かくして幻想へと至る 作:虎山
「はぁ、はぁ、、」
異様に重たいリュックサックを背負い、同じ様な木々の間を走る。少しゆらつくと、何かにぶつかる。これが結界だと分かったのは、走り始めて二日目ぐらいだった。最初は疲労からか何かに当たったとは分かったが、考える気力がなかった。
流石に同じことが続けば、違和感を覚える。魔理婆さんは結界を張っていると言っていたのを思いだし聞いてみたら、その通りだったわけだ。
何のために結界を張っているのか、と聞いたことがあるが、魔理婆さんは「いろんなやつに見付からないようにするためじゃ」と、言った。
自分が幻想郷に来て季節が移った。だいたい3か月位は経ったのだろう。ひたすらに鍛練に打ち込んでいた。
幻想郷については少しずつ理解した。自分と同じ様な人間が人里と呼ばれるところにいるということや、妖怪が数多犇めく妖怪の山など、箱庭と言っている割には幻想郷は狭くはないらしい。
人間と妖怪の関係に関しては、魔理婆さん曰く最悪とのこと。ある日を境に人間が過度に妖怪を恐れ、それにより妖怪達の本能が刺激され、より凶暴になった、とのことらしい。
走っている間は思考の整理を行い、頭と体の両方を限界まで疲弊させる。そうやってる間に、木々を抜け家のある広場に出た。
「五十週目しゅーりょー!ウォーミングアップ終わり、次いくよ。」
広場で、木に正の字を書いている上海の声で、足を止める。そして、背負っている重りをドサッと外して落とす。
「・・・少しは慣れてきたかな。」
同じことを毎日すれば、どんなきついことでも当たり前になる。そして、それを防ぐために魔理婆さんは慣れ始めたくらいで、新しいことを勧めた。
「じゃあ、構えて少年。」
それが上海との手合わせである。最初は人形が相手をするのはどうかとも思ったが、実際に戦ってみて機敏に飛び回る上海に攻撃が当たらない。そして何より、、、
「いくよ、同胞たち。」
上海の周りに同じくらいの大きさの人形が飛び交う。四体ほどの人形を上海が操っているらしいが、生きているような動きをする。なんでも、お母さんのを見てきたとか。まあそれは今は関係ないな。
霊力を全身に流し、体を強化する。もとより恵まれた体格ではないため、筋力を補えるようになったのはかなり大きい。
「そーれ!」
上海の掛け声とともに四体の人形が飛んでくる。四体とも木の棒のようなものを持って、それぞれがこちらの退路を塞ぐように木の棒を振りかぶる。
左右から一本ずつ、上から二本の木の棒が襲い掛かる。霊力を両腕に集中させ、飛ぶ。上からくる棒を防ぎながら能力を使って浮き上がり左右の攻撃をよける。幻想郷では自分の持つ能力がより強力になっている。
木の棒ごと人形を左右に飛ばし、腕に集中させた霊力を掌に少し集め、霊力を打ち出す。自分の制御できる範囲での全力では、精々拳ほどの大きさのレーザーしか出せない。そしてその霊力のレーザーは人形たちが持つ木の棒で防がれた。
「・・・相変わらず、いい反応だな。」
「当たり前じゃん、第三者が操っているんだから。」
後ろからの声に反応して、とっさに霊力を打ち出す。
「おっと、危ない。」
至近距離にもかかわらず、さらっとよける。そして、二体の人形をそばに呼び寄せる。
「うんうん、少しずつ反応がよくなってるね。でもまだまだだね。いけ!」
四体の人形がそれぞれ、襲いかかる。しかし今度はそれに加えて人形達の隙間から魔力弾が飛んでくる。
「ふっ、」
四体の攻撃を捌きながら、魔力弾を避ける。この戦いにおいては上海だけをダウンさせればよいのだが、それが簡単にはいかない。
「はあ!」
体を覆っている霊力を解き放ち、人形達を一瞬だけ吹き飛ばす。その隙に霊力を上海と逆の方に打ち出す。
霊力の威力で加速しながら上海に突進する。まだ、慣れない加速方法だが機動力で上海に合わせるにはこれしかない。
上海は踊るようにフワッと避ける。体を捻り、上海に拳を当てようと振りかぶるも、上海は自分の動きに合わせて背中に回る。
「えい!」
そんな掛け声と共に背中に衝撃が走る。吹き飛ばされてさらに上空に上がる。下を振り向くと上海がニコニコしながら両手を向けていた。
「弾幕ごっこなら敗けてたね。私はあっちが好きだったけどな~。」
「残念ながら、そっちのルールはよく知らないんだ。」
そういいながら、両手を上海の方につき出す。両手であれば片手に比べてマスタースパークの制御ができる。今、上海のもとには他の人形達はいない。この間に自分のマスタースパークを当てれば勝ちだ。
(いや、待て。他の人形は何処に!)
