かくして幻想へと至る   作:虎山

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「ごほっ!」

 

 肩に倒れ掛かり、血を吐き出す伊吹。もう力が入っていないのか、ずっしりとした重みを感じる。まだ呼吸音が聞こえる辺り、辛うじて息はあるようだが、もう終わる。

 

「ああ、く、そ、負け、、たか。」

 

 かすれた声だが確かに耳に届く。最後の言葉だ。

 

「ひとに、より、かかる、、のは、わりと、悪い、気は、しない、な。」

 

「・・・なんで、お前は俺に殺させるような真似をさせたんだ。最初からずっと小さいままでいたらお前は俺に勝っていた。屍になっていたのは俺だ。」

 

 確かに変身後の姿は強い。最強の鬼にふさわしい力を持った存在であった。だが、あくまでも鬼の範囲をでなかった。能力を駆使した戦い方なら勝てなかった。

 

「最期、くらい、は、、抗い、たい、んだ。せめて、お前、、と、戦う、時、くらい。」

 

 ずっと心にある違和感。どこか伊吹の姿が本来のものとは違う感じがしていた。

 

「抗うとは何だ?お前の本当の目的は何だったんだ?」

 

「ごほっ!、も、う長く、ない。お前、も、気づい、てる、はず。私は、ただ、本能の、まま。」

 

「・・・そうか。」

 

 その言葉で確信に変わってしまった。

 

「な、あ、一つ、頼ま、れて、くれ。」

 

「なんだ?」

 

「私を、抱き、しめて、くれ。」

 

「口が動くお前をこのまま放置してるだけでもありがたく思ってほしいんだがな。」

 

「な、に、もう、、噛み、つく、ちか、ら、も、ねえ。鬼は、嘘、を、、つか、ない、のを、知って、いる、だろ。」

 

 これまで嫌なことを言われたことはあれど、伊吹が嘘を言ったことは無い。最後の願いだ、要望通りに従おう。

 

 伊吹を抱きしめる。焼け爛れた血肉が体中にこびりつく。正直不快だ。

 

「存外、わる、くはない、な。さい、ごに一つ、忠告し、ておく。」

 

 表情は見えないが力なく笑っている気がした。

 

「女、は、嘘を、つく。」

 

 その言葉と共に首筋に鋭い痛みが走る。

 

「伊吹!」

 

 一瞬声を荒げたが、力なく伊吹が肩から滑り落ちたのを見て、冷静になった。

 

 死んでいる。どこか満足そうにしている。

 

 首筋には歯形が出来ており、確かな妖力を感じる。どうやら呪いの類のようだ。だが、この呪いのおかげで半妖の部分が吸い取られ、半人半妖ではなく、人間として戻ったようだ。

 

 

(とんだ置き土産だ。まったく、厄介な奴だったよ。)

 

 

 

 

 

 

「・・・まさか、萃香様を倒すなんて。」

 

 そよ風と共に突然現れた妖怪。大きな黒い翼を持ち、烏帽子を被った少女の姿。妖怪だ。

 

「カラス天狗か。」

 

「そうですね。別に構えなくても殺しはしないですよ。私の目的はこの戦況を報告することですので。あとはあなたのことを一目見ておきたいなと思いましてね。」

 

「そうか、なら、俺は行くぞ。」

 

 ボロボロの体だがまだ動く。人に戻ってしまったため、回復は期待できない。

 

「やめた方がいいと思いますよ。休んでないと死にますよ。」

 

 死にに行くつもりはない。

 

 が、どうやら自分でも分からぬうちに焦っていたらしい。少し気持ちを落ち着かせる。

 

「あんたは今から人里に行くのか?」

 

「そうですけど、それがどうかしました。」

 

「終わったら頼みがある。こっちに来てくれないか。」

 

「まあ、いいですけど、状況が分かっているなら私が人里に加勢しに行くとは思わないんですか?」

 

 いたずらっ子のような笑みを浮かべる天狗。厄介な存在であるが敵ではないだろう。

 

「・・・妖怪で頭を殺されて弔い合戦に持ち込むようなやつはいないだろう。伊吹にとってのと他の妖怪にとっての戦は違うはずだ。それにお前ら天狗の立場としても鬼の命令だった方がいいだろ?」

 

「あやや、言われてみればそうですね。ではすぐ戻ってきますね。」

 

 そう言い残し凄まじい速さで消えていった。

 

(とりあえず今の状況だ。)

 

 もう一人の人間、凶に近づく。

 

「大丈夫か?」

 

「なーに、問題はないかな。でもまあ、しばらくは布団から動けそうにないね。俺よりも君の傷の方がひどかったと思うけど。」

 

「心配はない。内臓の修復は何とかなっている。左腕は繋がっているだけましだが。それにそろそろ着くだろう。」

 

 小さい気が二つ近づいてくる。上海と黒姫の気配だ。

 

「急いで来たんだけどもう終わってる!」

 

