かくして幻想へと至る 作:虎山
立ち上がる。まだ片腕が使える状況じゃない。だが動ける。八卦炉を見ると、バチバチと火花を散らせている。魔理婆さんが組んだ魔術は霊力を魔力に変換させるものであり、妖力には対応しない。妖力による無理な起動により、不可解な挙動をしている。
(使えてあと一回。保険を残しても意味がないか。)
凶が吹き飛ばされていた。頬に刀が突き刺さっているのを見ると仕留め損なったのだろう。十分に威力の出ない攻撃でも凶には致命的になっている。何とか立ち上がっているが、ギリギリといった感じだろう。
伊吹は刀を抜き取り、凶に振り返り歩いて行く。背中を見せた。が、奇襲はできない。背後とはいえ物音無しの接近は不可能だからだ。伊吹も分かっていて、放置しているのだろう。俺が動けば反応できると思っているはずだ。
奇襲はできないが奇策は通じるはず。足元に妖力を集中、爆発させる。その音で伊吹が振り向いた。
(腕はまともに使えなくとも、、まだ武器はある!)
伊吹は構えるが無意味だ。位置とタイミングを計っての急加速。目的は伊吹じゃない。
「借りるぞ!凶!」
全力の蹴り込みを刀の柄に叩き込む。弾丸のようにはじき出される刀。
「なに!」
手を突き出し防御される。手を貫き、刀身が肩から飛び出る。
「はあ、はあ、いてーな。」
息が上がっている。やはりだが、体がついていってない。これまでのダメージと疲労は着実に伊吹を苦しめていた。道が見える。
刀を抜く暇は与えない。一気に懐に潜り込む。伊吹が拳を振るう前に腕を弾く。刀が突き刺さり再生できない片手は満足に動かせない。こちらも片手は使えないが、速さで伊吹の動きをつぶせる。足を払い、倒れ込む上体に掌底を叩き込む。その間には八卦炉が挟み込んである。
俺の最高の一撃。原点でもあり、どんな技の中でも単純で大雑把なもの。
「くらえ、『マスタースパーク』!」
ゼロ距離からのマスタースパーク。ありったけの妖力で起動し、爆発するような威力の閃光が飛び出す。これまでの黄金の輝きではなく、禍々しい黒々とした閃光は伊吹を上空へと弾き飛ばす。これまで放ったどのマスタースパークよりも強力で巨大な閃光だった。
妖力も使い切った。結局、左手は再生できなかったか。
「凶、大丈夫か?」
「まあ、何とか。あいつは死んだか?」
「・・・何とも言えないが、少なくとも致命傷は与えたはずだ。」
決定打になり得る一撃であっても、消し飛ばせることはおろか妖力を削り切れるかどうかも分からない。
上空から何かが落ちてくる。ゆっくりと落下するそれはまだ戦闘が続くことを意味している。
「まだ、戦えるよな。」
「無茶を言う若者だね。こちらの主力武器は、、、あの様子だと無いようだね。」
伊吹の腕には刀はない。おそらく抜いた後に投げ捨てたのだろう。
「互いにボロボロで武器もまともにないと。まあ、あちらも満身創痍のようだけど。」
地に立つ伊吹。再生こそしているが、妖力もほとんどない。純粋な力も落ちていると思われる。だが、片手の俺と小刀を主体とした凶で破れるか怪しい。
八卦炉は形を保っているが力のない音を上げている。
(まともな運用はできないか、、、すまない魔理婆さん。)
一つだけ出来ることがある。おそらく原型が残ることはないであろう技。だけどこれしか思いつかない。
対面する二人と一人。今度は伊吹から動き出す。同時に動く。手を強化し、残りの妖力、霊力、気力を八卦炉に集める。異なる力が合わさることはない。何が起こるか分からないが、予測はできる。
伊吹の拳にぶつける形で八卦炉を叩き込む。三つの力が反発しあい爆発する。その威力で吹き飛ぶが、伊吹も同様に吹き飛んでいる。手を強化しなければ消し飛んでいた。八卦炉は粉々に砕け散った。
意識に何かが介入してくる。
・・・
真っ白な空間。一瞬何が起こったか分からなかった。今も理解しているわけではない。だけど目の前に立つ人物がここが現実の世界ではないことを分からせる。
「魔理婆さん?」
だが、俺の知っている姿ではない。若く、力強さを感じる。
