かくして幻想へと至る   作:虎山

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依頼と寄り道

 ガラガラの店。古い木の匂いが立ち込める。それなりの年季を感じさせるが、それを感じさせないほどの異質さを感じる。

 

 店に在る物のいくつかが明らかに妖気や霊気を発している。まともな造られ方や使い方をされていないような、怨みや悲痛な叫びのような、そんな感じがする。

 

「珍しいな、まともなお客人が来るのは久しぶりじゃ。如何様かね?」

 

「ここのお得意様って言ってる少女から教えてもらったのですが、随分といろいろ在るものですね。」

 

「・・・あのお嬢ちゃんの知り合いだったか。ということはあんたもこっち側の人間かね?客じゃないなら帰って欲しいんだがの。」

 

「こっち側と言われても分かりませんが、今の僕は単なる客ですのでそう警戒しないでください。」

 

「ならいい。あの嬢ちゃんはわしより力が強いからの、いろいろ捲し立てられた事もあったもんでね。客として来ているのならなんの問題もないさね。」

 

 好きに見ていい、そう言われていろいろなものを物色する。

 現代において妖の類いと戦闘になることは殆どないとは言え、準備にこした事はない。格闘が主体ではあるが、八卦炉や刀がないとやや不安がある。

 

 仮に戦闘になる場合必ず苦戦を強いられる。現代に生き残っている妖怪に弱い存在はいない。

 

 とはいったものの目ぼしい物はない。呪術に使用したと思わしき物や妖怪が作ったと思われる物等、珍しい物が置いてある。

 

(・・・こいつは付喪神か。こんな場所にあるとは思わなかったな。)

 

 木刀や真剣といった長物がまとめて立てられているところに紫色の唐笠が一緒にされている。

 少し気になった事もあり手を伸ばそうとするが。

 

「そいつは止めときな。」

 

 店主から声がかかる。

 

「・・・非売品ですか?」

 

「そういうわけじゃねえ。お前さんも分かっているだろ?そいつはもう妖の類だ。」

 

 ここの店主も物が物だけに感覚で妖力や霊力が分かる人間なのだろう。忠告はありがたく受け取るが、店主は本音を言っていない気がした。

 

「菫子さんにはいろいろと道具を渡すそうですが、この唐傘も店主さんが扱えないようなら俺が買いましょう。」

 

「・・・へたな言い訳が通じないのは厄介だな。本当の事を言うとだ、そいつは人を驚かすという目的がある。お前さんが持ってしまえば、それこそただの傘も同然の扱いだ。そいつは普通の人の手に渡ってこそ意味があるとみてんだよ。」

 

 道具の意図、目的がわかる能力といったところか。限定的な能力といってしまえばそれまでだが、こういう商売ならそれなりの使い道があるのだろう。

 物が妖となるのは、人が原因である。独特な色の唐傘だ、それこそ何人もの手に渡り何回も棄てられたのだろう。付喪神になる物というのは必ずしも負の想いが宿っているわけではないが、この唐傘はかなりの怨念というのを感じる。人に使われる物である以上は人を害するほど強大にはなれない。だからこそ驚かすという目的が精々なのだろう。

 

 何とも悲しい存在ではないか。

 

「店主さんはこいつを物と見る?それとも妖と見る?」

 

「そいつは妖だ。」

 

「そうですか、なら賭けをしましょう。もし俺の声にこの傘が応えてくれなかったら、こいつには触れないです。ただ応じてくれたら買わせてもらってもいいですか?」

 

「・・・いいだろう。やってみな。」

 

 今まで横目に見ていただけだった店主がこちらに顔を向けた。それなりに興味があるのだろう。

 

「・・・なあお前寂しいだろ。自分という存在が理解されないという孤独。人から捨てられ人を恨む道理は分かる。だがな、それだけじゃ絶対に心の隙間は埋まらない。妖となったお前の原動力である恐怖を俺は与えることはできない。だけど、道具としてお前を使ってやれる。少しの間だけでも俺の道具になって欲しい。今日は夕方から雨が降るらしいからな、さっそく出番がある。」

 

 こんなところだろう。興味本位かもしれない。ただの勘だが、こいつは俺の力になってくれる気がする。

 

 

 

 

 

 

「・・・長々と店をやってきたが、こんなことは初めてだ。よかったじゃねえか小傘。」

 

 少し顔を店主に向けた隙にずしっとした重みが手に来た。いつの間にか右手には紫色の唐傘が握られていた。

 

「小傘って言うんですか。面白い名前ですね。普通の傘より重いんですけどね。」

 

 傘の妖気が少し揺れた。どうやら重いと言ったのがお気に召さなかったようだ。

 

「ごめん、ごめん。俺には丁度いいくらいだ。」

 

 少し妖気が引っ込んだ。ちょっと扱いにくいが面白いやつだ。

 

「というわけで買わせてもらいますがいいですか。」

 

「持っていきな。へたな値段付けて、そいつに恨まれたくないんでね。」

 

 やや上機嫌な様子だ。この店主はきっと道具の行く末が気になる人なのだろう。菫子に譲っているのもおそらく道具の目的を優先していたのか。

 

