かくして幻想へと至る   作:虎山

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だいぶ飛びます


あれから

五年。

 

霊吾が博麗の代理として役割を果たせる期間であり、あと一年というところまで来ていた。

 

幻想郷にきて六年。少年の背丈はすでに大人のそれであった。おおよそ六尺ほどの背丈は幻想郷の他の住人と比べても頭ひとつ抜けている。

 

成長は見た目だけではない。自らを痛めつけるほどの修練に加え時折の妖怪退治により、力も技も魔法でさえも上達した。

 

だが反面、結界の管理は着実に霊吾の内面を壊していった。どれだけ強い器であろうと、叩けば衝撃は通る。何回、何十回、何百回、何千回と重ねるうちに衝撃は器に罅として表に出るようになる。

 

その罅は人体にも僅かながらに出ている。

 

 

・・・

 

 

 

「・・・随分と遅かったですが、その様子だと見つかりましたか。」

 

神社の一室に響く一人言。だが、すぐに会話へと移行する。

 

部屋に突然としてスキマが開き、中から藍さんと幼い少女が出てきた。

 

「久しいな霊吾。最後に会ったのは二年前だったか。・・・また無理をしたのか。まだ若いのに髪が白くなるとは。」

 

 一通り、自分を見た藍さんの率直な感想だった。前髪の一部が白くなっている。個人的にはかっこいいと思うが。 

 

「お久しぶりです、藍さん。まあ、いつも通りの感じですよ。」

 

「・・・すまない。私にできることはせいぜい謝罪くらいだ。実際に助かっている面が多いから、やめろとは言いづらいのだ...」

 

「謝ることはないですよ。それに紫さんも多少は回復してくれましたし、今はそれほどの負担はありません。」

 

両手をあげて、なんともないような仕草をする。

 

「それについては後で言いたいことがあるが、何とか間に合ったようだな。」

 

この四年で起こったことと言えば、紫さんの調子が落ち着いたくらいだ。人里にも妖怪にも大きな変化はなかった。単に気づかなかっただけかもしれないが。

 

報告もある程度終わり、次の話題に移る。少女についてだ。

 

「それでその子が博麗の巫女候補ですか?確かに霊力は俺以上にありますが、まだ幼い。すぐにつかせるって言うわけではないでしょう?」

 

さっきから静かにこちらの様子を見ている。正確には観察あるいは警戒かもしれない。少なくとも心を開いてくれている感じではない。

 

「ああ、どうやら不気味な子供として捨てられていたようだ。今の時代にはかなり珍しいが、この子の人を見抜く力は異常だからだろうな。嘘を嘘と見抜き、人の雰囲気で人格の特定までできるほどだ。それでいきなりで悪いが、この子をここに住まわせてやってはくれないだろうか?巫女候補として育てることも兼任で。」

 

 自分と同じように、人になれることが難しい生き方を余儀なくされる運命にあるのだろう。霊力が大きいということは他の人が持つ感性とのズレの大きさに比例する。少し程度であれば天才と呼ばれる存在になるだろうが、規格外の力を持つものは化け物といわれる。

 

 自分たちが産んだ子供くらいは受け入れてやれないものか。誰か一人くらいは受け入れてやってもいいのではないのか。孤独は人を変える。あの時、魔理婆さんや上海との出会いがなければどうなっていただろう。少なくとも俺の生きることに対する往生際の悪さはないだろうな。

 

「・・・あなたがれいあ?」

 

 か細い小さい声だ。年のわりにはかなり落ち着いた印象を受ける。だいぶ警戒は薄れている感じはするが、まだ距離を測っている最中だろう。

 

「そうだね、初めまして。一応、博麗霊吾と名乗ってるよ。君の名前は?」

 

「・・・かよ。何回かしか呼ばれたことはないけど...」

 

 名前を覚えてる。おかしいと思うのは俺だけではないはず。だがその気持ちが分からないでもない。慣れてしまうのだ。おい、お前、ガキ、この単語で反応するようになるころには名前を必要としなくなるのだ。そしていつしか誰からも呼ばれることなく忘れられる。

 

 名前とは存在の証。一番に存在を証明できるもの。呼んでやるだけでも嬉しく思えるものだ。

 

「かよ、話は聞いているか?」

 

「少しだけ。らんかられいあに教えてもらえって言われた。」

 

 藍さんに目を向ける。何で教えてないという事を目線で伝える。

 

