かくして幻想へと至る 作:虎山
プロローグ
いつからだろうか自分が周りと浮いていることに気づいたのは。少なくとも物心がついたときには、何処かおかしいと思っていた。輪の中にいても孤独を感じる事が多々あった。自分という存在を第三者の視点で見ているような気がしていた。
そんな自分は世界からも浮いてしまったようだ。
「グルル・・・」
目の前には、犬のような何かがいた。熊のように大きく、鋭く大きな牙をのぞかせる。此方に対して明らかな敵意を向けている。
(・・・さっきまで寝ていたはずなんだが・・・)
いまいち現状を把握できずに少し混乱している。その間にもジリジリと犬は寄せてくる。
(・・・それにしても、こんなやつ日本にいたか?)
思考が一周回ってクリアになっている。命の危機かもしれないが、焦ることはない。焦りは自分を変える。だから、危機感はこれまで自分から‘浮かせてきた’。だが、それも命を奪われる危険性が少ない日本にいたからの話だ。
「グ,ガァ!」
一撃で仕留められる距離と判断したのだろう、犬のような何かは此方に飛びかかってきた。どれだけ浮かせてきたとしても、その牙や爪が無理矢理に意識を危険の領域に持っていく。あくまでも浮かせているだけであるから、認識してしまえば掬い上げられる。
(ッ、やば!)
気づいたときには、その爪は肩に食い込んでいた。肉を抉るように爪は入り込む。
「う、くっ・・・」
あまりの痛みで声が出ない。犬はそのまま自分を押し倒し、押さえつける。そしてその口が開かれる。光る牙が自分の終わりを照らしているように思える。
(・・・いったい何が起きているんだ。目が覚めたら訳のわからないところで、訳のわからないやつに襲われるなんてな。まるで悪夢のようだ。そうか、これは夢なのか。)
自分のなかで納得する。夢なら早く覚めてほしいと願うも、覚めない。大きく開かれた犬の口は勢いよく迫る。咄嗟に目をつむる。
顔の上を眩しい光が覆った。独特な音を放って、目を瞑ってもなお目映い光が通った。牙はいつまでも襲ってこない。
光が無くなり、目を開けると犬の姿はなかった。いや、自分を押さえていた手足を残して消えていた。力無くだらりと犬の手は倒れた。
「おやおや、珍しいのう、こんなところに人間が入り込むのは。む、その服装、お前さん外来人じゃな。いや~本当に珍しいのう。外来人なんてここ5、60年見とらんかったからの。」
しわがれた声が聞こえる。顔をそちらに向けると、そこには黒いとんがり帽子と真っ黒のローブを羽織った、いかにも魔女ですと言っているような服装のお婆さんがいた。助けてくれたのだろうか。
「う、あ・・・」
「無理せんでええ。外から来た人間ならしょうがない。運が良かったのお前さん。こんなご時世じゃ、例え外から来たとしても助けてくれるやつなんぞおりゃせんぞい。」
お婆さんは何処からか袋を取りだし、その中に入っていた粉を自分にふりかける。痛みが無くなっていくよう感じがする。それと同じように意識もなくなっていってるようだ。どんどんまぶたが落ちる。
「安心せい。麻酔みたいなもんじゃ、そのまんまじゃきつかろうと思っての。まあ、もう聞こえとらんじゃろうが。」
なにか言っている気がするが、分からなかった。そしてそのまま目の前は真っ暗になった。
ボチボチできたらいいなと思っています