かくして幻想へと至る   作:虎山

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長く間が開いてしまいました。これからもボチボチやっていきます。



目覚めし者

 二つの閃光が目標に向かう。

 

 目標にぶつかり、バンと爆発音が鳴り周囲に黒煙が立ち込める。

 

(・・・はずれたか。)

 

 両手にそれぞれ持っている八卦炉の一つがピシピシという音を上げ、ひびが入り、ばらばらと崩れていく。壊れた一つをすぐさま持ち替え、マスタースパークの推進力を使って移動する。

 

 黒煙から人影が飛び出し、さきほどまでいた場所に突っ込む。そしてすぐにこちらに向かってくる。速さはこちらの方が上だが、常に魔力を流し続けているので長くはもたない。だが、今は違う。

 

 パチュリー・ノーレッジ作のレプリカミニ八卦炉、材質は金属のようではあるが強度は高くはなく、ある程度の魔力を通すと崩壊する。もちろんだが霊力では起動しないし、火力を上げるためのものとして作られたため魔力での繊細な作業には向かない。魔理婆さんからもらったものと比べて性能は大きく落ち、制作者本人もガラクタと言っていた通りのものだった。

 

 ただ、この八卦炉達に魔力の付与をかけてみると、やや暴発しそうではあったが少しの魔力が保存できた。精々マスタースパーク一発分位ではあるが、元がガラクタなのだから十分だ。それが十個程もなればだいたい自分一人分の魔力になるだろう。

 

 おおよそ二人分の魔力を使えば、惜しみなく魔法を使える。

 

 片方の八卦炉で移動を、もう片方で攻撃を行う。師匠の動きは機敏で厄介だ。追いかけていても普通のレーザーなら避けるだろう。それなら広範囲にばら撒けばいい。

 

「飛び散れ、スターダストレヴァリエ!」

 

 八卦炉の中の魔力を開放。視界を埋め尽くすほどに輝く星々が飛び出す。七色の流星群は師匠を飲み込んだ。

 

 スターダストレヴァリエ。過去に行われていた弾幕ごっこにおける魔理婆さんのスペルカードという一種の大技の一つ。そのルール上、必ず避けることのできる空間を開けなければならないが、そのルールが適用されていない今、隙間なく埋め尽くした星々を避けるのは不可能。

 

 威力に関していえばマスタースパークと比べれば低いが、それを補うだけの範囲を持つ。マスタースパークだけを見せておいてのこれは奇襲にも似たようなものだ。

 

 二つのレプリカ八卦炉がパチッという音と共に崩れ去る。持ち替えようとしたとき、星の波を越えて師匠が飛び出してくる。一切ひるむことなく一直線に飛んできた。

 

(・・・間に合わない!)

 

 何とか腕だけを強化したが、全身には回らなかった。いや、ここは意外に絶好の機会かもしれない。

 

 魔法をいくらか直撃させたのもあるおかげか、師匠の攻撃は少し読みやすくなっている気がした。来るのは胸元の伸びてくる正拳突き。博打気味になるが、片手で受け止めて、こちらの攻撃をあてる。師匠の突きの威力は十分に知っているが、手ごたえのある攻撃をぶち込む機会だ。

 

 空中のため受け流すのは難しいが、力をしっかり込めて受け止めることはできるはず。

 

 目前に迫った師匠の突きを左手で受け止める。溝まで押し込めれられたがそこまでの間に手で威力を受けきっていた。後はゼロ距離から打ち込む。

 

「・・・言ったはずですよ、基礎だけで並んだ気ですかと。」

 

 止まった拳が胸を強く打ち込む。強化していない溝には重い一撃だった。空いた片手で手繰り寄せた八卦炉でマスタースパークを苦し紛れで放ち、攻撃と離脱の同時を狙う。

 

 一瞬で離れ、とっさに距離を取ろうとし、マスタースパークを放つが、待ち伏せをしたように素早く回り込まれ、叩き落される。

 

 木々にぶつかりつつ、能力を使い落下のダメージを抑えるが、師匠の攻撃で今度こそ肋骨あたりに異常をきたしたようだ。まともな強化が間に合わなかったから仕方ないか。

 

「・・・あえて受けさせた、のか。」

 

 何とか立ち上がり、前を向くと師匠が近づいてきた。

 

「そうですね、二段突きという技と鎧通しに似た技の合わせ技です。たった数か月で私の攻撃を片手で流せると思わないでください。」

 

 そんな技を十や二十は持っているだろうと、接近戦を最低限にしたのだ。少なからず遠距離なら勝てると思っていたが、甘くはないか。すぐに間合いを詰められてしまう。

 

「速さは評価しますが、扱いきれない速度では簡単に読み打ちされますよ。特にあなたのように要因が分かりやすいものは。」

 

 速ければいい、そんなわけはなかった。今思い返せば、凶に切られた時も制御できずに突っ込んでいた。確かに速さで優っても意味はないか。

 

 手に持った八卦炉が崩れる。 

 

「十個目。随分と持っていたようですね。ここで使わずに持っていればよかったでしょうに。」

 