「・・・博麗の巫女は代々先代の巫女が伝えていくものだ。それにだが霊吾は今人里との交流はないだろう。ここを訪れるやつはほとんど妖怪だけだろ?」

 

「それはそうですけど、それと何か関係が?」

 

「霊吾も人間との接触が少ない。妖怪ばかり相手にしていたからたまには人と接するのも重要だぞ。それにだ、この子に人間の温度を伝えられるのも霊吾だけだろう。」

 

 ちらっと少女を見る。どこか達観したような、諦めたような感じだ。またかといった表情をする。

 

(・・・昔の俺とどことなく似てるんだよな。)

 

「・・・もともと断るつもりはありませんよ。ただちょっと驚いただけです。」

 

 かよが一瞬ほっとしたような表情を浮かべる。

 

「・・・ありがとうございます。」

 

 礼儀正しい。というよりはなるべく顔色を窺い、機嫌を損なわないようにする。一気に壁を作られた感じだ。

 

「ありがとうでいいさ。これから一緒に暮らすんだ、無理に丁寧に話さなくていいよ。」

 

 横から髪を上げるように頭を撫でる。個人的に上から抑える撫で方より横からの方が怖くはないだろうと思うが...どっちにしろ変わりはないか。

 それでも多少は表情を和らげてくれた。やっぱり子供らしく甘えたいのだろう。

 

「そういえばだけど、かよ、年はいくつ?」

 

なんとなく幼い感じはするが、実際に年齢はどれくらいなのだろうか?妖怪ばかり相手にしていると年齢感覚がずれてくる。

 

「7才。」

 

(まあ、そんなもんだよな。だけど、笑わない子だな。俺が言えたことじゃないが...)

 

「・・・お父さん...」

 

撫でている中でボソッと声がした。ほんの少し顔が赤くなっている様子から、無意識にでた言葉だろう。

 

「・・・ごめん、いやだった?」

 

「いや...ではないさ。好きに呼べばいいよ。」

 

いやと言った瞬間に悲しそうな顔をすれば、しょうがない。できればやめてほしいと言おうと思ったが自分のくだらない感情より、かよが優先だ。

 

「ありがとう、お父さん。」

 

お父さんと言われるのは慣れないな。だが自分もこうして魔理婆さんと言いながら慕っていたし、やっぱり家族というのは欲しいものだ。一人のつらさは耐えることはできても、慣れることはない。

 

「とりあえずは二人とも仲良くできそうでよかった。博麗の巫女になりえそうな女たちはどいつもひねくれたやつが多くてな、先代が代々教えていたのだが互いに合わないなんてことも少なくはなかったのだ。霊吾が男であるからよかったかもしれんな。」

 

 それから藍さんはかよについて、これからの事を話し始めた。結界の管理に伴い、霊力の扱い方や戦闘面も教え込む必要があるらしい。実際に妖怪と戦えなければやっていけないのは重々承知だが、まだ幼い女の子に戦い方を教えるのは躊躇う。

 

 

 そんなこんなで説明がある程度終わるころに、かよがうとうとし始めた。

 

「眠い?」

 

「うん...」

 

 そういうと膝にこてんと頭を落とした。かなり頑張っていたようだ。

 

「境界での移動で疲れているんだろうな。隙間移動が慣れないものにとって不快感が拭えないものらしいからな。小さいかよにはきつかったのだろう。寝かせてやってくれ。」

 

「まあ見た目からしていいものではないですからね。あんな目玉だらけの空間にいたらそれだけでストレスが溜まりそうですよ。報告は以上でよかったですか?」

 

「一通りは終わった。こちらの事が落ち着いたら、後日また来る。」

 

「了解です。」 

 

 かよを抱きかかえ、寝室へ運ぼうとする。

 

「いや、一言あったな。」

 

 言い忘れていたようで、言い辛い事を言おうとしている感じだった。

 

「紫様とのことだが...回復したこともあるから強くは言えないのだが、あまり妖怪と交わるのはいいことではないぞ。」

 

「・・・まあ、気を付けときます。それとその事は紫さんに言っていただけると大変ありがたいのですが。何だかんだで俺も嫌いじゃないですので、断れないんですよ。向こうから来られたら。」

 

「・・・お前も男ということか。」

 

 藍さんは若干呆れたような表情をする。それに対して、苦笑いですみませんとしか言えないものだ。

 

 

 

 

 

 




空白期間は番外編で出すかもしれないです。

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