「上海、悪いがそっちの人間の治療を頼む。俺はちょっと内に戻る。」

 

「いや、霊吾もひどい傷じゃない!動かない方がいいよ。」

 

「後で頼む。時間がない。」

 

 境内から感じる妖気が小さくなっている。藍がもう長くない。

 

 部屋に上がると寝ている藍を心配そうに見つめる二人がいた。今にも泣きそうだ。いや、涙を見せないように頑張っているようだ。

 

「・・・終わったか霊吾。」

 

「藍さま、無理をしないでください!死んでしまいます!」

 

「もういい、橙。心臓を破壊されてはどうしようもない。」

 

 起き上がり、こちらを見つめる。目に光がない。死体が動いているように感じる。

 

「これは私の不手際だ。お前に責任はない。だが、頼む。この異変を解決してくれ。」

 

「・・・言われるまでもないですよ。元からそのつもりです。それに責任は俺にもあります。俺は、」

 

「いい、お前はよくやってくれた。幻想郷において異変を未然に防ぐことなど不可能だ。そういう風に紫様が望んでいるのだから。今回は思いもよらなかったことだろうがな。」

 

 すべてを受け入れる幻想郷において異変は珍しいものではない。悪意の有無とは関係なく、本能に従うというのは生けるものにとって当然の事である。多様な妖怪においては本能からくる衝動的行動というのもある。

 

「かよ、次の巫女としてしっかり果たせ。お前の才能は歴代の巫女達を見ても引けを取らない。」

 

「うん、、、わかった。」

 

「橙、手を握ってくれ。」

 

「はい、藍さま。」

 

 藍の片手を両手で握りしめる。よく褒めて、撫でてくださった手だ。その手にひかれ式となり、妖怪としてただの猫又から九尾の従者にしていただいた。まだ教えてもらわなければならないことがたくさんある。

 

「よく私についてきてくれた。一人前になるときを見れないのが悔いに残るな。」

 

「ほんと、ですよ。まだ橙は未熟です。置いて行かないでください、藍さま。」

 

「・・すまない。」

 

「謝るのは橙の方です、、藍様からたくさん教えてもらっても橙は上手くできないことが多かったですし、、ついて行くだけで精一杯だった私をずっと見守ってくださいました。」

 

 まだ言いたいことがたくさんある。だが、もう長く話せない。最後に伝える事は一つだけだ。

 

「ありがとうございました。」

 

 涙ながらに発した感謝。

 

「ああ、私も感謝しているよ。」

 

 最後の力を手に込める。妖力が橙に伝わっていく。

 

「・・・私の全ての力を託す。これからも修練に励むようにな。いつか紫様を支えられるように。」

 

 そういうと手がするりと零れ落ちる。

 

「・・・霊吾。」

 

「はい。」

 

「紫様を頼むぞ。」

 

「・・・任せてください。」

 

「ああ、安心だな。」

 

 短い会話であるが、十分である。

 

 それだけを言い残し目を閉じる。おそらく次開かれることは無いだろう。泣き出す二人を背に外に出る。

 

「霊吾!」

 

 橙から声がかかる。足が止まる。

 

「・・・生きて帰って来いよ!」

 

「・・・努力しよう。」

 

 歩き出そうとすると、今度は手を掴まれる。かよだった。

 

「離してくれ、かよ。」

 

「やだ。」

 

 泣きながら手を引っ張っている。

 

「約束して欲しい、絶対帰ってくるって。」

 

「・・・常々、戦闘において絶対はないと言っているだろう。」

 

 そういっても無言で手を離そうとしない。強引に振りほどくこともできるが、振り向いて目を合わせる。手を握りしめる。

 

「無事かどうかは分からないけど、生きて帰ってくる。だから待っててくれ、頼む。」

 

 渋々といった感じで頷く。おそらくは直感的に危険を感じているのだろう。

 

 

 

 

 外に出ると上海が凶の治療を行っていた。魔力の糸を人体に通して骨の固定や内臓の修復をしている。簡易な処置にしては出来すぎたものだ。

 

 近づくと上海はこちらに気づいた。凶は気を失っているようだ。

 

「治りそうか?」

 

「命に別状はないけど、動かない方がいい。この人よくこんな状態で戦えたね。普通の人間なら立てないほどの傷だよ。まあ大方の治療は終わったし、次は霊吾の番だよ。」

 

 ボロボロの左手を差し出す。骨が完全におれて関節が一つ増えているようだ。

 

「内は問題ない。腕の治療を頼む。荒っぽくていいから急いでくれ。」

 

「・・・また無茶をしに行くんでしょ。しっかり処置しとくよ。」

 

 腕に魔力の糸が刺さる。数分程度で繋がるが、激しい衝撃があれば元に戻ってしまう。おそらく一撃が限界。

 

 どっちにしろ長くは戦えない。一撃を叩き込めるなら、それにすべてを賭けるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




萃香も藍も嫌いではありません。
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