かくして幻想へと至る 作:虎山
雨の音だけが響く夜。街灯の明かりだけが対峙する二人を照らす。
(霊力の感じが武道場でのものとは違う。より荒々しく、鋭い。まるで刀を模したような霊気だ。命のやり取りが初めてとは思えない。)
「行きますよ!」
地を蹴り飛び出してくる。刀を降り雨の斬撃を繰り出し距離を詰めてくる。
(速い!防具を着けてないとしてもこの速さは普通じゃない!)
斬撃を避けて、迫り来る魂魄に距離を詰める。刀の範囲内に行けば、格闘の方が早い。
呆気に取られている魂魄の溝に掌底を叩き込む。強く打ち込めば、戦闘不能にできる。
だが、柄で手を叩き落とされる。そのまま刀を振り下ろしてきた。
「くっ」
咄嗟に距離をとって回避しようとしたが、左肩から胸にかけて僅かに切られた。
傷は浅く、戦闘続行に支障はない。だが、魂魄の反応速度、対応をみる限り素手での戦いは不利だ。
「その刀は使わないのですか?」
魂魄の目線には小傘がある。
「何を言ってるんだ。お前にはあれが刀に見えるのか?」
「だから持ってたんじゃないんですか?この楼観剣と同じような物だと感じていたので武器だと思ったのですが。」
魂魄の言い方からするに小傘は妖刀の類いなのだろうか。だが、真偽を確かめている暇はない。
「丸腰の相手を切るのは性分ではないのですが、さっきのやり取りで簡単に切られてくれない事は分かりました。たとえ武器を持たずともあなたは強い。」
嬉しくない評価だ。興味を失ってくれればよかったのだが。
(・・・小傘にかけてみるか。こいつの言い方からするに間違いなく武器の類いではあるはず。)
地面に転がっている小傘を拾い上げる。妖力が乱れている。
(・・・この重さ。違和感の正体は分かった。だが、こいつが力を貸してくれるだろうか。)
再び魂魄が動き出す。さっきより速くなっている。身体能力が無意識の内に上がっていると見ていいだろう。持久戦に持ち込めば勝てるかもしれないが、こいつの身体がどうなるか分からない。
(能力が暴走して無理矢理身体を動かしているなら、長く戦えば戦うほど魂魄の身体は壊れていく。早めに決めなければ。)
迫り来る斬撃を躱す。距離をとって見極めれば躱せる速さではある。少なくとも今の段階では。
地面を蹴り上空に飛ぶ。飛行する手段がない魂魄相手なら多少は時間が稼げる。
小傘と交渉する時間は十分だ。
「小傘。ここで力を貸してくれなくともお前を捨てることはない。人を守る傘として、人を殺す刀として作られたお前に無理をさせる事はしたくない。驚かせるという目的は傷つける事への抵抗だろ。」
仕込み刀。相反する二つを組み合わせた道具。意思を持てば必然と歪んでいくはずだった。それでもこいつは傘として道具であろうとした。その意思を無視してまで武器にしていいはずがない。
「約束しよう。お前で人を切らない。だから俺に力を貸して欲しい。お願いだ。嫌なら無視してくれて構わない。」
魂魄は電柱を伝い空中に上がってくる。俺の頭上に飛び上がり、刀を振りかざす。
(後は信じるだけだ。ただの傘であっても骨組みの材質は頑丈な物。一度くらいなら壊れない。だが、俺の声に再度応えてくれ、小傘!)
