドを選んだ。
残されたアルトゥロは 余程自身があるのかレイズを宣言し ドロテアが苦虫を噛み潰したかのような顔でコールする。
銀髪男は対抗してレイズ アメシストはコール アルトゥロは更にレイズ ドロテアがここでフォールドを選んだ。
「いや…… ちょっとキツイでしょ これは」
「なんだ? 今更逃げるってのか?」
「そこまで自信のある手じゃないし」
「フン…… まあいい。
それよりもそこの鎧 お前はよほど自信があるようだな?」
「うん」
銀髪の男とアメシストはコールを宣言し ようやく賭け額が同額となった。
ここでカードの交換が可能となる。
交換は一度きりだが 枚数に制限は無く 五枚全て交換という事も可能である。
そんな事をするのはあまりいないが……。
銀髪男は二枚交換し 配られたカードを見る。
表情の変化が見られないポーカーフェイスで 相手の手札が予測出来ないが 場数を踏んだ歴戦のギャンブラーである事は薄々と感じ取れる。
アメシストはカードを三枚交換したが 渡されたカードを見て 口が少し開いてしまう。
少なくともいい手ではないと皆に知らせてしまった。
もっとも そうだと誤認させるのなら問題ないが。
アルトゥロはカードを一枚だけ交換し 配られたカードをさっと確認する。
兜の上から表情など読める筈もなく ある意味ポーカーフェイスとなっている。
ドロテアはフォールドした為 まずはポーカーフェイスを貫いたスカーフェイスの男から。
「ベットだ」
迷うこと無くベットを宣言し ニヤリと笑みを浮かべる。
それを気にする様子もなく アメシストはコールを選ぶ。
勝ち気というよりも楽しそうな表情をしており 場違いな雰囲気が感じられる。
アルトゥロはすこし考えた後 レイズを宣言する。
交換した事によって強い役となったのだろうか。
銀髪の男が嬉しそうに レイズで対抗する。
アメシストはやはりコールするも アルトゥロは更にレイズと 二人だけで賭け額がどんどん膨れ上がっていく
最終的に上限近くまでレイズし 銀髪の男の行動待ちまで長引いた。
ちなみにアメシストは最後までコールを選び 勝負を降りる気配は無い。
(……コイツ よほど良い
普通ならハンパな役ではここまで粘らないハズだが……)
男は考える。
(ここはワイルドカードが適用されてないからファイブカードは有り得ん。
ここで降りるのが懸命か? いや……)
「まだ?」
「……ギャンブルはこうでなくてはな!」
男は声高にレイズを宣言し アルトゥロに目をやる。
その目は 鳥類のように獲物を見据え 見通す目をしている。
アメシストはブレずにコール アルトゥロもようやくコールを選んだ。
ベッティングタイムが終了し ディーラーの合図で一斉にハンドを開示する。
その一瞬が まるで時が止まったかのように錯覚するが その感覚も一瞬という矛盾の中 互いに相手の役を確認していく。
銀髪の男は8が三枚とKが二枚のフルハウス アメシストはA 2 3 9 10でスートが揃っておらずノーペア。
アルトゥロはなんと 3 6 10 Q Kで スートを見るとフラッシュ一歩手前であり つまるところノーペアであった。
勝敗は考えるまでもなく銀髪男の勝利となった。
「………」
「うん?」
傷顔にはやけに似合う不敵な笑みを浮かべ アルトゥロを睨みつける。
そしてアルトゥロの役と兜を交互に見合わせたかと思うと 男の口から笑い声が漏れ出ていた。
笑いを抑えきれずに 次第に大口を開けて高々と笑う男を見た四人は 何が何だかといった表情を見せる。
「え…… なにこの人。
大金手に入れたからおかしくなったの?」
「そうかもニャ」
「いや 勝てるとは思ってなかったから笑ってるんじゃないか?」
「オヌシら 言い過ぎじゃろうて」
思い切り笑い飛ばし ようやく笑い終えた男は アルトゥロに対して拍手をする。
「鎧よ なかなか見上げた根性をしているな。
「そうか?」
「俺は幾度となく賭けをしてきたが お前みたいなヤツはなかなかいない。
僅かな可能性に賭ける…… これがギャンブルの醍醐味の一つだ」
