かくして幻想へと至る   作:虎山

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ちょっと時間が出来ましたので


最強の妖精

 今日の人里は一層に騒がしい。慌ただしく駆け回り、男どもが武器を手に取る。

 

 対妖怪の武器として今最も使われているのが銃である。といっても弾数に制限があり、やたらに使うことはない。基本的に妖怪を狩りに行くときも数人で一つ持っていく程度だ。それほどに希少である。だが、妖怪に対して、急所に当たれば一撃で仕留めることが出来る代物である。

 

 それを見る限りの人が持っている。

 

 今朝の高台からの知らせ。妖怪の山に見える妖怪が徐々に下ってきている。百は超える大群が押し寄せてくるとのこと。それに天狗がちらほらと見える事から、最悪の状況として天狗の参戦も考えられる。

 

 八枝も里の一人として防衛に立ち合う。普段はこそこそとやっているが、今日は隠れる必要がない。だが不安が残る。最も頼りになる人間達がいない。

 

(霊吾君、凶さん。人間の中でも一線を超す強さを持ってる人がいない。今の人里でいったいどのくらいの妖怪達と戦えるのだろう。特に凶さんは絶対に来るはずなのに。)

 

 博麗の御子である霊吾。術、格闘主体であり集団戦での立ち回りを意識した戦い方をしていた。戦力はよく分からないが、中級妖怪の集団を難なく潰すことが出来るだけで人間として異常だ。いや、代々伝えられてきた博麗の巫女達もそれほどの力があったのだろう。

 

 ただ一つの目的のために里から離れた凶。戦い方は霊吾とは対照的に対一個体に特化している感じだ。自分の気配を消しての暗殺染みた戦い方をする。並外れた感覚を持っており、絶対的にそれを信じている。剣の腕としては人里の人間とは絶対的な差がある。

 

 また、二人ともに人里との関係が険悪である。人里の人間にとって彼らは理解し難き存在と見られている。

 

(・・・せめて友好的であったなら、助けを期待するだろうに。)

 

 八枝はもう諦めかけている。妖怪退治をするようになり、力量が少なからず分かるようになってしまったからだ。自分の実力が対妖怪において里の中でもトップクラスであること。それでもなお、二人の足元に届かないこと。そして、その二人であっても止められるかどうか分からないほどの妖怪たちであること。

 

 他の人は気づかない。確かに銃は強い。だけど無限ではない。弾が切れる、もしくは銃が効かない妖怪が来た場合、人里はあっさりと壊滅するだろう。もし仮に霊吾があの時、虫の妖怪を倒していなかったら、きっと人里は滅んでいた。

 

「おい、何だあいつは!」

 

 里の誰かが声を上げる。妖怪たちが迫ってきている中で里中の目線が妖怪たちではなく一人の元に集う。

 

 八枝も顔を上げると、人里を背にして妖怪に向き合う一人の妖精がいた。氷の妖精でありながら、誰よりも熱い存在。妖精でありながらその力は妖怪の域まで達している。

 

「チルノちゃん!」

 

 顔だけをこちらに向け、ニコッと笑う。

 

「八枝か、それに懐かしい顔も何人かいるみたいだが、やっぱり知らないやつだらけだ。」

 

 人里のみんなが警戒する中、何事もないように話している。

 

「なあ、誰でもいいが、一つ答えて欲しい。お前らが狩ってきた大妖怪の中で、人里に攻め込んできたやつはいたか?」

 

 人里の面々が話し合う。誰かはチルノを撃つかどうかなど言っている。すぐに一人が答える。

 

「・・・今まで、大妖怪と言われる存在が人里を襲ったことはない。いつもこちらから対策を立てて討ったものばかりだ。」

 

 里の中でも権力を持つ者の一人が答える。

 

「なるほど、つまりは防衛はしたことがないってことか。それにしても、久しぶりに見たな、史。人間は年を食うのが早いからな、すぐ爺さんになるな。」

 

 チルノが両手に妖力を溜めているのが分かる。いや、全身から冷気が漏れ出ている。ほぼすべての力を込めているかのようだ。

 

「お前さん、覚えているのか?ならなぜ、我々を助けようとする?たとえ害は無くとも、お前たちを追い出したのだぞ。」

 

「さあな。ただな、一つだけあたしの中でどうしても我慢ならねー事があるんだ。」

 

 チルノが両手を合わせる。それに伴い冷気が舞い上がる。

 

「知った顔が死ぬ時だ!」

 

 自分の背に叩きつけるように両手を広げる。巨大な氷の壁が瞬く間に広がっていく。やがて、ガキンという音で氷の壁が止まる。上空の何かにぶち当たったようだ。縦横見ても、捉えられないほどの氷の壁が妖怪の群れと人里を隔てている。

 

「全員逃げろ!」

 

 声を荒げて、叫ぶ。遠目に見ても凄まじい汗の量であり、彼女が限界まで作った壁であろうことが分かる。

 

