タイトル通りです。
内容はつゆりとのお話。
もしかしたら、他の人のも書くかもしれません。

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悲しみが作者の原動力です。


あんガルサービス終了の告知を知った悲しみで書いたお話

「おはよう、転校生くん」

 

 あなたが家を出ると、淑やかな笑みを浮かべたつゆりに出迎えられる。

 絹のような水色の髪を靡かせ、彼女はあなたの方へと近づく。

 あなたはおはようと頷きを返し、つゆりの表情をつぶさに観察する。

 じっと見つめられているのに気がついたのだろう。つゆりはクスリと微笑を零した後、胸に右手を添えた。

 

「大丈夫だよ。今日は調子がいいんだ」

 

 つゆりが言っている言葉は本当だろうか。

 ただでさえ身体が弱いのに、こうして一緒に登校したいからと、あなたの家まで来ているのだ。

 自分の方からつゆりの家に行きたいと提案したのだが、私が迎えにいきたいと強く否定され、こうして体調が良い時だけ一緒に登校する事になっている。

 しかし、つゆりは他人のために無理をする優しい子だ。同じ保健委員の人達に頼る事を覚えたとはいえ、いまだに一人で無理をしようとする時があるのだ。

 それを知っているあなたは、つゆりの手を取って真剣な目で見つめる。

 

「て、転校生くん……?」

 

 僅かに頬を赤らめたつゆりを見て、あなたはやはり具合が悪いのではないか、と心配で眉尻を下げてしまう。

 そんなあなたの表情の変化に、つゆりはあわあわと口をパクパクさせながら、ついっと目を逸らす。

 

「そんな、いきなりすぎるよぉ」

 

 あなたの顔と握られた手を交互に見つめ、髪よりやや濃い青色の瞳を潤ませるつゆり。

 辺りに甘い雰囲気が漂い始めるが、彼女が咳を落とした事により霧散した。

 慌てて背中をさすってくるあなたに、つゆりは申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「ごめんね、今日は調子がいいと思ったんだけど」

 

 皆まで言うなとあなたは首を振り、つゆりを連れて自分の家へと戻っていく。

 

「だ、ダメだよ転校生くん。転校生くんは学校に行かなきゃ!」

 

 しかし、あなたはつゆりが心配で堪らないときっぱり否定した。

 いつでも行ける学校より、大切な彼女の体調の方が優先だ。

 つゆりをリビングのソファに座らせ、あなたはお客様用の布団を用意すると告げる。

 

「やっぱり悪いよ……」

 

 今からでも学校に行くべきと言うつゆりと、学校は休むと譲らないあなた。

 暫く静かな問答を交わした末、つゆりは深いため息をついて頷く。

 

「じゃあ、転校生くんの善意に甘えるね」

 

 つゆりが理解してくれた事に、あなたは胸を撫で下ろしてリビングを出ようした。

 しかし、制服の裾をつゆりに摘まれた事により、それは叶わない。

 恥じらうように目を伏せつつ、つゆりはそよ風の如き小さな声音で囁く。

 

「わたし、転校生くんの布団で寝たいな……」

 

 思わず目を見開いたあなたを上目で一瞥した後、頬に朱を差して言葉を重ねる。

 

「だ、ダメ……かな?」

 

 可愛い彼女のお願いに、あなたはくらりとしながら頷くしかできなかった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

「わがままを言って、ごめんね?」

 

 おずおずと、伺う顔つきで尋ねるつゆり。

 あなたは気にするなと手を振り、つゆりを優しくベッドに横たわらせた。

 季節は梅雨に入り、窓の外ではポツポツと雨が降り始めている。

 部屋に設置してある除湿機を稼働させた後、あなたはつゆりに何か食べたい物はないかと尋ねる。

 

「ううん。ちょっと頭がくらくらするだけだから、休めばすぐに良くなるよ」

 

 口元に微笑を湛えたつゆりは、寝たままキョロキョロと辺りを見回す。

 

「転校生くんの部屋、初めて入っちゃったね」

 

 照れた様子で、つゆりはあなたを見つめる。

 付き合い始めてまだ間もないため、あなたはつゆりを部屋に招待した事がなかった。

 だからだろうか。つゆりの言葉に不覚にも、あなたは羞恥で頬を熱くしてしまう。

 当然つゆりもその変化に気がつき、珍しくからかうような笑みを浮かべる。

 

