かくして幻想へと至る 作:虎山
神社にて
睨みあう人間と鬼。
「・・・三秒後に出るぞ。俺は遊撃、お前は隙を見て切り込め。」
「了解。」
凶との取り決めはこれでいい。俺も凶も時間をかければかけるほど不利になっていく。向こうは完全体だが、こちらは不完全な存在。何もしなくとも妖力が漏れ出ている。霊力や気力のように操れず、放出する事しかできない。それは凶も同じ。いや、向こうが妖刀に少しづつだが気力を吸われ続けている分、体力的消耗が大きい。
「参」
こちらが構える。漏れ出る妖力を足に集中させる。
「弐」
伊吹が警戒する。だが、遅い。お前は早く動き出すべきだった。
「壱」
同時に妖力を一気に放出させ、伊吹に急接近する。無謀にも思える真正面からの突撃。向こうはそう思っているだろう。
飛び出した直後、どこからともなく氷の壁が伊吹に向かう。
「なに!」
相手の警戒網でも捉えきれない攻撃。そもそも、攻撃ですらないし、伊吹に当たる軌道ですらない。だが、一瞬以上の隙ができる。伊吹が起こした現象以外の全ては伊吹本人にとって攻撃になりうる可能性がある。
顔面に掌底を叩き込む。どこに攻撃してもまともに通らないなら狙うは視界。
伊吹は姿を変えたことで跳ね上がった通常の攻撃が通らないほどの装甲とほぼすべての攻撃を避ける必要になるほどの怪力を手に入れた。その代わりに失ったものもある。伊吹の能力を最大限に生かした遠距離かつ精密感知。
感知能力が低下しているなら、視界を奪えるだけでも十分に大きい隙を生み出せる。
「ぐぅ、うら!」
出鱈目に振るわれた拳。顔を掴み支点として能力により浮き上がり、回避する。
そのまま妖力の砲撃を叩き込む。頭上から体全体を覆う程の威力なら、マスタースパークでなくとも十分に通用する。
「くっ、あめーよ!」
顔を掴んでいた手を掴まれる。
(まずい!)
手に妖力を集中し、強化させる。凄まじい力で握りつぶされそうになるが、何とか持ちこたえる。
「うら!」
「ぐ!」
が、地面に叩き落とされる。まだ、手は掴まれたままだ。そして掴んでいない片手を握りしめ、妖力を集中させている。衝撃が体中に伝わり、回避行動に出れない。まともにくらえば、半身が吹き飛ぶ威力だ。
「消し飛べ、、!」
何かに気づいたように身をかがめる。頭上を斬撃が通り過ぎる。
体をひねり、伊吹の足を蹴り飛ばす。かがんだ状態では足に力が入らないなら、バランスを崩せる。
蹴った勢いで離れようとするが、掴まれた手が離れない。何が何でも離さないつもりのようだ。なら無理矢理、切り離してもらおう。拘束力の無い今なら、ある程度の自由が利く。腕をつかみ返し、捻り上げる。
刃はすぐそばにいる。
「凶!」
こちらの声にこたえるまでもなく、刀を振り上げていた。
「ぐぅ!」
振り下ろされた大太刀により、伊吹の腕が切り離される。掴まれている手の力が緩んだが、離れていない。腕だけでも大した力を持っている。
伊吹が上空に退避する。片手を奪ったとはいえ、伊吹の回復力なら戻るだろう。だが、無から有を作り出すのに消費する妖力は馬鹿にはならない。大妖怪であっても再生しながらの戦いは厳しいものがあるはず。
未だに腕をつかんでいる伊吹の手を引きはがし、消し飛ばす。これで零からの再生になった。伊吹の顔が多少歪むのが分かる。とはいっても瞬く間に虚空に霧が集まり、手が現れる。
「・・・何回切れば死ぬのかな?」
「さっきの切断から再生であいつの全体の妖力が十分の一程度減った。単純な計算だったらあと十回手足を切り落として消し飛ばせば、再生が追いつかなくなる。不意打ち気味でもっていけたのが片手だけだったってのは痛いな。」
「なるほどね。でだ、勝てる見込みはあるのかい?あの鬼がそう簡単に切られてくれるとは思わないけど。」
「さっきのでその刀が通るのが分かった。俺自身の打撃も砲撃もある程度のダメージは期待できる。が、正直厳しいだろうな。一対一に持ち込まれたら、まず相手のペースにのまれる。あいつが引き下がったのは俺たちが次の攻撃態勢に移れたからだ。もし、どちらかが倒れた場合は手足を切り落としたとしてもそのまま向かってくるはず。」
伊吹が辺りを警戒している。こっちとしては先ほどのような事は相手の先手を取るには十分だが、おそらくもう来ることはない。チルノが引き起こしたものではあろうが、人里からここまでの範囲で広げた技だ。彼女の妖力では限界ギリギリのはず。
(チルノ、、、そっちは大丈夫なのか。)
広域探知で探っても結果は変わらない。可能性を信じろ。自分は目の前の相手に集中しろ。
伊吹が片手に妖力を集める。強化しているのだろうか。迂闊に近づけば、かすっただけでも吹き飛ばされそうな力を感じる。
(・・・強化する必要があるのか?俺に対する牽制にしても無駄に妖力を消費する行為だ。まさか!)
