レベルを上げて魔法で殴る   作:4416

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─いつもの設定─


[ウェルドの主な活動]

 実を言うと特に定まっていない。
 依頼が来ればこなし 依頼が無ければ探しに行ったり自由に過ごしたり。
 たまにギルドマスターのイヴェットが厄介事を持ってきたりもする。

 とにかくフリーダム。
 その為メンバーを揃えるのは一筋縄ではいかない。


[世界的な技術レベル]

 鍛冶は高水準。
 主にドワーフの貢献によるもの。

 大体の馬車には衝撃を緩和する機構が備え付けられている。
 また 道もある程度は整備されている。

 船舶に関して 船そのものは普通だが羅針盤が無い。
 その為 陸が見える範囲でしか航海出来ない。

 食物の長期保存を目的とした加工は 長年行われてきた事もあってか 様々な方法が生み出されている。
 保存食専門の店もある。

 飛空艇?
 そんなものはない。


魔法使いと無法者

 

「ここから出られると思うなよぉ?」

 

 アルトゥロ,ドロテア,アリスの三人は レッドコーラル海賊団に捕まり その賊達が根城とする無名の島に監禁されている。

 装備品や荷物の殆どは没収され 残されたのは衣類のみ。

 アルトゥロは兜は取られなかったものの鎖帷子すら奪われた為 もはや剣士としての威厳も面影も残されていなかった。

 

 波に打ち付けられて出来上がった天然の洞穴を中心に アリの巣のように掘り抜いた部屋があり その内の1つに三人は居る。

 アルトゥロ達を閉じ込めている木製の檻は壊そうと思えば壊せるが 常に見張りが居る上に見張りを伸したところで 島から脱出する手段が船しかない。

 海賊に捕まった時点で詰んでいるのだ。

 通常ならば。

 

 レッドコーラル海賊団は ここ最近勢力を増しつつある海賊であり 名前から察せる通り赤い珊瑚がシンボルである。

 団員は全て赤珊瑚を使ったアクセサリーを身に付けており 旗には頭蓋骨から髪の毛のように赤い珊瑚を生やしたマークが描かれている。

 ウェルドには シュマルド北部の海岸付近にある村を脅かしているレッドコーラル海賊団を まだ小さい内に潰してほしいとの依頼が約一ヶ月前に来ていた。

 当然 略奪に来る者だけを倒しても壊滅させられる訳でもないので アジトの場所の捜索及び偵察から始める事にした。

 そのような危険な任務は普通 誰もやりたがらないが その手の道に精通している者ならむしろ独占できる仕事ともいえる。

 

 アルトゥロ達は海賊に捕まっている訳だが そもそもなぜ生かして捕まえる必要があるのか。

 理由としては残虐極まりないが 無力な者をいたぶって遊ぶ いわば娯楽の為の消耗品として捕まえているのだ。

 彼らは法の外にいるならず者の中でも物理的に隔絶されやすい者達であり 活動領域の殆どは海上となる。

 その為 娯楽品はなかなか手に入らず 入手出来たとしても紛失・損壊しない訳ではない。

 粗野な性質故に奪ったり壊したりするのは日常茶飯事だが 作り出す事はあまり無い彼らは 頻繁に奪える中で要らない物 即ち人間を娯楽の道具として使えばいい といった考えに至った訳である。

 

「腹減ったなぁ」

 

「だから捕まる前に食べておけばって言ったじゃん」

 

 狭い檻の中では何も出来ず ただただ無駄に時間が過ぎていくのみ。

 ぼやきを聞いた見張りの賊が 此れ見よがしに干し肉を見せびらかしては大口を開けて旨そうに食べる。

 不自由な者に自由を見せつけるという地味ながら堪える嫌がらせを受けるものの 三人はあまり気にする様子は見せない。

 賊は薄い反応にあからさまに機嫌を悪くし 適当な石を拾い上げて か弱そうなアリスに向かって石を投げつける。

 投げられた石は檻の隙間を通り抜け 運悪くか賊の腕前が良いのか アリスの左腕に命中してしまった。

 

「いたぁい〜!

