かくして幻想へと至る 作:虎山
胡散臭い、みなが揃えて口にする。私もそう思っていた。何かを企んだような笑みを浮かべ、飄々とした態度で話しかけてくる。異変が起こっても、薄ら笑いを浮かべ、訳の分からない助言を言ってくる。掴みどころのない雲、そんな存在だった。
そいつが感情を露にするのを見たのは初めてだった。神社に岩が落ちてきたとき、そいつは激昂した。それを見て気づいた。
そいつが本当に幻想郷を愛していると。そいつが薄ら笑いを浮かべている時が幻想郷の平穏であると。
だから笑顔でいるようにしてほしい。
頼んだわよ、霊吾。
・・・
「!?」
突然の出来事にはっと目が覚ます。記憶、いつもと同じように何かを切っ掛けに蘇ると思っていたが、彼女の意思が俺に向くとは思わなかった。
博麗霊夢という存在がいかに規格外であったか。死後においても夢への侵入、言わば精神的接触が可能であるなどもはや人間離れしている。
「目が覚めたか、意外に回復が早いな。」
博麗霊夢について思考を凝らしていると声が聞こえた。そっちに振り向くと、気を失うまで戦っていた少女がいた。
とっさに立ち上がり距離を取る。頭の中は夢の内容から少女の挙動に切り替わっている。
「そう警戒するなよ、気の小さいやつだな。もう手は出さないと言っただろう。鬼ってのは難儀な生き物なんでね、嘘が嫌いなんだよ。」
「・・・鬼?」
角にしろ、力にしろ鬼の要素はあるが、こんな小さい少女が鬼とは想像がつかなかった。いや、美鈴さんや藍さんからもあんまり容姿はあてにはならないか。
「そういえば名前を言っていなかったな。伊吹萃香、ただの鬼だ。」
そういうと伊吹は大きいひょうたんを口にする。そういえば戦闘中常に背負っていた気がする。匂い的にそれがなんとなく酒であるのが分かる。
「・・・いるか?」
こちらが訝しげに見つめていると、伊吹はひょうたんを突き出してきた。
「いらない。あれからどうなった。」
「つれねーな、、、お前がぶっ倒れた後、紫も寝ちまったから私が見てるんだが、その感じだと別段問題なさそうだな。」
伊吹は立ち上がり、背を向ける。来た時もそうだが若干酔っているような印象だ。実際酔っているのかもしれないが。
「すぐに紫が来るだろうから待ってな。私はもう行くから。あいつの小言は面倒だからな。」
部屋から出ていき、飛んで行った。
(・・・魔理婆さんが言ってたような妖怪らしいやつだった。正直言って、あれは苦手だな。)
・・・
結局、今日は休むことができずに終わってしまった。夕方ごろになり、神社の居間に佇んでいると不気味な割れ目が出現した。
八雲紫である。相変わらず悪い顔色であり、隣には藍さんがついていた。
「今晩は、霊吾さん。こうして挨拶が遅くなったこと、申し訳ございません。ここに来ていただき、結界の管理を担っていただいたことなど、あなたには深く感謝しております。」
記憶の中の八雲紫とは違い余裕を感じられない。必死さが伝わってくるほどの焦燥、今にも倒れそうなほどの疲労を見ていて感じる。
「こちらも助けてもらいありがとうございます。俺の事は霊吾でいいです。紫さんでいいんですよね?」
「自己紹介がまだでしたね、もうご存知でしょうが八雲紫といいます。好きなように呼んでください。あれはこちらの責任でもありますの。萃香も本来はあのようにいきなり手を出す妖怪ではございませんが、一時の気の迷いだったと思いますので。」
「・・・紫様。」
藍さんが何かを言いたげな風に紫さんを呼ぶ。
「分かってるわよ。霊吾、改めてお願い申します。今後、博麗の巫女が見つかるまでのつなぎの役割を担っていただけませんか。」
