かくして幻想へと至る   作:虎山

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この回は自己解釈が多いです


紅魔館のとある日

 紅魔館というのは不気味な空間である。外から見る以上に中は広い。感覚ではなく実際に空間が歪んでいる。正確にいうのなら空間ではなく時間軸が微妙にずれているのだ。廊下を普通に歩いているつもりでも、歪んだ境界を跨ぐ時に体が奇妙な錯覚を覚える。

 

バラバラの時間軸を越えることは一種の平行世界の移動のようなもの。体もそれに合わせるように何とか対応しようとするが、そう簡単にはいかない。それを無意識のうちに脳が拾い上げ、あたかも広い空間を歩いているように思わせる。

 

 つまるところ、広いのではなく、歩いている時間が他の場所より長く感じ、それが広く感じてしまう原因である。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「昔というほど前ではありませんが、人間が仕えていた時がありました。その人間というのがそういう能力を持っておられたので、それを館に使っていたのでしょう。あなたとの関連で言えば、博麗霊夢や霧雨魔理沙たちと仲が良かったようでしたよ。」

 

 吸血鬼の館で人間が働いているのはどうかとも思ったのだが、どうやらその人間も普通の人間ではなかったのだろう。第一空間を歪めるほどの能力とはどれほど強力なのだろうか。

 

「その人の名前はなんですか?それにその能力というのは空間を操るといったものなのでしょうか?」

 

「名前は十六夜咲夜、能力は時間を操るというものです。おそらく幻想郷においても最上位に位置していた能力だと思います。」

 

 時間を操る、なるほどそれであの空間を作り出していたのか。

 

「彼女は若くして亡くなりましたね。時間を止めるというのは毎回のように世界の強制力に反発しているようなものなのです。彼女の能力でその負担は無くなっていると思われますが、ほんの少しづつでも確かに生命力は削られていったのでしょう。」

 

 それもそうだ。魔法で時間を操ることは一応できる。だけど、時間を止めるにはかなりの準備と魔力が必要であり、それほどの労力を費やしても精々数秒が限界だろう。

 

「・・・彼女が亡くなっても空間は歪んだままなんですね。」

 

「当たり前です。一度歪んでしまったものが自然に元に戻ることはありませんよ。それも時空に関することは当人でない限り完璧に直すのは不可能でしょうね。」

 

 壊れたものは勝手には直らない。それは紅魔館のことを言っているようで、それ以上のことを言っているようにも感じ取れた。

 

「・・・師匠はその方と仲が良かったのですか?」

 

 お互いに同じ相手に仕えている身だったのだろうし、短い間だったとしても彼らは関わっていたはず。

 

「・・・どうですかね、彼女は友人たちやお嬢様にも見せない顔がありましたが、唯一私だけに見せたことがあるらしいです。」

 

「らしい、とはどういうことですか。」

 

「・・・彼女と初めて会ったのはまだ彼女があなたより小さい時です。その時、いつも通りに門番をしていましたが昼間に彼女が現れまして、私が相手をしました。」

 

 女性で自分より小さい身で妖怪と戦ったのだろうか。勝てるはずなど全くないといっても過言ではないが。

 

「あれは驚きましたね。生まれながらの殺人鬼は初めて見ましたね。一瞬で後ろに回り込み首にナイフを突き立てようとしたのは、少しだけ冷や汗をかきましたね。」

 

「殺人鬼ですか?」

 

「そうですね、少なくとも最初に相対した時の彼女の行動は殺人衝動から来たものだと、本人が言っていましたから、間違いではないでしょう。」

 

 殺人鬼、それでよく魔理婆さんたちと仲良くできたな。

 

「バンパイアハンターというものはいるものですが、子供であそこまでの腕を持っているものは異常でしょうね。」

 

「異常ですか、、、」

 

「いろいろと仕込まれたようでしたね。適度な技術を身に着けさせた子供は厄介ですよ。子供らしさはどんなものでも油断を誘う。あなたも心当たりはありませんか。」

 

 心当たりと言われても、よくは分からない。ただ、獣たちも自分を襲うときに楽だと考えて襲っているのだろうか。

 

「それでよく友人としていれましたね。その二人だからこそなのかもしれませんが。」

 

