かくして幻想へと至る 作:虎山
能力を知るというのは意外に簡単だったりする。直感的にできることとできないことが分かる。とはいえ、実際試してみないと分からないこともある。
「俺の能力はそんなに万能じゃない。"浮く"というのが俺の能力ではあるが、多少は浮かすこともできる。」
「そもそも浮くって言うのがよく分からないんだけど、体を宙に浮かせたりできるってこと?」
「概ねその認識で間違ってない。この浮くという範囲だが対象が俺であるなら何でもできる。痛覚、記憶、感情といったものでも肉体から浮くという事ができる。」
「へー便利じゃない。万能じゃないという割にはそこそこ使えそうだけど。」
「デメリットはある。例えばだが、痛覚を浮かしたからといって万全に動ける訳じゃない。意識はあるが体が動かない状態になることもある。」
骨折や裂傷の場合、より酷くならないように痛みで体の動きを制限している。
その枷を外すというのは危険を伴う。内臓付近の骨折の場合など、無理に体が動けば内臓をズタズタにすることもある。
それでも動かないと死んでいた場面が多かった。
「そんな状態にまでなることってあるの?」
現代においてはそんなことはほとんどない。よほど荒れている地域や荒っぽい事をしている奴らでもそこまではいかないだろう。あくまでも人間の住んでいる地域では。
幻想郷でもあの時代でない限りはそこまでの危険はないと思われる。それでも十分危ない場所なことには変わりないが。
「どんなに社会に馴染めても、能力を持った人間っていうのは何かしらかを引き寄せる事がある。まあ良くないものが多いが、そいつらが時には害をなすこともある。」
「そんな事もあるのね。」
幻想郷での事を伝えるわけにはいかない。信憑性は微妙だが、納得はしてくれたようだ。
「そういうわけで君には能力に慣れるだけじゃなく色々と対処できるようになってもらいたい。」
・・・
今回は顔合わせだったこともあり、実際に超能力を試すのは後日という事になった。
「君を連れてきて正解だったよ。で、菫子は君から見てどうだった。」
一階のリビングにて、宇佐見さんと向かい合っている。いろいろと行うにあたり、親の許可というのは絶対だ。超能力に関して話していないようだったが、知らせていいのだろうか。
宇佐見さんもある程度は感づいている節があるから時間の問題だとは思うが、本人が伝えた方がいいだろう。
「いい子でしたよ。菫子さん自身は少なくとも宇佐見さんが心配するようなことはないと思いましたよ。」
「そうか、それを聞いて安心した。なんせ私とはあまり会話がないものでな。それで、菫子とどんな話をしたんだい?」
「すみません、詳しくは話せません。大まかな内容は普通とは違う人の生き方というのを少し話しただけです。」
「詳しくは言えないか。まあ仕方がない、」
董子が問題ないと分かり、少しホッとした様子の宇佐見さん。
「菫子さんの事なんですけど、先ほど宇佐見さんが心配することはないと言いましたが、少しだけ危険性はあります。その危険性を把握したうえで、とある許可が欲しいんです。」
「・・・危険性とは何かな?」
「菫子さんはおそらく周りに溶け込めなくてもいい人だと思います。周りから拒絶されるからという理由だけではなく、彼女自身の問題もある。それは宇佐見さんも思っているからこそ、僕に相談したと思うんです。彼女の本質的な異常性はそこじゃないんです。」
「社会に溶け込めないというより大事なのか?」
「溶け込む必要が無くなる場所に行く可能性が高いです。」
「・・・それはどういう意味だ?」
「その前にですが、幻想郷という地に聞き覚えはありますか?」
宇佐見さんは少し考え込む素振りを見せる。分からないはずだが、もしかしたら心当たりがある可能性もある。
「私は知らない。そこと関係があるのか?」
「彼女がそこに行く可能性が高いと思われます。行くだけならと思っているかもしれませんが、おそらく帰ってくることはできない。」
「・・・そんな場所が本当にあるのか?」
正直に伝えるべきか。今、宇佐見さんからの信頼を失うわけにはいかない。といっても信じてくれるだろうか。超能力などは見せてしまえば信じてくれるだろうが、全くの空想に近い話を聞いてくれるだろうか。超常現象であっても理解の限界はある。
だけど、話しておこう。この人なら信頼できる。得体のしれない俺を拾ってくれた人だ。
「幻想郷はあります。詳しい場所は俺も知りませんが、確実に存在はします。」
「・・・君がそれほど言うのだったら信じよう。君が意味もなく嘘をつくとは思えない。それに、こんなことで嘘をつく意味も分からない。」
一応、信じてくれたようだ。
「もしかして、君もそこに行きたいのか?」
「・・・このことは菫子さんには内密でお願いします。幻想郷は俺の故郷のようなものです。俺は帰らなければなりません。」
「・・・その言い方からすると出入りが容易いわけではないのか。分かった。菫子には言わないでおこう。だが、幻想郷とはどういう場所なんだ?」
「あまり想像がつかないかもしれないと思いますが、妖の類が多数いる世界です。正直言うなら場所というよりは別世界のような感じだと思います。普通の人間もいますが、俺や菫子さんのような人間も珍しく思われないところです。」
厳密に言えば霊力の強い人間や能力を持った人間が珍しくないというだけで、董子のように強力な能力を持った人間は珍しい部類だ。
「信じるといった手前だが、俄かには信じ難い話ではある。だが、菫子が惹かれる理由も分かる。」
「今の段階では菫子さんも存在は知っているというだけですが、いずれ行く方法を見つけるでしょう。あと数年はかかるでしょうが。」
時間はかかるが必ず菫子は幻想郷にたどり着く。向こうから接触してくる可能性もあるが、彼女がたどり着く頃の状況次第だろう。
「そうか、、それでその危険性とやらを踏まえた上での許可という事か。」
「そうです。なるべく彼女に力を付けさせてやりたい。宇佐見さんがよければ、定期的に菫子さんに会わせてもらいたいです。」
話の内容も詳しく伝えず、危険性だけを強調して、要望だけ叶えてもらうっていうのは都合のいい話になる。
宇佐見さんも少し考えているようだ。
「・・・菫子はそれでいいと言っているのか?」
「そうですね。宇佐見さんの許可が降りれば問題ないです。」
「そうか。・・・分かった。だが、私も忙しい身だ。それに私がいても大した力になれないだろうから、君だけでも会っていい。むしろそっちの方が菫子もいいのだろう。」
許可は降りた。最も都合のいいようになったが、信頼してくれているのだろうか。半年前に会った不気味で、意味の分からない事を言っているような男に娘を頼めるのだろうか。
真意は分からない。危険性を伝えたとはいえ、全部を把握したわけではないだろう。その上で承知してくれたと思っていいだろう。
「分かりました。ありがとうございます。」
「それとだが、私からも君に頼みたいことがある。」
「頼みたい事ですか?」
「今回のように普通ではない人や事件といったものを君に任せたい。幻想郷とやらについても私の方で調べてみる。その過程で起こったことや会った人について君に伝えていく。悪い話ではないだろう?」
宇佐見さんの人脈はかなり広い。確かに情報については適任かもしれない。それにこういう仕事は博麗の時にしていたことに似ている。まあ相手は違うが、それなりに対処はできるだろう。
「問題ないです。何でも解決できるわけではありませんが、任せてください。」
「ありがとう、これからもよろしく頼む。」
差し出された手を握り、話は終わった。これが幻想郷への第一歩と感じた。
ここまで第二部のプロローグみたいなものです。