かくして幻想へと至る 作:虎山
「・・・着いたぞ。ここから先は車では行かない方がいいな。」
茶色がかった木々が生い茂る山。端から見れば何の変哲もない普通の山だ。
「これは、、罠?」
「気付いたか。罠かどうかは分からんが、少なくとも狩り場であることは分かるな。」
山に広く分散している妖力。行方不明事件は妖怪の仕業で間違いないようだ。向こうも警戒はしているのだろう。警察が捜索して見つけることができないのも頷ける。
(やはり知恵があるな。現代の人間を少なからず恐れてはいるか。)
「・・・違和感はあるが、菫子みたいには感じ取れない。何が見えているんですか?」
「そうだな、、、妖見は感覚で一番危険な方向を見つけてみろ。そういう勘は俺より鋭い。」
危険察知という勘は数多の経験で養うことが出来る。生存、戦闘においても大いに影響してくる力ではあるが、その経験がないものでも勘が働くものもいる。
天性の勘。経験など不要だと嘲笑うかのように持っている奴はいる。妖見もその傾向がある。
俺や菫子では山全体に広がっている妖気で、正確に本体を見つけることは難しいが、妖見の勘と菫子の能力があれば見つけることが出来る。
「そうですね、、、あそこら辺から危ない感じがします。」
山の中腹辺り。やや離れたところを指差す。
「菫子、透視で見てみろ。この距離ならよほど感知能力の高い妖怪くらいしか気づかない。山全体に張り巡らせた妖気からしても素の感知能力が高いわけではないようだから安心しろ。」
「分かったわ。」
距離があっても一点集中での透視は可能であることは分かっている。
菫子を顔を歪める。そして口を抑える。
「・・・遅かったか。確認のため聞く、何が見えた?」
苦しそうにしながらも、何とか言葉を捻り出しているようだ。
「・・・化物が人を食ってる。巨大な蜘蛛の体に人間の上半身がくっついているようなやつが見えた。あと、生きてるか死んでいるかは分からないけど女の人が二人いるのは確認できたわ。」
「そうか。よくやってくれた菫子、無理をさせてすまなかった。」
「・・・問題ないわ。あんたについて行くって決めた時に覚悟してたことよ。気にしないで欲しいわ。」
人が食われる場面を見て、よく耐えている。大人でも恐怖で身動きが取れなくなってもおかしくない。
すまないが、もう少し頑張ってもらおう。
「行動確認だ。まずは、、、」
・・・
山の中に単独で入り込む。あちらこちらに妖気を感じる。注意して見なければ分からないくらいに細い糸が辺りに張り巡らされている。
その糸を踏む。プツンと切れるほど脆く、普通に当たっただけではおそらく気づかないだろう。
糸を気にしないように歩く。まるで何も知らないように歩き続ける。
しばらくすると頭に声が響いた。
『動いた!あんたの方に向かってるわ。』
その言葉を頼りに妖気を探る。辺り一帯に妖気が充満している状況では範囲の中に入っていても相手に動きがない限り索敵は難しい。
だが、動きさえあれば見つけることはできる。さらにこっちに向かっているのであれば容易くなる。
(・・・来る!)