「そうでしょうね。本人も人間の友が欲しいと言っていましたが、同格かそれ以上の人間はあの世代は多かったです。私も暴走しないように適度に相手をしてほしいと頼まれましたし、それ相応の努力で付き合っていましたよ。」

 

 ほんの少し懐かしむような表情になった気がする。

 

 紅魔館に来て、だいぶ時間がたったが、師匠が他人について詳しく語ったことはない。だいたいはチルノに聞いてくださいと言って話さないが、今日はよく話してくれる。

 

 主以上に大事にしていたのだろうか、それともやはり妖怪にとっては人間というものが占める存在感が大きいのだろうか。

 

「・・・お嬢様が興味本位で拾って、私が少しだけ見てあげたのですが、一人で育ったようなものだと思ってたんですよ。けれど、咲夜はお嬢様から生命を、私からは温度をいただいたと言って、すべての行動において紅魔館の住人を第一に考えてましたね。」

 

 従者の鏡のような人だ。いや、なんとなくその気持ちが分からないわけでもない。自分にとっての魔理婆さんや上海のように、その人にとっての光がお嬢様だったり師匠だったりしたのだろう。

 

「それでも同じ従者だからでしょうかね、何かしらの相談事は私にきましたね。殺人衝動を抑えるにはどうしたらいいか、といったものや館が広すぎてさすがに掃除がきついといった愚痴までいろいろ聞いてきましたよ。完璧な従者は裏の顔をきっとお嬢様方には見せないでしょうね。」

 

「・・・やっぱり仲良かったんですね。」

 

「・・・否定はしませんよ。」

 

 すこし微妙な空気が流れた。せっかくの穏やかな雰囲気を覚ましてしまったと思ったが、来訪者がそんな空気を壊してくれた。

 

「美鈴、レイア、ここか?」

 

 その声と共にドアをノックする音が聞こえる。チルノの声だ

 

「・・・いますよ。入っていいですよ。」

 

「じゃあ、失礼。お、今日の美鈴は少し明るいね。何かいいことでもあったのか?」

 

「・・・どうですかね、お茶を入れてくるので、ここで待っていてください。」

 

 そういうと、師匠は逃げるように部屋を出ていく。チルノから的確な一言をもらい、少し否定していたこともあり、ちょっとだけ居づらくなったのかもしれない。

 

 部屋から出ていくと、チルノが笑顔で聞いてきた。

 

「それで何の話をしていたの?美鈴が感傷に浸るような話だったのかな?」

 

「昔の話を少し。それにしてもよく分かったな、やっぱり少し明るく見えたかな?」

 

「それはもうね、普段と全然違うからね。あそこまで明るくなるって、咲夜の話だろ?」

 

「・・・知ってたのなら話せばよかったんじゃないか?」

 

「私じゃ意味がないからさ。レイアだからこそ、咲夜の話題を振られたときに反応してしまうんだろうね。人間と過ごした時間は妖怪にとって貴重であり、毒のようなものなんだ。忘れたくても忘れられない、人間というのは良くも悪くも妖怪に影響してしまうんだ。」

 

 これも実はチルノの計算通りだったのだろうか。あまり頭がよさそうには見えないが、師匠をよく見ていたのだろう。いや、実際よく見ているのだろう。そうでなければ、毎日一緒に手合わせしている自分でも確信が持てないような変化に気づくはずがない。

 

「・・・さすがだな。」

 

「ん、何が?」

 

「いや、なんでもない。」

 

 つい口に出てしまった感嘆の言葉。チルノはきっと大勢の人妖から好かれていたのだろう。

 

『あたいは馬鹿だけど、友達を馬鹿にするのは許せない。』

 

 身に覚えのない、いやおそらく霊夢の記憶がよぎる。妖精のわりに強いのではなく、チルノであるからこその強さ。一人のつらさを知っている故に、友は見捨てない。

 

 群を抜いて強いわけではない彼女にすべてを救えるわけじゃない。それでも諦めない。どれだけ掌から零れ落ちようとも残ったものはある。その残ったものを必死に守っている。自分と大して変わらない大きさの少女が。

 

(・・・師匠は分かっているのだろうか。)

 

 

 

 

 

 




更新ペースを週一に持っていきたいですね
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