かくして幻想へと至る 作:虎山
前方では数体の妖怪を軽々とあしらう紅魔館の門番。後方では多くの妖怪を薙ぎ払うフラワーマスター。
(どちらもかなりの脅威だ。すでに大妖クラスが数名戦闘不能になっている。)
同じ大妖怪と言えど強さは天と地ほどの差がある場合は多い。大妖怪というのは天井がない。妖力の大きさ、生きた年数である程度決まることもあり、純粋に強い妖怪が成るわけではない。
といってもある程度の強さを持っていることは確かだ。しかし、今障害となっている二人の妖怪に一対一で勝てる妖怪は隣にいる星熊勇儀だけであろう。
「・・・勇儀殿。目の前の相手をお願いしてよろしいですか?それ以外の者は後ろの風見幽香に当てます。」
「なんだ、目の前の奴を全員でやった方が早いんじゃねーの?」
「後方の風見幽香は広範囲の攻撃を持っています。それにあの門番は体術こそ圧倒的ですが、弾幕が苦手だったという事からおそらく大したものは持たない。加えて集団戦を得意としている相手に集団で挑むのは悪手です。個人で勝てるのは勇儀殿くらいでしょう。」
「それなりに強いやつもついてきたんだがな。手は出さないつもりだったんだが、私もあいつとはやりたいなと思ったところだ。」
盃を近くの者に預け、拳を握る。
「・・・それほどの相手だという事ですか。」
「見りゃわかるだろ、あれはかなりやる。相手は隻腕だが、こっちもちとブランクがあるからな。全力でやるさ。」
門番が妖怪たちを倒す。地底の妖怪も立ち向かうのを躊躇している。丁度いい頃合いだ。
「そこの赤髪!次は私が行く!」
勇儀が一歩踏み出すと他の妖怪たちはすぐさま下がる。地底の妖怪も盃を手にしていない勇儀は久々に見るのだろう。
「他の者、後方の風見幽香を相手にしろ。」
・・・
「・・・すごい。美鈴ってこんなに強かったんだ。」
よく霊夢や魔理沙に紅魔館に侵入されていたし、咲夜に怒られたりしてたこともあり、強いとは言われていたことはあまりなかった。レミリアは強いと言っていたが、実際に目にしたことはない。
紅美鈴と霊吾が戦っていた際も最後のボロボロの二人を見ただけだった。その頃の霊吾より強い程度しか認識していなかった。
目の前で数多の妖怪を壁に寄せ付けずに戦う姿はまさしく門番のようである。地底の妖怪の中には鬼もいたが、何食わぬ顔で攻撃を流し、カウンターを叩き込む。そうやってある程度の妖怪を倒した。
「・・・来ますか。」
美鈴が構えなおす。妖怪たちがささっと下がり、司令塔のような鬼が出てきた。話には聞いたことがある。地底、地獄で最強の存在。星熊勇儀という名の鬼。
「あんた随分強いな。何者か聞いてもいいか?久しぶりに全力で戦う相手なもんでな、聞いておきたいんだよ。」
「そんな大層な者ではありませんよ。名を紅美鈴。肩書はないんですが、強いて言うならば氷精のお友達とでも名乗っておきましょう。」
「はっはっは!いいね。私は星熊勇儀。見ての通りただの酔っ払いだ。興味本位にもう一つ聞いていいか?」
「私は構いませんよ。何より時間を稼げればよいのですから。」
「そうか。なら一つ聞こう。なぜ人間を守る。チラッと聞いたが、お前の主はどうやら人間にやられたそうじゃないか。んでだ、そいつらを背に戦う理由は何だ?」
怪訝な表情の勇儀。純粋な疑問だが、チルノも同じように思っていた。
「友を助けるのに理由はいらないじゃないですか。私が守っているのは人間を守っている友達ですから。彼女が人里を守り続ける限りは私はここに立ちますよ。」
「・・・これはまた私好みの理由だ。ならもう言葉は要らないな。」
「あなたには最初から全力で行きましょう。」
美鈴の周囲の空気が荒ぶる。彼女を取り囲むような竜巻が生じる。見えづらくはあるが美鈴の変化に気づく。角が生え、鱗のように皮膚がひび割れる。
竜巻が収まると美鈴の変化した姿がはっきりとわかる。まるで龍を人に模したかのような姿。
