かくして幻想へと至る 作:虎山
「ふぅ」
花畑に飛び込んだ風見幽香に注意を向けながら、思考する。草木の一本一本がクッションのようになり衝撃を吸収している。思っていたよりもダメージの通りが悪い。
それだけじゃないだろう。本人も相当タフだ。妖力の総量が減ってはいるが、堪えている様子がない。美鈴さんだけが特別頑丈というわけではなく、大妖クラスの耐久度というのが妖力に比例して高いのだろう。
のそりと起き上がってくる。
「・・・痛いじゃない。やればできるのね。」
風見幽香は不敵な笑みを浮かべる。そして拳を握り、こちらに向ける。
「私もこっちの方が好きなのよ。相手を叩きのめしてる感じがあるから。」
地面を蹴り、勢いをつけて拳を振るう。一撃が重い。美鈴さんや伊吹ほどの威力を感じる。ただ、美鈴さんほどの技術はない。伊吹ほどの出鱈目さはない。
格闘だけならこいつと対等に渡れる。
拳や蹴りを受け流して攻撃の隙を作る。あの頃とは違う。竜人化した美鈴さんからボコボコにされたり、伊吹に手も足も出なかったあの頃とは。
相手の両手を掴み動きを封じる。
「抑えられるかしらね。」
両手の妖力が上がっていくのが分かる。抑えた拳が抗っている。気力、霊力で二重に強化をかけて無理矢理抑えこむ。できるならこのまま体ごと抑え込む。純粋な力比べだが何とか互角だ。
「ぐぅ!」
「ふぅ、」
互いの力が相殺し、互いに距離を取る。今の風見と俺の力は同じくらいだ。確かに強い相手だが、絶望的な強さはない。
目線だけが交差する。余裕そうな表情の相手。笑っているまるで、、、
「楽しそうにしてるかしら?」
「は?」
自分の思っていることが言い当てられたのか。
・・・それとも俺がそう見えたのか。
「その不敵な笑み。いいわね。ますます惚れるわ。」
どうやら気付かず内に望んでいたらしい。俺と同じくらいの強さのやつを。力をつけるまでは格上とばかり戦ってきたし、付けた後は格下ばかりだった。心のどこかでギリギリの戦いというのを欲していたのだろう。
「・・・俺もあんたの事、結構いいなと思ったな。」
互いに笑う。そして飛び出す。だが、二人が衝突することはなかった。
ピキンという音が走り、風見幽香との間に氷の壁が張られる。体のあちこちに草が絡んでいるチルノがいつの間にか花畑から出てきていたようだ。
「二人とも何やってんだよ。」
若干、怒ったような声でチルノが言う。
「あら、こんにちわ。もうちょっと花たちと戯れててもよかったのに。」
「やっぱり幽香の仕業だったのか。いきなり絡んでくるから、花が妖怪になったと思ったよ。」
最初からこうなるように仕組んでたのか。
「まあいいわ、十分楽しめたし。あの子に添える花だったわね。いいわよ。持っていきなさい。ここに咲いている子たちもあの子は好きだったようだし。」
荒々しい妖力が収まっていく。もう敵意がないようだ。
「向日葵でいいかしら。ごめんなさい、あの子と共に行ってあげてくれないかしら、、、ありがとう。」
花に話しかけているのだろうか。向日葵を数本折り、腕に巻いてあるスカーフでくるんだ。
「感謝はこの子達にしてちょうだい。私が頼んでも嫌と言われれば、花は渡せないのよ。」
綺麗に咲いていた向日葵を受け取る。花を愛する妖怪が花を折るのはかなり珍しい事ではないのか。
「・・・あんたの気持ちはないのか?」
きっと風見にも思うところがあるのだろう。最初に見せたあの顔は演技ではない。傷ついたものの痛みを感じた。リグルという少女をどうでもいいと思ってる人じゃ出せない顔だった。
「少し寂しくなったわね。足繫く通ってくる子は見てて元気が出るじゃない。」
チラッとチルノを見る。
「いつかは居なくなる。そう思って接しても、いざ居なくなると悲しくなるのは当たり前でしょ。つまりそういう事よ。私の気持ちはそのスカーフに乗せておくわ。墓石か何かに括りつけといてくれるかしら。」
「幽香は来ないの?」
