かくして幻想へと至る   作:虎山

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お久しぶりです

今回は途中から視点が変わってます


かつて見た背中

 妖怪の出生は様々だ。ある現象から人々の恐怖を通して妖怪が生まれたり、人が生み出した道具が年月を費やし、いつしか妖怪としてみなされたりする。妖怪は基本的に人間の恐怖が生み出しているといっても過言ではない。そんな妖怪の体は人間の恐怖が”穢れ”として体に残る。特に位の低い妖獣など、人を襲うことが多い種族が穢れを溜め込む。

 

 妖怪の死肉はその土地に穢れを流し込む。穢れが多き地では普通の獣から妖獣が生まれたり、自然に発生する悪霊が増える。さらに死肉を喰らえば普通の動物でも異形の妖獣に豹変する。

 

 

・・・

 

 

「この数は正直きついな。」

 

 遠くの気配を探りながら駆ける。

 

「ごめん、美鈴がいなかったし、レイアにしか頼めそうになかったから。」

 

 隣に低空飛行でついてくるチルノ。俺の速さについて行くには飛ぶしかないらしい。

 

 チルノからの依頼。今朝、突如として現れた妖獣の群れを何とかしてほしいとのこと。力のない妖怪や妖精たちが襲われており、チルノが安全を確保したらしいがいつまでも安全というわけではないらしい。近くで頼れるのが美鈴さんと俺だけだったようで俺に来たようだ。

 

 かよも連れて行こうかとも思ったが、流石に規模が大きい。今回は黒姫とお留守番である。

 

「それについては問題ない。俺の落ち度でもある。最近はあまり妖怪退治に行けてなかったことも関わっているだろうな。」

 

 かよの修行というのもあるが、やや放置してしまっていた。だがそれにしても早い。こうも群れるのだろか。

 

 近づく妖気に反応する。一匹こっちに気づき、接近している。獲物を独り占めしようとしているのだろう。妖獣にしては感知能力が高く厄介な奴だが、一匹なら対処は容易だ。

 

「チルノ、少し下がって。」

 

「わかった。」

 

 隣のチルノがやや後ろに行った。気で正確な敵の位置を探り、腰に携える刀に手をかける。

 

「グギャァァァァ」

 

 正面斜め。木々の陰から飛び掛かってくる。俺より一回り大きい狼の妖獣、妖獣にしては強いが油断している。それそうだろう、奴らにとって人間は餌だ。餌にかぶりつこうと大顎を開ける。

 

 だが、顎が閉じられることはなかった

 

 前足と上顎が体から離れ、ドサーっと倒れ込んだ。走りながらチラッと後方を確認するが、動く様子はない。妖獣の中には頭を落としても動くやつがいるが、うまく仕留めきれたようだ。

 

「刀使えたんだね。」

 

「付け焼き刃程度だがな。一発で仕留めるには便利なものだが、加減ができないのが難点だ。」

 

 刀を鞘に戻す。

 

 抜刀。剣術なんてものを独学で出来るわけでもないことから辿り着いた道は純粋な速さ。刀を振る速さだけを鍛え続けた結果、抜刀という形に落ち着いた。抜刀術とは言えない拙いものだが、不意打ちではほとんど避けられないだろう。

 

 できれば死体を処理したいが、ここで時間を取られるわけにはいかない。後回しだ。

 

「・・・誰か戦っているな。気配からして人間だが、、凶にしては霊力があるな。誰だ?」

 

 近くまで来ている中、妖怪の気配が一つ一つ減っていると同時に霊力を感じた。凶とは博麗の代理中に一度出会ったことがあるが、気配を感じる力が強くなっているにも関わらず霊力も気力も感じなかった。近くに来て僅かに感じたくらいだ。

 

 では誰だ。妖怪相手に個人で戦える人間など他にいるのか。

 

「・・・もしかしたら八枝かもしれない。」

 

「八枝?確か、俺と同じくらいの女の子だったか。人里からそんな人間が出てくるのか?」

 

 幼き頃の記憶が蘇る。か弱き少女だったが、友達(ルーミア)のために森に入るほどの行動力を持っていた。無謀であっても、その勇気は決してマネできるものではない。

 

 だが、あの子は人里でも有力者の娘だったはず。凶と仲が良かったこともあり、あれ以来、外に出ることを禁じられていると思っていたが、まさか妖怪と戦う術を身につけていたとは。

 

「最近あったけど、槍みたいなのを背負ってたから、もしかしたら妖怪と戦っていたんじゃないかと思う。」

 

「なるほどな。だが、ちょっとやばそうだな。」

 

今、彼女が相手をしているのはまだ弱い妖怪どもだ。機動力があり俊敏だが人間の一撃でも運次第で葬れるレベルだ。そういった妖怪は頭が弱いこともあり、我先にと獲物に飛び付く。故に最初に相手をしているのだろう。

 

脅威は後からくる奴らだ。普通の人間では武器を持ってしても歯が立たない連中だ。銃を使えば倒すことはできるが、一人二人では話にならない。そんなやつらがなだれ込もうとしている。

 

「チルノ、飛ばすぞ。」

 

「え、ちょっと、」

 

チルノを脇に抱え、八卦炉を後ろに向ける。

 

「マスタースパーク!」

 

砲撃の推進力で加速する。木々を避けながら、

 

(間に合え!)

