かくして幻想へと至る   作:虎山

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神社にて


鬼哭

「おら、どうした!そんなもんじゃねえだろ!」

 

 伊吹の攻撃を流しながら、隙を伺うも、手数の多さと威力に受け身の一方になるばかりだ。

 

 やはり鬼と真正面でやるべきではない。強化を施しても、体に響く打撃。掠るだけで削れる皮膚。強化していなければ消し飛びそうな威力だ。

 

「くっ、うら!」

 

 マスタスパークを放ち、攻撃と回避を行う。威力が低い分早い砲撃は近距離という事もあり、伊吹にぶち当たるが、、、

 

「効かねーな、その程度の威力じゃ。そんな小賢しい事で勝てると思ってるのか?」

 

 全くと言う程手ごたえがない。

 

 霊力、気力の消費も考えなければならないが、決定打になるものがない。打撃もまともに通らない、マスタスパークも効かない。

 

 だが伊吹も限界に近い疲弊を感じる。藍さんとの戦いを経て、随分と消耗している。

 

 それでも勝てるビジョンが思いつかない。徐々に押される。

 

「そら、いくぞ!」

 

 拳を構え、突撃してくる。踏み込みで一つフェイントを入れて、カウンターを狙う。

 

 一瞬、違和感を感じる。博麗特有の勘というもの。だが、考えている暇はない。伊吹を目前まで引き寄せ、タイミングをずらし、拳をくぐり抜けて掌底を叩き込む。これまでの相手もゼロ距離のマスタースパークを受けて無傷の奴はいない。

 

 強烈な閃光と共に伊吹が消える。消し飛んだのではなく、まるで残像であるかのように簡単に消えた。

 

「分身!?」

 

 妖気を読んでも確かに変化はなかった。間違いなく伊吹萃香そのものであった。

 

 だが、一つ見落としていた。伊吹の能力。妖力がまったく同じの分身などを作ることは出来る。

 

「小細工はこうやるんだよ。」

 

 背後から聞こえる声。素早く振り向くが、防御が間に合わない。

 

「ぐぅ!」

 

 右手の肘を蹴り込まれ、その勢いで飛ばされる。気力、霊力で強化しようが無防備な状況では気休め程度しかならない。関節部が砕け、激痛が走る。右腕はまともに使えない。

 

「お前の感知能力は確かに高い。だが、それは私の前では無意味に近い。分かるか、よーく感じてみろ。ここら周囲の妖気がどうなっているか。」

 

 右腕の痛覚を消し、周囲を感知する。一帯に薄く妖気が広がっている。伊吹の妖気で間違いはない。

 

「分かったか、私の能力を使えばどこからでも攻撃をすることが出来る。お前の見えないところからの攻撃なんざ容易い。まあそれをしてしまえば楽しくも何ともないんだがな。」

 

 力の差。言ってしまえば生まれ持った能力の強大さ。ただの妖気ではなく、限りなく小さい自分自身の分身を周囲に展開している。それにより、全方向からどのタイミングでも攻撃できる。

 

 それが分かっただけで十分。

 

「俺が気付かないとでも本気で思ったのか?」

 

「どういうことだ?」

 

「この妖気自体は感知していた。妖気自体がマスタースパークを避けるような動きを見せた時、違和感を感じたがお前の一言で確信に変わった。」

 

 魔力札を周囲に散らばらせる。それに合わせて、戦いながら地面に残していた魔力を作動させる。

 

「これが全部分身であるなら、ここら一帯を吹き飛ばせばダメージが全部お前に行くはずだろ。」

 

「ちっ、まさか!」

 

「もう遅い『最上級火炎魔法』(ロイヤルフレア)

 

 灼熱の炎が周囲を消し飛ばす。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 伊吹が炎にとらわれもがき苦しむ。魔力の消費量がマスタースパークとは比べ物にならないが、威力は申し分ない。だが、これだけで終わらせない。

 

 動く左手に八卦炉を構える。

 

「ファイナルスパーク!」

 

 業火を巻き込みながら伊吹に放つ。霊力が大分尽きているが、これで終わってくれるといいんだが、、、

 

「ぐあぁ、はぁ、はぁ」

 

 伊吹が膝をつく。あれだけの攻撃を受けてもそれだけだ。死にかけのようにも見えるが、妖気の反応からするにまだ立ち上がっている。

 

「この程度、耐えられ、んだよ!どうしたよ!私を殺すんじゃないのか!そんな調子で殺せるのか!」

 

 徐々に回復している。いや、正確にはあらゆる場所から妖気が集まり伊吹一点に集中している。追い打ちを仕掛けるにも動きが分からない。

 

「油断していたわけじゃなかったが、お前如きにこんなくらうなんざだめだな。全力でつぶす。」

 

 立ち上がった伊吹は腕と腰に繋がれている鎖を千切る。妖力が集まるにつれて、姿が変わる。童子程の背丈は成人程のものとなり、角もそれに伴い肥大化している。

 