八雲紫は頭を下げて、頼んだ。夢で見た彼女からは想像がつかないほど、弱々しい姿だった。それでも、たかが人間に頭を下げるという行為が、妖怪の賢者といわれた者の重責を感じさせるほどの意地が見えたような気がした。
「私からも改めて頼む。紫様の頼みを受け取ってほしい。」
続けて藍さんも頭を下げた。
「二人とも頭を上げてください。断るつもりは毛頭ありません。それどころか、俺にできる事があったら、ぜひ頼んでください。」
もともと断るつもりはない。幻想郷は自分にとって大事な居場所になっている。人との繋りが居場所を作るとはよくいったものだ。道理で外の世界では居づらいわけだ。
「ありがとう、ございま、、」
「紫さん!」
「紫様!」
紫さんがいきなり倒れこんだ。藍さんと支えて、様子を確認するが普通に寝ているようだ。紫さんを神社のなかにつれていき、寝かせる。ほんの僅かに安心した顔をしているような気がする。
しかし、なぜこれほどまで弱っているのか、大妖怪と言われる存在なのに。藍さんに聞いてみた。
「本来、紫様は冬眠により脳の休止を行う。それがここ数十年は冬眠はおろかまともな睡眠すら取らずにおられる。」
「・・・それがあそこまで弱くなっている原因ですか。」
夢で見た紫さんを思い浮かべても、立っているだけで圧倒されるほどの威圧感を感じた。今の姿は少しつつけば壊れてしまうような、砂の城を思い浮かべる。
「やはりわかるか。要因はそれだけではないが、大きな割合を占めているだろうな。紫様のことはひとまず置いておくとして、霊吾についてだ。君が結界の管理を担うこと、これはつまり昨日のように毎週あの経験をすることになる。」
あの経験、体の霊力を吸いとられるような感覚。曰く、あれは微妙にだが魂を削っているのだそうだ。霊夢とは言わないが、これまでの博麗の巫女たちですらその定めに漏れず、みなが短命だったそうだ。
霊力が少ないほど衝撃が大きいらしい。また身体に対する負担も圧倒的に女性より大きいらしく、過去に男の“御子”も一人だけいたらしいが一年ほどで体に限界が来たらしい。
「・・・藍さんが思うに俺はどれくらいもつと思いますか?正直に答えてください。安心してください、今さらやめるなんて言いませんから。」
一瞬、不安そうな顔をしたが、諦めたように話してくれた。
「前の子に比べれば、随分と体力がある。それを考慮して、霊力の大きさからすると長くて五年ほどだろう。あの門番に随分と鍛えてもらっていたのが活きていたな。」
五年か。長いと見るべきか、短いと見るべきか。それが博麗として自分が存在できる期間。
「私は外界で巫女候補を探す。ここ十数年出向いていないので、見つかる可能性はあるかもしれん。君を壊すわけにはいかないのでな。見つけたらすぐに戻ってくる。」
つまるところ、これから一人でやっていくことになるのだろう。今朝のようなことも相まって不安があるが、あれは例外と受け止めるしかないか。
「君はここを拠点としてもらうだけでいい。結界の管理さえしてくれれば、基本自由に動いても問題ないがあまり危ないことに突っ込まないように。一応、橙にはここに来るようには言っておく。まあ、仲良くやってくれ。」
若干の苦笑い。おそらく橙が自分のことを嫌っている節があるということを理解はしているのだろう。
「分かりました。橙に関して言えば向こう次第ですが。」
「そう言ってもらえると助かる。最初のことを根に持ってるだけで時間が立てば橙も気を許すようになるだろう。確信はないが。」
互いに笑った。
これから長い時をここで過ごすのだろう。今までのように余裕のない戦いとは少し離れるかもしれないことだろうと思っていた。
どうでもいい事ですが
妖怪についての小説やライトノベルを読むのですが、捉え方や独自解釈がどれにおいても素晴らしいですね。