「ほぉ、龍は初めて見るな。」
美鈴が足元に落ちている氷の剣を拾う。
「チルノ、この剣貰いますね。」
「美鈴、そんなもの使っても、、、」
美鈴は氷の剣を無い腕に突き立てる。血が噴き出し、氷の剣を濡らす。
「ちょっと!何やってるの?」
「説明は後でします。この剣を腕の形にしてもらえませんか。」
「・・・分かった。」
剣の形が腕に変わる。義手にも劣るただの氷の模型だが、不気味な点がある。
中に取り込まれた美鈴の血がまるで脈を打っているように感じられる。
パキンという音がなり、氷が少し砕ける。まるで関節部のようなものが見える。本物の腕のように美鈴が動かす。
「・・・驚いたな。そんなことまでできるなんてな。一説には龍の血を飲めば不老不死になれるっていう人間たちの話も強ち嘘じゃないみたいだな。」
「そんな噂もありましたね。今できるのはこの程度が精々ですよ。片手ではあなたを相手に持たない。とは言ったものの右手も久々の感覚ですから、ちょっとは違和感がありますが。」
・・・
「あっちは随分楽しそうね。私もできればあっちがよかったのだけれど、、、」
目前の妖怪の群れ。風見幽香は多数相手が苦手というわけではない。ただ彼女は集団相手にする戦い方ではない。大技で薙ぎ払ったり、砲撃で落としたりするが、長時間戦うためのものではない。実際に小さいながらも妖力の弾丸が当たったり、刀剣類での切り傷があったりする。
それでも耐えられるほどの耐久力、持久力を持っている。幽香が大妖怪でも上位に位置するのはそういうのが理由でもある。
「もっと強いやつはいないのかしら。」
傘を薙ぎ払い、吹き飛ばす。殺さないのはチルノの意思である。紅美鈴も同じく強く意識しているが、本来守りの戦い方をする彼女とは違い、相手を叩き潰す、消し飛ばすといった殺すことに特化した戦い方をする。その方が楽であり、手加減して相手をするときは遊びであったり、気に入った者を成長させるためといったように自分本位である。
それと合わせてだが、幽香は乱戦が苦手である。特に傷つけてはならない者がいるときなど、使えるものが限られてくる。周囲を丸ごと消し飛ばすような威力のマスタースパークは使えない。あたりの植物を操っても、多勢を前に対処される。出来る事と言えば傘を用いた打撃と大した威力のないマスタスパーク。大した威力はないとは言うが、霊吾のものと同程度である。
「ふっ!」
とある天狗に傘を止められる。一瞬の間。注意を怠ると見失う程の速さの斬撃だ。それほどの速さから繰り出す斬撃でも風見幽香の一振りを止められる程度である。
「烏天狗も来てるなんてね。あなた天魔の奴の右腕じゃなかったかしら。あなたまで出てくるなんてね。大変ね上司の命令というのも。」
「そう思うてくれるなら、引いてはいただけないか。そなたの思っている通り、好んで来ているわけではない。だが、私にもやらねばならないことがあるのだ。」
傘を力で払う。刀で滑らせて、流れるように回避される。
「あなたの目的がどうであれ、私も失いたくないものがあるのよ。あなた達が引き下がるまで、いや、逃げかえるくらい痛めつけてあげましょうか。それと一つ言ってあげるわ。」
「あなたは優秀でも、全員が優秀ってわけじゃないわ。大妖怪でも上位に位置する二人の対決の余波に気を付けるようにね。」
その瞬間、爆音と衝撃波が襲う。大妖怪の中でも一際別格の存在同士、一撃のやり取りが回りに影響を与えないわけがない。近くにいた妖怪が吹き飛ばされる。
(・・・氷壁に衝撃がいってない。まさか、あの龍人、あの戦いの中で衝撃をこっちに流しているのか!)
横目に見る。その瞬間が仇となった。
「脇見する余裕なんてないでしょ。」
烏天狗は振るわれる傘に投げ飛ばされ宙を舞う。
始まったばかりのこの戦、どっちが勝つにしろ長い時間はかからない。