「ふふっ、転校生くんも恥ずかしいんだね」

 

 はっと頬を手で抑えても、既に手遅れだ。

 あなたはつゆりの指摘に、目を逸らしながら頷くしかできなかった。

 しかし、この状況に照れているのはあなただけではなかったようだ。

 薄手の布団を口元まで持ってきたつゆりが、宝石の如き輝く瞳を瞬かせ、そっと顔を背ける。

 

「わたしも、ちょっと恥ずかしいかな……なんて」

 

 辺りに気まずい空気が流れ落ち、除湿機の稼働音が嫌に大きく響いていた。

 あなたはつゆりと目が合えば直ぐに逸らし、彼女の方も同じ動作をする。

 チラチラと視線を行き交いさせ、やがてどちらととなく笑う。

 

「ふふふっ。なんだか変な感じだね──コホッコホッ」

 

 言葉の途中で、身体を起き上がらせて咳をするつゆり。

 あなたは駆け寄って背中をさすり、つゆりの呼吸が楽になるように努める。

 暫くすると落ち着いたのか、彼女はやんわりとあなたの手を握って微笑む。

 

「ありがとう。転校生くんのおかげで少し楽になったよ」

 

 そんな事はない。自分にできるのは、気休めにもならない。

 つゆりの目を見てそう告げると、彼女は緩やかに首を横に振る。

 

「ううん。わたしにとっては、誰かが一緒にいるだけで……転校生くんがいるだけで身体が楽になるんだ」

 

 さらりとしたライトブルーの髪がつゆりの肩を垂れ、憂いを帯びたサファイア色の瞳を細めた彼女の雰囲気は、どこか儚げな印象を与えた。

 力を入れれば容易く折れそうでいて、しかし芯は強く決して折れない花。

 あなたは心から魅入り、つゆりの顔を凝視してしまう。

 

「どうしたの、転校生くん?」

 

 彼女の言葉で我に返ったあなたは、なんでもないと手を振って誤魔化した。

 再びつゆりを優しく倒し、布団をかけて安静にさせる。

 ありがとうと感謝を示すつゆりに、あなたは何かする事はないかと尋ねる。

 

「うぅん……」

 

 天井を見上げて思案にふけていたつゆりは、恐る恐るといった様子で布団から手を出す。

 そして、表情に照れを滲ませてそっとあなたの腕に触れる。

 

「できれば、寝るまで手を握っててほしい……」

 

 あなたが無言で手を握り返す事で応えると、つゆりは微かに目を丸くして破顔した。

 

「ありがとう」

 

 それから、あなた達は取り留めもない雑談を交わしていく。

 クラスの事、委員会の事、生徒会の事……。

 途中であなたは学校に連絡していない事に気がついたが、後で連絡すればいいかと問題を先送りにすると決めた。

 暫くすると、不意につゆりが口を閉ざす。

 どこか迷うように目を彷徨わせながら、ポツポツと心情を吐露していく。

 

「わたし、今がすごく幸せなんだ。病気が辛いときもあるけど、友達はみんな優しいし。委員会でもみんなと仲良くなれて。それに、転校生くんとも出会えて。でも、それはわたしが受け取っていい幸せなのかな。みんなに迷惑をかけて、こうして今も転校生くんを困らせてる」

 

 そこで言葉を区切り、涙で濡れた瞳をあなたに向けるつゆり。

 

「怖いんだ。この幸せが夢になっちゃうかもしれないって。実は病気が悪化してて今のわたしが夢を見ているんじゃないかって。……ねぇ、転校生くん。わたしも、この幸福に浸ってもいいのかな……?」

 

 つゆりの独白を静かに聞いていたあなたは、握っていた手に力を入れる。

 小さくて柔らかい手。じんわりと心まで染み入ってくる優しい手。

 あなたは不器用なりに、つゆりを労ろうとゆっくりと頭を撫で始める。

 そして、キョトンとした彼女へと、大きく頷きを返す。

 

「転校生くん?」

 

 つゆりの疑問に返事をせず、あなたはただひたすら見つめる。

 少しでも、この想いが伝わるように。そんな事で悩む必要がないと理解させるように。

 暫くしてあなたの気持ちがつゆりに伝わったらしい。彼女は嬉しそうに頬を緩めると、目尻を下げて唇を震わせる。

 

