かくして幻想へと至る 作:虎山
「私が行けるのはここまでです。ここから先は自分でお願いします。」
妖怪の山。その中腹辺り。出来れば頂上まで戻ってきたカラス天狗に運んでもらいたかったが、これ以上は無理という。上司に言われているのか、それとも本能的に嫌な予感がするのか。
確かに頂上付近から禍々しい気配を感じる。おそらく今回の異変の首謀者がいるであろう場所だ。
「助かった。後は自分で何とかするさ。」
「そう言ってくれて助かります。私も見てみたい気もあるんですが、ここから先に行くなと頭の中で警告されているような感じがするんですよ。ここにいるのも正直、いっぱいいっぱい何です。」
チラッと様子を伺うと、冷や汗を垂らしている。やはり本能的に危機感を感じてるのだろう。
「あなたが行くのもあまりお勧めはしませんが、解決していただかないと私たちも無事とはいかないですからね。お願いしときます。」
それだけを言い残し、飛び去って行った。
さあ、行こうか。
・・・
頂上に着くと寂れた神社が現れた。かつて神が三柱いたと聞いたことがある。
その神社にとある妖怪が座っていた。
「久しぶりだね。お兄さん。」
古明地こいし。今回の首謀者、または関係はしているだろうと予測していたが、やはり当たっていたようだ。
いや、こいつは
「誰だ、お前は?」
「あんまり会わないから、忘れちゃったかな。私はこいしだよ。」
「違うな。古明地こいしではない。俺もあいつのことを理解しているわけではないが、一つだけ分かっていることがある。」
今回の異変。かつて幻想郷で人間が妖怪を徹底的に排除しようとしていた現象に少し似ていた。人間が妖怪に感じる原始的恐怖を強められた結果だという結論だが、それは博麗の巫女が不在だった期間に起こった。
妖怪との結びつきが強くなってしまった起因となる博麗霊夢の死去が大きな要因だと紫さんや藍さんが言っていた。あまりに近づきすぎた恐怖に気づいてしまったからだと、言っていた。一種の発狂状態であり、半ば受け入れるしかない状況だったそうだ。
言うべきか迷ったが、古明地こいしが元凶の可能性が高いと感じていた。結論に至るまでの材料がないが、彼女の能力である無意識を操る能力であれば可能にできる。
無意識とは本能である。生物が本能的に感じる異形への恐怖、またその恐怖を排除する欲求。それらを強められた結果、かつての異変が起こったと考えられる。
今回と前回の違いは本能を煽られた対象が妖怪だったという事。それも対処しなければ確実に人里を消滅できるほど厄介な存在を対象にしたことだ。
伊吹とおそらくは少し前の蟲の集合体であろう。もし放置すればどうなるかは分かる。つまるところ結果が分かりやすくなるように対象を取ったのだろう。
古明地こいしの危険性はそういう分かりやすいものではない。純粋なまでの好奇心や思い付きだからこそ、紫さんや藍さんが見逃した。
「今のお前のように確固たる目的をあいつは持たない。こいしの能力を使えるようだが、おそらく憑依しているのだろう?」
にんまりと笑顔を浮かべる。こいしが笑っている姿を見たことはあるが、邪悪に感じた笑みを見るのは初めてだ。
「この子の記憶ではあまり会ったことがないように思えたけど、よく見てるんだね。それとも知っていたのかな?」
「知っているかどうかといわれると知らなかったな。お前と相対するまではこいし本人の可能性が高いと感じていた。だがまあ、よく考えれば分かることだったな。」
妖怪ですらこの領域には入りたがらないほどの邪悪な気。大妖怪のような圧倒される妖気ではなく、体に纏わりつくような気持ちの悪い妖気とも言えないようなもの。
こいつの正体はおそらく、
「モリヤ神だな。」
