かくして幻想へと至る   作:虎山

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霊力

 迫り来る鉤爪を間一髪で避け、避け距離をとる。そこそこ大きな熊のような化け物だが、あまり動きは速くないらしい。とはいったものの逃げるだけしかできない身でこれ以上の対処が思い付かない。避けては、逃げての繰り返しを淡々と行う。途中、二本足で立ったところを蹴って見たが、此方に衝撃が走り向こうはびくともしていない。

 

「まあ、そこまでできれば十分じゃの。」

 

 熊のような化け物がフッと消えていく。魔理婆さん曰く魔法による幻のようなものらしい。

 

 あれから数日が経ち、体も十分に動かせるようになっていた。普通、あの傷では最低でも一、二ヶ月はかかりそうなものなのだが、随分と薬と魔法は効いたらしい。

 

 ずっと避けることだけをしてきたが、どうやらそれもおしまいらしい。個人的にはまだまだ全然だと思ったが。

 

「・・・俺はこれで対処できるとは思いません。避けるだけでも今のところ手一杯な感じで、逃げきれる気がしません。」

 

「そりゃそうじゃ、武器も持たない人間のただの身体能力では、妖怪の攻撃を見切るにはそれこそ数年位は最低必要じゃ。素人で予測と勘だけでそれだけできるなら十分じゃ。これ以上やっても、進歩は少ないじゃろう。だから、二段階目にいくぞい。」

 

「二段階目?それは何ですか?」

 

「お前さんも感じたと思うが、避け続けるだけでは埒が明かない。かといって、隙を見て攻撃しても堪えない。知性のない、のろまな妖怪相手だが人間が逃げきるのは簡単ではない。」

 

 幻の相手をしてみての自分の感想と大差無いものだった。あれがあの妖怪だったら、そもそも攻撃の機会すら無かっただろう。

 

「じゃがの、中には妖怪と渡り合えるような人間はいたんじゃよ。武器と呼べるものも持たずにの。」

 

「・・・それは、魔理婆さんのいう魔法なのか?」

 

 自分を助けたときの、あの妖怪を消し飛ばした光線のようなものだろうか。

 

「そういうものじゃ。私は魔法を使う能力を持っとったからの。人間であっても魔力と呼ばれる力を使えたんじゃ。だが、人間には誰にでも備わっている力をお前さんは少しだけ多めに持っとる。無理に魔法を覚えるくらいなら、それをうまく使いこなす方が楽じゃ。」

 

「誰にでも備わっている力とは?能力とは違うのか?」

 

「能力と違って、霊力といっての人間や人間との関わりが強い者が誰でも生まれつきに備わっている力じゃ。魔力のように応用性が無いが、使いやすい力と思えばよい。幻想郷は外の世界よりその霊力を感じやすいらしいからの、試しに目を瞑って、血液の流れを感じてみるんじゃ。」

 

 魔理婆さんに言われるまま、目を閉じ、体の血液の流れを感じる。

 

(・・・?、何か、あたたかい感じがするな。これが霊力なのか。)

 

 何気なしに、流れを手に集めるような感じをイメージする。流れが渦を巻き手のひらに集まっていくような感じがする。

 

「・・・想像以上じゃ、お前さん、知ってたってことではないじゃろうしの。もう目を開けてよいぞ。」

 

 魔理婆さんにいわれ、ゆっくりと目を開ける。右手が青白い光を放っているようだった。

 

「これが、霊力・・・」

 

「そうじゃ、まさか一発で霊力を放出できるようになるとはの。しかし、これでよく分かった。お前さん、少しどころか十倍近く、人より持っとるぞ。だからこそできたんじゃろうがの。大抵の人間は一度も認知できずに終わるものなんじゃがの、外の世界でもいずれ芽が出ていたことじゃろう。」

 

「・・・ちなみにだが、霊力を使って妖怪と渡り合っていた人ってのはいたのか?」

 

 魔理婆さんと違って、純粋に霊力だけで、人間の力だけで妖怪と戦える人がいるのだろうか。

 

「ああ、おったぞ。渡り合うどころか、妖怪たちから恐れられるほど強い者がおったぞい。」

 

「その人と俺とではどちらがより霊力を持ってた?分かるなら教えてほしい。」

 

 人の十倍程度の自分、その人が自分と同じくらいなら、自分も十分に妖怪の相手ができるのではと思った。

 

「比べ物にならんの。お前さんが十倍だったとして、そいつ、博麗霊夢はそのさらに十倍以上は有していたろうかの。人間として別次元の存在、ともにいながらにそう感じとった。」

 

 魔理婆さんにして別次元の存在、いったい何者なのだろうか。

 

「まあそれは別によいとして、お前さん、その右手の霊力を押し出す感じで空にやってみな。」

 