「うん 特に考えてはいなかったけど」
「さあ ギャンブルはまだ始まったばかりだ。
次のゲームを始めるとしようか」
「……あんな役でムチャ出来るものなの フツー」
「ふぉふぉふぉ これも若さが為せるものじゃよ」
「ところで国お…… アメシストもノーペアだった割に降りなかったけど」
「まあ ワシは金はあるしのう」
「……
「………」
「ちょっと 何で目を逸らしてるのさ」
───
複数回に渡ってポーカーを続けた結果 銀髪の男が圧勝し 時点でドロテアがある程度は勝っていた。
ケット・シーは僅かながらプラスに アメシストとアルトゥロは一回目のマイナスを打ち消す事が出来ずに終了した。
「ダメだった」
「そりゃ ムダに粘ればそうなるでしょ」
「フッ…… 俺は楽しかったぜ?」
「オヌシは大勝利だからのぉ」
「いやいや それだけじゃあねぇさ。
堅実に勝ちに行くようなヤツらとは違った楽しみ方が出来たって点も含んでる」
銀髪の男はニヤリと微笑み 懐から黄金に輝くコインを取り出した。
それを上へはね飛ばし 空中でキャッチする。
「……今考えている事の逆が正解だ。
でもそれは大きなミステイク」
「うん?」
「旧い友の口癖さ」
「ふむぅ…… どういう意味かの?」
「難しい事じゃあない。
自分の直感を信じろって事だ」
握っていたコインを台の上に手で隠すように置き 男は虚空を見つめるようにして顔を上げ 静かに語り出す。
「ギャンブルに必勝法は無い。
運任せだろうがイカサマだろうが 最終的には自分自身の勘に頼る事になる」
「ふむふむ」
「手前での考えを否定した選択よりも 直感を信じた方がいい結果に繋がるのさ。
……このコインは裏だ」
そう言い コインを隠していた手をそっと上げる。
宣言通り コインは裏を向いていた。
「おっ コレって2年ぐらい前にオーヴィネポリで鋳造された記念コインじゃない?
こんなレア物持ってるなんて」
「ほう? コイツを知ってるのか?」
「うん 仲間のアリスが自慢気に見せびらかしてたような。
ちょうどこのカジノにいるけど……」
「けど?」
カウンターバーの方に目をやったその時 顔を真っ赤にしたアリスが千鳥足でこちらへ寄って来た。
完全に泥酔しているというのに 大きな鞄を背負っても倒れる事はなく 皆のもとに辿り着いたアリスは体をあずけるようにしてアルトゥロにもたれかかる。
「呼んら〜?」
「お前どれだけ呑んだんだ……」
「久しぶりのおしゃけらったから〜。
ちょっとのみすぎた〜」
「重いおもいオモイ」
「なに〜? わちきが重いらと~?
れりぃに重いなんて言っちゃらめらぞ〜」
「荷物だ荷物」
「わちきがお荷物〜?
言っていいことと悪いことがあるんらぞ〜」
「……ドロテア 代わって」
「ヤダ」
「こら〜 人の話はちゃんときけ〜」
「もうやだこの酔っ払い」
───
その後も何故か銀髪の男と共に 様々な賭け事を楽しんだ一行。
バカラを最後に 一人大勝利した男に別れを告げ アメシストを城下町で遊ばせるという目的を果たした一行はカジノを後にする。
泥酔状態のアリスのペースに合わせて歩けば夜が明けかねないので 仕方なくアルトゥロが荷物ごと背負うこととなった。
そこまで重くもないので 使い慣れている重力魔法を使えば苦にもならない。
アメシストを迎えた小舟の所に辿り着いたはいいものの 酒に加えてアルトゥロの背中で揺られていたためか アリスはすっかり熟睡してしまっていた。
流石に無理矢理起こすのも気が引ける上 酔っていてはまともに舟を操縦出来る筈もなく 急遽ドロテアがアメシストを送り帰すことになった。
「今更じゃが ワシのワガママに付き合ってくれて ありがたいのぉ。
褒美の魚は準備が出来次第 迎えの者を遣わせよう」
「それなんだけど アリスはこう見えて品質を見極めるのだけは誰よりも優れててな。
一級品の候補だけ選んでくれれば 後はコッチで決める」
「ふむ…… ならそういう手配をしておこう。
いつでも新鮮な魚を食べられるよう 城には生簀があるからのぉ」
「それも 前国王が?」
「いや かなり昔からあるものじゃよ。