 

 

 

・・・

 

 

「はぁ、、はぁ、、」

 

 何匹殺しただろうか。やっと倒し終わった、そう思っていた。

 

「はは、これは死にますね。」

 

 目の前に迫ってくる妖獣の群れ。先ほどまで相手をしていた奴らよりも強そうに見える。最後の一匹だと思って油断して一発貰ってしまい、どっかの骨にひびが入ったかもしれない。吐き気と頭痛に襲われるが何とか持ちこたえる。

 

 そんなこちらのことなど向こうはお構いなしのようだ。

 

「まあ、最後まであがきますか。」

 

 槍を構え、迎え撃つ。頭によぎるのは走馬灯などではなく、鮮烈な死のイメージ。最初の一匹に八つ裂きにされて終える。

 

「・・・竜神様、もし見てくださっているのでしたら、私の事は見捨ててもらってかまいません。ですが、里の弟だけは助けてあげてください。」

 

 その中でも唯一の願いは、里にいる幼い弟の未来。何時の時代も神様が人を助けることはないと、頭では分かっていても言わずにはいられない。

 

 だが、願いは届く。神でもなんでもない人間と妖精に。

 

「・・・うわぁぁぁぁぁぁぁ。」

 

「竜神じゃなくて悪いな。だがその願いは聞き入れることはできないな。姉を失うのは弟の身で考えたら酷な事なんでね。弟を助けることと、あんたを見捨てる事は繋がらないんだよ。」

 

 かつて見た背中。強烈な閃光と泥臭い戦い方とは裏腹に、知らないものの為に危険に飛び込むような、優しく勇気のある心は今でも脳裏によぎる。幼き頃に見た姿とは変わり男らしく様変わりしているが、優しい眼差しや言葉は変わっていない。

 

「チルノ、ツララを生やせるか?ここで迎え撃つ。」

 

「りょーかい!はぁぁぁぁ!」

 

 両手を地につけて氷の針山を生み出す。向かってくる妖獣達が次々に突き刺さっていく。だが、先に刺さった妖獣を肉の足場にして次々に押し寄せてくる。

 

「これ、預かっといて欲しい。」

 

 刀を投げ渡された。ぱっと見で普通の刀では無いと感じたが、それどころではない。彼は武器を持たずして妖獣の群れに飛び込もうとしている。

 

「あなた!武器も持たずに戦う気なの!?」

 

「ん?ああ、いや、それはまだ集団戦で使える程扱えなくてね。本来の戦い方はこっちの方なんだ。正確にはちょっと違うけど。」

 

 そういって拳を握る。まるでそれが武器であるかと言わんばかりに。

 

「チルノ!あとは、守りながら俺が討ち漏らした奴の撃退を頼む!」

 

「分かった!けど、無茶はするなよ!」

 

 チルノちゃんが前に立ち、氷の壁を張る。

 

「チルノちゃん!あの人を一人で戦わせていいの!?あの群れはかなり強い妖怪がいるのよ。」

 

「・・・大丈夫だよ。レイアなら。」

 

 チルノちゃんも若干、不安そうにしている。

 

 だが、それも杞憂に終わった。

 

 

 

「・・・凄い。」

 

 一発一発が致命的な妖怪の牙や爪を躱しながら、一撃で仕留めていく。時折発する閃光が妖怪たちを貫く。さらがら舞踏のようにすら見える。自身に戦い方を教えてくれた凶でさえも、これほどの群れを相手に無傷で立ち回るのは不可能だろう。

 

「あたいも久しぶりに戦うところ見たけど、前より強くなってる。」

 

 となりのチルノちゃんもどことなく羨望の眼差しを向けている。やはり妖精の目線からも彼は別格なのだろう。

 

 妖怪を粗方倒し、残りも数えるほどになったころだった。彼が何かに気づいたように辺りを見回した。

 

「・・・どこからだ。」

 

「レイアー!どうした!」

 

「こいつらがやけに逃げない。妖獣とはいえこれだけ仲間がやられたら、本能で逃げるはずだ。最後まで残ったこいつらを見ても、向かってくる気配はするが、逃げる気がしない。こういう場合はもっと恐ろしいやつが来てる可能性がある。」

 

 残ったやつらはこっちの様子を伺っているが、確かに足が後ろに行くことはない。

 

「今思えば、少し腑に落ちないことがあった。こいつらが向かう先が人里の方角だということ。それと群れで移動をしたということだ。」

 

「群れ?こいつらが?」

 

 倒れている妖怪どもを見ても見た目はバラバラで統一性がない。

 

「こいつらの妖気はほとんどが同質のものだ。数体違うやつがいるがな。俺の予想だと、こいつらは同じ一体の妖怪ないし妖獣を喰らって妖獣と化した獣だろう。今残ってるやつらは少し違うが。」

 

 互いに警戒しあっている中、突如として妖怪たちがバラバラに逃げ出した。向かってくることも引くこともなく左右にばらけ出した。

 

「逃げるよ!追わなくていいの!」

 

「いい、あいつら恐らく里には行かない。否、行けない。里に向かってこれから来る奴と鉢合わせるのが最も恐れる事だろうからな。」

 

「そんな怖がらなくてもいいのに。」

 

 どこからともなく聞こえる少女の声。妖怪たちの死体の上に忽然と姿を現していた少女は何時しか見た事のある顔だった。チルノ、ルーミアといった幼少期に出会った妖怪であり、人知れず行方が分からなくなった少女だった。

 

 その少女にはチルノちゃんも驚愕の表情を浮かべる。

 

「「リグル!」」

 

 

 


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