かくして幻想へと至る   作:虎山

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第二部開始



現代の日々と異能の者達
現代


「霧雨さん、そいつ運んだら今日はもう上がっていいよ。」

 

「分かりました。」

 

 大量の角材を倉庫に直し、今日の業務を終える。

 

「では、先に上がります。」

 

「はいよー。ああ、ちょっと待って。さっき宇佐見さんが呼んでたから、事務所に寄って行ってね。」

 

「宇佐見さんがですか。分かりました。」

 

「そそ。んじゃお疲れ様。」

 

「お疲れ様です。」

 

 過去に飛ばされ、半年ほどが過ぎた。幻想郷での年数があやふやであったため正確な年数は知らないが、およそ八十年前だと思われる。

 紫さんは俺に何をして欲しいのかなど全く言っていないし、ここが何処かもわからない状況だったが、何とか現代の社会に生きている。

 

 今の目標は幻想郷にたどり着くことだが果たして何年かかることやら。能力を使えば行けるかもしれないが、確信がないし、不安定な空間に飛ぶ危険が伴う。紫さんと接触することはほぼ不可能。地道に探していくしかない。

 

 事務所に立ち寄ると、三十半ば程の男がソファーに座っている。

 

「今終わったところか、霊吾君。」

 

「待たせたようですみません宇佐見さん。」

 

「問題はない。噂には聞いているが、結構な重労働でも顔色1つ変えないでやっているそうじゃないか。どこにそんな力があるんだ、と皆が驚いている。」

 

 宇佐見さん。半年前路頭に迷っていた俺を助けてくれた人だ。困っている人を見捨てないというのが心情だそうで、助けられた人は多く、俺のような若者もちらほらいるようだ。

 

「ちょっと慣れてるだけですよ。それで何かご用で?」

 

「その事なんだが、目的地に向かいながら話そうか。だいたい30分くらいでつく。」

 

 二人で事務所を出て、宇佐見さんの車に乗る。結局、目的地を言ってもらってない。

 

 

 

 

 車で走り出して少ししたら宇佐見さんが話し出した。

 

「・・・噂で聞いた1つに面白いことがあった。何でも君のおかげで体が軽くなったとかどうとか。」

 

 流石に耳が早い。以前、そういう相談があった。所謂、悪霊が取り憑いていた。よく俺と一緒にいたがその影響かもしれないと思って祓った。本人には気のせいだと言い聞かせたが。

 

「相談を受けただけですよ。人に話すだけで少しは気が休まることだと思いますが。」

 

「本当にそうだと?その人の回りにも聞いたがまるで憑き物が落ちたかのようだと。」

 

 ほとんど確信をもって否定されている気がする。能力を持っていることなど誰も知らないはず。宇佐見さん自身が俺と同様の存在というわけではない。

 

「君はそういう人ならざる者を見える人だと思っている。もしくはちょっとした超能力でも持っているのではないかと。」

 

「・・・仮にそうだとしてですけど、そういう存在を探しているんですか?また、身内にそういう方がいるんでしょうか?」

 

 この二つが候補に上がる。普通の人とは異なった能力を持つ者はそういない。だけど確実に存在はするし、必要とされる。

 

「・・・その両方だ。昔から人とは違うといわれている子がいる。その子を君に見て欲しい。」

 

 俺が見たところで何が起こるというのだ。

 

 だが、かつては俺もそうだった。人から気味悪がられ、嫌われ、疎外される。

 そういう子に対しても宇佐見さんは相変わらずといった感じだ。いい大人だと感じるが、彼が何時ものような雰囲気ではない。気がやや不安定だ。大きな不安や焦りを感じる。それでも彼はその子を見捨ててない。

 

 俺は協力しなければならない。かつて救ってもらったのだから。宇佐見さんにも恩がある。できるだけ力になろう。

 

「俺と会ったからといってどうなるかは分かりませんが、用件は分かりました。それで具体的には何をすればいいんですか?」

 

 昔の俺であったら理解者となってくれるだけでよかった。だけど、その子が何を求めているかは分からない。

 

「出来ればだけど、その子が人の中に溶け込めるようにして欲しい。無理だとしてもその子とは仲良くして欲しい。人に会いたくないだろうから、その子にとっては辛いだろうが。」

