かくして幻想へと至る 作:虎山
玄関に入っても、不機嫌な気を感じる。やや強くなっているようにも思える。
「二階の奥の部屋ですか?」
「・・・どうやら君は本物というわけだ。正解だ。では早速向かおう。」
二人で歩き出すが、近づくにつれて霊力が荒々しくなっているのが分かる。流石に音で気付くだろう。
部屋の前に来ると、寄るなと聞こえてくる程の強い気を感じる。
コンコンと宇佐見さんがドアを叩く。
「菫子、ちょっといいか?」
「・・・何?お父さん。」
不機嫌そうな声だ。ただ拒絶はされていないような感じだ。警戒心は強いが好奇心を抑えきれないといった感じだろうか。
「お前に会わせたい人がいる。今回が最後だ。だから今回は会って欲しい。お願いだ。」
「・・・」
勘ぐられている。ドア越しでも関係なくこちらを探るような感じがする。
「誰?」
宇佐見さんがアイコンタクトで何か伝えてくる。自己紹介をしろという事だろうか。
「霧雨霊吾といいます。君のお父さんに助てもらった人です。少し君と話がしたくてね。中に入れてもらっていいかな?」
「・・・」
無言になった。何を考えているのやら。宇佐見さんを見るとこちらも何か考えているようだ。
「・・・あんただけで入ってきて。」
どうやら向こうも少し興味が出てきたようだ。
「菫子が部屋に招くのは初めてだ。どうやら君を連れてきて正解だったようだ。娘を頼むよ。」
ポンと肩を叩かれ、戻っていく。
少し不安はあるが、部屋に入る。
部屋自体は普通のように見えた。ただ、中学に上がった女の子の部屋と見ると、異物が多いように見える。年代物の骨董品が所々に見える。そのどれもが霊力や妖力を秘めている。
外から感じた荒々しい気はこの子だけのものじゃなかったか。
件の少女は椅子に座って何かを読んでいた。目線だけをこちらに向けた。
「・・・お父さんは?」
「下に降りていきましたよ。」
「ドア越しで聞いてないでしょうね。」
「大丈夫ですよ。彼の気は確かに一階にあります。よほど大きい声を出さない限り、聞かれることはないと思いますが。何か聞かれるとまずい事でも?」
少し目線を泳がし、何かを見ているようだ。俺の言葉だけじゃ、安心しないのだろう。
「・・・確かに大丈夫そうね。で、あなた何者?」
「と言われても、僕は君のお父さんに助られた人としか言いようがないですね。普通の人とは少し言い難いですが。」
近くに来て分かったが、この子はかなり霊力を持っている。少なくとも俺よりは確実に多い。そしてだが、おそらく能力を持っているだろう。宇佐見さんはこの子が人とは違うとしか認識していないようだが。
あんまり探られているのも気持ちのいいものではない。こっちから探ってみるか。
「君はどんな能力を持っているのかな?」
「・・・お父さんには能力の事は言っていないのだけれど、何で知っているの?」
「おや、そうでしたか。その言い方からするに何かしらの能力を持っているようだね。」
「・・・カマかけてくるって大人としてどうなのよ。」
「そんなつもりはないですよ。君が何かしらかの能力を持っていてもおかしくないと思っただけですよ。」
「・・・そういやお父さんの気がどうとかも言っていたわね。それがあなたの能力ね。気配察知、または探知の類とみた。」
「いえ、これは能力ではないですよ。といっても今となっては能力よりも使いやすいものになりましたけどね。」
能力が限定される分、探知能力は鍛えておいてよかった。霊力でなく気力で探知する力は美鈴さんに唯一勝ったほどだ。
「ほんと何者よ・・・まあいいわ。どちらにせよ、やっとまともな人が来てくれた。いや、どちらかというとあなたは異常でしょうけど。あと、その気持ち悪いしゃべり方はやめて欲しい。」
気持ち悪いと言われると少し傷つく。気難しい年の女の子とはまともに話したことないし、宇佐見さんも他と違うと言っていたから一歩引いた話し方をしていたがお気に召さなかったようだ。
「そこまで気持ち悪いか?恩人の娘さんだからな、最初は丁寧にいこうとしたんだがな。嫌だというならこのまま話すことにしよう。聞いていたよりも随分と話してくれるな。」
「これまでの奴らがちょっとおかしかっただけよ。ただの詐欺師やちょっと霊能力があるだけで特別感に浸ってる連中に比べれば、あなたはまとも。だからこそ参考になる。社会への溶け込み方は私も気にはなるのよ。」
十三と聞いていたが随分と大人びている。大人と話しているような感覚を覚える。神童といわれる部類の子供であろうが、明らかに規格が違う。