「ありがたくもらっておきます。もう一つあなたに聞きたいことがあるのですが。」

 

「何だ。」

 

「幻想郷という場所をどこで知りましたか?」

 

「・・・さあな。嬢ちゃんから聞いたのか知らんが、俺もそういう場所があるっていうのを聞いただけだ。」

 

「誰から?」

 

「食い気味だな。もしかして何か思い入れでもあるのか?まあいい、道具の中には帰りたがってるやつもいるのさ。俺はそういう道具が同じようなところから来たと推測している。」

 

 幻想郷から現代に道具が来るのか。一度幻想入りしたものは何であろうが簡単には出ることはできないはず。

 

 改めて店の物を見る。曰くつきの物が多い。なるほど、外へ追い出しているのか。人里にあっては良くない物も少なくはない。

 

「古い文献を読んだ時に『幻想郷』という地があったとある。忽然とある時にその場所は姿を消したそうだと。まあそれも大分前だ。」

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 どんよりと曇った空。目的地の途中に菫子が言っていた古物店があってよかった。情報収集はあまりできなかったが、面白いものを手に入れることが出来た。

 

 今回は宇佐見さんからの依頼でとある学校に向かわなければならない。個人的にも少し気になったのでちょっと見てみたいという思いもある。

 

 菫子と同じように周りから少し浮いていると思われる少女だそうだ。というのも無愛想で口数の少ない少女とのことだが、問題は強さだそうだ。剣道一筋に生き、男であっても勝てないと言われるほどの実力だそうだ。

 強い剣道少女であるならちょっと腕試しでもさせて欲しいところである。男でも勝てないと言われるほどだ。天才の類であろう。剣道はやったことないが興味はある。

 

 そうこう考えているうちに件の学校に着いた。小雨が降ってきており、ちらほら急いで帰っている学生も見える。校舎から少し離れた武道場に向かう。

 けたたましい声と竹刀がぶつかる音が響く。入口に向かうと顧問の先生と思わしき人がこちらに寄ってきた。

 

「宇佐見さんの言っていた霧雨さんかな?」

 

「はい、そうです。」

 

「随分と若いんですね。島といいます。今日はよろしくお願いします。」

 

「島さんですか。お願いしますといっても、お願いするのはこっちなんですけど。それよりあの子ですか?」

 

 稽古だと思われるだろうが、傍目には蹂躙にしか見えない。剣道っていうのは声に出すのも重要だと聞いているが、黙々と竹刀を捌き、面や胴に打ち込んでいる。同年代の男がまるで赤子のように振り回されている。

 

「また、あいつは、、、魂魄!声を出せと言っているだろ!」

 

 竹刀の先を倒れた相手に向けてこちらに顔を向ける。

 

「止め!魂魄はしばらく打ち込み台を相手にしろ!」

 

 そういうとこちらに頭を下げ、スタスタと武道場の隅に行った。

 

「霧雨さんの言う通りあの子です。魂魄妖見(ようみ)といって、剣道は出鱈目に強いんですが、如何せん言う事を聞かないので扱い辛いんです。私も彼女には勝てないもので。」

 

 島さんの実力はよく分からないが、それなりの経験がある大人相手でも勝てないほどの強さ。確かに出鱈目だ。

 まあでも一応言うことは聞くのか。熱中すると駄目なタイプなのかもしれない。

 

「・・・他の生徒が帰った後でよければ、相手をしましょう。」

 

「私が立ち合うのであれば問題ありません。他の生徒には見せられませんか?」

 

「剣道であれば見せられますが、魂魄さん相手に剣道では自信がないです。自分なりのやり方になるので島さんもよくは思わないかもしれません。」

 

「・・・どちらも怪我をしないようでしたら問題ありませんが、そこは大丈夫なのですか?」

 

「絶対大丈夫とは言いませんが、島さんも思うところがあって宇佐見さんに話していたのでしょう?あの子の成長のため、一度は完全な敗北というのを経験させたいのでしょう?」

 

 このまま自由奔放にさせておいてどうなるかは分からないが、いい方向には向かない。特に力を持った者が拗れると厄介な存在になる。

 大人の方々が心配するのも分かる。

 

「・・・分かりました、いいでしょう。宇佐見さんがあなたに任せれば何とかなると言っていた意味少し分かった気がします。」

 

「買い被りすぎです。僕はそんな大層な人じゃないですよ。」

 

「魂魄と少し似てるようで違う。そんな感じがしました。きっとあなたも人並外れた実力を持っているのでしょう。」

 

 宇佐見さんにしろ島さんにしても、感づくものがあるのだろう。

 

 魂魄は無心で打ち込み台をしばいているが、こちらに興味を向けている。目線がなくとも分かる。

 

 魂魄は楽しみにしているように感じた。

 

 

 




独自解釈

店主の能力
・道具の「目的」が分かる

霖之助の能力
・道具の「名前」と「用途」が分かる

「目的」は道具主体、「用途」は人主体
普通の道具であれば「目的」と「用途」はほぼ同じになる


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