レベルを上げて魔法で殴る   作:4416

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 豆知識:魔物をはがねのつるぎで殴り続けると死ぬ。

[いろんな食べ物]


─スライムゼリー

 スライムといえば あのプルプルした弱いモンスターというイメージが強い。
 しかしこの世界ではなかなかの強敵であり 物理攻撃は全く受け付けず 素人が手を出すと返り討ちに なんてことも。
 しかし 一部を除くスライムは急激な温度変化に弱く 火を用いて相手をするのが一般的である。

 そんなスライムだが 水を吸収する特性を持っており なんと水を多く吸ってゼラチン質になった物は食用になる。
 基本的には溺死させるなり餓死させるなりして そのままスライムを大量の水が入った槽などに入れて 一週間放置する。
 そうして膨れ上がったスライムの水気を切り 内蔵を取り除けばスライムゼリーの出来上がり。
水を吸わせる段階で フレーバーとして果実や香草を入れるアレンジも。

 スライムゼリーはいくら食べても太らないとして 主婦やグルメに人気がある。
 反面 いくら食べても力が出ないとして 冒険者や労働者は滅多に手を出さない。


─カプラータサーモン

 オーヴィネポリ国内にある港町 カプラータで捕れる希少価値の高いサケ。
 水色に輝く美しい見た目が特徴的で 味も大変美味な上 滋養強壮に優れている。
 しかし 捕れる数が非常に少なく 地元の者でもそう簡単に味わえるものではなく 流通量も極少数。

 昔 まだ無名の小さな漁村だったカプラータに訪れた旅人が 運良くカプラータサーモンを味わったところ その味に涙を流すほどに心打たれ 町おこしを提案したという。
 旅人や村人の努力の甲斐あって 村の評判は右肩上がりとなり 胸を張れるほどの港町へと様変わりした。
 漁師をはじめとした住人は 旅人に感謝と敬意を込めて カプラータサーモンを掲げる旅人の像を造り 今では街のシンボルとなっている。

 ちなみに ニセカプラータサーモンというサバがおり 地元の方ではダモンという俗称で通っている。
 姿形はそっくりだが 味はサバそのもので不味くはないものの そこまで価値のある物ではない。
 見分け方として 尾ビレと口が尖っているのがニセカプラータサーモン 丸いのがカプラータサーモンである。


─ウィシャート・ビスケット

 エルフ族に伝わる 一つ食べただけでたちまち疲労が回復し 24時間休むことなく動き続ける事ができるという携帯糧食。
 ……を元に エルフ族の中では変わり者の料理人として知られていた クリスティアナ・ウィシャートが考案した焼き菓子。
 大麦粉,蜂蜜,バターを混ぜ合わせて二度焼きしたものであり 素朴ながらも優しい味として人気がある。
 現在では各国の家庭にレシピが知れ渡っている。

 アレンジが効きやすく 砕いたナッツ類 果汁や果肉を加えたり 材料の量を調節して好みの食感にするなど 様々な方法がある。
 子どものおやつには当然のこと 冒険者の携帯食料や作業中につまむものとしても有用であり 湿気を防げば保存も効く。

 ちなみに考案者のクリスティアナは 当初は『スーパービスケットハニーショット』という名前にする予定だったが 周りの人が猛反対したため 仕方なく自分の名を使った『ウィシャート・ビスケット』にしたとか。


─マンドラゴラ

 マンドレイクとも。
 この世界では魔物と植物の複合系にあたる方のものであり 引き抜くと悲鳴を上げ それを聞いてしまったものは死に至ると云われている。

 そんなマンドラゴラも食用になり 早い話が引き抜かなければいいという理論で茎の根元を刈り取るのが主流である。
 何らかの方法を用いて根を引き抜いたとしても 人間のような形からか食べられる事はなく 仮に美味だったとしても わざわざ死と隣り合わせになってまで引き抜く価値があるのかどうか……。
 珍味を求める人ならば根を食すだろうが 引き抜く物好きがいないために味わった人は皆無である。

 マンドラゴラの近縁種として ニセマンドラゴラがあり 更に姿形はそっくりだが遠縁のマンドラゴラモドキが存在する。
 ニセマンドラゴラはアクが強く 味も悪いため食用には向かない上にマンドラゴラと瓜二つ。
 見分ける方法として 花の色が寒色なのがマンドラゴラ そうでないのがニセマンドラゴラである。
マンドラゴラモドキは毒を持っており 摂取した場合は嘔吐や身体の痺れ,幻覚症状が現れ 量によっては死に至る。
 花の色も寒色系だが 葉の形が違うのでそこで見分けられる。
 (マンドラゴラモドキは実在する) (マンドラゴラがモデルだったりする)


─トレントの果実

 意思を持ち 人のような形をしている樹木から成るという果実。
 鮮やかな黄と緑のグラデーションが美しく 大きさと形は林檎とさほど変わらない。
 実の成る数は個体差があり 樹齢およそ百年から五百年のトレントが実を付けやすい。