 妖怪達が困惑したように立ち止まる。ぱっと見で妖獣は少ない。人型の妖怪が多数を占めており、種族の特定はできないが、天狗が数体いるのが確認できる。

 

 そして最悪なことに鬼がいる。

 

「おいおい、何だこりゃ。人間の中に術師でもいたのか?」

 

 一人の鬼が笑いながら酒を飲んでいる。明らかに場違いな存在。だが、目にするだけで圧倒的な力の差を感じる。

 

「いえ、恐らくはそこの妖精がやったのだと思われます。」

 

「へー、妖精にしてはなかなかやるじゃないか。今の人間は妖怪や妖精を根絶やしにしてると聞いていたが、あいつは違うのか?」

 

 天狗に鬼が問いかける。その姿は主と従者のような関係に見える。

 

「それは私には分かりませんが、あの妖精は変わり者ですので、常識が当てにならない存在です。とはいえ、精々妖精程度、障害にはなりません。数名で抑え込めます。誰でもよい!最低三人で挑め!」

 

 天狗が叫ぶと、一匹の妖怪が出てきた。天狗の中でも階級が下の方ではあるが、若いがゆえに勢いがある妖怪だ。

 

「私が行きましょう!妖精一匹など私一人で十分です。」

 

「待て!あいつは妖精と言えど・・・」

 

「よし、行ってこい!」

 

「はい、勇儀様!」

 

 天狗のまとめ役より、あの鬼のいう事を聞く若い天狗。若い天狗は刀を構え、チルノに突撃する。

 

「・・・舐めるなよ。」

 

 手に纏う氷で刀を止める。もう片方の手に氷で剣を生成する。

 

「安心しろ、殺しはしない。」

 

 氷の剣で切りつける。傷跡が氷で覆われ、身動きを封じる。その天狗は動けなくなり、叫びながら地面に倒れる。

 

「・・・だから言ったであろうに。」

 

「まあ、いいじゃねえか。それにしても妖精ってあんな奴もいたんだな。」

 

「あの妖精だけが別格です。多くの妖精が消滅していく中、妖怪に近づくことで変異したためと思われます。それだけあって、並の妖怪くらいにはなっています。いえ、今の状態を見るに大妖に近い存在になっている可能性もあります。」

 

 剣を構えるその姿は覚悟を決めた少女のようである。もうほとんど妖力は残っておらず、後ろの壁で完全に人里を隔離しているため、一人での戦いを余儀なくされる。

 

 周りの妖怪たちは先ほどの天狗がやられたのを見て、少し困惑している者もいる。

 

(油断したとはいえ、天狗を一撃で仕留めたのだ。それにあの雰囲気はこちらが見誤ったとしてもおかしくはないか。)

 

「姐さん!俺が行ってきていいか?」

 

「いいんじゃねえか?」

 

(・・・やはり地底から来た者どもとはやりづらいな。)

 

 地底から来た妖怪がチルノを襲う。実力は拮抗しているように見えるが、

 

「勇儀様、加勢に行かせてよろしいですか?」

 

「やめろよ。あいつは一人で守るために戦ってんだ。それを簡単に踏みにじるのは嫌いだね。もう勝敗は決まってるんだ。あいつは負ける。黙って見てな。」

 

 流石に地底の荒くれものに勝てるほど強くはない。徐々に動きが鈍くなっている。それに合わせて遊んでいるように戦っている。それもすぐに終わりを迎える。

 

「くっ」

 

 力が入らないのか、チルノの手から剣が零れ落ちる。

 

「まあ、よく頑張ったよ。じゃあな。」

 

 衝撃が来る瞬間に目をつむる。

 

 だが、いつまでたっても来るはずの痛みが来ない。

 

 目を開ければ、頼もしい背中が目に映る。燃えるような綺麗な赤い髪の妖怪。

 

「めい、りん?」

 

「遅くなってすみません。ですが、安心してください。もうあなたには傷一つ付けさせない。」

 

「おい、何だお前、」

 

 バシュッという音と共に崩れ落ちる。片手で首筋を叩き折るように薙ぎ払う。気を失っているようだ。

 

「おいおい!あいつは何だ?随分強そーな奴じゃねえか。」

 

「・・・紅魔館の門番です。報告では抜け殻のようだとありましたが、、、」

 

「冗談よせよ。抜け殻?あれがか。やっぱり天狗と言えども把握できていない奴らもいたようだな。」

 

 鬼、勇儀の言葉と共に後方に砲撃が飛び交う。数名が吹き飛ばされる。

 

「弱い者いじめは感心しないわね。大の大人が寄ってたかって、可哀想じゃない。」

 

 鬼にも引けを取らぬ覇気を纏った女性が現れる。

 

「・・・風見幽香か。完全に想定外だ。あの妖精を侮っていたのは私もだったか。」

 

 その生き方こそが最強の武器。たった一人の妖精のためだけに強者は盾となり、矛となる。

 

 

 

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