かくして幻想へと至る   作:虎山

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霧雨の魔女

 魔法使いのコスプレをしたような金髪の少女が話しかけてくる。声は聞こえない。ただ、楽しそうな雰囲気が読み取れるにこやかな表情だった。何だろうか、この感じは。心からの信頼なのだろうか、少なくとも自分は知らないものだ。

 

何処からか声が聞こえた。いや、自分が発しているようだ。

 

「魔理沙、あんた・・・」

 

 

映像が途切れるように、ハッと目が覚める。目に飛び込んでくるのは少し古い木目の天井だった。起き上がろうとすると、右肩に違和感を覚える。右肩から胸にかけて包帯が巻かれている。少々痛みがある。

 

「目が覚めたかい?まだ、安静にしとかなあかんよ。」

 

 椅子に座ってこちらを見ているお婆さんがいた。服装は違うが気を失う前に見た魔女のようなお婆さんだった。黒い帽子の無いその頭は白髪が混じり金髪が目立つ。

 

(・・・夢じゃなかったのか。・・・夢と言えば、さっき何を見ていたっけ。)

 

「まだ、状況をよく把握しとらんようじゃから、聞きたいことがあれば何時でも聞きな。」

 

 こちらの様子を見て、なにか思ったのだろうか、お婆さんがそう尋ねてきた。

 

「・・・まずは助けてくれてありがとうございます。なにがなんだかわからないが、ここが何処か、そしてさっきの化け物は何か、そもそも何でここにいるのか、聞きたいことはたくさんあります。答えられるだけお願いします。」

 

「ふふ、最近の若いやつは見とらんが、お前さんはだいぶ落ち着いとるの。それに私の若い頃と違って礼儀正しいの。」

 

 何処か懐かしんでいるようだった。ふと、部屋を見渡してみる。ベッドと椅子と鏡がある机しか見当たらない質素な部屋だと思った。

 

 机に目を向けると、西洋風の人形といくつかの写真が見える。どの写真にも共通して魔法使いのような白黒の服装の女性が見える。

 

 夢の内容は思い出せないが、僅かな引っ掛かりがある。

 

(・・・夢で見た少女に似ている。)

 

「さて、何処から話そうかの。」

 

 お婆さんの声に思考を一旦引き戻す。

 

「そうじゃの、まずここについて話そうかの。ここ、いやこの世界は‘幻想郷’というところじゃ。」

 

 幻想郷?聞いたことの無い地名だ。

 

「まあ、知らんのももっともじゃ。何せ、ここはお前さん方がおる世界から隔離された世界なんじゃからな。」

 

「隔離?それじゃ何で俺はここにいるんですか?」

 

 勿論だが、そんな世界に入った覚えなどは無い。そもそも家で寝ていて起きたらここにいたのだ。

 

「お前さんみたいな外来人がここに入り込むにはいくつかの方法があっての、昔はこの世界の管理者が迷い混ませるのが多かったんじゃがの。そいつが今、それをするほどの暇があるかと問われれば恐らくは無いんじゃがの。そして、他の方法で今起こりそうなものは一つしかない。」

 

 その一つを言い出すのを何だか躊躇しているような気がする。

 

「・・・その一つとはなんですか?」

 

「・・・そうじゃな、それを言う前にまず、幻想郷について少し説明しておこうかの。」

 

 そう言ってお婆さんは話を切り替える。

 

「幻想郷は別の言い方をすれば、‘忘れられたものの最後の終着点’、そういわれとる。あの化け物、妖怪じゃが、お前さんの世界から消えたものが行き着くんじゃ。じゃからの、恐らくお前さんは・・・」

 

ー世界から消えたんじゃなかろうか。

 

 その言葉に納得してしまった自分がいた。群れに馴染めないやつは弾かれる。だから居場所の無い世界が生きるところだった。それが当たり前だ。自分のように親もわからない者は少なくはない。それでも忘れ去られるなんて、自分はおかしいのだろうか。

 

「・・・本当に世界からも浮いてしまったんだな。やっぱり普通とは違ってたんだな、俺。」

 