 通常 トレントは成った果実には一切手を出さず 落ちたとしても場所が悪く位置を変える程でもない限りは触れることすらしない。
 あくまで自然の一部として関与せず 実を奪おうとする輩が向かってこようものなら容赦なく迎え撃つ。
 心を許した相手にのみ 種を返しにくるという条件付きで果実を譲ると云われており 果実のためにトレントと親密になろうとする者が後を絶たない。
 だが トレント特有の遅すぎる口調と悠長にも程がある会話に耐えきれずに殆どの者が諦める。

 トレントの果実は肉厚かつジューシーであり 力強くもどこか爽やかな いわゆる『自然』を凝縮したような味わいだという。
 極稀に裏で出回る事があるが 大体は偽物であり 仮に本物だとしても売り手は種を手放す 即ちトレントとの約束を破るということになる。
 一応 種を取り除いた物を売るという手もあるが いちゃもんをつけられたり傷みやすくなったりと 自分で食べるよりも旨みがない。
 高値で売れるとはいえ トレントと表向き親しくなるのに時間を割くぐらいなら まともに働いたほうがずっと有意義である。


魔法は法にあらず

 

 

 人の通りが多くない昼下がり ウェルドのギルドハウスにて アルトゥロとドロテアは暇を持て余していた。

 依頼も用事もなく 大麦のパンにキャベツとチーズを挟んだものを食べながら チェスに興じて暇を潰す。

 しかし それすらも飽きつつある。

 

「……うん なんかもう 考えるのも面倒になる」

 

「コレで何回目だっけ?」

 

「五回目かな」

 

 思考を放棄して適当に駒を動かし ただただ駒の取り合いを続ける二人。

 盤上の駒が簡単に数えられる程にまで減ってきたあたりで 不意にギルドハウスの扉が開かれる。

 ギィッと木が軋む音と共に現れたのは 新緑色を基調とした法衣を身に纏った いつも笑顔を絶やさない男性の司祭 ビト。

 扉をそっと閉めて 暇人と暇人がいる方へのんびりと歩み寄り 笑みを崩さず挨拶をする。

 

「こんにちは。今日は絶好のお散歩日和で」

 

「やあ」

 

「……先に言っておくけど ココから出たくないワケじゃないから」

 

「いえいえ 留守を任されていることぐらいはわかりますよ。

 だからこそ此処に来たのですから」

 

「うん?」

 

 何のことやらと思い 彼がここに来た理由を考える。

 単なる話し相手が欲しかったのか 寄付を募っているのか。

 直ぐに思い浮かんだのはこの二つ。

 しかし 予想はどちらも外れることになる。

 

「あなた方に 私の依頼を受けてほしいのです」

 

「依頼? アンタが?」

 

「正確には私 ビト・ボールトとしてではなく スタルニル教からの代表者として ですが」

 

「うん 何だ? 何か盗まれたのか?」

 

「おや 察しが良いようで」

 

「え? マジで?」

 

 冗談半分で言葉を出すも まさかの当たりに正解者自身が驚いてしまう。

 驚くのも無理はないが 重要なのは正解ではなくその先。

 宗教関係で何かが盗まれたとなると 事は重大であるのは想像に難くない。

 

「『五つの聖柄』はご存知ですね?

 その内の一つ 風を生み出したとされる『輝きの翔旗』が盗まれましてね」

 

「よりにもよって聖遺物が盗まれるのね……」

 

「実は犯人や盗まれた物の場所は判っているのですが……」

 

 言葉に詰まるビト。

 長い間付き合ってきた二人には 言いたい事が判らない訳ではない。

 こういう時は大体 聖職者らしかぬ言葉を使いたくない時である。

 

「実力行使で奪い返したいとな」

 

「平たく言うとそうなりますね。

 何せ相手は()()()()貴族の方ですから」

 

「……あー そういう事ね」

 

 何かを察したように ややうんざりとした表情をするドロテア。

 対してアルトゥロは気にすること無く質問をぶつける。

 

「その貴族 というか犯人はどれを信仰してるんだ?」

 

「スタルニル教ですよ」

 

「うん?」

 

「えっ?」

 

 ビトが嘘を言っていないのなら スタルニル教が管理している聖遺物を スタルニル教徒に奪われた ということになる。

 そうだとしたらとんでもない罰当たりな行為である。

 頭が混乱している二人を見たビトが マイペースながらも情報を付け加える。

 

「おっと 言葉足らずでしたね。

 お相手は土の精霊神に一途なようでして 土と正反対に位置する風を非常に嫌っていました」

 

「……あぁ つまり 風なんてクソくらえと旗を奪った訳か」

 

「仰る通り どうにも我慢ならなかったようで」

 

「……というより 何でそんな細かい事まで知ってるの?」

 

 犯人の情報がやたら詳しい事に疑問を抱いたドロテア。

 その言葉を聞いたビトは 懐から三枚の紙を取り出し 机の上で広げた。

 そこには 少なくとも正気の状態で書いたとは思えない ガタガタに歪んだ字で書き連ねてあり 文を深く読まずとも脅迫の類いである事が伺える。

 自己顕示欲が強いのか 自身の名は勿論の事 信仰してからの年数までも書いてあり 更には宗教には関係ない奴隷と使用人の数や貯蓄額も確認出来る。

 

「うわっ ナニコレ」

 

「うん 普通じゃないようだ」

 

「実はこれでもほんの一部なんですよ。

 これが朝に 山のように積まれていたのですから」

 

「なにそれコワい」

 

「全く 紙の無駄遣いは許せませんね。

 ……おっと つい本音が」

 

「それが本音なのか」

 

 少なくとも相手が話し合いで平和に解決出来る人物ではないと判り 確かに実力行使もやむを得ないと考える。

 他にやり方はある筈だが 相手は貴族。

 権力でねじ伏せてくる事も考えれば やはり力にものを言わせる方が手っ取り早い。

 

「で なんでアタシ達に頼むの?