 暴力はんたぁい〜!」

 

 思い通りの反応を見られた賊はゲラゲラと笑い 悪びれる様子は微塵も感じられない。

 耳障りな笑い声をよそに 三人はただただ檻の中で無為な時間を過ごすしかなかった。

 

 外の様子も伺えず 何時間経ったかも判らない頃に 小太りの男性がのしのしと歩み寄ってくるのが見えた。

 その賊は見張りをしている方に一言二言言葉をかわし 入れ替わるようにして見張っていた海賊が檻の部屋を後にする。

 見張りの交代といったところだろうか。

 小太り海賊は部屋に他の仲間が居ないのを確認すると アルトゥロ達のいる檻に近付き ニヤニヤと笑みを浮かべて話しかける。

 

「武器を失った皆さァん。

 今から貴方達を素晴らしきファイターに仕立てあげまショォウ♪」

 

 そう言い放ったかとおもうと くるりと空中で後転し よろめく事なく綺麗に着地する。

 その男の手にはアルトゥロの剣,ドロテアのグローブ,アリスのブーメランが握られていた。

 太り気味の体躯からは想像し得なかったアクロバティックな芸だが アルトゥロとアリスは特に反応を示さず ドロテアは呆れた様子で見ていた。

 

「スタイリッシュなヘルムの貴方には剣をォ。

 ビューティフルなエルフにはグローブ キューティクルなグールにはブーメランがお似合いデスねェ」

 

 飄々と振る舞いながら順に武器を渡していき 鍵としての役割を果たしていない錠を外す。

 全ての鍵を解錠し終えると 懐からカードの束を取り出し 一枚だけ引いて絵柄を三人に向けて見せる。

 引いたカードはタロットカードの星。

 

「遠くない未来で 希望という名の絶望が襲来してくるでショォウ。

 これを吉と見るか凶と見るかは貴方次第デェス……」

 

「それ アタシのカードじゃん」

 

「おやおや 貴方のでしたカァ

 お返ししまショォウ」

 

「……どうも」

 

「うん 相変わらずのピエロだな ジェフリー」

 

 ジェフリーと呼ばれた男はにっこりと笑みを返す。

 彼もまたアルトゥロ達と同じギルドに所属する者である。

 賊に成り下がった訳ではなく 賊に変装して内部の情報を取得し 攻め入る機会を窺ってきた。

 三人が捕まったのはわざとであり 内側から潰すための経路として利用したに過ぎない。

 

「さて そろそろ時間だと思うのデスがァ……」

 

 ジェフリーが呟いたと同時に 外からけたたましい音が鳴り響いた。

 身体の芯まで震える低い音は 巨大な生物の咆哮のようであり その音に続いて賊の喧騒も聞こえてきた。

 慌てふためく海賊とは対照的に四人は落ち着いており 特に行動を起こす素振りは見せない。

 そう時間が経たない内に賊の一人が息を切らしながら檻の部屋に転がり込んできた。

 

「ど ドラゴンが襲ってきた!

 お前も加勢してくれ!」

 

「わかりやしたァ!」

 

 ジェフリーは瞬く間に荒々しい賊の演技に切り替え 助太刀を求めた海賊と共に外へ駆け出ていく。

 その際に 残った三人に向けて筒状に丸めた紙を投げ捨てた。

 周りに賊の気配がないのを確認したアリスは 檻からそっと出て地に落ちている紙を拾う。

 それに続いてアルトゥロとドロテアも檻の外へと出て 広げた紙を覗き込む

 

「ん〜 この島の見取り図みたいだね〜」

 

「ほうほう ここがこの位置で 向こうに奪われた物があると」

 

 事細かに書かれた図は 居住区域や戦利品の保管場所 島の地上へ続く道までも確認できる。

 また 紙の余白にはレッドコーラル海賊団の構成人数も記されており 彼の情報収集の丁寧さには過去に何度も救われている。

 少しの間 見取り図と睨み合いを続け まずは敵の勢力を減らす事に決めた。

 現状 賊達は襲来してきた竜と戦ってはいるが はぐれ者とはいえ全員が脳無しの力馬鹿という訳ではない。

 戦いの最中で学習し 効率よくダメージを与え 被害を抑える事も有り得るだろう。

 

「途中でダレかとバッタリ会ってしまったらどうする?」

 

「うん そりゃあ張っ倒すぐらいしか」

 

「後ろから刺されても困るから ちゃんと気絶させておかないと〜」

 

「殺しはしないのか」

 

「だってぇ マズそうだし〜」

 

「そっちか」

 

 

───

 

 

 レッドコーラル海賊団の根城 名も無き島の現状は混沌としていた。

 突如として襲撃してきたのは 50フィート(約15m)は優に超える 巨大な蛇に二本の角と二対の脚が生えたような海竜。

 水に濡れた鱗が日光で反射するその姿は 神々しさと同時に強大な生物であると認識させるには充分だった。

 人一人を羽虫のように容易く踏み潰せる脚を地に叩きつけ 教会堂の鐘の音をも打ち消しかねない咆哮で賊の戦意を削ぐ。

 

