かくして幻想へと至る 作:虎山
「月が綺麗っていう言葉は何だったかな?こんな日に死ねるあなたは幸せでしょうっていうのかな?」
「・・・まだ満月じゃないし、あんまりそういうことは言わないでくれ、今の俺にはきつい冗談だ。」
これからのことを考えると悲しくなってくる。自然回復能力が異常なまでに働くようになり、明日からは修行再開となる。一日休めば、傷こそ治らないものの十分に体を動かせるようにはなる。
だからといって今抱えている問題は解決しない。その時が来ることは分かっていたが、思っていたよりも師匠に惹かれ、簡単に終わりにできるほど自分は非情にはなり切れない。それこそ向こうがそう望んでいたとしても。
「何とかできないものか、、、」
「ん~もうさ、力尽くでいけば?」
チルノには話せなかったが、こいしには少し相談した。案の定まともな返答は返ってこなかったが、彼女なりに考えているのだろう。
「力尽くって、どういう意味だよ。そもそも師匠に最初に提示された条件がそれだったからもうしょうがない気もするんだがな。」
そう、あの時交わした約束は絶対のものだ。だからこそ師匠は動いてくれたし、自分を鍛えてくれたのだと思う。
俺はどうすればいいのだろうか。
「力尽くはそのままの意味だよ。気に食わないことがあれば戦って勝った方が決めればいい。昔からずっと言われてるでしょ?」
物騒な案だが、最後の最後はそれしかないのだろうか。確かに話して何とかできるとは思わないが気が進まない。
「・・・そもそも、できれば苦労しないし、師匠は納得しない。」
強気に出ても師匠に勝てる見込みはほとんどない。そのまえに取り合ってすらくれないだろう。
「頼み込めばいけるよ。だって、殺されたいと思ってるんだよ。本気で戦ってくれって頼んだら、それに乗じて死のうとすると思うよ。」
「そうだろうか。というよりなんで俺に殺してくれっていうんだろうか、本当に死のうと思えば自分で首を落とせる人だとは思うけど。」
最初に思った疑問だった。当たり前のように師匠は答えてくれなかったので流してきたが、なぜ俺に頼んだのだろうか。
「・・・知らないの?妖怪を完全に消すには人間に殺されるしかないんだよ。」
「・・・なんだそれ、聞いたことない。」
そんなことは魔理婆さんも言ってはいなかった。聞いていなかったのもあるが、知っていたのだろうか。
「私もよくは知らないけど、そういわれてたよ。ただ、妖怪同士の争いでは肉体が損傷して回復できなくなっても復活するんだって。転生?だったかな。」
まだ妖怪について知らないことが多そうだな。それにしても人間が殺すことでの完全な死か。
「・・・そうだな、、、考えてみるか。」
「言っておいてなんだけど、勝てるの?」
「・・・師匠の本気がどれくらいによるかだが、全力でいけば可能性はある。どれだけ強くても、それはあくまでもこの世界の概念の中でだ。」
机に置かれた懐中時計を手に取る。もしかしたらと思ってみたが、これが俺の切り札になるものだった。
「明日は満月か、たしか妖怪は満月の夜に妖力を増し、より強くなるんだよな?」
「そうだね、もし戦うんなら避けた方がいいよ。」
「・・・いや、満月の夜に活発になるのは妖怪だけじゃない。」
・・・
「気力、ですか?」
「そうです、霊力、妖力といった力とは違い、生物のほとんどが有している力です。人間でも鍛錬次第では扱うことができ、纏うことで強化はできますが、霊力のような強化ができるわけではありませんし、妖力のように応用性があるわけでもありません。ただ、先ほど言った通り気力は生物のほとんどが有しているという点が強みです。」
「・・・それが強みですか。いまいちパッとしませんが。」
誰もが持っている力だからこその強み、よくわからない。誰も持っていない力の方が強みになるのではないだろうか。
「気力は変化します。強い者はそれだけ強い気を宿していますし、また生命力を図ることもできます。探索能力的には役立つのです。また、軽い強化を長時間維持するなら気力をおすすめします。そしてあなたはある程度使うことができます。」
「・・・霊力と同じ感じですか?」
