かくして幻想へと至る   作:虎山

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月1ペースがずれてしまいました


帰省

 娘ができて一週間ほどが過ぎた。最初はいろいろと不安だったが、かよは一人で何でもできてしまうのであまり生活に変化はない。まあそれでも一人よりは二人の方がずっといいものだ。

 

 かよは基本的に自分の要望を言わないので、こちらから促さないと何も欲しがらない。もっと子供らしくあれこれ欲しいと言わないのだろうか。

 

(物を多く知らないから欲しいものが分からないのだろうか。俺もここに来たときの欲しいものは魔理婆さんの八卦炉くらいだったからな。しかし、幻想郷で何が手に入るだろうか。)

 

 物がありそうなものなど人里にでも行くしかなさそうだが、あそこはあまり行きたいとこではない。

 

 博麗だからといって無差別に妖怪を退治することはできない。しかし彼らはそれを受け入れてはくれることなく、自分を妖怪側とみなしてくる。別に退治していないわけではないのだが。向こう側の気持ちも分からなくはないのだが。

 

 となると、外の世界のものがありそうなところは俺が知る範囲ではあそこしかない。

 

(帰ってくるとは言ったが、結局一度も帰らなかったし、ここらへんで顔を出すくらいはしないとな。)

 

 今日は結界の管理もない。かよにいろいろ教えなくてはいけないが、子供の頃から強制されるのは些か可哀想だ。ちょっとくらい楽しみを見つけて欲しいものだ。

「かよ、今日はちょっと出かけるよ。」

 

「ん、どこにいくの?」

 

「ん~何て言うんだろうね。俺の大事な人がいるところかな。」

 

「、、、女の人?」

 

「人かどうか怪しいところだけど、女の子だよ。かよよりも小さいから、仲良くなれるといいね。」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 魔法の森。あたり一面に木々が生い茂り、上空から見るとさながら樹海のようである。そこのある一帯に認識しなければ感知されない結界がある。紫さんや藍さんでも分からなかったあたり、幻想郷最後の魔女の力が分かる。

 

 結界を抜けると木々がなく、一軒家がポツンと立っている空いた場所に出た。

 

「すごい、どうなっているの?」

 

「俺もよくわかないけど、結界があるんだ。藍さんには秘密にしてね。」

 

 魔理婆さんのことは俺から言っているが、場所に関しては詳しく言っていないし、分からないらしい。

 

 ドアをノックすると、中から小さな少女が出てきた。怒っているようで泣いているようなそんな顔だった。

 

「遅ーい!まったく何年たっても来やしないから私から、、、」

 

 怒号と共に現れた少女。かよがびっくりして腕の中に隠れた。飛んできてそのままだったため抱いていたのだが、かよを見た瞬間、少女、上海はわなわなと震えだした。

 

「誰よその子、、、」

 

 声が震えている。何かを言おうとする前にかよが言葉を発した。

 

「お父さん、この人何?」

 

 どうやら、かよには上海が人間ではないという事が分かるようだ。パっと見では五、六歳ほどの少女だが、何かを感じ取ったのだろう。

 

 だが、その一言で上海が切れた。

 

「何ってどういうことよ!お父さんってどういうことなの!帰ってこないで、どこの女と子供作ってたのよ!」

 

 魔法の森に木霊するようだった。結界が無かったら博麗神社まで聞こえてるかもしれない。

 

 

・・・

 

「・・・ふーん、いろいろあったのね。」

 

 まだツンツンしているが何とか理解してくれたようだ。ご機嫌取りからの説明はここ一番に疲れたかもしれない。

 

「しかしまあ随分とむちゃしてるね。」

 

 ペタペタとあちこちを触りながら、少し咎めるように言ってくる。結構、こそばゆいのだが、どかそうとしたら悲しそうな顔をするのでできない。長々と帰ってこなかったので心配していたのだろう。

 

「ちょっと無理しないとやばいことがたくさんあったからな。上海はとくに変わりないか?」

 

「全くと言っていいほどないわよ。土産話とかすぐ聞けるかなって期待してたのに、来ないんだもん。」

 

 じとーとした目線でこちらを見てくる。

 

「・・・ごめん。思っていたより、いろいろありすぎた。」

 

「・・・いいよ、元気な姿で帰って来てくれたから。それで何か用でもあってきたんでしょ?」

 

「まあ、何かしら珍しい物とかないかなと思って。この子、かよが何かしらの興味がでるような物を探しに来たっていう目的もある。」

 

 そのかよはというと、人形と遊んでいた。おそらくある程度のプログラム化された動きではあるが、以前見た人形よりは人らしさを感じる。

 

「ん、この人形は前に訓練で使ってたやつか?」

 