「久しぶりだな、霊吾。私がここに出てこれるってことは八卦炉が壊れた時だと思うんだが、何かあったのか?」
若くとも表情は変わらない。優しい微笑で語り掛けてくる。ここが何処か、なぜいるか。そんなことはどうでもよかった。優しく抱き着くと確かに感触があった。初めてもらったぬくもりや想いがこみ上げてくる。
「おいおい。大きくなったのは図体だけか。前よりずいぶんと泣き虫になったんじゃないか。」
「・・・今戦ってる相手があまりに強くて、八卦炉を無理に使ったんだ。ごめん。」
「いいさ。物はいずれ壊れる。お前がいたずらに壊すことはしない子だって分かってるさ。誰と戦ってるのかは分からないけど、きっと私の知っている奴なんだろうな。」
いつまで抱き合っていたか分からないが、少し落ち着いて話し出す。現状を理解し始める。
「婆さんは何でここにいるんだ。そしてここはどこなんだ。」
「ここは精神世界みたいなところだ。私がここにいる理由としては八卦炉とお前さんにかけた魔法が原因だな。自分の意思をそのまま具現化させる魔法。実はその八卦炉は回数制限があったんだ。魔導に染まるか、染まらないかの直前に作動するようになっていたんだ。私の役目はそれを引き留める事だった。」
準備と代償さえ整えば無限の可能性がある魔法に溺れないためのストッパーだったのだろう。もし、魔法だけだったらと考えるとその危険性も分かる。
「だけどお前さんは魔法に頼り切らなかった。嬉しく思うよ。」
「そして壊れた時の作動。八卦炉が壊れることはほとんどない。だけど例外はある。物である以上は物理的破壊は可能なんだ。それはおそらく戦闘中に発生する。だからこそ、その時に助けになれるように組み込んだ。」
二つの役割を持った魔法。最後に手を握った時、その時に組み込んだ最後の魔法だったのだろう。
「私の最後の魔力を預ける。たった一度だけ魔法が使えるようになる。私にはこれくらいしかできない。」
「いや、そんなことはないよ。ありがとう、魔理婆さん。俺、行ってくるよ。」
「ああ、行ってこい、霊吾!」
背中をバンっと叩かれ、意識が飛ぶ。
・・・
吹き飛んでいる体を止める。あの時握った右手には確かに魔力を感じる。目を上げると凶が追撃をしており爆発で飛ばした腕の傷口に小刀を突き刺していた。あれで片手の再生はできないはず。凶がこちらに一瞬目を向けた。こちらの様子を見て、離脱しようとしている。
「伊吹!」
叫び声を上げ、注意をこちらに向ける。正真正銘、最後の魔法。声高らかに唱える最強の閃光魔法。
「『ファイナルマスタースパーク』!」
極太の閃光が大地を抉りながら伊吹に衝突する。
「舐めるなよ、霊吾!」
激しくぶつかりながら、突き進まれる。魔力の波をかき分け、こちらに向かってくる。
(こいつ!何処にそんな力があるんだよ!)
もし、両手が健在だったら破られていたであろう。だが片腕の今なら押し切れる。
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」
意地と意地のぶつかり合い。互いに限界を迎えていたのであろう。閃光にのまれながらも接近し、拳を振り上げる。それでもまだ届かない。
一歩踏み込まれる。まだ届かない。
もう一歩進む。閃光の隙間から顔を覗かせた。届かせない。
放出し続ける魔力を最後に押し出すように放つ。その衝撃で距離を取る。伊吹の胸は肉が剥がれ、焼け焦げている。それでも意識を持って、拳を振り下ろしていた。
「ゴホッ!」
血を吐き出し、こちらを睨めつけている。焼け焦げた内臓がずり落ちても、立ち上がってくる。再生する妖力もなく気合で立っているのか。
もう終わらせる。今の伊吹なら強化せずとも貫ける。
伊吹も立ち上がり、近づいてくる。びちゃびちゃと嫌な音を立てながら歩いてくる。普通の妖怪、いや大妖怪と言えど死滅するほどのダメージを受けつつも確かな敵意を持って向かってくる。
拳を振り上げるが遅い。こちらの方が圧倒的に速い。心臓めがけて鋭く速い突きを繰り出す。
グシャという感覚が残る。確実に心臓を潰した。力なく伊吹が凭れかかってくる。
人と鬼の戦いは決した。