「俺にはあまり必要ないように見えるが。」
「私も必要ないと思っているわ。だけどお父さんがね。」
何なら普通の子よりいい子だと思う。この年では甲斐甲斐しい父親に反抗の一つでも見えると思うが、全くそんなことを思っていないと見える。
(やはり父親としても立派な方だ。だからこそだろうな。この子の中で大人の基準が宇佐見さんになっているのだろう。)
宇佐見さんのような人は少ない。異物や恐怖に対して避けるわけでもなく、受け止めてなお立ち上がる人間はそういない。正義感や人情、責任感を強く保つ人が基準となったら大抵の人は信じられないだろうな。
逆に言えば、父親への信頼は絶対的なものだと言える。こうして話をしてくれる俺もそれなりに信頼を得ているのだろう。
とりあえずはこの子の要望を受け入れよう。
「社会への溶け込み方も色々ある。適度に能力を使いながら隠していくのが個人的には一番いいと思う。」
「使いながら隠す?」
「能力を一切使わないのは逆に難しい。ふとした拍子、何らかのきっかけで能力が発動してしまうと、制御が困難になる。能力を使わない期間が長いほどより困難になる。」
能力というものが正直どういうものなのかは詳しく説明できないが、その者の生き方や在り方に大きく関わっている。隠すというのも難しいものがある。自分の能力をよく理解しておかないとできない。
いざという時のため、適度に能力を使うことは重要だ。能力の限界も知っておいて損はない。
「ふーん。で具体的には何をしたらいいの?」
「さっき聞いたけど、能力を教えて欲しい。少なくとも君が把握している分だけでも。」
「超能力よ。念動力、瞬間移動、発火はできる。あとは少しだけ集中力が必要だけど透視ができる。他にもいろいろとあるけどね。」
「・・・驚いた。随分と使い勝手がいい能力だな。超能力と言っているのならかなり可能性が広がる。正直、俺の手にも余るものだ。」
超能力という広い範囲においてはおそらく出来ないことはない。幻想郷であっても純粋な能力だけなら間違いなく最強レベルだ。
「今あげた三つはよく使っているのか?」
「そうよ。もしかして能力っていうのは成長したりもするの?」
「成長というよりは慣れだろう。能力といえ精々一人の力だ。限界はある。だけど限界まで引き出すにはある程度使わなければいけない。」
その三つをよく使っていると言ったが、部屋の物を見るに良くない使いかたをしている可能性がある。
「・・・この部屋のもの、買った物か?」
「それを知ってどうするつもりよ。」
「言いたいことはいくつかある。どうやって得たのか、それとなんでこういうやつを集めているのかっていうのを聞きたい。」
「・・・ふーん。まあいいわ。そのガラクタ自体にそこまで興味は無いけど、あなたなら何かわかるんじゃない。呪われた骨董品なんて店主も扱えない物を引き取っただけよ。盗んだわけじゃない。」
言われてみれば普通の物は解呪された跡が見える。あの人の子供だ。異常かもしれないが少なくとも一般常識はある。かなり珍しい子だ。
しかし解呪が出来るほど力を操れるのか。本格的にやることがない気がする。
「それに盗んだと万一にもお父さんにばれたらただじゃすまないしね。少なくともお父さんの前では娘でいたい。」
・・・まあ娘と父親の関係というのは複雑と言うし、杞憂に終わってよかったという感じだ。
「そう思っているのなら問題ないな。話を戻そう。能力を使うにあたって1つ聞いておきたい。君はその能力で何をしたい?」
「・・・さあね。まだ分からないけど、やってみたいことはある。」
「やってみたいこと?」
「どこかに忘れ去られたものが行き着く世界があると聞いた。そこを見つけたい。ん、どうしたの?」
動揺が見て取れたようだ。長くなると思っていたが案外早く幻想郷に行けるようだ。だが、この子が興味を持っていいのだろうか。おそらく、この子ならそう遠くない内に自力でたどり着けるだろう。だけど、この子は帰る場所がある。
俺は情報を与えてはいけない気がした。ただの興味本位で行っていい場所ではない。
「いや、何でもない。面白い話だなと思ってな。どこで聞いたんだ?」
「たまに行く古物商店のじいさんから聞いた話よ。あなたも興味があるの?」
「まあ、少しな。」
目的変更だ。能力を慣らす事で普通の人と関われる様にしようとしていたが、もし幻想郷にたどり着いた場合の事を考えると足りない。
力を付けさせよう。最低限身を守れるくらいには。
時系列は考えてたり考えてなかったりします。