かくして幻想へと至る 作:虎山
妖蟲事件から数日がたち、事件の後処理を行っている。藍さんから、リグル・ナイトバグの死体が何処かにあるだろうという事を聞き、捜索しているところだ。
あの巨大な虫が発生した付近を探したらすぐに見つかった。そこだけが異様な妖気を発してる。
何者かに埋めらた跡があり、少し掘り返してみる。
「ここだろうとは思ったが、やっぱりひどい有り様だな。」
かろうじて人の形と分かる骨だが、骨のあちこちが食われたりしている。まだ虫が数匹蠢いているが、以前の虫とはちがう。かなり弱っているが、不気味な妖気は発していない。おそらくはリグルの眷属だったやつらだろう。
辺りを飛び交う虫に構わず、運び出す。守ろうとしているのだろうか。
森のなかでも開けた場所に骨を置く。その頃には虫たちも諦めたようだ。
辺りの木々を集め、完全に燃やし尽くす。虫たちは火を見ると避けていたが、やがて一匹一匹と火に飛び込み始めた。何を考えているのかよくわからない。
『どこかで死んでいるべきだった』
かつて美鈴さんが言っていたが、従者、眷属にとっての死に場所は主と共にあるのかもしれない。こいつらにとって死ぬ時、場所というのがここだったのだろう。
頭に響く雑音と映される記憶。
暗い竹林の中、その少女は蛍のように輝いていた。争いを好まない性格だろうことはわかる。それでも虫の妖怪の性質上、好かれることはないだろう。可哀想な存在だ。いや、だった。
映像が途切れ、途切れになる。最初はリグルと虫たちだけの風景だったが、チルノが、羽の生えた妖怪が、ルーミアが、加わっていった。
・・・
霊夢の記憶なのだろうが、視点がやや不気味だった気がした。だが、きっと霊夢にはそう見えていたのだろう。
「流石だな、チルノ。」
記憶の最後、みんなで笑いながら遊んでいる風景を見た時、何とも言えない気持ちになる。そう思っていると、本人の気が近づいてくる。
「あれ、レイアだったの?もしかしてリグルを、、、」
「そんなところだ。もう少しで燃え終わる。」
リグルの体はかなりの妖力が溜まり込んでおり、たとえ骨だけでも残すことはしたくない。
「・・・終わったね。」
「ああ、花でも添えてやろうか。」
「ならさ、幽香のとこに貰いに行こうよ。リグルもあそこの花が好きだったから。」
「幽香?」
・・・
風見幽香。藍さんから注意された妖怪の一人。彼女が愛する花に何もしなければ基本的には害はないらしいが、だからといって友好的に接する事はないらしい。要するに中立を保つ妖怪とのこと。時代が変わっても彼女が変わることはない。
向日葵が一面に生い茂る景色は圧巻だった。風見幽香はこの花畑のどこかにいるらしい。
「じゃあ、幽香呼んでくるから待ってて。知らない人が勝手に入ると、幽香が怒るからね。」
そういってチルノは花畑の中に消えた。花が幽香に知らせてくるとか何とかで、花畑を歩いていたら自然と家につくようだ。ちなみに飛んでいると打ち落とされることがあるらしい。
だが、今回はどうだろうか。
「花畑には触れてないはずですが、何か悪い事でもしてたんですか?」
「あら気づいていたの。よかったのかしらあなた一人だけで?」
後ろの茂みが避けるように動き出し、作られた道から出てきた緑の髪に紅い目をした女性。馬鹿でかい妖力がにじみ出ているのを感じる。大妖怪クラス、それも美鈴さんや藍さんに匹敵するほどかもしれない。いや、もしかしたらそれ以上の可能性もある。
こいつが風見幽香と確信した。
「どっちにしろ勝手に入ったら攻撃してくるだろうに、よく言いますよ。それに俺は風見幽香があなたと今しがた認識したので。最初からわかっていたらチルノを止めてますよ。」
「ふふ、なるほどね。それで私に何か用があるんじゃないかしら。」
何かしら考えているそぶりを見せながら風見が聞いてくる。
「リグルという妖怪に添える花が欲しい。チルノが言うにはそいつはここの花が好きだったようだ。」
少し表情が変化する。微笑みが少し歪んだような気がした。
「そう、、、最近全然来ないと思ったら、死んだのねあの子。」
どこか儚げで、少し泣きそうな表情のようにも思える。
「用件は分かったけど、あなたは何者かしら?見た感じでは博麗の関係者ってとこかしらね。」