「もしかして、お前さん、能力持ちなのかもしれんの。いや、よく見ればお前さん、霊力を持っとるの。」

 

能力?霊力?訳のわからない事を言っている。それに浮くことが能力だと言うのなら、これはもう・・・

 

「呪いみたいだ。」

 

「・・・能力のなかには、それに振り回されるものも少なくはなかった。お前さんも何かしらのものを背負っているんじゃろうが、生憎今は頼り処は無いんじゃ。」

 

「・・・この世界の管理者は今どこに?」

 

「会いに行くのは止めておいた方がええ、さっきの妖怪と太刀打ちできん人間が行けるところじゃない。」

 

 もとの世界に戻りたいかと言われれば、別に戻らなくともいい。だからといって、この危険な場所にはそれほどいたくはない。

 

「とはいえ、一人である程度戦えな、生きていけんやろ。私ももう長くはない。お前さんを多少マシにするのが、最後の仕事になるのかもしれんの。」

 

「・・・俺にあの化け物を倒せるようになれと。」

 

 正直言って無理だと思う。例え武器があっても、それを扱えるようになるにも時間はかかる。

 

「いや、倒せなくともよい。ただ、逃げられるくらいの力は持っといた方がええ。贅沢言うなら脅すくらいの力は欲しいんじゃがの。」

 

 逃げる力、それも結構怪しいが確かに最低限は必要だ。あの時、ほぼ棒立ちだったのだからやられて当然だったか。

 

(そういえば、危機感を感じているな。浮かすのはやめといた方がいいだろう。)

 

「ただ、今日は休んどれ。薬と魔法でほぼ治っておるが、完全ではないからの。」

 

 その言葉を残し、杖をつき、部屋を去っていこうとするお婆さん。

 

「あの、もう一つ聞きたいことがあります。」

 

「ん、なんじゃ?」

 

「お婆さんの名前を教えてください。これからお世話になるものとして、恩人の名前は知っとくものだと思いますし。」

 

「ああ、そういえば、言ってなかったの。」

 

 ゆっくりこちらを振り向く。

 

「私は‘霧雨魔理沙’、魔法が使えるだけの人間じゃよ。とは言っても里の人間達からは霧雨の魔女といわれ、妖怪扱いされたが。そういうお前さんの名前を聞いてもよいかの?」

 

「・・・霊吾(れいあ)、名字は一応あるが、あくまでも必要だったからであって、俺にはいらない。これからよろしく頼みます、霧雨さん。」

 

「霧雨さんってのは止してくれや。あんまりこっちで呼ばれるのは好きでなくての。さっきまでのお婆さんでええ。」

 

「・・・では、魔理婆さんと呼ばせてもらいます。」

 

「くっく、随分と可愛らしい名前をつけてくれたの。ああ、それがいい。それから今日は随分大人しいの。」

 

 そういって魔理婆さんは机の人形を見つめる。

 

「・・・ばらさないでよ魔理沙。」

 

 置いてあったと思った西洋風の人形が突然動きだし喋った。

 

「え、人形が!」

 

「くくっ、いい反応ね。いやー久々の来客だし、幼い少年を驚かす機会なんてあるはずないって思ってたからね。」

 

 笑いながら喋る姿は少女のように思えた。

 

「こやつは‘上海(しゃんはい)’、自立人形といっての自我をもった人形じゃ。人形といっても大きささえ考えなければ、もうほとんど人間と遜色なかろう。」

 

「・・・驚いたな、これも魔法なのか?」

 

「私だけの魔法ではないがの。まあそういうわけじゃから、仲良くしてやってくれ霊吾。」

 

「これからよろしくね、少年!」

 

「・・・霊吾でいい。」

 

「わかった、少年!」

 

こちらをおちょくっているような感じだ。

 

「・・・もうそれでいいや。」

 

 何が面白いのか、ニコニコしている。何だか悪ガキみたいだ。

 

 妖怪だの魔法だの、よくわからないものが飛び交うこの世界で自分はやっていけるのだろうか。

 




私の中の魔理沙は、どんなに魔法に精通しても意地でも人間でいそうなイメージです。

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