 空に手をつきだし、腕の中から追い出す感じで空に手のひらを向ける。

 

 すると、手のひらから青白い光球が飛び出す。勢いよく出ていった光球は空の何かにあたって弾けた。

 

「まあまあじゃな、初めてにしては上出来もいいところじゃ。結界に当たった感じじゃと威力はまだまだのようじゃがの。当たり前じゃから気にすることはない。」

 

 少し感動を覚えたが、まだ全然足りない感じが否めない。

 

「俺は魔理婆さんのような光線を出すことができるのか?」

 

 妖怪を消し飛ばすほどの威力をもった光線、魔力ではないができないだろうか。

 

「あの光線ことマスタースパークはそんなに難しいものではない。ただ、単純に魔力の大きさに比例するレーザーを打ち出すだけじゃ。とはいっても、私のマスタースパークは例外じゃがの。だてに十八番としておらんよ。」

 

 できないわけではない、しかし単純に霊力の量が物を言うからこそ自分の威力は見こめるほど高くはならない、そういうことだろう。

 

「・・・ん?私のってことは魔理婆さん以外にも使う人ってのはいたのか?」

 

「人ではないがの。本来はとある馬鹿みたいに妖力をもった妖怪が使ってた技じゃ。それにも少しコツというものがあってのそれを少し盗んだんじゃよ。」

 

 どこか自慢気に話す魔理婆さん。

 

「まあ感覚みたいなものじゃから、お前さんも見て盗め。説明してもよいが、これはあくまでも私とその妖怪にとってのコツ、言わばクセみたいなもんじゃ。お前さんが私のをみて、感じる通りにやるのが一番ええと思うぞい。」

 

 まあ見ておれ、と言って魔理婆さんは両手でもっていた杖を片手にして、空いた手をつきだした。

 

「ここは魔法の森じゃから、標的には困らん。そこの木でええか。『マスタースパーク』」

 

 突き出された手に光が集まるようだった。集まった光が一瞬強く発光すると、表現しがたいレーザー音を発し、人を飲み込むほどの巨大な光線が出現した。

 

光線に飲まれた木はジュウという音と、焦げ臭いにおいを発し、炭のようになっている。

 

「ざっと、こんなもんじゃ。足腰がしっかりしとるうちは反動を考えずもっと高威力のマスパがうてたんじゃがの。年を取ると、あれぐらいがちょうどええわ。」

 

 木を一瞬で炭に変えるほどの火力をあれぐらいという魔理婆さん。不思議なことに回りの木にはいっさい被害がない。それも魔理婆さんが狙ってやっているのだろうか。

 

「これぐらいできれば妖怪を追い払うには十分じゃろう。ほれ、とりあえず練習してみな。」

 

 魔理婆さんにいわれ、マスタースパークをイメージする。

 

(・・・巨大なレーザー、霊力をだし続ける感じなのか。)

 

 さっきと同様に霊力を感じとる。

 

(あれだけの威力を持たせるには、それだけの霊力がいるのだろう。)

 

 自分の出せる限界の霊力を手に集める。体全身からエネルギーを吸い出す感じに手に集中させる。

 

 すると、ボンっという音とともに霊力が弾けた。その反動で吹き飛ぶ。

 

「ぐっ、なにが起きた?ッ!いた!」

 

 すぐに立ち上がり、手を確認すると少し焦がれている。軽い火傷のようだった。

 

「まあ、予想通りじゃの。霊力に限らず、力は巨大であればあるほど制御は困難。誰でもできるマスタースパークじゃが、その威力に伴う制御が大変なんじゃよ。」

 

 そういって魔理婆さんがぶつぶつとなにかを唱えると、水が火傷をしている手を包み込む。痛みがだんだん和らいでいき、傷が治る。

 

「まあ、これから先は霊力を少しずつ扱えるようになることじゃ。それとお前さん、あまり意識しとらんかもしれんが、筋力がないの。体力はそこそこじゃが、軸がしっかりしとかんとマスタースパークを使うのは難しいぞ。」

 

「筋トレでもするのか?」

 

「いや、手っとり早くこれでいくぞい。」

 

 ドンッと魔理婆さんの前にリュックサックのようなものが落ちた。

 

「手に取ってみな。」

 

 手でつかんで持ち上げようとすると、すんなりとは上がらない。両手で何とか持ち上がるくらいだ。

 

「・・・これを背負ってやれってことか。きついな。」

 

「毎日、それを背負って周辺を走ってみると少しは早く変わるじゃろ。」

 

 リュックサックをおいた状態で腕を通して持ち上げるが、後ろに引っ張られる感覚が強く、フラフラする。

 

「がんばれよ、霊吾。今の幻想郷で生きていくのは難しいぞい。」

 

 

 

 




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