かくして幻想へと至る   作:虎山

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怪奇事件

 菫子と妖見に色々と教える日々が続き、現代に飛ばされてから一年が立った。

 少しだけ寒さを感じ始める時期だ。

 

 宇佐見さんに呼ばれ、宇佐見邸に来ている。ここも大分通ったものだ。今日は菫子が学校に行っているらしく、珍しく宇佐見さんだけが家にいるようだ。

 

 いつもの依頼だろうか。紅茶を淹れていただき、席についた。何時も通り世間話から入る。といっても宇佐見さんは菫子の事が多いが。

 

「菫子から君以外の話も聞くようになったよ。楽しくはなさそうだが、学校の話もね。なんというか、大人になっていってるなとしみじみ感じるよ。」

 

 大袈裟のように言っているが、いい傾向だ。周囲にしかなかった関心が少しは広がったのだろう。広く物を知ろうとするのは悪いことではない。

 何時までも菫子の話をするので、こちらから切り出す。毎回の流れだ。

 

「余裕が出てきたというんですかね。菫子さんの話は置いときましょう。今回はどんな用件なんでしょうか?」

 

「・・・今回は少し厄介な事だ。人探しをして欲しい。」

 

「人探しですか。俺の得意分野ではありませんが、頼んでこられるという事は普通の人ではないのでしょうか?」

 

 もとより依頼はそういうものに限られている。

 

「普通なのは人ではなく、状況とでも言うべきか。事の成り行きは四人のキャンプだ。男女二人ずつでキャンプに行ったようだ。場所はここだ。」

 

 地図を広げて、ペンで印を付ける。

 

「警察の捜査もあったが、道具だけが取り残されていた状態だったそうだ。食料も漁られた後もなく、熊という線は無いようだ。ある警察官からの情報だが、白い粘着性の物が付着していたようだ。蜘蛛の糸と似たような物で僅かに毒性を持っているらしい。」

 

「・・・確かに不可解な点が多いですね。ちなみにですが、帰ってくる予定は何時で、捜査は何時行っていたんですか?」

 

「帰宅予定は五日前、捜索は三日前に行われている。周辺も捜索したが見つからず、失踪という事になったが、私はそうは思えないのだよ。キャンプに行った人の親からも頼まれてね。それで君はどう思う?」

 

 毒性を持った粘着性の物か。まあ間違いなく妖怪だろうな。現代でも目立つとは、よほど世間知らずなのか、見つからない自信があるのか。

 

 現代まで生き残っている時点で厄介な奴であろう。

 

「妖怪の類いの可能性は高いです。五日前となると全員生きている保証はありません。血痕とか他に気になる点はなかったんですか?」

 

「・・・妖怪か。まあ野生動物にしろ人間にしろできる事ではないか。他に特筆すべき点はなく、血痕もなかったらしい。」

 

「・・・厄介です。傷付けずに四人を確保できるくらいには頭が回る見たいですね。」

 

「・・・全員生存は絶望的か?」

 

「いや、半分は生きていると思います。」

 

「その根拠は何かな?」

 

「この時期に動き出すという事は冬眠の準備だと考えます。より体に栄養が蓄えられるよう、自分の血肉を分け与えていると思われます。」

 

 妖獣などは行わないが、知性を持った中級妖怪なら行う。自分の血肉。おそらくは糸でも食べさせているのだろう。僅かな毒性とあるが、妖力を人に送り込むには十分だろう。

 衰弱し、逃げる事もできずただ食われるのを待つという恐怖も狙いか。

 

「・・・下準備というところか。」

 

「そうです。一人を食らい、その分を与えていると思われます。この推測がどうであれ、早く動かないと手遅れになる可能性は高いです。」

 

「行ってくれるか?」

 

「任せてください。」

 

 

・・・

 

 

 早速準備を行う。妖怪退治など一年ぶりだ。正直不安が大きい。相手の特徴が少ししか分からない今、対処を考えても仕方ない。

 

(蜘蛛の妖怪で、毒性となると土蜘蛛の可能性が高い。幻想郷では地底にいたとあるが、同一の存在か?いや、現代まで残っている妖怪が、幻想郷の地底に行くとは考えづらいか。)

 

 思考を続けながら、車に向かう。

 

 後部座席に人影が見える。気付かなかった。いや、巧妙に力を抑えているようだった。

 

(まさか!)