 こういうのは憲兵とかに任せた方がいいんじゃない?」

 

「確かに 彼らなら事後処理も承ってくれるでしょう。

 しかしですね 私情で申し訳ないのですが……」

 

 一旦口を紡ぎ 一呼吸置いた。

 相変わらず笑顔のままであり 心情が察せない。

 ビトは人当たりのいい笑みのまま 言葉を続ける。

 

「個人的に制裁を与えたいものでしてね。

 改心とまではいかずとも 自身が犯した罪を認識させたいのです」

 

「……ハァ~ そういう事ねぇ。

 そりゃ司祭が同行しようとしたら 足でまといだと思われるだろうし」

 

 ビトが二人に依頼した理由も判明し 後は犯人のもとへ向かうだけ。

 穏便に済まされない事も考慮して 入念に準備するその前に。

 

「うん で いつ行く? わっちも同行しよう」

 

「もちろん 今すぐにですよ」

 

「ヤッパリね……」

 

 何かと慌ただしい準備になりそうではある。

 しかし 文句を言えども改善する訳ではない。

 

「時は金なり と言いたいところですが 今回ばかりは勝手が違いますからね。

 燃やされても不思議ではありません」

 

「うん とっとと準備してとっとと向かうか」

 

「そうだねー」

 

 

───

 

 

 広大な土地に豪華絢爛な屋敷が建てられているのは珍しいといえば珍しいし 珍しくないといえば珍しくない。

 領主の趣味趣向がそのまま出る為 余程変わったものでもない限りは驚くことはない。

 質素な造りでも 金箔で輝いていても。

 

「………」

 

「……ココで合ってる?」

 

「ええ 合っていますよ」

 

 アルトゥロとドロテアは言葉を失っていた。

 広い庭……と思われる所は草の一本も生えておらず 土が剥き出しになっている。

 庭を取り囲む柵は全て石で出来ているが 煉瓦造りでもなければ宝石が埋め込まれている訳でもない ただの石の柵。

 何より目を引くのが 申し訳程度に木は見えるものの 殆どが岩で出来た三階建ての家。

 土 石 岩──。

 農民でももう少しまともな家に住んでいると思わせる程に異様であった。

 

「……もう なんというか 石 だな」

 

「……石 だね」

 

 まさかここまでとは思っておらず 入るのを躊躇ってしまう。

 しかし ビトが物怖じすること無くずかずかと進んでいき それを追う形で二人も続くことになる。

 

「チョット待ってよ。

 アンタはこの家見て何も思わないの?」

 

「そうですねぇ……。

 ここまでするとなると 風を嫌うのは当然のことでしょうね」

 

 思ったことをそのまま言うと ドロテアは呆れたと言わんばかりに溜め息をつく。

 それらのやり取りをよそに アルトゥロが剣を抜いて冗談交じりに提案する。

 

「この屋敷 崩してもいいか?」

 

「イヤイヤ ダメでしょ!

 旗まで下敷きにするつもり!?」

 

「うん そうか それもそうだな」

 

「それに奴隷とかもいるワケだし 流石に放っておくのも……」

 

「えぇ 聖遺物と罪無き人々の安全を確保してから崩しましょう」

 

「………」

 

 罪無き人々 という点を強調するように言い放ち 扉の無い入口を通る。

 玄関には土塊同然の壺や皿があり 見ようによっては土器と間違えてもおかしくない。

 通常 上流階級の屋敷の玄関は 豪華に魅せるために飾り立てるのだが 家主にとってはこれが最高のコーディネートなのだろう。

 

「プライベートルームは二階にあると相場が決まっています。

 まずは聖遺物の確保を優先しましょう」

 

「うん」

 

 奥へ進み 手すりのないいびつな石造りの階段を上る一行。

 岩が崩れやしないかと不安になりつつも二階へ辿り着き 手当たり次第に部屋を見ていく。

 階段に近い手前の部屋には 特に何も無い岩肌の空間であり 目立った痕跡はない。

 

「うん 何かが隠されてる訳でもない と」

 

「ここは空き部屋のようですね」

 

 詳しく調べるも芳しい結果は得られず 足早に次の部屋へ向かう。

 二番目の部屋には使用人と思われる女性数名が横になっていたり座り込んでいたりしており どれも表情に生気が感じられない。

 それを見たドロテアが慌てて駆け寄り 女性達に声をかける。

 

「どどど どうしたの!?