「へー、よく分かったね。人形たちの中で一番、君になついていた子だよ。」

 

 確かにこの人形はいろいろとおせっかいな事をしてくれていたような気がする。他の人形とは少し違い黒く長い髪で、やや日本人に近いような見た目をしている。

 

 それにしてもなついているとは。

 

「上海が操っていたんじゃないのか?」

 

「私もその子たちと同じ人形よ、心が読めるのよ。戦闘以外で操っている時は気持ちに沿って動かしているわ。」

 

 なるほど、それでその子がよく俺の元に来ていたのか。だが、今は上海が操っている気配がない。となると魔理婆さんが使っていた命令式の魔法だろうか。前にも見た気がするが。

 

「しかし、随分と人間らしい動きをするようになった気がするが。」

 

 何となくだが、操られている感じではない気がする。

 

「お母さんと魔理沙が作り出した以前の自律魔法陣はあくまでも、一定の動きを命令して実行するというものだったけど、私はそれからもう一つだけ加えたわ。」

 

 かつての魔女たちにもできなかったことを成し遂げたのか自慢げな上海。

 

「まあ、これは人形だった私だからできた事なのよね。君がいなくなってから一人は寂しかったし、時間だけはあったからね。私も研究したのよ。そしてできたのが半自律人形よ。人形たちが考えたことに近い動作を実行させるという単純な魔法だけど、人形たちの意思での行動が可能になったわ。でもあくまでも想定される動作や可能な範囲での動きしか組み込めてないけどね。」

 

「なるほど命令、操作を削除してあくまでも自律を促す魔法陣というやつか。もともとが人形だった上海ならではの魔法だろうな。」

 

 

 それでも自律はできない。それはやはり上海の言うお母さん、アリス・マーガトロイドの偉業だったのだろう。

 

「本来は私みたいに自由に動き回ってほしいけど、お母さんみたいにエネルギーの発生源を生み出せないからできないんだよね。お母さんの過去の研究資料残ってないし、魔理沙も知らないみたいだったしね。」

 

「まあ、代償が大きいものなら残す必要性がなかったかもしれないな。」

 

 真意について、実は上海よりは知っている。だけど、本人には話せない。

 

「そうね、まあ今はいいわ。それより、珍しい物ね、、、裏の場所にあるわね。」

 

「裏?そんなところあったか。」

 

 以前住んでいた時の記憶からしても、裏と呼ばれる場所に思い当たるところはない。

 

「危ない物もあるかもしれないから魔理沙が認識妨害をかけていたのだけど、今の霊吾だったら問題ないと思うわ。案内するわ。かよちゃんはここで遊んでてね。」

 

 そういうとふよふよと浮かんで飛んでいく。かよは黒髪の人形と遊んでいる。そこだけ見ると年相応なんだがな。

 

 以前暮らしていた時には何もない空間だったが、今だからこそ分かる魔力の名残がある。位置的にも家の裏にあるという感じだった。

 

「ここか。」

 

「やっぱり分かるんだね。魔理沙もそれくらいの実力が付いたら見せるって事にしてたんだと思うよ。自分で解除できる?」

 

「とりあえずやってみる。」

 

 とりあえず何もない壁に手を付ける。認識妨害の解き方はいくつかある。魔法陣を壊す、一帯を破壊して魔法ごと消すなど、荒っぽい方法の方が簡単だが、それを魔理婆さんは求めていない。

 

 だとすると自分の中では一つしかない。それに上海が分かっているという点からも魔法の性質が分かる。

 

 片手に八卦炉を持ち、魔力を放出し、壁に沿わせる。魔理婆さんの魔導書に書かれてあった魔法の一つである解析魔法、名付けて「スキャン」だそうだ。罠などを見つける際に便利と書かれていた。

 

 なんもない壁だが、ある部分において不自然な凸凹があり、壁のわずかな変化を捉えることが出来た。そしてそれが扉であるという事も分かる。

 

 この魔法は知っているものが見たときには普通の景色、知らないものが見たときに術者の作った景色になる。そして俺はこの壁一面のどこに扉があるかを知った。それを魔力を通してこの認識妨害魔法に認めさせた。

 

「・・・お見事だよ。」

 

 霧のように何もない空間から扉が出てきた。まるで歓迎されているように。

 

「ふぅ、初めてだったが成功したか。」

 

「何だかんだで、魔法使いとしても成長してるっぽいね。じゃあ、さっそく入ろうか。」

 

 扉を開けると、まず埃が舞った。随分と掃除をしていなかったのだろうが、久々だったため少々咳き込んだ。

 

「上海、俺は人形じゃないんだから言ってほしかったんだが、、、」

 

 手で少し払って、あたりを見る。近くには木の板が置いてあり、何か書いてある。

 

「・・・香霖堂?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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