かくして幻想へと至る 作:虎山
見上げる空は珍しく澄み切っていて、いかにもという晴天だった。いつまでも倒れていても仕方ない。立ち上がり、師匠に向き直る。
「まだ、やりますか?」
相変わらず感情の読めない顔の師匠。
あれから何だかんだで教えてくれることになった。というよりも組み手をやって、なるべくスキのない戦い方に近づいていくようにするだけだが。
「・・・もちろん。」
霊力による強化はなし、能力による飛行もなし、八卦炉でのブーストもなし。ただ単純に肉体だけで戦う。手加減しているとはいえ、師匠の拳にはそれ相応の威力がある。まともにくらえば一発で落ちるように力加減されてるらしいがそれは手加減というのだろうか。
両手を構えて、じりじりと近寄る。まともに一本いれるのが目標ではあるが、師匠の立ち振る舞いにはスキがない。
距離を縮め、師匠の右側に飛び込むように走り、潜り込む。体のひねり、肩や肘の関節を利用しての拳は以前より確かに強くはなっている。スムーズとはいかないが、実践慣れはある程度しているためはまってはいた。だが、師匠の弱点になりうるところを攻めているが、体勢を崩せず常に攻撃はいなされる。片手のみで拳の軌道を変えさせられ、はじき落とされる。
突き出した手を抑えられながら、流れるような手刀が迫る。
「ぐっ!」
首をひねって何とかかわすが、視界が上に行っている間に足に衝撃が走り、地上から離れる感じがした。足が浮き上がり、上半身が倒れようとする。
体勢を整えようにも手を捕まえられ、そのまま抑え込まれる。地面に押さえつけられ完全に無力化される。
「・・・まだ、捕まえられる事への危機感が薄いですね。拳自体はうまくやれてますが、こちらを受け流せるくらいにならないと避けるばかりでは足元をすくわれますよ。」
そういって師匠は手を放す。
「さすがに今日は終わりにします。」
師匠は紅魔館に戻っていった。
師匠の武術、人間の武術を極めたものらしいが、本来の人間の武術とは少し変わっている。しかし武術の大まかな基礎は変わっていない。護身術が主であるが殺人に特化したものなどもその延長であるらしく、美鈴式武術は攻める要素が大きい。体の動きを合わせて一点に力を集中させることによって今まで以上の力を発揮できるようになってきた。速さではなくタイミングを合わせることが重要であるがもちろん速さがあればそれだけ威力は増す。ただ、今の自分は速さの中で活用できるレベルではない。
なぜ、妖怪である師匠が武術を極めているのか分からないが、目的としては妖怪の力を人間の武術で限界まで引き出すためなのだろう。
(それにしてもよく了承してくれたな、条件はあれだが、、、)
チルノからの頼み込みでいったんは分かりましたと言ってくれたが、後で条件を付けられた。チルノがいない時なので嫌な予感がしたが、想像以上だった。
『私を殺すこと、それが条件です。貴方は強さを必要としているなら断らないと思ってます。この幻想郷で人間に近い戦い方ができる者が果たしてどれくらいいるでしょうかね。』
一種の脅しのようにも聞こえたが、確かに弾幕ごっこを除けば戦闘で人間のまねごとをする妖怪はそれほどはいないと聞いた。だからといって殺せと言われてもどうしようもない気がする。
(変わってくれることを祈るか。どっちにしろ今の段階で言っても聞いてはくれないだろうし。)
師匠は大概のことは答えてくれるが過去と条件の変更だけは一貫して受け付けてはくれない。過去に関してはチルノにでも聞いてください、だそうだ。自ら口にしたくはないのだろう。
・・・
「美鈴についてね、、、正直に言うとよくわからないんだ。今でこそあんな状態だけど、前はもっと柔らかくて、妖精を馬鹿にしないくらい優しかったんだ。今も優しいけどやっぱり前の感じが好きだったな。」