 しかし海賊達も怖じけてばかりではない。

 民の恐怖となる者どもが恐怖で挫けるなど笑い話にしかならない。

 ならず者ならではの意地で気を奮い立たせ 剣を握り 果敢に海竜へと突っ込んでいく。

 効いているかは分からないが 鬱陶しく感じた竜は脚元にいる賊を前脚で振り払う。

 鋼のような爪に薙ぎ払われた海賊はいとも簡単に吹き飛んでしまい 草地に叩きつけられる。

 柔らかい地面とはいえ 彼らを襲った衝撃は吸収しきれず その場にうずくまる者や気を失った者もいた。

 

「よしよし イイ子にしてなよォ……」

 

 遠巻きで見ていたジェフリーは 海竜の討伐に参加する意思を見せずにいた。

 それもその筈 彼はテイマーであり 海賊と戦っている竜は彼が飼い慣らした生物だからである。

 

 本作戦の概要は アルトゥロ達がわざと捕まり 島内に侵入したところで海竜に襲わせ 海賊達が混乱している隙に締め上げるというもの。

 更に団員の半数が海に出ているところを狙うオマケ付きである。

 

「……そろそろ来ていい頃合いだがァ」

 

 そう呟いた直後に 後ろから足音が聞こえてきた。

 振り返ると 見覚えのある顔が二つ 見覚えのある兜が一つ見えてくる。

 途端にニコニコと笑いを浮かべ 待っていたと言わんばかりに腕を広げ 歓迎の意を表した。

 

「皆さん ここに来るだろうと思い お待ちしていていまシタァ」

 

「うん 挨拶は後だ。

 とりあえず あの賊を全員倒せばいいんだな?」

 

 戦意を顕にしているアルトゥロは 既に剣を抜いて刀身を青白く発光させている。

 更に僅かに浮いており Goサインが出れば真っ先に突っ込んで行きそうだ。

 

「ええ 前半戦は海竜との共闘デェス。

 私も微力ながら参戦させていただきマァス」

 

 その言葉を聴くや否 地を滑るようにして海賊の群れへと飛んでいく。

 彼としては腹が減ったから早く終わらせて早く腹を満たしたいのかもしれない。

 すぐさま賊へと向かったアルトゥロを見たアリスは それに負けじと駆け出していく。

 

「まったく あの二人は……」

 

「いつもと変わらない様で 安心しまシタァ」

 

「アンタはいつも変わりすぎだけどね。

 じゃ アタシ達も行くよ」

 

「えぇ 参りマスか」

 

 ドロテアは拳を握りしめ ジェフリーはバトンを二本取り出し 海竜と海賊の戦地へと走り出した。

 

 

───

 

 

 島に一時の平和が訪れるのに そう時間は掛からなかった。

 不意を付いたアルトゥロとアリス。

 その二人に加勢したジェフリーとドロテア。

 捕まっていた筈の三人に加え 仲間である筈のジェフリーが襲ってきた時は 流石の賊も対処できずにあっという間に制圧された。

 特に海賊達にとって大打撃だったのは 仲間だと思っていたジェフリーが最初から敵だったという事だろう。

 

 しばらくしてからレッドコーラル海賊団の船が宝を積んで帰ってきた。

 ジェフリーにとっては鴨が葱を背負ってやって来たようなものだが。

 島に近付いたところを乗り込み 有無を言わさず制圧する姿は どちらが賊なのかと思わせる。

 何より 不意打ちは汚いと叫んだ海賊の一人を 二発目は不意じゃないという暴論で伸したのは如何なものか。

 

 先程の戦闘で多少傷付いた海竜を 心体魔法で手当てするジェフリー。

 竜は喉を鳴らして鼻先を擦り付けてジェフリーとじゃれ合う。

 一応 微笑ましい光景である筈なのだが 捕食一歩手前に見えなくもない。

 

「よしよしよォし 戦闘ご苦労サマァ。

 治療完了ゥ 行ってヨォシ」

 

「コイツで最後 かなっと」

 

 ロープで海賊達を縛り上げたところで アルトゥロとアリスは賊の戦利品が置いてある部屋に向かい 各々の荷物を探し出してはそれを回収していく。

 アリスは大きな鞄の中を確認し アルトゥロは剥ぎ取られた鎧を身に付けていく。

 