 

 人の中に溶け込むときたか。霊力が多い人間というのは人を惹き付ける人間が多いが、多すぎると拒絶される。本人自身の性格もあるが、根本的な問題もある。天才と呼ばれる者も時代や地域によっては排除されることがあり、本人がどうしようもない場合もある。

 人の輪に入れるかどうかは実際に見てみないと分からないが。

 

「とりあえずは分かりました。俺よりももっと適任はいるとは思いますが。そういう方々を調べなかったわけではないでしょう?」

 

「・・・自称の霊能力や超能力を語る者は数人会わせようとした事がある。だいたいは紛い物だったが、本物もいた。紛い物はその子が見抜いたが、本物は彼らが会いたくないと言った。」

 

「・・・本物でもその子より力が弱い方だったら、接触を避けるでしょうね。自分より強い力を持っているとなると本人からしたら化物の類いになる。特に能力があると言っている人ほど自信があるでしょうしね。」

 

 現代ではあまり見ないが昔ではそれこそ妖怪や異形だと言われていただろう。

 

「君もそういう経験が?」

 

「どうでしょうか。俺はちょっと特殊な事例ですのであてにはならないかと。俺が子供の頃は宇佐見さんのような方はいなかった。貴方みたいな人と出会ってからは救われましたが。」

 

「なるほど、やはり君はその子と同じかもしれない。こういうのは私も好きではないのだが、雰囲気と言うのだろうか。君を初めて見た時から他の人とは違うと思っていた。」

 

 雰囲気ときたか。その子と似てると言われるとそうかもしれないが、雰囲気で分かるとなるとかなり接してきたのだろう。となるとだ。

 

「・・・お子さんですか?」

 

「・・・一人娘だよ。」

 

 道理でよく分かるわけだ。

 

「いろんな人を助けてきた自負はある。そんな私だが、娘一人助けられない。様々な手を尽くしてきたが、私には無理だった。親としては私は駄目なのだろう。」

 

 そんなわけはない。むしろよく投げ出さなかったと言いたいくらいだ。だけど、宇佐見さんには届かないだろう。その娘さんを救い出さないことには彼の頑張りは彼自身が認めないはず。

 

「・・・失礼かと思いますが、奥方はどうされているか聞いてもよろしいですか?」

 

「娘を産んだときに亡くなってしまったよ。それも要因があるのだろう。私自身も悩んださ。最初はほんの少しだけ憎かったこともある。それが伝わっていたんだろう。娘が産まれたことは喜ばしいことだと、理解はしていた。でも心のどこかには少なからず、、、」

 

 後悔が見える。難しい問題だ。

 

「それでも宇佐見さんは娘さんを救おうとしている。どんなに考えても娘を愛していることには変わりはないと思いますよ。」

 

「・・・もしかして君にも子供がいたのか?」

 

「・・・まあ、実の子ではありませんが娘がいました。素直な子でしたよ。」

 

 今は元気にしているだろうか。友達はできただろうか。博麗の巫女として役割を果たしているかよりも気になることは多い。

 もう二度と会えないだろうが。

 

「・・・悪いことを聞いたな。君には私が滑稽に見えるだろうか?」

 

「そんなことはないですよ。宇佐見さんは俺から見たら立派な父親ですよ。まあ、少し不器用な感じは見えますが、俺も同じくらい不器用な父だったと思いますよ。」

 

 不器用というか、おそらく普通の子供であれば宇佐見さんもここまで悩むことはなかっただろう。

 

「どんな結果であれ、ずっと悩み苦労してきたであろう宇佐見さんを尊敬します。」

 

「・・・そう言ってくれて助かる。」

 

 それからしばらく静かな時間が続いた。

 

 

 

 豪邸といえるような家についた。ここが宇佐見さんの家だろう。車を出ると、荒々しい気が二階の一室から感じ取れる。どこか怒っているようで、警戒している、そんな感じだ。確かに霊力や気力を感じ取れる人間なら関わり合いたくはないだろう。

 

「・・・やはり何か感じるか?」

 

「随分と不機嫌だという事は分かります。そういえば年はいくつですか?あと名前も聞いていませんでしたね。」

 

「今年で十三になる。名前は菫子という。」

 

 

 


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