かくして幻想へと至る 作:虎山
玄関先が池になるのは初めての経験です
そんなわけで投稿です
博麗神社
幻想郷に来てかれこれ二年が経とうとしていた。
これまでの傷の比にならない重傷だったらしく、完全に直すまで半年近くかかった。見た目もそうだが、内臓のダメージが想像以上に響いた。ズタボロだった体が何とか立てるまでになるのに意外に時間がかかってしまった。
年月というものは人を成長させる。例外に漏れず自分も成長が見て取れる。数か月で急激に背が伸びた。とは言っても、未だに百六十センチ未満であるから個人的には年相応というわけではないのだろう。師匠はまだ見上げる形だがチルノとはどっこいどっこいである。
そして今日で紅魔館にいるのは最後の日になるだろう。
「・・・ありがとうございます。」
「それは何に対する礼ですか?」
「まあ、いろいろです。あなたにはいろんなものを貰いましたからね。」
ここに来た時とは打って変わって晴れやかな表情の師匠。悲壮感漂う隻腕隻眼の姿はなかった。
「チルノとは会っていかなくていいのですか?最後の別れになるわけではないと思いますが、頻繁に会うことはないと思いますよ。」
「一応出ていくことは言っていたんで問題はないです。それで師匠はこれからどうするつもりですか?」
あの日からは自分の相手をしてくれたが、チルノが訪れるとはいえ、何をするのだろうか。
「そうですね、、、まだ考えていませんね。私もどこかふらっと見て回ってみようかなと思ったりもしますね。」
「そうなったら紅魔館に誰もいなくなるじゃありませんか。いいんですか。」
「いいんですよ、ここには思いはたくさんありますが命はありません。大事ではありますが、紅魔館のたどる道は主たち同様、誇り高くあることではと考えましてね。私がいても、いなくても根本的に変わりませんよ。」
師匠の中で区切りがついたのだろう。紅魔館の住人から、ただの妖怪に変わったのだろうと思う。それがいい事か悪い事か、分からないが師匠にとっていい方向に働くと思っている。
「では、師匠こ、」
「ああそれと、もう師匠と呼ばずに、美鈴と呼んでくださいよ。」
「・・・美鈴さん、これまでありがとうございました。」
門なき紅魔館を抜けていく。向かうは当初の目的地である博麗神社だ。
「・・・この上か。」
広い森を抜けると長い石造りの階段が見える。誰もいないと聞いていたが、不自然に草がかかっていないところを見ると掃除はされているようだ。
長い階段の先に鳥居が見える。その際においても注意は怠らない。低級の妖怪はもう相手にはならないどころか足止めにすらならないが、だからといって油断すれば一撃でも最悪の展開になるかもしれない。
階段を上がりながら、上にいる存在に気づく。
(・・・妖力。幻想郷の管理者なのだろうか。それにしては強い気がしないが、隠しているのか。)
階段を上がり切ると、頭に猫の耳が生えた少女がこちらを見据えていた。堂々とした立ち振る舞いに少し警戒する。
「・・・人間、何の用だ?用がないなら帰れ。」
「・・・幻想郷の管理者に会いに来た。」
すると猫の少女は怒りを表し、威嚇するように言った。
「紫様まで狙うか、人間が!」
猫の少女はそういって飛び掛かってくる。
(話を聞いてもらえないか。人型の妖怪である以上相当の力は有しているはずだ。全力で叩き込む。)
飛び掛かってきた少女の手を弾き、無防備になった胴体に掌底を叩き込む。
「へっ、ぐえっ、」
潰れたような声を出し、吹っ飛んでいく。ドンと木にぶつかり、倒れる。
次に備えて構えるも、起き上がってこない。
(・・・近づいたところを狙うのか。)
霊力を放つとまともに食らいビクッっとした。
どうやら本当に伸びているようだった。近づいて起こしてみると白目をむいており、口から少女が出してはいけないものが出ていた。
「・・・すまん。」
口を拭いてやり、神社の縁側に寝かせる。
襲ってきたとはいえ少女にはあまりに強すぎた攻撃だったようだ。強い気がしなかったのは本当にそれほど強くなかったからなのだろう。
しかし、紫様か。どうやらここにいるので間違いないらしい。
「橙、何かあったのか?」
奥から声が聞こえる。すぐ後に障子が開かれ、女性が出てくる。
多くの尻尾が後ろで漂っており、その形と毛並みから狐の妖怪であることが想像できる。それも伝説上の九尾の狐の可能性が極めて高い。