「やっぱり、転校生くんは優しいね。……なんだか、眠くなってきちゃった。ごめんね。少し、眠るね」

 

 瞼を閉じたつゆりの口から、すぅすぅと小さな寝息が聞こえ始めた。

 息苦しくならないか観察した後、あなたは静かにつゆりの手を離す。

 そのまま音を出さずに立ち上がり、忍び足で部屋を後にしていく。

 扉を閉める間際、穏やかな面立ちで眠るつゆりを視界に入れながら、あなたは学校に連絡するために固定電話の方へと向かうのだった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 夕方。

 いつの間にか雨は上がり、雲の間から茜色の光が差し込んでいる。

 道に現れた水たまりは輝き、キラキラと幻想的な雰囲気を漂わせていた。

 

「今日はありがとう、転校生くん」

 

 あなたの家の前で、つゆりは申し訳なさ半分、嬉しさ半分の笑みでお礼を告げた。

 対して、あなたはとんでもないと首を振り、逆に体調は大丈夫かと尋ねる。

 

「うん。転校生くんのおかげで、この通り具体が良くなったよ」

 

 可愛らしく握り拳を作ると、つゆりはガッツポーズを取った。

 彼女の表情を見る限り、どうやら無理して振る舞っているわけではなさそうだ。

 本当に、一眠りした事で元気になったのだろう。

 あなたはほっと胸を撫で下ろし、大事にならないで良かったと素直に伝えた。

 すると、つゆりは顔色を曇らせ、夕焼けに染まる空に目を向ける。

 

「でも、わたしのせいで転校生くんも学校を休んじゃった」

 

 口を一文字に引き結び、天を仰ぎながら瞳に憂いの色を秘めたつゆり。

 後悔で彩られたその表情から、彼女の胸の内が自ずと察せるだろう。

 しかし、あなたはつゆりに声を掛け、振り向いた彼女に後悔はしていないと告げた。

 目をまん丸にしたつゆりは、次いで全身の力を抜いて笑う。

 

「さっきも同じような事を言ってたね。……ありがとう。なんだか、お礼を言ってばっかりだけど」

 

 笑顔を苦笑に変えたつゆりに、あなたは胸を叩いて任せろと行動で示した。

 

「うん、頼らせてもらうね。だって、わたし達はつ、付き合ってるんだし」

 

 言葉の途中で、照れてしまったのだろう。

 頬を赤らめて目線を斜め下に落とし、つゆりはもじもじと身体を揺らす。

 チラチラと上目遣いで様子を窺ってくる彼女を見て、あなたはそっと手を握って歩きだす。

 

「あっ……」

 

 何かを言いかけたつゆりだったが、言葉を返さずにあなたの手を握り返した。

 隣に並ぶ彼女へと、あなたは心配だから家まで送ると伝える。

 俯き気味に口元をモゴモゴとしていたつゆりは、やがて小さく頷いてあなたに微笑む。

 

「お願いします」

 

 肩と肩が触れ合うほどの距離で、あなたとつゆりは手を繋ぐ。

 指を絡めて軽く腕を振り、この一時の幸福感を享受していく。

 前方で沈みかけの夕陽が地上を照らし、あなた達の影を複雑に絡み合わせている。

 つゆりの歩幅に合わせて歩んでいると、隣から彼女の明るい声音が耳朶を打つ。

 

「転校生くん」

 

 声に引かれて顔を向けたあなたへと、つゆりは満面の笑みと共に桜色の唇を開くのだった。

 

 

 

「──転校生くんと一緒にいられて、わたしはとっても幸せだよ」

 

 

 ♦♦♦

 

 

 少女の心を覆っていた暗雲は晴れ、綺麗な青空に虹が差す。

 これから、彼女には様々な出来事が待ち受けるだろう。

 しかし、少女は今までのように一人で抱え込んだりはしない。

 何故なら、少女には頼りになる最愛の人がいるからだ。

 

「転校生くんが、大好きです」

 

 この物語は病弱な一人の少女と、彼女の隣に寄り添う彼とのなんの事もない日常である。

 




つゆりちゃん可愛いよつゆりちゃん。

誰かあんガル二次創作書いてくれないかなぁ……。



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