もっとも 改修されてはおるがの」
ふぉっふぉっふぉと自慢気に笑い 一足先に舟に乗ろうとしたが そこで変装していることを思い出す。
危うく斧戦士のまま帰るところであり いそいそと斧を下ろし上着と腰布を身から外した。
アメシスト改め国王が舟に乗ったのを確認し ドロテアも続いて舟に乗る。
「じゃあアリスは任せたね」
「うん」
「まさかとは思うけど ヘンな事はしないように」
「儀式とか?」
「……宿屋でやるなら それはそれでヘンだけど」
王を乗せた小舟が暗い海へと消え入るのを見送ったアルトゥロは アリスを起こさないようゆったりとした足取りで宿屋へ向かった。
───
「ん〜…… 頭がいたい〜……」
頭を抑えながら上体を起こすアリス。
窓から日光が射し込んでおり 外からは人々の活気溢れる声が聞こえる。
辺りをぐるっと見回し ここが宿だと認識するも 肝心の宿屋に入る記憶が無い。
寝ている内に担ぎ込まれたのだから 当然といえば当然ではあるが。
昨夜の記憶を掘り起こそうとするが カジノのバーで酒を煽っていたところからスッポリと抜け落ちてしまっている。
「……誰かいないの〜?」
改めて部屋の中を見ると アリス以外誰も居ないことがわかる。
酔った勢いで一人で宿に泊まってしまったのでは という考えが脳裏をよぎる。
だがそれは 部屋に入ってきた人物を見た事で杞憂に終わった。
「あっ やっと起きた?」
ドロテアが上体を起こしたアリスに声をかけ 皿にのせられた豚の生肉と水がたっぷりと入った革袋を差し出す
それらを受け取ったアリスは 渇いた喉を洗い流すかのように水を飲む。
喉が潤ったところで生肉に手を出し 口一杯に頬張っていく。
グールという種族上 屍肉や生肉以外は進んで食べるような真似は殆どせず アリスも例外ではない。
肉を食べている間 ドロテアから昨夜の出来事を聞き 自分がただ酔い潰れただけだと知った。
「──というワケだから 魚の選別はヨロシクね」
「任せてよ〜!わちきの目は誤魔化せない〜!」
口の中に詰めていた肉を飲み込み 荷物を背負って元気よく部屋を出た。
昨夜は酔い潰れていたとは思えない程に元気な姿を見たドロテアは やれやれと言わんばかりにアリスの後を追った。
───
再びフィンダミア城にやって来た三人。
既に話が通っているのか 検査を行うことなく城内へ通してくれた。
そのまま真っ直ぐ玉座へ向かい ポースミリア国王と顔を合わせる。
最初に会った時と雰囲気はさほど変わらないが その表情はどこか穏やかであった。
「ふぉふぉふぉ よく来たのぉ。
件の魚は既に選別は済ませておる」
「有能な兵士達ですな」
「皆 自慢の兵じゃからの」
国王がのっそりと立ち上がり アルトゥロ達を先導する為に歩き出す。
それに続くアルトゥロ達の横に 四人の親衛隊が挟む形で同行している。
暫く王の背中を追いかけていると 四方
海に面している隅の部分をくり抜いたかのような造りで なるべく自然に近い環境が保てるよう 海側の二面に穴を開けて網で魚の侵入・逃亡を防いでいる。
国王一行が生簀に来たのを見た兵は 一斉に敬礼する。
そして 命令されるよりも早く予め仕掛けてあった漁獲網を引き上げた。
海水が張ってある平らな木箱に網ごと置いて網を広げると 活きのいい魚がピチピチと跳ねては水飛沫を飛ばしている。
パッと見た限りでは 3~40尾前後といったところだろうか。
「さあ 遠慮せずにいくらでも持っていってもよいぞ」
アリスが目を輝かせて 食い入るように魚を見つめる。
その間 アルトゥロは剣を抜く許可を貰えるよう王に話しかけ ドロテアは大きめの鞄の中から五枚の大きめの木の板を取り出す。
トビアスが作ったという簡単に組み立てられる木箱で 余程の負荷を掛けない限りは壊れない程の強度を誇る。
手際よく板を組み立てて木箱を完成させると 生簀の海水を箱の半分を満たす程度にすくう。
厳選した魚を入れる準備は済み 抜剣の許可も得た。
後はアリスの選別が終わるのを待つだけ。
「うむむむ…… どれもこれもいいけど十匹までには厳選できないなぁ〜」