黒のアンダーに赤の巫女服を着ているがこれまでの博麗の巫女とは違い、白の色彩がない。純粋に血で汚れるのが面倒だからというのが理由である。紫さんや藍さんからは霊夢の先代の巫女に似ているそうだが。
「一応、御子という立場です。」
「ふーん、というと紫が熱心にしてるのはあなたの事だったわけね。だろうと思ったけど。」
「紫さんから聞いてたんですか。」
「一方的にだけど、いろいろ聞いたわ。私自身、あまり他者との交流に疎いから情報はそこからしか来ないのよ。あなたの事だけど、どうでもいいことはいらないとして、そこそこ強いらしいじゃない。」
嫌な予感がする。無駄に力と暇を持った妖怪にある特徴的なもの。
「・・・何が言いたいんですか?」
「ちょっと遊びに付き合わないかしら。」
手に持った傘を振りかぶる。少し後ろに下がり、間合いから外れる。この瞬間から風見幽香は敵になる。
「妖怪っていうのは相変わらず物騒だな。」
「それが素かしら。あなたそっちの方が素敵よ。」
二撃目。何なく避ける。遊びでやっているのが分かるが、腑に落ちない。
「あら、不満そうね。」
三撃目。少し早く鋭い。受け流して、距離を取る。
「・・・測ってるのか?」
「そうね。これくらいがちょうどいいのかしら。なるほど、人間にしてはちょっとやるじゃない。でも、その程度かしら。」
傘をこちらに向ける。一点に妖力が集中しているのが分かる。
(これは!)
「避けられるかしらね。」
閃光が解き放たれる。辺りに爆煙が巻き起こる。
「・・・避けられると思っていたのだけれど、思い違いかしら。」
残念そうな声が聞こえてくる。生憎様こちらは無傷だ。
「直撃したと思ったけど元気そうね。・・・どこかで見たことあるわね、それ。」
「あんたの技も見たことあるな。俺以外でマスタースパークを使ってるやつは二人目だ。」
「同じ技をぶつけて相殺したってところかしら。それと一つ言っておくけど・・・」
傘の先に妖力が集まる。先ほどより密で濃ゆい妖力を感じる。
「これは私の魔法なのよ。」
先程より巨大な閃光が弾ける。
(マスタースパークじゃ無理だ!)
「ファイナルスパーク!」
風見幽香のマスタースパークは止まらない。
(段違いだ。真っ向からの打ち合いは負ける。)
衝撃で爆煙が巻き起こる。
・・・
煙が収まると人影がいない。
「消し飛んじゃったかしら、ごめんなさいね。あの程度の威力なら大丈夫と思ってたんだけど。」
紫から聞いていた話では大妖怪とも渡りあえるくらい強いとあって少し本気をだした。
それでも精々人間クラス。かつての人間のように規格外な存在ではない。単純に弾幕ごっこでの制限を忘れてしまったのもある。
(期待しすぎたかしらね・・・!)
背後に向けて傘を振るう。長年の直感であり、数多の戦闘経験による危険予知であった。
ガキンという鈍い音。傘で止めたのは刀だった。
「大妖怪っていうのはどいつもこいつも出鱈目だな。遊びを油断していた。殺す気で行く。」
「やっと本気かしら。いいわね、その表情。」
完全な不意打ちだった。霊吾にとってこれで決めるはずの一撃。それを難なく受け止められた。
「なるほど、マスタスパークでの反動ってとこかしら。」
さきほどのマスタースパークに魔力をぶつけて、より早い推進力とする。初めてにして上出来だが、失敗すると衝撃を直接くらう諸刃の技。
傘で刀を弾かれる。その瞬間に霊吾の姿が消える。
その直後に横からくる斬撃を受け止める。
「見えているわけではないな。」
「見えなくても分かるものよ。」
その言葉通り、何度も攻撃を止められる。ただ、向こうからの攻撃はこない。
一種の賭け。危険予知や勘を信じての特攻のようなもの。
「
さらに加速し、反応のできないスピードで切り裂く。当たり前のように刀は止められる。
だが、先ほどよりも一段と速い状態の攻撃では予測が少し狂う。故に止めるために振る傘の勢いが少し強くなる。わずかな違い。しかし、決定的な隙。
刀は弾かれた。刀だけが。
「はっ」
がら空きの胴体に拳を叩き込む。たとえ大妖怪といえど、通ればそれなりのダメージが入る。休む暇すら与えない。連撃で打ち込み、溝に掌底を叩き込む。
「マスタースパーク!」
霊力での波動とはいえ、ゼロ距離で喰らえばまともではいられない。
ゼロ距離マスタスパークで風見幽香を吹き飛ばした。これで決まるといいんだが。