かくして幻想へと至る   作:虎山

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章タイトルをつけてみました



君が見た景色
開戦の狼煙


 その日はいつも通りの日常だった。かよの修行に手を貸しながら、世代交代の時期を考えていた。娘の成長は早い。博麗の巫女として代替わりが近づいている。

 

 あまり娘に負担を背負わせたくはない。幻想郷の状態としては良くなっているが、かよが博麗の巫女になるまでには人里との関係を修復したい。未だに彼らと博麗の関係はよろしくない。妖怪は基本的に排除の的という思考は変わっていない。紫さんも干渉が出来ないほど、人間たちの意思が固いようだ。

 

 八枝が言うには人里の中でも少数だが、こちらに好意的な者もいるそうだ。

 

「レイア―!大変だ!」

 

 叫びながら飛んでくるのは、いつも厄介事を抱えてくる友人だ。しかし、今日はいつにもまして焦っている。

 

 嫌な予感がする。博麗の勘ともいうべきものだが、こういう時に当たってしまう。

 

「どうしたチルノ?」

 

「それが、妖怪の山の妖怪たちが人里に攻め込むみたいなんだよ!早くいかないと殺し合いが始まる!」

 

 妖怪の山。ノーマークだったが、なぜ今になって動いた。あそこのトップは天狗だったが、なぜ人里に。紫さんや藍さんも天狗が幻想郷の存続を脅かすことはないと言っていたはずだが。しかも、季節が変わり紫さんが久しぶりに冬眠に入ったタイミングで。

 

「何人か知り合いがいるけど、もう決定事項だって。正直あたしだけじゃ無理だ。レイアに来てもらわないと人里自体が無くなるかもしれない。」

 

「分かった。とりあえず藍さんに報告する。そのあとすぐに動くぞ。橙!」

 

 近くにいるであろう橙を呼ぶ。基本的に神社付近に待機して、藍さんとのつなぎの役割をしてくれている。まれに出てきてくれないが、声色で緊急事態という事が分かるだろう。

 

 すっと飛んできたが、橙にも焦りの色が見える。

 

「まさか、藍さんとつながらないのか?」

 

「いや、この感じはつながらないとか以前の問題な気がする。念話の応答が無い。意識がない時でも藍様は反応できるのに何で!」

 

 藍さんとの連絡が取れない。つまるところ紫さんに伝えることができない。

 

 最悪の状況だ。

 

「・・・橙は藍さんのところへ行ってくれ。直接言いに行くしかない。チルノは先に人里に向かってくれ、頼める妖怪たちに声をかけながら。かよは神社に待機。黒姫、できれば上海の元へ行って助けを求めに行って欲しい。俺は妖怪の山に向かう。そこで止めれたら十分だ。」

 

「その必要はない。」

 

 神社の階段から声が聞こえる。焦って気が付かなかったが、妖力から伊吹だとわかる。

 

 だが、様子がおかしい。伊吹の妖力も少なくなっている。だけじゃなく、伊吹の傍らに僅かに感じ取ることが出来る妖力。

 

(この妖力、まさか!)

 

「もうちょっと早く気づいたらやばかったな。」

 

 階段を上ってきた伊吹。所々に戦闘の跡が見える。がそれよりも目を引くのがある。

 

「藍様!」

 

 血塗れの藍さんを引きずっている。僅かな妖力でも、まだギリギリ生きている。だが、時間の問題だ。

 

「なかなか強かったぜ。油断してなかったらやられてたかもな。」

 

「貴様!」

 

 橙が飛び出す。涙を浮かべて、今まで見たことがないほどの妖力をにじみ出している。

 

「そんなに大事なら、ほらよ。」

 

 伊吹が乱暴に藍さんを投げる。慌てて橙が受け止める。

 

「一緒の場所に送ってやるよ。」

 

時空変換 三倍速(タイムドライブ サード)

 

 振るわれる拳を止める。そのまま投げ飛ばす。

 

「おいおい、せっかくの心遣いを無駄にさせるなよ。」

 

 にやにやした笑みで挑発する。

 

「何をやってるのか分かってるのか。」

 

「紫が出てくると厄介だからな。だが、流石九尾。本気で行っても少しきつかったな。」

 

 これで分かった。今回の騒動、主犯格はこいつだ。

 

「・・・チルノ、黒姫はさっき言ったところへ急げ。橙、藍さんを頼む。かよ、橙の護衛を。博麗の巫女として初めての仕事だ。」

 

「そう簡単に行かせると思うなよ。ガキども!」

 

 上空に飛んで妖力で圧倒させる。妖精も人形も委縮して動けない。恐怖で縛り付けるのに加え、妖力で上から重圧をかけているのか。

 

「チルノ!黒姫!」

 

 二人を呼び、意識を戻させる。今ここで足止めをくらうわけにはいかない。

 

「こいつは俺が相手をする。その間に急げ。」

 