 ダイジョーブ!? 意識ある!?」

 

 使用人は最初は見向きもしなかったが 奥の壁に背中を預けていた人が力なく立ち上がり フラフラと歩み寄る。

 そして ドロテアの近くまで来たかと思うと 倒れるように縋り付き 目に涙を溜めてか細い声を絞り出した。

 

「……けて……。たすけて……ください……」

 

「えっと いったい何があったの?」

 

「たすけて……。たすけて……」

 

 女性はただただ 助けてと懇願するばかり。

 どうしようかと迷っていると ビトが横から口を挟む。

 

「どうもこれは 満足に食べる事が出来ていないようですね。

 飢餓に苦しむ人に似た特徴が見られます」

 

「お腹減ってるってこと?

 じゃあ とにかくコレを!」

 

 ドロテアはそう言い ショルダーバッグの中から液体の入った革袋と大きな葉に包まれた小さな四角い板のような物を取り出した。

 葉の包装を外すとかすかに甘い香りがするクッキーのようなもの(ウィシャート・ビスケット)が複数あり 一枚手に取って半ば無理やり食べさせる。

 そして革袋の飲み口を口に当て 流し込む形で薬草を煎じた水を飲ませる。

 突然押し込まれたからか使用人はむせてしまっていたが それも治まると呼吸も整い 落ち着きを取り戻した。

 

「ありがとうございます……」

 

「いいっていいって。

 それより 何があったの?」

 

「おおよそ検討はついていますが 早合点はいけませんからね。

 お話を聴くとしましょう」

 

 使用人の女性は俯きながら ポツリポツリと喋り始める。

 力の無い 消え入りそうな声ではあるが 三人は聞き逃さまいと必死に耳を傾ける。

 

「ご主人様の…… この屋敷の主の意向により…… 私達は……」

 

「うん」

 

「……突然 土のみを食すようにと 命じられました……」

 

「えっ!? ナニソレ!?」

 

「驚くのも……無理はありません……。

 ご主人様は スタルニル教の……土の精霊神様を 崇拝しておりました……」

 

 涙が流れ 声も体も震えている。

 三人は想像を絶する生活だっただろうと察する。

 

「あまりにも横暴でしたが…… 逆らうことは 許されず……。

 私達は隠れて…… 食物を口にしていましたが……」

 

「主人に見つかってしまったのですね」

 

「……はい」

 

「うん で そのご主人はどこにいるかわかる?」

 

「……ご主人様は 地下にいらっしゃるかと……」

 

「……なるほど 確かにあの方にとっては素晴らしく条件が整っている場所 と」

 

「……お願いします。

 ご主人様を…… 止めてください……」

 

 その嘆願に無言で頷く一行。

 ドロテアは複数枚のビスケットを更に取り出し 薬草水入りの革袋と共に床に置く。

 

「コレ 皆に食べさせてね。

 チョット少ないけど」

 

「うん 行くか」

 

「貴族相手の説法は久方ぶりですね。

 不謹慎ですが 気合いが入るというものです」

 

 

───

 

 

 地下室への入口は意外にも簡単に見つかった。

 扉が無く床にぽっかりと不自然に開いている穴を 地下に繋がっていると言わずに何と言うのか。

 泥で汚れた梯子に足を掛け 慎重に降りていき 人一人通るのでやっとな程に狭い通路に降り立つ。

 

「うん 暗い。

 松明忘れたのが痛いなぁ」

 

 アルトゥロはぼやきつつも剣を握りしめ 魔力を消費して刀身を光らせる。

 持続的に魔力を消耗するため 出来るだけ元凶を早く見つけたいと考えつつ 足早に石の道を進む。

 少し進んだところで 何かを力強く擦る音がかすかに聞こえてくる。

 それに気づいたのはドロテアだった。

 

「……ン? 何か聞こえる……」

 

「うん ここの主がいるのかなっと」

 

 向こうに気付かれないよう 音を極力立てずに一本道を歩いていく。

 すると 角を曲がったところで広い部屋へと繋がり その部屋の中央で一人の男性が背を向けて座っているのが見えた。

 傍らには風の聖遺物 輝きの翔旗が乱雑に置かれており 男は何かを無心に擦り合わせている。

 一行が部屋に入ると アルトゥロの剣から発する光に気付いたのか作業の手を止めて振り返る。

 

「誰だ……? わたしの神聖なる部屋に踏み込むのは……」

 

 地の底から這い出るようなおぞましい声を発し ゆらりと立ち上がってアルトゥロ達の前に立ちはだかる。

 この家の主と思われる人物は酷く痩せこけており 髪もボサボサで せっかくの絹を惜しげも無く使った服も泥まみれである。

 さらに 目は焦点が定まっておらず 誰を見ているのか どこを見ているのか はたまた何かを見ているのかすらわからない。

 男の両手には木片が一つずつ握られており 恐らくはこれを擦り合わせて火を起こそうとしていたのだろうと推測出来る。

 しかし 見る限りではろくに乾燥も施していない木の欠片であり 木と木を擦れば火が着く程度の知識しか知らないようだ。

 

「いや 誰でもいい……。

 今すぐここから立ち去れ……!」

 

「じゃあ その旗渡してくれたら出てってやろう」

 

「五月蝿い! 出ていけ!」

 

 男は喚くように出ていけと連呼するばかりで やはり話し合いをする気は全く無いようだ。

 貴族の怒号が響く中 ビトがアルトゥロとドロテアにそっと耳打ちをする。

 内容を把握した二人は軽く頷き アルトゥロは光を放つ剣の切っ先を男に向け 白く輝く光から赤く燃え上がる炎へと変貌させた。

 

「その旗 燃やすんだろう?