「・・・今にも爆発しそうな爆弾を持つほどの危険は冒せませんよ。」

 

 オリジナルの八卦炉に持ち替える。

 

「あれが最後でしたか。私も無傷ではありませんが、あなたほどの傷は負っていないですよ。」

 

 直撃した攻撃もいくつかあるのに疲弊した様子のない師匠と、まともにくらった二発で致命傷間際の自分。

 

 さて、どうしたものか。打つ手が無くなったに等しいな。時間変換は使いたくなかったが、この際ガタガタ言ってられないか。

 

 そんな時だった。ふと頭に言葉がよぎった。

 

『世界から離れるのは怖いわ、なんだか人間じゃなくなってしまう感じがするもの。』

 

 内なる記憶が語り掛けてくる。それと同時にとある映像が流れる。

 

(・・・なるほど、今の俺ならできるかもしれないな。前任者よりも不完全なものだが。)

 

 一か八かの賭けになるが、有効手段がない。時間変換は問題なく使えるがこの状況では師匠も読んでくる。

 

 ここで出来なければ負ける。

 

 体の痛みなど気にしない。全身の力を抜き、霊力を体を覆うようにして流し続ける。構えを解いたのを不審に思いつつも師匠は警戒を解かない。流石である。

 

 片手に八卦炉を構え、全力で加速し突進する。師匠は目の前に手刀を入れようとしている。倍速に対応するためにより早く打ち出している。

 

『このスペルを見せるのはあなたが初めてよ。』

 

 一瞬の走馬灯のように駆け巡る記憶。いつか見た満月の夜だった。 

 

『できるものなら私を見つけてみて、たぶん無理だろうけど。』

 

 悲観的だが、どこか希望を持っているようだった。

 

(・・・なるほど、あんたにとってこの技は特別だったのか。悪いな使わせてもらう。)

 

『「夢想天生!」』

 

 脳に響く詠唱と重なる。その瞬間、自分の存在は幻想郷から認識されなくなった。

 

 師匠の手をすり抜け、体をすり抜け、すぐに自分は戻ってくる。そして振り向き八卦炉を向ける。

 

 それと同時に本当に最後のレプリカ八卦炉を自分と師匠の間に投げる。師匠は顔だけを振り向かせたが、驚いた表情でこちらを見ていた。もう遅い。

 

 レプリカ八卦炉を飲み込むようにマスタースパークを放つ。二つ分の魔力が重なりあったより太く、強力な閃光が師匠を押し飛ばす。

 

 師匠はぐんぐん飛ばされていき、紅魔館の門にぶち当たった。

 

「・・・名付けて、重閃光(デュアルスパーク)ってとこか。近距離でこれは効くだろう。」

 

 

 

 紅魔館に近づき、師匠の様子を確認しようとするが、そこには壊れた門があるだけで師匠はいない。

 

(避けた、いや直撃したはずだ。)

 

 嫌な予感がよぎり、身をかがめ、全身を強化する。さっきまでで大量に霊力を使っているが、まだ何とかなりそうだ。どこから来ても対処できるように、警戒する。

 

(・・・上か!)

 

 上空からの攻撃を避ける。相当な威力のようで地面に拳が突き刺さっていた。

 

 師匠の姿はボロボロでやはり直撃はしたようだが、まだ倒れてはくれないようだ。

 

 その目は今までと違い輝きが見える。それこそ妖怪のように。

 

「・・・ここまで痛めつけられるとは思いませんでしたよ。短時間でそんな奥の手まで用意できるのも、一種の才能でしょうね。」

 

「・・・最後の技は俺の選択肢になかったものです。この戦いの中で閃いたも同じです。」

 

 あれがなかったらあそこで終わっていただろう。

 

「・・・これだから、人間は面白い。」

 

 笑みを浮かべる師匠。これまでとは違い、はっきりと読み取れるほどの笑顔だ。愉快そうに笑っている。

 

「あなたに敬意を表し、最後に少し見せてあげましょうか、かつての紅美鈴を。」

 

 師匠の体から力を感じる。そうだ、師匠が今まで妖力を使ったところは見たことがない。

 

 師匠から感じるのは気力ではなく妖力だった。そして、師匠の体に変化が訪れる。

 

 頬に僅かにひびが入り、さながら鱗のように広がっていく。目も人間のそれとは違い、爬虫類のような目をしていた。

 

 それは図書館で調べたある妖怪の特徴に一致していた。

 

「・・・竜人。」

 

「そうです。太古の昔、人の憧れた竜の成れの果てです。まあ竜としての記憶はもうありませんが。」

 

 今まであったどの妖怪よりも恐怖を感じる。五感のすべてが危険信号を発している。

 

「あなたは初めてですかね。これが大妖怪の壁です。あなたの目標達成にはこの壁を越える必要があると思いますよ。」

 

 そんな恐怖の中でも、不敵な笑みは妖艶で、ほんの少しだけ見惚れてしまった。

 




妖怪は恐怖の対象でもありますが、どこか惹かれるものがあるのでしょう。
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