「十と言わずに 全て選んでも構わんぞい」
「せっかくだし ギルドの皆の分も持ってこうよ」
「う〜ん そうだね〜!」
アリスの判断の結果 選ばれたのは27尾。
大小様々であり 小さいものは
それらの魚を 組み立てた木箱に向きを揃えて並べるように入れる。
当然 魚はじっとしてくれず 狭苦しさを払うようにはね続ける。
そんな事はお構い無しにアルトゥロが剣を抜き 切っ先を木箱の水面に触れさせる。
くぐもった声で呪文を唱え 剣から白い霧が僅かに出たかと思うと 水も魚も木箱も一瞬にして凍りついた。
王と兵士は まるで手品を目にしたかのように驚き 中には感嘆の声を上げる者も。
「ほほう オヌシ 魔法を使えるのか」
「意外ですかい?」
「意外も何も そのナリで魔法を使うとは思わんじゃろうて」
もっともな正論を言われ 剣を鞘に納める
これで念願の魚は手に入った。
「長居は無用だし わっち達はこれでお暇するとしますか」
「王様〜 お魚ありがとうございます〜」
「アタシ達の為にムチャなお願いを聞き入って下さって 申し訳ないです」
「ふぉっふぉっふぉ お互い様じゃよ。
また何かあれば訪ねるとよいぞ」
「こちらを贔屓にしてくれるんなら」
「うぅむ そう来るかの……。
なら今後とも贔屓にしてやろうではないか」
(うん 冗談のつもりだったんだがなぁ)
───
城門に背を向け去っていく三人を見送る国王。
彼らの足はどのような地を歩き渡ったのか。
国外の世界を深く知らぬ王は 冒険者の足が羨ましかった。
王族という鎖に縛られ 城という名の檻の中で育った者にしかわからない 自由の価値。
いくら金を積んでも得られぬそれは 燦然と輝く太陽のように 手に届かぬ存在であった。
「………」
「陛下 書物の運搬が完了しました」
「……うむ」
踵を返し 城内へと戻っていく国王。
若き未来の王を育てるべく 今日から教育を施す事になっている。
「息子が王になったその後は……」
王の座から降りた自身の未来を想う。
「……馬車の御者なんか悪くないかのぉ」
各地を見るのに相応しい職につく姿を……。
─いつものプチ設定─
[アリス・モーラン]
職業:行商人
種族:グール
性別:女
魔法:自然魔法,具現魔法
触媒:ブーメラン
趣味:お喋り,酒を飲むこと
好きな物:上質な布,砂時計
嫌いな物:スケルトン,冷暗所
好きな食べ物:鳥肉全般,鳥のもも肉
嫌いな食べ物:肉と酒以外
自由気ままな行商人。
食べる為に狩りを始め 狩った獲物の食べられない部分をどうにかする為に商人を始めた。
とある商人の下で暮らすと共に商いの基礎を学んだお陰で 見た目の愛くるしさも相まって下手なパン屋よりも儲かっている。
彼女の使用しているブーメランは 金属の樹とも言われている木を使った三つ又の物であり 特殊な塗料で紋様を描いた自作品である。
木のような軽さでありながら鋼鉄のように硬く 紋様の効果である程度の魔力を触媒に保持させ 手元から離れても付与した魔法を持続させる事が出来る優れもの。
基本的には雷の自然魔法を付与して撃ち落としたり 具現魔法で刃物を形成して近接武器として使用したり。
当然そんなものを複数の獲物に当てたり キャッチしたりは出来ない。
育ての親であり師でもある商人から譲り受けた厚手の上着を着ているが その人物に合わせたサイズだった為 コートのようになってしまっている。
また オパールのアミュレットを大事に持っている。
[グールについて]
普段は夜行性であり 屍肉を好んで食べる種族。
地下にグールの集落なるものが存在するらしく そこに住んでいる種はかなり残虐であるという。
時折地下から這い出て人間を襲うと言われ グールに目を付けられたら最後 彼らの腹を満たす役目が待っている。
人間社会に馴染んでいるグールは逆に友好的な者が多く 食す物も動物の屍肉や生肉が基本である。
活動時間も他の種族に合わせている内に慣れてしまったり 青みがかった肌の色を気にしていたりなど 食を除けば恐ろしい存在でも何でもないと認識させられる。