 手伝ってやるからこっちに寄越してくれない?」

 

 部屋を真っ赤に照らし出す剣を見た貴族は目を丸くする。

 かと思えば狂気に満ちた瞳に戻り 大声で捲し立てた。

 

「そうやって旗を奪う気だろう……!?

 お前達は信用ならん!」

 

「……うん まあ そうなるわな」

 

 アルトゥロは皆に聞こえるように大声で呪文を唱え始める。

 それを聞いた貴族の男は旗の前に立って 身を少し屈めて警戒する。

 それを無視して唱え続けると 炎を纏っていた剣はより激しく燃え盛り 大釜も瞬く間に熱する程の熱を帯びている。

 近くにいるビトは眉一つ動かさず涼しい顔をしているが ドロテアはあからさまに暑がって距離をとる。

 

「何をする気だ! わたしを誰だと思ってる!?

 盾突くと後悔することになるぞ!」

 

 警告という名の権力の乱用も無視し 盾突くのではなくただの突きを繰り出した。

 剣先から伸びるように炎の矢が男の足元をくぐり抜け 後ろにあった旗に火が回る。

 貴族は熱気から距離を取りつつ 燃え上がる旗を見ると 握り締めていた木をポトリと落とした。

 次第に口から声が漏れ やがてそれが高笑いへと変貌すると 両手を高く挙げて腹の底から声を出した。

 

「やった……! やったぞ!!

 これでわたしを邪魔するものは無くなった!」

 

 喜びを全面に押し出し ただただ笑い続ける男性。

 それを見ている三人は何もせず 男の背中と炎に囲まれた旗を見るだけ。

 しかし そう経たない内にアルトゥロがそっと呟く。

 

「あと三秒」

 

 目の前の野望の達成に狂喜している男は その言葉を聞き取れなかった。

 そして 宣言通り三秒経つと 輝きの翔旗を燃やしていた炎が突如として消える。

 辺りが真っ暗になり 目の前すら見えない状況となって困惑しているのは──

 

 貴族ただ一人だけ

 

「な 何だ!? 火が!?」

 

「うん ピッタリだ」

 

「流石ですね」

 

「これでオッケー と」

 

 ドロテアの合図と共にアルトゥロが剣を再び発光させると 足元をキョロキョロと見ている男の姿が見えてくる。

 光に気付いた貴族がこちらを見ると 焦りとも驚きとも言える顔から 憎悪に近い憤怒の表情に変わっていった。

 それもその筈 全く焼けていない旗を ドロテアがしっかりと持っているのだから。

 

「貴様ァァア!! よくも騙したなァァァ!!」

 

「何言ってるんだ?

 手伝ってやったろう」

 

「何を言う! なぜ 何故燃えていないのだ!」

 

「そりゃあ お前が火を付けなかったから」

 

「ふざけているのか!? 許さん!許さんぞォォ!!」

 

 男は喉が潰れれかねない程の大声をあげながら 旗を持っているドロテアに向かって走り出す。

 ドスドス というよりペタペタという足音と走り方から察するに 武術の心得は微塵も無いと考える。

 

「踏み込みが甘いよッ!」

 

 ドロテアは旗を抱えたまま器用に片足を上げ 顎にクリーンヒットさせる。

 筈が 薄暗さのせいか距離感が上手く掴めず 顎ではなく胸の上あたりに当たってしまった。

 しかしそれでも効いたようであり 男はピクピクと痙攣し 恨めしそうに声を絞り出すだけ。

 狂信者の戯言に耳を傾ける気は無く ドロテアは旗をビトに預けて貴族の男性をロープでいつものように縛り上げた。

 

「うん 一先ずは一件落着……でいいのか?」

 

「いえ まだ助けるべき人がいますよ」

 

「それよりもさ アンタのザワーッて出てくる鎖みたいなのじゃダメなの?」

 

「咎人の鎖ですか?

 あれは信者には効果を成さないものでして」

 

「信者なら性根が腐ってても効かないのか」

 

「こんなのでも信者ねぇ……。

 信じすぎな気もするケド」

 

「……てか それだとわっちヤバイ

 ビアス教徒だし 昨日ワイン用のぶどうを摘み食いしてしまったし」

 

「アンタねぇ……」

 

「主神マスティマ様は異教徒に対しても寛大です。

 些細な事であれば 敬虔な心で懺悔すれば救われるでしょう」

 

「うん まあ 帰ったら懺悔するか」

 

「アンタ絶対忘れるでしょ」

 

 

───

 

 