「だから言ってるだろ、行かせるわけな、」

 

「お前も油断してるだろ、伊吹。」

 

 視線がチルノたちに向いた瞬間に近づく。伊吹も少し虚を突かれたのか驚いた顔をする。

 

 気力、霊力を右手に集め、全力の一撃を叩き込む。

 

「うおぉ!」

 

 伊吹を神社の境内に叩き落す。八卦炉を構え、追い打ちを狙う。

 

「ファイナルスパーク!」

 

 直撃し、爆煙が巻き起こる。

 

「二人とも急げ!」

 

 チルノと黒姫は急いで飛んでいく。

 

 残念だが、さっきの攻撃でも伊吹はまだ戦える。煙の中でも確かに強い妖力を感じる。

 

「かよはこっちに注意を向けておけ。」

 

 煙の中でも動く様子がない。少しは効いたのだろう。

 

「・・・容赦のない攻撃だな。顔見知りだってのによ。」

 

 伊吹が煙を払い、歩いてくる。ぼろぼろではあるが、徐々に回復している。普通の妖怪なら動けなくる程の攻撃だったんだがな。

 

「・・・お前が紫さんを裏切るようなことをするとは思わなかった。鬼は嘘をつかないと言っていたが、裏切りは違うとでもいうのか?」

 

 伊吹らしくない。今回の騒動においても、単身で俺に乗り込んでくればいい。こいつの性格上こういう回りくどいのは好きじゃないはずだ。

 

「お前には分からない。」

 

 伊吹の顔から笑みが消える。

 

「嘘をつかない。それが私達、鬼。そう。そのはずなんだよ。私も嘘が嫌いだ。裏切りも嘘と同じさ。人の思いに、心に嘘をつく行為だ。」

 

「ならなぜだ。なぜこんなことを、」

 

「鬼が自分に嘘をついてんだよ!」

 

 まるで嘆くかのように叫ぶ。

 

「鬼っていうのはな、自分の赴くままに生きる奴らだ。一つ話をしてやろう。私が初めて霊夢を見た時だ。その時代には珍しい人間だった。生まれながらにして博麗の巫女っていう存在だと感じた。だがそれよりも思ったことがある。」

 

「・・・こいつを食ったらどれほど美味いんだろうなってな。」

 

「だが、あいつと生きていく中で共に生きる事も悪くないと思っていた。あいつが死ぬまでな。」

 

「あいつが死んだとき、食っておけばよかったと後悔した。たとえその時、消されてもよかった。己の心に嘘をついてまで生きる事に何の意味がある。」

 

 伊吹の独白。そうだこいつの様子。霊夢の記憶にもない素面だ。

 

「だからさ最後くらいは自分に正直に生きようと決めたんだよ。」

 

 初めて見る表情。諦めたようで、吹っ切れたような笑顔。何でこいつはこんなにも不器用なんだ。

 

「賛同した奴は多かった。くく、天狗だけだと思うなよ。暴れたい奴らってのはたくさんいるんだぜ。よーく感じ取りな、お前なら分かるだろ。」

 

 伊吹に言われるまま。妖怪の山付近に探りを入れる。目の前の鬼を警戒したままに。

 

(・・・!、なんだこれ、大妖怪クラスが何体いるんだよ!)

 

 多くの妖怪が集まっているのか、妖気の塊が進行しているように思われる。少なくとも十は大妖怪と言われる存在がいる。

 

「お前らは幻想郷をつぶす気か。」

 

 拳に力が入る。藍さんも紫さんもいない現状において、この状況はもうどうしようもない。俺一人で相手できるのだって伊吹で手いっぱいだ。

 

 そもそも伊吹だって俺が仕留められるかどうか。

 

「だから言ってるだろう。自分に正直に生きると。幻想郷の外でのうのうと生きている人間どもにかつての恐怖を教えてやるんだよ。鬼に震え、泣き、許しを乞うたあの頃に戻るんだ!」

 

 伊吹の周囲に妖気の嵐が吹きおこる。感情に作用され、妖力も暴走しているのか。こういう状況の妖怪は基本的に弱い。だが、これまでの相手とは一線を画す相手だけに不安だ。

 

 だけど、こちらも負けていられないんだよ。

 

「絶対にお前に、お前らに幻想郷を壊させない!この身砕けても、殺す!伊吹!」

 

 最初から全力だ。どの道、時間はかけられない。

 

 霊力と気力を高め、極限まで強化する。ある程度の攻撃は受けてもいい。回避や流すくらいなら攻撃に手を回す。捨て身の戦法だ。

 

「行くぞ、霊吾!止めるものなら止めてみろ!」

 

 鬼と人間が交錯する。人間と妖怪が戦う最後の決戦の幕開けとなった。

 

 

 




萃香は個人的には好きなキャラです。
そもそも鬼という種族というか括りが好きですね。
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