そして近くに来て分かる。自分より強い。それも恐らく竜人化した美鈴さん並に強いのが分かる。
とっさに離れ警戒する。今度は八卦炉を構える。何時でも逃げることができるように。
「・・・なるほど、君が例の外来人か。一応、話は聞いている、上がれ。橙、その少女のことは気にするな。まあ後でいろいろ言われるだろうが。」
猫の少女を拾い上げ、奥に戻っていく。少し考えたが、敵意は感じなかった。自分も後に続くように入っていく。
「・・・聞いていたとは、誰にですか?」
橙と呼ばれた少女を寝かせて、こちらに向き直る女性。
「その前に私の名前を言っていなかったな。八雲藍、幻想郷の管理者の式といったところか。霊吾だったな、紫様から聞いている限りでは多少霊力が扱えるくらいで能力がある少年だったが、随分と変わったもんだ。」
立ち上がりこちらを観察するように見る。相変わらず見下ろされる形になるのはしょうがないが、敵意がないとはいえ、迫力があり、対面するだけでも威圧感を感じる。
「・・・なるほど、限界まで警戒範囲と精度を維持しているのか。その状態で私といるのは辛いと思うが。安心しろ、ここは安全なところだ。」
見抜かれていたか。まあ力のある妖怪なら広い範囲に展開している気力に感づくのだろう。
気力を解き、力を抜く。さっきまで感じていた威圧感もない。無意識のうちに自分の中で実力を測り、警告のサイレンを鳴らしていたのだろう。
「紫様からは希望の欠片と言われていたが、ふむ、あの竜人が認めるだけはあるようだな。少なくとも人間の中では上の部類だろう。だが、希望となりえるほどの才がないゆえに欠片だろうな。」
希望の欠片?随分と持ち上げられている気がするが、その紫様は自分の何を見たのだろうか。いや待てよ。
「・・・竜人って、知ってたんですか?」
「古くは同じ大陸で争った存在だ。勝敗はつかなかったが、持久戦であったならば私は負けていただろうな。ここであったからといって昔を懐かしむ仲ではないのでな、互いに触れないようにしていただけだ。」
道理で威圧感があるわけだ。
「・・・それでその紫っていう方はどこに?」
「・・・紫様は倒れておられる。本来は冬眠を必要とする妖怪故にここ数十年ずっと結界の管理をしていたつけが来たのだろう。それも霊力で張られた結界を妖怪が操るのは負担が大きい。」
倒れたか。しかし話からするに自分がまだ魔理婆さんの小屋にいたころはまだ起きていたはずだ。
「その紫様からの伝言がある。」
「俺にですか?」
「そうだ、紫様曰く、彼なら断らない、そうだ。」
あったこともない自分に一体何を見出したのだろうか。
「『博麗の代理をお願いします。この幻想郷を救ってください。』、倒れる寸前に残した最後の言葉だ。正直、君にできるかは不安だが。」
「・・・博麗の代理とは何をすればいいのですか?」
「そうだな、大きい役割は結界の管理だ。この幻想郷は今、妖怪と人間の関わりが極端にない。その結果としてこの世界の性質が外の世界にやや近づいているのだ。今すぐ問題があるほど近づいているわけではないが、無視できるものではない。」
「・・・結界でよりこの世界の性質を保つようにするのですか。」
「理解が早くて助かる。そうだ、博麗大結界という結界の補強は人間がやるのが適役であり、妖怪にできるものではない。だがな、一つ問題があるんだ。」
「・・・問題?結界なら少しは張れますが。」
魔理婆さんの魔導書や実際の結界を見ているから、多少はできるだろう。
「そうではない。結界の補強自体は既存の結界に霊力を流し込むのが主であるため、技術はそれほど必要というわけではない。単純に霊力が足りない。いや、足りないわけじゃないか。ちょうど君の霊力一人分くらいだろう。」
「それならば問題ないのでは?」
「一気に霊力をすべて持っていかれるというのは、精神に響くぞ。死ぬとまではいかなくとも、命を削ることにはなる。それでもやるのか?」
なるほど、徐々に減っていくのではなく一気に減るのか。今まで経験がないから何とも言えないが、死ぬわけではないのか。
「それほど問題ないじゃないですか。これまでも下手したら死ぬだけだったのが変わらないだけ。たとえ死ぬ危険があると言われても答えは決まってますよ。」
今まで通りだ。楽な道ではないことくらい分かってる。
「至らぬ身かもしれませんが、任せてください。」
この話とは関係ありませんが...
美鈴と藍はとあるうつくしい同人における関係が好きです