キンっという金属音が鳴り響く。
「・・・大好きだぜ、小傘。」
魂魄の刀を受けた傘は刀に変化していた。呆気に取られる魂魄の服を掴み、地面に投げつける。
魂魄も投げられる寸前、不安定な体勢で刀を振るう。僅かに避けきれず掠める。
互いに地面に降り立ち、相対する。普通なら十メートル近い高さから落ちて無事なわけはない。さっきの上空に上がってきたのもそうだが、身体能力だけで説明が付くものではない。
「・・・可笑しな武器ですね。てっきり仕込み刀だと思っていたが、傘が刀に変化するとは。あなたは魔法使いか何か?」
「俺が魔法使いとして、俺の動きについてくるお前は何者だ?人間離れした身体能力と戦闘センス。天才剣道少女の域を越えている。」
「私もここまで身体が動くのは初めてです。これまで私より強い人は少し本気をだせば倒せた。けどあなたは違う。常に自分の限界を越え続けてもまだ勝利が見えない。」
徐々に上がっていく速さ、斬撃の鋭さ、滲み出る霊力。こいつの能力が少しだけ見えた。
「自分のリミッターを常に外していってるのか。その状態で戦い続ける先には破滅しかないぞ。」
「それがいい。全身全霊、本気を出して終われたら幸せです。ですが、私の限界はまだです!」
姿が一瞬ぶれる。見えなくとも場所は分かる。だが、斬撃の位置までは正確に把握できない。
(細かい動きでこちらを撹乱しているのか?いや、直線的で動きが大きい。速さについていけてないがそれを上手く使っているのか。)
こういう場合、防ぐ手段は絶対に相手が届かない位置に行くのが正解だろうが、もう一つの手段を使う
(・・・鈍ってないといいな。)
目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませる。出鱈目に動いているなら、追って防御するのは困難。
一瞬感じた危険に全てを賭ける。最短距離で刀を出し、相手の斬撃を止める。
「なっ!」
隙を逃さない。刀で相手の刀を弾き、がら空きになった胴体に掌底を打ち込む。
一度は防がれたが、今度は通った。だが、手応えが薄い。当たる瞬間に後ろに飛んで威力を押さえたか。
それでも弾き出した身体は吹き飛ぶ。
(ここで決める。現状こいつの意識を持っていく攻撃は難しい。なら、動きを封じればいいだけだ。)
体勢が整う前に回り込み、組み付く。
「くぅ、ああ!」
凄まじい力で抵抗する。だが、腕を締め上げているため、無理に抜けようとすればどうなるかは分かっているだろう。
少し抵抗が収まる。際限なく力が上昇する訳ではないようだ。
「・・・さっきの攻撃、見えていませんでしたよね。何で防ぐことができたんですか?」
組み付かれながらこちらに質問してくる。諦めたと言うわけではない。だが、どうしようもないはずだ。
「勘に動きを委ねただけだ。どうせ見えたところで対処できるわけではない。」
「勘ですか、、、試してみましょうか。」
そう言うと、魂魄は手首だけで刀を振るう。威力はほとんどでないが、刀そのものに力がある。
刀は自分の首筋に向けていた。
「・・・やはり守ってくれますよね。」
刀を掴み止めている。
(こいつ、今のは確実に首筋を切り裂くつもりだったな。)
力が緩み、組みつきを外される。だが、こっちもただでは終わらない。肩の関節を外し、片腕を使えなくした。
「くぅ」
刀から手を離し距離を取る。あのまま持っていたら手を切り裂かれていた。それでも刀を掴んでいた手は深い傷から流血している。
ハンカチで縛り上げて止血する。もう勝負は付いている。
(・・・ここまで傷付いたのは幻想郷以来だな。魂魄の力もあるだろうが、鈍っているな。)
魂魄はブラブラと片手を揺らしてもまだ立ち上がってくる。目に闘志の火を浮かべて、戦おうとしている。
「まだやる気か。もう止めておけ。」
「まだ立てる、刀も振れる。まだ終わってない!」
距離を詰めてくるが、さっきまでの速さはない。能力の限界が来たか。よく戦った方だ。能力が暴走した状態でも技術を失わずにいられるのは本人の才能もあるだろうが、常に修練を繰り返していたと思われる。
時代が違えば、最強の剣客になっていただろう。
「よくここまで戦った。お前はまだ強くなれる。だから、今は敗北を知れ!」
ここから先は消耗戦だ。能力はもう考えなくていいだろう。霊力の収まりから考えても、身体の限界だ。
受けきってやろう。辻斬紛いの行動であっても、正面切って戦いに来た魂魄に対して応えてやろう。
片手での全力の一撃。防ぎながらも感じとれる強さはこいつの底を感じさせなかった。
斬撃は止めたはずだが、微かに頬を滑る感覚があった。
一筋に流れる血を見ると笑いながら、倒れるように崩れ落ちた。
「とど、かなかったか、、、」
身体を受け止める。力を出し切り、気絶したようだ。
後に残ったのは雨音だけだった。
現代初戦闘