「うん 思ったよりもお宝があるなぁ」

 

「どーする〜? 全部奪っちゃう〜?」

 

 宝の山にめぼしい物がないか探す二人。

 金貨に宝石 食料品や酒 その他価値のある物がゴロゴロと出てくる。

 その中に 明らかに異質な物体が姿を現した。

 それは黒い宝石にも青い金属にも見える 手のひら大の楕円形の石。

 青だと認識すれば黒く見え 黒に見えたかと思いきや青色に見える。

 まるで深海を眺めているかのような錯覚に陥る 不思議で不気味な物体だった。

 

「なにこれ〜?」

 

「青 いや黒い……じゃなくてやっぱり青……でもない。

 何だこれ」

 

 ずっと見つめていると石に吸い込まれそうになる。

 そんな感覚に包まれ アリスは持っていた石をうっかり落としてしまい 石は音もなく割れてしまった。

 慌てて落とした場所を確認するが まるで最初から何も無かったかのように欠片が一つも見当たらず 跡形も無く消えていた。

 

「……あれ〜?」

 

「うん 欠片の一つも残ってないな。

 結局何だったんだろう」

 

「惜しいことしちゃったな〜

 絶対高く売れたのに〜」

 

 がっくりと肩を落とすアリス。

 しかし次の瞬間には宝探しを再開する。

 無くした宝石より目の前の原石。

 彼女自身が生み出した格言をもとに行動する。

 

「あの石 どこかで見た事あるような……。

 ……覚えてないって事は大した事じゃないな」

 

 

───

 

 

「ほいっと これで全部だな」

 

 海賊船に宝と賊を積み込み終えた一行。

 当初は全てを載せようとしたが 量が多く沈没しかねないので 軽いものを中心に選別して載せていた。

 

「海賊旗取れた?」

 

「取れたよ〜」

 

 マストの頂点にこれみよがしにたなびかせていた旗を外したアリスは 下にいる仲間にヒラヒラと見せてアピールしている。

 海賊旗そのものに価値は無いが 布としてなら十分な値が付く。

 賊のシンボルマークを集めている物好きな人がいない訳でもないが……。

 

「で 陸はどっちだ?」

 

「ここから南へ進めばァ シュマルドの港町に着くデショォウ。

 南は向こうデスねェ」

 

 海賊に扮していたからか 海上での知識と技術を披露するジェフリー

 彼の指示通りに従えば難なく辿り着く……かと思いきや

 

「ンー 人手が足りませんねェ」

 

 そこまで大きい帆船ではないが 操縦するのに四人では厳しい。

 賊を起こして無理やり手伝わせる手もあるが 手と足を自由にさせないといけない分 反逆されるリスクが発生する。

 船を動かしながら監視するというのも流石に無理があり それに何より大人しく言うことを聞く保証がない。

 どうしたものかと考えること数分。

 

「アルが引っ張ればいいんじゃないかな〜?」

 

「馬鹿言え わっちを過労死させるつもりか。

 牛や馬じゃあるまいし」

 

「引っ張る……。

 ジェフリーの海竜なら出来るんじゃない?」

 

「フム……確かに可能かもしれませんネェ。

 少し聞いてみまショォウ」

 

 ジェフリーは手品よろしく 何も無い空間から笛を取り出し 海に向かって吹く。

 非常に高い音を発する笛の音は海中にまで響き渡り すぐさま彼の手懐けている竜が海面から顔を出した。

 人と竜が会話する奇妙な光景が目の前にあるが 皆にとってはよくある事に過ぎない。

 

「試してみると言ってマァス。

 角に錨綱を結んできますので 少々お待ちクダサァイ」

 

「ごゆっくりー」

 

 

───

 

 

 緩やかに雲が流れる青い空。

 甲板を撫でるように吹き抜ける潮風。

 横になって目を瞑れば 瞬く間に眠ってしまいそうな穏やかな海をのんびりと行く。

 

「干し肉美味い。

 何の肉だろ?」

 

「このピクルスもなかなかイイね。

 マンドレイクの葉かな」

 

「おにく〜 おにくぅ〜」

 

「今朝捕らえたウミツバメで良ければドウゾォ」

 