「凶!避けろ!」
それと同時に俺たち二人の間に向かって拳を突き出す。片手に溜め込んだ妖力の砲弾が発射される。互いに避けるが分断されてしまった。だが、この程度の距離なら対応できる。
「まずはお前からだ。」
目前に聞こえる声。伊吹の移動速度をあまく見ていた。地を蹴ることでの推進力が無い空中からの移動では動いてからの対応が出来ると判断していた。
遅れて聞こえてくるダンッという着地音。頭に体が追いつかない。自分の中で思いつく回避行動の中で完全回避は不可能だ。ならばこそ、辿り着くのは行動不能を避ける事であり、ダメージを最小限に抑える。
(『
妖力で八卦炉を起動し、魔法を使う。三倍速の時間の中でも避けられない。拳の速さが遅くとも避ける前に当たる。無理に加速すれば半妖の状態でも体への負担を軽減できない。
片手を伊吹の拳の到着地点に構える。
拳が触れた瞬間、倍速を解き、片手を引きながら、後方に飛ぶ。
「ぐっ」
体全体を使っての受け流しでも、吹き飛ばされる。左手は押し込まれ、肘から骨が突き出る。鳥居にぶつかり、倒れ込む。
痛みを浮かしているが、体が動かない。意識も途切れようとしている。目に水が入る感覚がある。ぶつかりどころが悪く、頭をぶつけたようだ。 普段であれば絶対にやらないはずだった。さっきのやり取りで半妖の体であれば受けきれないまでも、片手だけで済むかと思っていたが。
(くっそ、、、ここにきて意識が持っていかれるほどの損傷を受けるとはな、、)
痛みを浮かせたところで動けるには限界がある。妖力による回復でも間に合わない。
(・・・凶はどうなってる?)
朦朧とする意識の中で目を上げる。もう一人が終われば、この戦いも終結に至る。一対一では不利と見る状況の中でどうなっているのか。
目に飛び込む景色はまだ勝負の終わりを映してない。
大太刀を片手に持ち、もう片方の手に持った小刀で伊吹の顔を切り上げていた。独特な形をした小刀だった。伊吹の外皮を切りつけるほどのものだ、普通の武器ではないだろう。
だが伊吹はのけぞらない。切られながらも拳を振るう。それを紙一重で避ける凶。そのまま大太刀で空ぶった腕の手首を突き刺す。凶の戦い方を知っているわけではないが、かつて負けたからこそ分かる。相手を自分の距離に呼び込み切り伏せるというもの。ただこれには確実に相手を仕留めきれる技と相手の攻撃を一度は防ぐまたは避ける必要があるという事だ。
凶にとって紙一重の回避は生命線だった。一度もらえば死に至るという経験は、凶は霊吾に比べ圧倒的に多い。霊力、気力を扱えるようにしてきた霊吾はそれによる強化で受け流しを主に磨いてきた。完全な回避は失敗した時のリスクが大きいと考えての選択だ。
凶は接近戦しかなかった。人の身のままではたかが生まれたばかりの妖獣の引っ搔きでさえも重傷になりうる。だからこそ長年、避けることを鍛え上げてきた。次の行動に繋げる回避を妖獣を殺しながら、常に考え実行してきた。
培われたのは最短の殺戮。異端の刃より脅威となる人間の経験。