 

 開けると菫子と刀を持った妖見が座っていた。

 

「何故お前らがここにいる?」

 

「話は後にした方がいいんじゃない。急いでいるんでしょ?」

 

 絶対に引かない様子の二人。ここで言い争っていてもしょうがない。

 

「・・・この不良娘どもが。好きにしろ。ただし来る以上は俺の指示に従ってもらうぞ。」

 

 運転席に乗り、エンジンをかける。

 

 

 

・・・

 

 

「どうやって会話を知った。お前らは学校にいたはずだが。」

 

「あんたの気配は感知しやすい。私の家にその気配が入っていくのを感知したから気になって、飛んで聞き耳を立ててたのよ。そしたら面白い話をしてるじゃない。あんたが感知能力が高いといっても抑えた霊力を完全に感知するのは不可能でしょ。」

 

 随分と力を使いこなしてるな。微妙に妖気を発している分、俺の存在は確かに分かりやすい。だが、学校からこの家までの距離をよく感知できたものだ。

 

「で、妖見は何故いる?」

 

「菫子に呼ばれましたので。後は私も興味がありますしね。異形の存在に。」

 

 呼んだか。わざわざ飛んで行ったのか。

 

『飛んでいったわけではないわよ』

 

 バックミラーで後ろを見ると、菫子が頭を突っつき、してやったりの顔を浮かべた。

 

「・・・新しい超能力か。」

 

「精神感応。テレパシーといった方が伝わるかしら。個人への発信しかできないけど、要件を伝えて屋上まで行ってもらえば、妖見さんの霊力なら感知できる。」

 

「ビックリしたよ、いきなり頭に声が響くから何事かと思ったよ。聞く限りでは面白そうな事だから着いていきたいなということだ。」

 

 感知能力を鍛える中で発現したか。

 

「今の私なら一人を連れてここまで瞬間移動でこれる。最初みたいに能力に限界も感じなかったわ。成長したってことかしら?」

 

「・・・確かに能力は使っていけば影響や範囲、精度は上がっていく。基本的には徐々にしか上がらないが、能力にもよるだろう。」

 

 能力の扱い方は以前からそれなりにやっていただけあって目を見張るものがある。

 自己学習能力が高いのだろうか。霊力もそれなりに扱えるようになっている。

 

「本題だ。今からの目的はどれくらい理解している?」

 

「妖怪退治でしょ。」

 

「違う、人探しだ。可能性は高いが妖怪と決まったわけではない。相手にしないならしないに越したことはない。」

 

「それでは戦わないのですか?」

 

「妖怪でないなら単なる捜索で終わる。菫子もいる事だ、すぐに終わる。だが、妖の類いであったら確実に戦闘にはなるだろう。」

 

 持ち場を荒らされて怒り狂う場合は対処しやすいが、罠を仕掛けて誘い込んでくるような妖怪だと面倒だ。

 

「それでだ、役割の確認だ。もし戦闘になった場合、俺が相手をする。二人は捕らわれている人達の救出をしてくれ。お前達ならそこまで時間は掛からないはずだ。」

 

「私一人でもやれると思うけど。」

 

「瞬間移動があれば出来るのは分かる。だけど、相手次第では救出後にこっちに回ってもらうかもしれない。なるべくは力を温存させておけ、危険なことはさせたくはないが、俺がやられれば全員終わる。」

 

「なら三人で妖怪とやらを倒してから救出するのはどうですか?」

 

「悪くはないが、地の利は向こうだ。救助する人を人質にされては困る。いいか、あくまで優先は救出だ。相手の力がどうであれ、何とか時間は稼ぐ。」

 

 瞬間移動が使える菫子がいれば確かに救助は早く済む。だが、瞬間移動も連続で行えば消耗は激しい。特にどれほどの距離を往復するか分からない状況なら瞬間移動を当てにするのはやや不安が残る。

 

「運が良くて最大4人。まあでもおそらくは2、3人だと思われる。瞬間移動は1往復分は使っていい。妖見は頑張って運んでくれ。」

 

「・・・随分と用意周到ね。それだけ厄介な相手ってことかしら。」

 

「情報が少ないからな。どういう相手かもよく分かっていない状況だ。警戒は最大限しておけ。」

 

 二人とも各々違うが感知能力は高い。連れていきたくはないが、実際二人がいてくれた方が頼りになる。

 

 今出来るのは戦闘になることがないのを祈るのみ。

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