パッと見渡しても見付からない。しょうがなく、上海に目標を定めマスタースパークを放とうとする。
「いやー惜しかったね。次は背後にもっと注意を配ろうね。」
その言葉と共にガツンっと体をぶっ叩かれる感覚と痛みが押し寄せる。スゥと意識が遠退いていく。チラッと背後に目をやれば、人形がいつの間にかいた。
「くっそ・・・」
落ち始める自分の体。意識が朦朧として能力の制御ができない。
「おっと危ない。気を失ったら駄目だよ。何とか持っとかないと、本当に危ない場面で無防備になっちゃうよ。」
そんな体を小さな身で受け止める。人形のくせして人を抱えるとはどういう力をしてるのだろうか。
「少年が小さいからだよ。」
「・・・自然に心読むなよ。」
「読んでないよ。釈然としない顔してたからそう思ってたんじゃないかと予想しただけよ。」
よく人を見ているなと心のなかで思った。
自分の体は徐々に降下していき、足が地についた。その頃には少し回復している。
ふらつく体で何とか立つ。人形の一体が木の棒をつき出してきた。使えということだろうか。それを受け取り杖のようにして歩いて家に戻る。もう昼時だった。
「おや、終わったかい霊吾。相変わらずボコボコじゃの。」
机に料理の乗った皿を並べている魔理婆さん。味噌汁に白米と言う魔法使いとして似つかわしくない食事だ。自分にとって意外だったが魔理婆さんは和食が好きらしい。
「でもまあ、ちょいちょい良くなってるよ。霊力の使い方はうまくなってるし、能力の方も使ってるからある程度はやれるよ。まだ複数相手は難しそうだけど。」
上海から評価の声が上がる。最初はボロクソに言われたもんだが大分よくなったようだ。
「・・・そもそも人形が相手ってのは普通あるのか?」
「いや、そうそうはないじゃろ。ただそうじゃな、上海に弾幕の一つでも当てられるなら、たいていの相手には攻撃が当たると思っておればいい。」
つまり、上海を相手にしていれば命中力は上がると言うことなのだろうか。
「ちょっと休憩してまたするつもりじゃろ。ふらついておるようじゃから止めた方がよいと思うのじゃがの。」
「それじゃ、いつまでたっても強くはなれない気がする。魔理婆さんだって最初は無我夢中にやってたって言ってたから俺だってそれくらい頑張らないと。」
魔理婆さんからだけじゃなく、上海からも少し聞いていた。まだ完全な自立人形でなかった頃でも外界の情報は取り入れることができたらしい。そのなかで魔理婆さんは貪欲に知識や力を求めたらしい。お母さんの本とか勝手にもっていくのはどうかと思うけど、とも上海は言っていたが。
この幻想郷で生きていくために必死に何かを身に付けなければならない。元の世界にはそれほどの未練はない。それよりも今、魔理婆さんや上海と暮らしていたいと思っている。
(・・・それと、夢についても。俺に何かを訴えている。あの景色が幻想郷のものとはわかるが、いったい誰の目線なんだ。)
時折見る夢、実をいうと幻想郷に来る前から似たような夢は何回か見た。だけど若い頃の魔理婆さんといった人は見ていない。ただ神社の風景が流れていただけだった。あれはいったいなんなのだろうか。
「霊吾、食わんのか?」
「食べないと大きくなれないぞ少年。」
二人から声がかかりハッとして、椅子に座る。
「まあ確かに霊吾は年の割りには小さいのう。それに少食じゃからある程度は無理に食った方がええかもしれんのう。」
「・・・あんまり小さい小さい言わないでほしいんだけど。」
十四歳で130センチと小柄な体な自分。少しだけでも気にはなる。これでは小学生とすらも間違われる。
「私は可愛くてええと思うのう。それより冷めるから早よう食いな。」
「・・・いただきます。」
釈然としながらも食べるご飯は美味しかった。その後は昼も同じ様に上海にボコボコにやられて、夜を迎える。
そんな日々が続いた。短い人生の中で初めて、明日に悲観的な感情を抱くことがなかった。
ストックがちょい貯まった