後日、チルノに師匠について聞いてみるがよく知らないらしい。紅美鈴という名の紅魔館の門番だった妖怪、そうな風に言われていたらしい。何の妖怪なのか、なぜ門番をしていたのか、謎が多い存在だったらしいが、強い印象はなかったと言っていた。
「・・・確かに妖怪らしい力を見ていないが、人型の妖怪は強い者が多いと聞いた。師匠も例外じゃなく相応の強さを持っていたんじゃないか?」
「ん~そうだな、美鈴って弾幕ごっこも強くなかったし、よく魔理沙に侵入されてたからな。紅魔館が来たばっかりの時は近づいたことなかったから、争っていた時期を知らないんだ。レミリア、紅魔館の主に美鈴って強いのって聞いたことがあるけど、弱くはないって言ってた。レミリアも本気の姿は見たことがないらしいけど。」
弱くはない、これに関しては自分の意見と同じだった。圧倒的に強いと思わせるわけじゃない。けれど、手合わせをしていて弱さが見えない。妖怪側から見てもそのように見えたのだろうか。
「まあ、あんまり探っても変わらないしこれぐらいにしとくよ。それよりどう、なんか変わったことある?」
「変わったこと?師匠のことでか?」
「そう、いやーさ、妖怪ってさ良くも悪くも人間に関わることで変わったりするんだ。レミリア達も霊夢と関わってから人間を信じるようになったし、妖精や弱い妖怪にも目を向けるようになったしね。」
変わったことは極端に言えばない。そもそも以前をよく知らないし、会った時と今までほとんど同じようなものだ。最近は少しだけ会話が増えたくらいだが、一言の受け答えが二言になったくらいの変化だ。
「多少言葉が増えたくらいだと思う。」
「おお、いいね、ちょっとづつでいいから明るくなってると私も思うよ。レイアを助けといてよかったよ。」
「・・・チルノがいてやればいいと思うが、やっぱりだめか?」
「悪いね、私もまだやるべきことがあるから。自然が汚れたりなくなったりすると私のような半端な妖精になってしまったり、最悪消えてしまうものもいるからね。ある程度守っておかないと。」
妖精にしてはそこいらの妖怪に太刀打ちできるくらいの力を持つ彼女だが、元々ほかの妖精より強く、また湖が穢れたのを耐えきったことで少し妖怪に近づいたらしく、それがより力を与えたようだ。ただ、本人が言うには妖精の性質である存在が消えても発生することができなくなったらしい。
妖精自体、現象という存在らしく、そこからチルノは外れた存在なのかもしれない。チルノ自身が守れる範囲が少しでも広がったならそれでいい、といっているがどこか悲しそうでもあった。
「・・・もう外が暗いな、どうする?」
「今日は泊まらせてもらうよ。美鈴にも言っといたし、勝手にどこかで寝とくよ。」
「そうか、寝れる場所がないならこの部屋で寝てもいいよ。」
「ん、何だいレイア、そっちにも興味があるのか?まあ別に珍しくもないけど、随分素直だね。」
にやにやした顔でからかうように言ってきた。意識してなかったが確かに発言的には一緒に寝ようといってるようなものか。
「・・・そうじゃなくて、今日は少しやりたいことがあるからこの部屋を使わないだけ。」
「ん、夜だってのに何をするんだ?」
机の引き出しから、銀の懐中時計を取り出す。部屋を掃除していたら棚から落ちてきたこの時計、ほんのわずかに何かの不思議な力を感じる。
「・・・時計みたいだけど、何だい?」
「よくわからない。だから、これを調べてみたい。何かしら使えるものかもしれない。」
これからやっていく上で手は多い方がいい。それにあの図書館にも興味深いものがあったしここですることは少なくない。
(・・・歩みを止めるわけにはいかない。それでもここで強くならなければ、俺の足は前に進むことなく折れてしまうかもしれない。)