 海賊の食料を用いてささやかな食事会を楽しむ一行。

和気あいあいと食べ進み ジェフリーが海賊団に居た頃の話を語る。

 やはり娯楽の少ない海の上では 些細な出来事も楽しげに感じるというもの。

 彼の話に耳を傾けない者はいなかった。

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎ 無事にシュマルド北部の港町 ヴァニールに到着した。

 見かけない船を目にした人々が徐々に集まり 捕まえた海賊を船から降ろす頃には異邦人を迎えるかのような騒ぎとなっていた。

 しかし 賊を捕らえた一行だと知るとすぐさま離れていき いつも通りの港町の風景に戻っていった。

 

 一人 また一人と海賊を降ろしていくものの 全員が全員素直に従う訳ではない。

 その場合は無理矢理引っ張っていったり 大きな麻袋を担ぐようにして運んだり 魔法を使って気絶させたり。

 

「数が多いなぁ。

 誰か詰所に行って応援呼んでくれない?」

 

「じゃあ アタシが行ってくる」

 

「わちきも行きたい〜」

 

「海賊の見張りは 私達に任せてクダサァイ」

 

 ドロテアとアリスが詰所へ赴き 残ったアルトゥロとジェフリーは海賊達を船から降ろす作業を再開する。

 ならず者で構成された集団は 改めてよく見ると種族がバラバラであり 善と悪はどの種にもあると考えさせられる。

 

 殆どの賊を運び終え 残り一人となったところでジェフリーが最後は自分に任せてほしいと提案する。

 アルトゥロは特に追及すること無く二つ返事で了承し 適当な干し肉と蜂蜜酒を持って船を降りた。

 

「……今日でお別れですから 挨拶はしないとォ」

 

 さっきまでの道化じみた喋り方ではなく 丁寧でありながらどこか突き放すかのように冷たい口調で独り言を呟く。

 船室内の狭苦しい階段をゆっくりと降り 残った人物の元へと静かに歩み寄る。

 薄暗い部屋からでは分かりづらいが 何度も見てきたジェフリーはその賊が誰なのかしっかり判別している。

 その海賊は 蛇のような頭に 全身を褪せた緑色の鱗で纏い 手足には強固で鋭い爪が生えており 円錐状の尻尾を持った まるで蜥蜴がそのまま二足歩行に進化したような容貌である。

 

「やあ 船長。

 そろそろ陽の光をォ浴びたいかいィ?」

 

「……いや テメェの血を浴びたい気分だなぁ」

 

 船長と呼ばれたリザードマンの男は 軽い冗談を飛ばしたジェフリーをキッと睨みつけ 少なくともジョークではなさそうな返答をする。

 手足を縛るロープが無ければ 言葉通り実行していただろう。

 

「ルイスよぉ…… テメェは何をしたのか分かってんのかぁ?」

 

「ルイス……?

 嫌だなァ ボクにはジェフリーっていう穢れなき名前があるんだよォ」

 

「……じゃあジェフリー なんでオレらを裏切った?

 今まで団に貢献してきたテメェがよぉ!」

 

 声を張り上げ 怒りを露わにする船長。

 返答次第では何を仕出かすかわからない。

 ジェフリーはそう感じるも 敢えて飄々と振舞って質問に答える。

 

「そんなの簡単さァ

 ボクは元々彼らの仲間ァ ですからァ」

 

「………」

 

「裏切るゥ? ボクは最初からァ敵だったんだよォ?

 貢献ン? ボクはただ真面目に仕事をこなしていただけェ」

 

「……このクソ野郎がァァアアア!!」

 

 怒号と共に勢い良く飛び掛るリザードマン。

 鋭い歯がズラリと並んだ口を大きく開け 首元にまで差し掛かったところで力任せに噛み砕く。

 筈が 顎を閉じる事が出来なかった。

 船長の動きを阻害していたのは ジェフリーが持っていたバトン。

 つっかえ棒のように口の中に押し込まれており いくら力を込めようともビクともしない。

 焦りが顔に浮かぶのを見たジェフリーは 最後まで表情を崩すことなく二本目のバトンを取り出す。

 

「日光浴はお預けェ

 脚光を浴びる為にィ更生するのをオススメするよォ」

 

 その言葉と共に 取り出したバトンに魔力を注ぎ リザードマンの額に当たる部分に優しく押し当てた。

 力が流れ込んでくるような 力が抜けるような感覚に陥った船長は 抵抗する暇も与えられずに意識が途切れた。

 

 

───

 

 

 捕らえた海賊は港町の兵に任せ 四人はウェルドのギルドハウスへと戻った。

 そこにはいつも通りギルドマスターのイヴェットとお抱え同然の職人のトビアス 更にスタルニル教の司祭 ビトもその場に居合わせており 謀らずもギルドメンバーが集合していた。