「行かないわ。あの子が来なくなっても探そうとすらしなかった私が行くべきではないわ。あの子が好きだったのはここの花たちであり私ではないもの。」
「・・・あんたはそれでいいのか?」
「いいわよ。私はずっとこんな感じだから。」
風見幽香という妖怪の側面が見えた。孤独におびえる少女のように思えた。無くなってしまった他者とのつながりを認識しないように頑張っている感じがした。おそらく、俺と戦ったのも憂さ晴らしだったのかもしれない。
根本的に優しい人物なのだろう。戦っている間も妙な違和感があった。
「そうか、じゃあな。行くぞチルノ。」
「あ、じゃあね幽香また来るよ!」
チルノと共に幽香に背を向けて歩き出す。
「・・・一つだけあなたに言っておくわ。」
立ち止まって聞く。
「マスタースパーク。あなたがどう思っているか知らないけど、その技はあなたには合わない。本来は魔力の多い魔法使いや才能があるやつしか使えないものなのよ。練度の高さは申し分ないものだけれど、おそらく今の段階が限界よ。私としてはお勧めしないわ。」
「・・・分かってるさ、十分に。分かったうえで磨いてきたものだ。」
風見幽香からの返答はない。忠告だけだったのだろう。また歩き出す。
・・・
「にしても、レイアって思ってたより強いね。幽香と戦えるなんて。」
さっきの戦いを少しだけ見たのか。チルノがそんな感想を言ってきた。
「風見が本気だったら分からなかったが、俺の実力に合わせていたようだったからそう見えただけだろう。」
それだけではない。チルノの足止めの際にも意識を向けていたこともあるのだろう。花を操る力があると聞いたが、攻撃に使われないところを見るに一度に操れるのも限界があるのだろう。
「でも実際レイアはどれくらい強いの?」
「相性による。妖怪との戦闘においてなら、俺の格闘も魔法も刀も二流がいいとことだ。美鈴さんみたいな格闘特化型には負けるだろうな。」
大妖怪にも差があるらしいのだが、今までその中でも上位に入る者たちとばかり戦ってきたせいか、いまいち腑に落ちない。
実際の自分の実力は中級妖怪以上、大妖怪未満といったところだろう。
「そうなのか、最初に拾った時は弱そうだったのに、強くなったなって思ってね。あたしが見てきた人間は基本的に強かった人間が多かったからさ。まあ、その頃はバカだったから分かんなかったかもしれないけど。」
チルノの言う人間とはおそらく博麗霊夢の時代の人間たちなのだろうか。魔理婆さんや紅魔館のメイドであった人間の事を言っているのだろう。
「レイアもこれまでの人間みたいに強くなっていくんだなって思うと、幽香とか超えるのかな?」
「いや、俺はもう今が限界だ。」
「え、なんで?」
「俺は自分の道が何なのか理解していない。魔法使いを目指していたはずなんだが、いろんな道に手を出してしまっている。これまでチルノが見てきた人間でも何でもできるやつはいなかっただろ?」
「言われてみれば、霊夢は基本的に術ばっかだし、魔理沙はマスタースパークばっかり使ってたな。咲夜もナイフとか投げてた気がするけど、他に何か見たことはないな。」
天才と言われる者たちにしても、一つの道を究めるのが限界だ。決められた容量を分配しても行き着く先は器用貧乏がいいところだ。
(だが、博麗霊夢だけは違う。あえて術に特化しただけ。術の方が便利だったと言うだけだった。)
あの世代の人間たちが総じて天才といわれるのであれば、博麗霊夢は化物と言われるほど差はあったはず。
「俺には魔法使いとしての才はない。だからといって捨てはしない。魔理婆さん、霧雨魔理沙が俺に託してくれたものだから。」
(・・・それでも守れるものと人。二つを天秤にかけた時、捨てざるを得ないだろうな。)
リグルの墓に花を添える。妖怪は人間から殺されない限りは転生する。
次の彼女も美しき虫として羽ばたくだろう。
今年は大雨や台風などであまり向日葵を見れなかったですね、、、