「この姿になったのは久しぶりだ。いまいち加減が分からないな。」

 

 これまで削ってきた妖力が元に戻っている。いや、それ以上のものを感じる。これまで拡散していた自分を全部集めたのだろう。それにあの鎖。

 

(拘束具だったのか、妖力自体は変わらないがおそらく出力が桁違いに跳ね上がっている。あいつの攻撃を今の俺で対応できるか、、、)

 

 否、できない。左腕だけで攻撃を流せるほど器用じゃないし、何より行動が絶対に遅れる。痛覚を浮かせたとしても動かない腕のせいでバランスが崩れる。ここらが限界なのだろう。

 

 人間の限界が分かった気がする。あいつに勝つのは不可能。

 

 人間のままでは。

 

「俺も最後の手段ではあったんだが、使わざるを得ないな。」

 

「ああ、何を言って、、!」

 

 霊吾の周囲に強大な力が巻き起こる。

 

(こいつ、どこにこれだけの力を秘めていた!いや、この力は、、、)

 

「お前、その身を妖怪にしたのか!その妖力、紫のものにそっくりだ。」

 

「まあ、半分だけだがな。正確に言うには人間性を浮かせたというものだ。俺の体に眠っているはずだった妖力を引き出すにはこれしかない。」

 

 気力、霊力が尽きたなら頼るのは妖力だけだ。

 

「くくっ、度々紫とやってたのは、そういう目的もあったのか。聞いたことはある。それは所謂、房中術ってやつだろう。あいつが早期に回復したのも納得がいく。お前の妖力もな。」

 

「なんだよ覗いていたのか。趣味が悪い。」

 

 右手に妖力を集中させる。半分は妖となったこの体ならいけるはず。激痛が走っているはずだが、徐々に動くようになっている右手。痛覚を元に戻しても痛みはない。流石、妖怪の体だ。この程度なら回復する。

 

「だからといって、それがどうした。お前が半妖になったとしても、私と同じ位置になったと思っているのか?互角になったと思っているのか?己惚れるなよ。多少強くなったところでお前一人に負ける私じゃない。」

 

 怒りかどうか知らないが妖気が不安定に揺れる。この状態になったことで少しは戦える。

 

 それに一つ嬉しい誤算がある。

 

「そうだな。俺一人ではおそらくだがお前を倒せない。」

 

「なんだぁ、降参か。・・・何を考えてやがる。」

 

「何も言ってること通りだ。一人では倒せないだろうなってことだ。」

 

 妖力を辺り一帯に充満させ、注意をこちらに向ける。

 

「何を考えてるか知らないが、まあいい。死ね。」

 

 伊吹が走り出す。拳を振り上げる。

 

 ギリギリまで引き付けられるだけ引き付ける。避けようと思えば避けられるが、ほんの僅かな時間でも出来るだけ時間を稼ぐ。

 

 だが、一瞬伊吹が止まり、上体を逸らす。

 

「ぐぅ!」 

 

 どこからともなく刃が伊吹の首をかすめる。明らかに落とすつもりの斬撃だが、刃が通らない。それでも伊吹に一太刀入れたのは流石だ。

 

「・・・人里の方はいいのか?」

 

「俺が行っても足手まといだ。あんな大勢の前では俺もただの人間に毛が生えた程度だね。」

 

 刀の持ち主。はぐれもの、凶。一度争った相手ではあるが、今は協力関係にあると思われる。いつもとは違い背中に凶の等身程の刀を抱えている。六尺(約180cm)程度の刃渡りを持った刀。

 

「それにしても何者だい?あの妖怪。首を落としたつもりだったんだけど、半分も切り落とせてない。鉄塊でも切っているような感じだった。」

 

「伊吹萃香。かつては酒吞童子と言われた存在だ。」

 

「道理で。この刀じゃ通らない相手かもと思って持ってきて正解だったたな。」

 

 刀を戻し、腰に据えてある鞘ごと地面に置く。そして背中の大太刀を抜いた。

 

 凄まじい妖力を感じる。元の刀も数多の妖怪を切り妖力を秘めた妖刀であったが、格が違う。生まれながらにして妖刀として存在していると感じるほどの威圧感だ。

 

「妖怪が鍛えた刀”楼観剣”。本来は太刀と大太刀の二刀流として作られた片割れらしいけどね。」

 

 妖刀に凶の霊力が吸われているのを確認できる。おそらくだが命を吸われている。それに加え刀の妖気が凶を浸食しているように感じられる、

 

 人間に扱える代物ではない。それが分かっているからこそ、普段は使わないのだろう。

 

「・・・人間一人増えた程度で変わらねーよ。くくっ、人間かどうか怪しい奴らだがな。」

 

 伊吹が首をさすりながら、立ち上がる。あの程度の傷なら瞬時に回復するのだろう。

 

 半人半妖に成りかけの人間。妖怪が鍛えた刀を持った人間。純粋な人間では勝てなくとも、道を外れた人間ならば鬼を討てる。

 

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