 地下室から戻った一行は 一階の玄関に家主の男を一旦降ろす。

 ビトは男の前に立つと 誰に言われるまでもなく説法を始めた。

 非常に長く 欠伸の出る話を聞きたくないアルトゥロとドロテアは 使用人と奴隷の安全の確認に向かう。

 使用人が居た部屋に真っ直ぐ行き 無事であることが分かると 教会に届いたという脅迫文を鞄から取り出し 書かれている人数と合っているかを数えた。

 

「うん? 一人足りない」

 

「ホントに?」

 

「うん」

 

「コッソリ逃げ出したとか?」

 

 あれこれ考えながら 人数を数えるもやはり一人足りない。

 どうしたものかと思っていると 使用人の一人が恐る恐る会話に割って入ってくる。

 

「おそらく…… ご主人様の奥様かと……」

 

「うん?」

 

「ここだけの話ですが…… 奥様はご主人様の変わり様に愛想を尽かして 出ていかれました……。

 ご主人様は気にも留めないというよりかは 居なくなった事にも気づかれていない様子でしたので……」

 

「イヤイヤ待って アイツは奥さんですら使用人としてしか見てなかったってワケ?」

 

「……少なくとも 私の知る同業の者は ここにいる者で全員です。

 ですから そう考えるのが自然かと……」

 

「自然も何もないでしょ!

 たった一人のパートナーを下に見てるって…… オカシイでしょ!」

 

「………」

 

「まあまあ 怒るのは全員の無事を確認できてからだ。

 次行くぞ」

 

 怒るドロテアをなだめて 残された奴隷探しを提案する。

 ドロテアは ここで立ち止まっては進展しないと理解しつつ 元凶にぶちまけないと気が済まない怒りを抑え込む。

 無益な行動に意味は無い。

 しかし 意味が無い事は してはいけない理由にはなり得ない。

 

 二階,三階と家探しし 奴隷も危うい状態ながらも発見した。

 彼らの処遇は依頼とは関係なく 言い方は悪いものの他の者に丸投げする事に。

 ビトから依頼されたのは『聖遺物の奪還』であり『人命救助』ではなく しかし関わった以上放置するのも忍びない。

 世を正す憲兵達に任せるまでの面倒は見ることにした。

 

 兵を呼ぶ前に一階の捜索をする二人。

 何が家主を狂わせたのか そのヒントがあるかもしれないと踏んで念入りに探す。

 貴族の男に訊いてもいいが 正直に答えてくれる保証がない。

 それどころか 逆上して暴れ回ることだって有り得る。

 

 目星を付けたのは乱雑に本が積まれている場所。

 恐らくは書斎や図書室などの類いなのだろうが 飾り気の欠片もない岩肌の部屋のせいで 急拵えの倉庫にしか見えない。

 二人は本の山から一冊ずつ手に取りながら題を確認し 山を崩しながら怪しい書物を探していく。

 

「どれもこれもボロボロだなぁ」

 

「この『ホイストンの月』って何?」

 

「うん 知らない」

 

「中身は〜……。

 ウワッ 全部数字じゃん」

 

「数字しかないって何それ」

 

「わかんない」

 

 見た事のある本 見た事の無い本 題字すら読めない本。

 重要でないただの紙の束を調べていくと 小型の鉄製の金庫が姿を現した。

 コンコンっと軽く小突き 両手で持ち上げて傾けると トンっと軽い物がぶつかる音が聞こえた。

 中に何かが有ることが判明し いざ開けようとしたものの 当然ながら鍵が掛かっている。

 

「うん ドロテア」

 

「なに?」

 

「開錠は頼んだ」

 

「エ?」

 

「ほら 具現魔でガチャリと」

 

「イヤイヤ 簡単に言うけどねぇ そんな細かいのはニガテなの」

 

「なぁに ジェフリーでも出来るんだから大丈夫」

 

「イヤ ジェフのは単にレベルが高すぎるだけだから……」

 

 渋々開錠を試みようと 鍵穴を覗くドロテア。

 素人にはさっぱりわからず もちろんドロテアにも何が何だかわかっていない。

 とりあえずといった風にグローブから鍵のようなものを生成し 鍵穴に差し込んで手首を捻ろうとする。

 当然 動きはしない上に開くはずもなく 適当に形を変えながら回す動作を繰り返した。

 

 十は余裕で超える回数で ようやくカチャリという音と共に金庫の鍵が開いた。

 ウンザリした表情のドロテアに感謝と労いの言葉を送り 早速金庫の扉を開ける。

 中に入っていたのは 砂で汚れている分厚い本。

 アルトゥロがその本を手に取った瞬間 言葉では言い表せない 不快とも恐怖ともいえない感覚が全身を襲った。

 

「………」

 

「どうしたの?」

 

「……読んだら危ない。

 そんな気がする」

 

「また禁書?」

 

「かもしれん」

 

 本には題字も絵も無く 確認出来るのは裏に記載されている文字。

 文字自体は現代のものだが 読み方がわからず 無理に発音したところで人名なのかすら不明である。

 

「ペットウ…… タル ライン……?

 なんのこっちゃ」

 

 こういった読むだけで影響を及ぼす恐れのある書物は 通常は焚書される。

 しかし 中には物理的干渉を全く受け付けない摩訶不思議なものもある上 下手に手を出そうものなら何が起こるかわからない。

 然るべき機関に任せるのが一番である。

 

「うん で これだけ?