「ご名答。若いのに物知りだね。それでどうするかい?私を殺す?私を殺せばこの子も死ぬだろうね。まあもっとも君に私が見つけられるかな?」
瞬間、こいしの体が消える。憑依した状態で能力が使えるのはかなり厄介だ。
だけど、こいつはこいしではない。
顔に飛んでくる刺突を避ける。
「・・・何で?」
「そこにいるか。」
声のした方を蹴り上げる。
「ぐふっ!」
確かな感覚とくぐもった声。どうやら攻撃は当たったようだ。宙に投げ出され、どさっとした音の方向を注意すると姿が浮かび上がる。腹に直撃し、悶絶しているようだ。
「なぜ、、わかった?お前の意識からは確実にいないはずだ。見えるわけがない!」
「お前が声に出したから場所がわれただけだ。意外に頭が弱いんだな。」
「違う!おまえは避けただろ!なぜ避けられた!」
「それを馬鹿正直に言うと思うか、間抜け。今度は俺から行くぞ!」
接近し、足で踏みつぶそうとするが避けられる。こいしの体だけあって身軽そうな動きだ。やはり相当なダメージを与えないことには立ち上がるか。
またこいしの姿が消える。何度やっても同じこと。気を体の周りにドーム状に張り巡らせ、意識を集中させる。古明地こいしなら存在自体が無意識の領域にいるため、簡単には捕まえられない。
こいつは体だけを俺の意識から外そうとしている。溢れ出る邪悪な気を捉えれば、避けるまでもなく叩ける。だが、確実に当てるには正確さが足りない。
軽く蹴り飛ばしても、殴り飛ばしても大した痛手にならない。長々とやってるようじゃ、流石に気付かれる。
全身全霊の一撃にかける。
(避けてのカウンターでは足りない。多少はもらう覚悟で攻撃される瞬間に仕掛ける。)
さっきの攻撃が避けられたなら相手は背後からくる。さっきはおそらく様子見と少しの痛手を負わせるために目を狙ったと考えられる。相手が警戒している以上は急所を狙ってくるだろう。
(こいしに首を吹き飛ばせるほどの威力が出るとは思えない。妖怪といえど純粋な力はそうでないはず。いや、そうであって欲しいが根拠はない。先ほどのカウンターでだいぶ警戒しているのか、動きがないように思われる。少なくとも気の範囲内にはいない。こう長いと気での警戒も限界だ。一か八かで賭けるしかない。)
僅かな時間であっても、気力での警戒は厳しいものがある。放出している気を抑え、完全無防備の状態になる。
そしてありったけの気力を右手に集中させる。
(勘にすべてを委ねた一撃になるとは。)
これまで勘を頼ってきたことはあれど、任せきったことは無い。不安に駆られる。位置、タイミング、姿勢、すべてを考えない。感じるままに動く。
先代の巫女、博麗霊夢はほとんど勘で動いていたという。
(大した度胸、見習いたいものだ。)
腰を落とし、体をねじり、全力の一撃を突き出す。ぐしゃっとした感覚と共に思考が蘇る。
「・・・ごふぅ!」
俺の腕はこいしの体の心臓を貫いていた。相手は俺の腕をかすめただけで終わっていた。
「・・・すまない、こいし。」
「お、まえ、これで、終わったと、思うな、よ。どんな、形であれ、触れることが、できた。」
両手で貫いている腕を掴まれる。体が瀕死であっても動かれるなら、残す手は一つしかない。
右手が邪悪な気に浸食される。腕から乗っ取られているようだ。
「お前の体をもらうぞ!」
最後に言い放つとこいしの体は力なく両手を離した。完全に俺の腕に移ったようだ。
「・・・夢想天生」
体を霊力で纏い、自身の存在を世界から浮かす。死と生の間の世界。自身だけがこの世界にいる。浸食されている影響か体が動かないが関係ない。邪神であっても殺せる唯一の方法。
「聞いているか分からないが、言っておく。妖怪であっても神であっても、人間の恐怖や信仰で存在している。そいつらを問答無用で消す方法はある。」