 せっかくの機会ということで 軽いパーティを開くことを提案したアリス。

 その案に乗らない者は誰一人として居らず 各々がパーティの準備を始めた。

 

 鮮魚の配達の依頼の際に余った魚と 大量に仕入れた牛肉を使って料理を作るドロテアとトビアス。

 祝い事には欠かせない酒の為 選別したワイン樽を運び出すイヴェットとアルトゥロ。

 少しでも華やかになるよう 様々な物を使って室内を飾り付けるアリスとジェフリー。

 広いだけが取り柄の机もここぞとばかりに活躍し 眺めるだけで涎が溢れ出そうな料理がズラリと並べられる。

 皆が席に着いたのを確認したビトが音頭を取り それを合図にそれぞれパーティを楽しみ始めた。

 

「やっぱりご飯は皆と食べるのがおいしい〜」

 

「行商人という職業柄 皆と離れる時間のが多いからね。

 まあ 滞在期間が短すぎるせいでもあるんだろうけど」

 

「お宝は待ってくれないんだよ〜?

 誰かが手にする前にわちきが手に入れるのが〜 ポリシーなんだから〜!」

 

「うん なんなら護衛として同行しようか?

 今なら格安で請け負ってやろうじゃないか」

 

「仲間からふんだくってどうするのよ」

 

「その時は私も同伴しましょうか。

 もっとも 相応の見返りを求めますが……」

 

「オレは無償で請け負うっスよ!」

 

「なんで金の有無が前提になってるのさ……」

 

「いいじゃないかァ。

 楽しい事は金で買えないってものさァ」

 

「あなた人を楽しませるのが仕事でしょう ジェフリー」

 

「お金は向こうから勝手にくれるゥ。

 即ちィ 商売じゃあなァい」

 

 冗談を交えつつ 短くも楽しい食事会を堪能したウェルド。

 この時間が終わるのを惜しむ者はいない。

 また集まれば楽しめるのだから──

 

 

 

「あっ また依頼完了の報告するの忘れた」




[ジェフリー・ウィルミントン]

職業:軽業師
種族:ヒト
性別:男
魔法:重力魔法,心体魔法,具現魔法
触媒:バトン
趣味:手品,曲芸
好きな物:有益な情報,広場
嫌いな物:狂信者,ステンドグラス
好きな食べ物:野菜類,ヴルストと野菜たっぷりのポタージュ
嫌いな食べ物:パン,小麦粉を使った料理

 笑い笑わせる愉快な道化。

 何かと多芸で あちこち潜伏しては情報を得てくる。
 一人称も口調も容姿もコロコロ変えるが「〜ですよォ」「〜だねェ」と 少し伸ばす癖がある。
 特にどこかに潜んでいない場合は 道化師のような見た目に変装し 使役している動物と共に曲芸に興じている。

 ウェルドに加入する前は小規模ながらも有名な曲芸旅団に所属し そこで様々な技術の手ほどきを受けていた。
 あまり似つかわしくない勤勉な性格も相まって 芸だけではなく動物の手懐けや魔法も習得した。

 現在 彼を主と認めて主従関係にある動物は リンドヴルム(大海蛇)の変異種 鷹 サラマンダー(火蜥蜴)など。
 各個体毎に呼び出す方法を決めているらしい。

 ピエロのメイクを施す際に ラピスラズリを混ぜ込んだ顔料を使用するのが彼のこだわりらしい。


[メンバー毎の主な活動内容]

─アルトゥロ・トールマン─
 雑用だったり戦闘だったり。
 たまに魔導書の解読・翻訳をしている。

─ドロテア・ヘガティ─
 アルトゥロ同様 いろいろこなす。
 植物の鑑定が得意で たまに山ほど持ってきては頼まれる。

─ビト・ボールト─
 普段は司祭として教会に行ったりきたり。
 気が向いた時にウェルドに顔を出す。

─トビアス・ハンフリー─
 製作なら何でもござれ。
 依頼の為 結構な頻度で材料を採りに行く。

─イヴェット・バーレイ─
 何をしてるのかは不明。
 上流階級と思われる者からの依頼を引っ掴んでくる。

─アリス・モーラン─
 行商人として各地を行き交う。
 依頼をこなすというより 誰かが望んでいる物を持っていたら売るといった感じ。

─ジェフリー・ウィルミントン─
 敵がいれば潜入して情報収集。
 いないなら街に溶け込んでこれまた情報を集める。
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