 怪しい本を隠すならまだしも 金庫に保管するってのはいったい」

 

「さあね?」

 

「これを読んでおかしくなったというのなら どこで手に入れたのやら……。

 貴族だし 闇商人からこっそり買ったってところだろうかな」

 

「そうかもね」

 

 不思議な本を鞄にそっと入れるアルトゥロ。

 うっかり開いてしまった挙句に文字が目に入ってしまえば あの男と同じ末路を辿るはめになってしまう恐れがある。

 それだけは何とか避けるべく しっかりと閉じているのを何度も確認し 納得がいったところで書斎?を後にした。

 

 崩した本の山を放置して……。

 

 

───

 

 

『特報!ソフロニオ・ドム=ハーネス 捕まる!?』

 

 街中の広場前にある掲示板に 目立つようにして大きく書かれた題字の紙が貼られており それに目を止めた人々がざわざわと集まっている。

 その群衆の中にドロテアとビトも混ざっており 彼女らはその名前が脅迫文に書かれていた名前である事を認識する。

 名前だけは聞いたことはあれど どういった人物かは知らず 強いていうなら聖遺物を盗んだ事件の犯人ということぐらいである。

 

 掲示板の内容は 件の貴族が捕まった原因に そのような凶行を引き起こしたものは何なのか というもの。

 どれも的外れで勝手な推測ばかりであり 唯一近いものは 何らかに影響された という推察。

 とはいっても ドロテア達の憶測も正しいとは限らず これらの推測が間違っているのかは判断できない。

 

「なーんか思ったよりタイヘンなことになってるね」

 

「それはそうでしょう。

 神をも恐れぬ蛮行をしたのですから」

 

 人の波に揺られながら話していると 今度は広場の方が騒がしくなる。

 その方向に目を向けると ビトとは少し違った衣服を纏った人物が 広場の中心にある木製の高台に上っているのが見えた。

 黄土色の法衣に十字架にも見える剣を模した首飾りをしたドライアド(樹精霊)の女性。

 土の精霊神を担当する司教であり 顔や名前を知っているスタルニル教徒も少なくない。

 更に後ろには数人の司祭も従えており 彼らもまた黄土色の法衣を寸分の乱れもなく着こなしている。

 

「おー 土の司教サマが直々に来るとはねー」

 

「ここでお目にかかれるとは 私達は運が良いですね」

 

「……ところでさ」

 

「はい 何でしょう?」

 

「アンタは確か 風の精霊神担当だったよね?

 ぶっちゃけ 土ってどう思う?」

 

「そうですね……。

 土は風にはないものがありますから それはそれは素晴らしいと思います」

 

「それは 司祭として?」

 

「いいえ 一個人として ですね。

 風は安らぎと憩いを 土は温もりと実りを与えてくださるのですから」

 

「……で 一番なのは?」

 

「私に訊きますか?

 お金に決まっています」

 

「ヤッパリネー」

 

 ドロテアは抑揚のない口調で言葉を発しては正面に向き直り 台に直立する司教を見据える。

 ビトも笑顔のまま前を向き 司教の有難い演説に耳を傾ける。

 

 心の拠り所はどこにあるか。

 それは別の人の心である。

 不安も恐怖も 独りでは完全に打ち消せない。

 大事件が起きて不安に陥る民衆を安心させるのは 力を持つ者の役目。

 言葉を並べ 心に訴えかけ 信用を重ねる。

 

 気が付けば広場は 司教の言葉だけが響いていた。






 フレーバーテキスト多め。

[いろんな魔法]


─雷光刃【自然】(正式名称:スパークエンチャント)

 触媒に強い電気が帯びる魔法。
 アルトゥロとアリスが使用し 主に人間相手に使う。

 元々 雷は神にしか使えない魔法とされていたが 無神論の魔術師が雷の魔法を編み出したのをきっかけに大きく変わる。
 当然 神ですらない者が雷を扱える訳がないと聖職者達は反論したが 魔術師はこう言い返した。
「お前達の信じる神に頼み 私を雷で処してみよ」
 魔術師はその後一度も雷に打たれること無く生涯を終えた という逸話が語り継がれており 今では雷は自然魔法という位置付けが揺るがないものとなっている。


─バーニングアーマー【自然】

 炎を鎧のように纏わりつかせ 容易に近づけさせなくするという魔法。
 アルトゥロが使用するが 魔力を多量に消費するため あまり使わない。

 この魔法を誕生させるきっかけとなったのは スリの多発事件。
 何とかして盗まれないようにしようとした結果 触れてはいけない 触れたくもないようにすればいいとなった。
 が 何をどう考えたら火を纏うという結論に行き着いたのかは 発案者自身にも解らない。


─お宝探し【自然】(正式名称:土中星夜)

 土や岩の中にある金属や宝石 または埋まっている物の位置が判る魔法。
 魔力によるソナーのようなものであり 場所,距離,探知した物体の詳細等の精度は使用者の腕によって大きく左右される。
 アルトゥロとアリスが使用し 特にアリスは埋蔵物をある程度特定出来る程の腕前を持つ。