「魔力よりかは霊力に近しいですかね。私が少し送ります。気力は量が違うだけですべての存在が同じものを持っています。私の気力をもとに引き出してみてください。」
そういうと頭に手を置かれる。ここに来た時より少し伸びたが、まだ師匠より頭一つ分ほど小さい。そんなことを考えていると、体に気力と思しきものが巡っているのを感じた。
それを察してか、師匠は手を放した。
「わかりましたか、それが気力です。今度はあなただけで発現させてみてください。」
先ほどまでの感覚を頼りに気力を集める。霊力とは違い微々たるものが常に体を巡っているようだった。川の流れを一点に絞り込むように気力を集める。手に少しずつ集まっていき、目視できるほどのエネルギーの塊となった。
「・・・確かにそれほど力は感じませんが、扱いやすさはありそうです。」
ほとんど自分の意識通りに操作できる力だ。強力な技には向きそうにないが、小技にはいろいろ使えそうだ。
「私の武術の本質は気を操ることでしたが、霊力や魔力を扱っていたあなたはもう十分に操れます。基本は教えました、この後どうするかはあなた次第です。ですが、もう私が教えることはないです。」
「・・・これで終わりということですか、、、」
「・・・そうですね。」
沈黙が流れた。師匠は自分が迷っているのを感じているはずだ。だからこそ、「殺してください。」という言葉が簡単には出ない。師匠も迷っているのだろうか。
「・・・あなたといた日々は悪くなかったですね。これまで私はずっと迷っていたんです。どこかで死んでいるべきだったと。」
「・・・それはレミリアという人が死んだときですか?」
これを聞くのは無粋だと思うが、ここで聞かなければもしもがあった時に何も聞けなくなる。
「・・・いえ、それより前です。レミリアが死のうとしたとき、私も死ぬ予定でしたが、また死に損なったんでしょうね。生憎、生命力が桁違いですから、首を落とすか、心臓をつぶさなければなかなか死ねませんから。」
・・・ここに来て、いろいろと情報が入り込んできた。話から察するに死ぬつもりだったのか、そして元から変っていなかったのか。いや、チルノが言うには昔は優しかったと聞く。レミリアという人が死んでのダメージがやっぱりあるのだろうか。分からないことが多い。
「またっていうのは?今思えば、ここの主とどんな関係だったんですか?」
師匠のなぞに少し踏み込んでみる。今なら答えてくれそうな気がする。
「・・・そうですね、誰にも話すつもりはなかったんですが、あなたになら教えてもいいでしょうね。私と紅魔館の関係、そしてレミリア達の最後。」
師匠は語りだす。
「最初に言っておきますが、私はレミリアよりも前から紅魔館にいました。」
チルノから聞いたことの中にはレミリアの年齢があったが、約五百歳ほどといっていた。師匠はそれ以前から存在していたのだろう。
「・・・レミリア、そして妹のフランは私にとっては複雑な存在でした。彼女たちが悪かったわけではありませんが、なんていうんでしょうか、私も女だったというわけでしょうね。」
何が言いたいのかよくわからない。ただ、二人にいい感情は持っていなかったことだけは分かる。
「私が最初に消えるべきだったときは二人が生まれる前、ヴラドが私を選ばなかった時ですかね。ちなみにヴラドというのは二人の父にあたる存在です。」
今の師匠からは考えられないような色恋沙汰のようだ。
「それでも私がいたのはヴラドに居て欲しいと言われたからでしょうね。そして、妥協点というのが門番でした。あの輪に入ると居心地が悪いんですよ。向こうは仲良くしようとしてる分、余計に質が悪い。」
離れようと思えば離れることはできる。でも師匠にそれはできないと思う。
「・・・フランを生んで、フランの能力故に母親は亡くなってしまい、私が彼女たちを育てることになったのですが、どうも子供というのは慣れなかったですね。私がどう思っているのか、考えることもなく彼女たちは私に笑顔を見せるのです。その時に初めて、いてよかったと思えましたよ。」
珍しく少し微笑んだ。彼女にとって、きっと大事な記憶なのだろう。
「ですが、子供はいつの間にか育っていて、大人になっていました。」
そう話す彼女の顔は嬉しいようで悲しそうだった。