 とあるドワーフ(土精)ノーム(魔小人)が結託して作り上げた魔法であり 開発期間はなんと30年にも及んだという。
 当初は具現魔法として開発していたが 一番苦労したのは 魔道率の低い岩にどのようにして魔力を伝えるかという問題らしい。
 その問題の解決として 自然魔法・土を利用するという手段に行き着いたのは諦めかけた時だという。


─追い風の加護【自然・神聖】

 スタルニル教にて扱われている魔法。
 加護を受けた者は追い風に吹かれるように身軽になる。
 ビトが使用する。

 その昔 風の精霊神からの信託によって授けられたと云われており 信託を受けた司教はすぐさまこの魔法を広めた。
 しかし 安易に言い回った事に怒った風の精霊神は すぐさま『追い風の加護』を取り上げるも時既に遅し。
信者以外にも知れ渡ってしまい 全てを回収することは不可能となってしまった。
 そこに 寛大(テキトー)である主神マスティマが
「授けた時点であなたの物ではないのだから すぐさま返してあげなさい」と言い 風の精霊神は渋々司教に返したという。


─咎人の鎖【神聖・具現】

 罪を犯した者を縛り上げる鎖を生み出す魔法。
 残念ながら信者に対しては効果がなく 無宗教者,異教徒,無神論者等にしか効かない上 宗教の概念が存在しない動物や魔物にも効果がない。
 ビトとイヴェットが使用可能。

 なぜ信者には効かないのかというと 懺悔という信者にのみ許された行為があるにも関わらず 有無を言わさず縛り付けるのは如何なものか という理由から。
 ちなみに咎人の鎖の発祥は定かになっておらず 現在ではビアス教から生まれ それから派生して知れ渡った というのが有力。


─治癒【心体】

 文字通り 怪我を治す魔法。
 トビアスとジェフリーがよく使用する。

 こんな便利な魔法があったら 薬なんていらないんじゃないか と薬代の節約に治癒を覚えようとする者が多い。
 しかし いざ覚えようとすると 難解な呪文や魔力の調整が身につかず 半端な気持ちでは到底覚えることなど出来ない。
 それに傷は治せるが病気までは治らず 更に上位の魔法を覚える必要があったりと 一筋縄ではいかない。


─バッガル【心体】(ジェフリー独自の魔法)

 体型をある程度自由に変化させる事ができる魔法。
 基本的には自身の元の大きさより大きくすることは出来るが 自身よりも小さく または骨格が歪むような形に変える事は出来ない。
 さっくり言うと 粘土で継ぎ足すように魔力で見た目を変えるというもの。

 潜入のためにジェフリーが考案した魔法。
 魔法の仕組みが漏れることを警戒して 皆には自由に体型を変えられる体質で通してある。
 一応 イヴェットにだけは魔法であることは話してはいるが 詳細は伏せており またイヴェットも言及はしていない。


─甘美なる魔の抱擁【心体】(正式名称:魔縄魔縛)

 相手に流し込んだ魔力で動きを封じる魔法。
 消費した魔力と相手の魔力の量に応じて 効果時間や効力が変わってくる。
 イヴェットだけが使用する。

 とある生物学者が 獰猛な動物を捕まえたいという願いから作り上げたとか。
 魔法が完成した当時は罠に引っ掛けてからじわじわと魔力を流し込むという二重手間であった為 有用性はあまり立証されなかった。
 次第に短時間で魔力を流し込める技術が確立してくると 魔法職に注目され始めるも 今度は魔力の消費量がネックとなってしまう。
 現在では魔力結晶と併用することで有効に使えるが そこまでして使う価値があるかは使用者の判断に任せている。


─斬裂のブラッドクロー,猛撃のハードナックル【具現】(正式名称:マジックガーダー)

 魔力で生成したものを手に覆って保護する魔法。
 形を変えれば爪やブレードにもなる。
 ドロテアが多用する。

 触媒を持つ手の防護を目的……ではなく 元々は盾として使用することを前提とした魔法だった。
 しかし 魔力を持続的に消耗する,慣れるまでは形成に手間取る,大きな盾であるほど魔力もぐんと使う,そもそも実体の盾よりも優位な点が重量が無いだけ とまるでいい所が見当たらない。
 その為 いつしか拳を守るナックルガード程度に落ち着き それの派生として爪や刃を攻撃時に形成するという使い方に落ち着いた。


─瞬速のシャドーラップ【具現】(正式名称:空鳴)

 音を作り出す魔法。
 習得自体はさほど難しくないが 思い通りの音を出すには気の遠くなる修練が必要である。
 ドロテアがたまに使用。

 とある吟遊詩人が 山中の野鳥達のハミングそのものを皆に伝えたいと考え この魔法を作り上げる。
 彼の理論通り 出せない音は無い完璧な魔法だったが 完成するまでの時間が掛かりすぎてしまった為 肝心の野鳥の音を忘れてしまった。
 もう一度山に赴き声を聴いたはいいものの あの時の美しいハーモニーではなく 結局再現することは叶わなかった。
 彼はすぐその場で詩を詠うべきだったと 深く後悔したという。
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