速さはそれほど無いが、慣れた様子で木々を飛び交い向かってくる。上に滞在しているようだ。木々が不気味に蠢き、ざわめいているように感じる。
(俺に恐怖を与えるつもりだろうな。こちらの様子を探っているわけではないようだ。一先ずは普通の人間と思い込ませることはできたとみていいだろう。)
一切のリアクションを起こさないなら、次の手段に出るはず。
目の前に突き刺さる脚。目線を上げれば、人間体がこちらを見下ろしている。菫子の情報通り、蜘蛛の胴体に人間の上半身、三メートルに届く巨体。
怪訝な表情をしている。
「・・・驚いた。あなた一切恐怖してないのね。」
「知性はあるみたいだな。大妖怪のなり損ない程度ってとこか。」
「へぇ、知ってて来たのね。それにしても興味深い。私が大妖怪のなり損ないだって言ったわね、人間。」
妖気が荒々しくなり、怒りの感情が読み取れる。
「そうだな。お前からは大妖怪特有の威圧感を感じない。」
「まるで大妖怪と会ってきたみたいな言い方ね。」
「幻想郷。」
ピクリとして目を細めた。どうやら知っているようだ。
「・・・なるほど、幻想郷の人間か。で、ここに何しに来た。」
問答無用で争うということはしないようだ。こちらの実力が未知数な間はむやみに戦闘を起こさないようだな。長く現代で生き残っているだけに慎重だ。
「争いに来たわけではない。あんたが攫った人間を返してもらいに来た。十分長生きしてるようだが、これまでも人を食ってきたのか?」
「いいえ、人間を食べるのは久しぶりよ。山でひっそりと暮らしてたのに深くまで入ってきて騒いでいたら流石の私も我慢できないわ。」
こっち側の責任だったか。こいつ自体、積極的に人を襲うタイプではないのか。
「で、返せと。お前らから入ってきたのにか?」
「虫のいい話だとは分かっている。だが、人間が支配しているこの世界ではあんたは弱い。武装した集団を相手にしなかったのは自信がなかったのだろう?現代の武器の脅威を知っているから身を潜めていると思っているんだが。」
「・・・だからどうした。」
「死ぬまで隠れている方が身のためだ。あんたも分かっているはずだ。多くの人が入ってきて焦ったのか、痕跡を残してしまった。遅かれ早かれ見つけ出される。今あんたが取るべき選択はここから離れることだと思うが。」
相手を逆撫でする言い方かもしれないが、向こうも自覚はあるのだろう。こちらの言い分に反対する気は無いようだ。
「・・・私もね。そう思っていたのよ。ここに人間がやって来るようになって離れた方がいいのかもしれないと。でもね、、」
不気味な笑みを浮かべる。血塗れの歯を剥き出しにして、頬が裂けるような笑み。人の心に恐怖を刻み込むような表情だった。
「人を食べたときに思い出した。私、いや私たち妖怪は原始的な本能には勝てない。人を食べた時に涌き出る力を久しく忘れていたのよ。人を食べ続ければ、こそこそとする必要はないわ。ここにいれば人は来るのだから離れる道理はない。」
まさしく妖怪のあるべき姿だった。自分の欲求に従い暴れ続け、いずれ討伐される。
交渉の余地はない。野放しにするわけにもいかない。ここで終わらせる。
「・・・そうか。一つ聞きたい事がある。幻想郷が何処にあるか知っているか?」
最後に聞いておく。期待はしていないが、何かしら情報を持っているといいんだが。
「知らないわ。私は興味がなかったから。それに今から死ぬあなたには関係ないわよね。あなた美味しそうだから、すぐに食べてあげる。」
咄嗟に回避行動を行う。二本の脚が自分の居た場所に突き刺さる。
「・・・なかなか速い。やっぱり妖怪相手に慣れてるようね。だとしてもここでは私が有利だわ。」
周囲に張り巡っている糸があるなら高速移動でも捉えられるか。糸を避けながらの移動は不可能だ。
回避優先の戦法でいく。今の俺の力でどこまでやれるか測るにも特攻は得策ではない。
「・・・持久戦だな。小傘、妖怪は切ってもいいか?嫌ならこれまで通りでいく。」
仕方がないという感じの反応。相手が人間でないからこそ、受け入れてもらえたのだろうな。
(流石に人の部分は切らせないようにするか。小傘の意に反して武器として使っているのだから、それくらいはしてやらないとな。)
傘を振り、刀にする。小傘との息もあってきた。ある程度自分の意思で形態を変えれられるようになった。
「そんな刀で倒せると思わないことね、人間。」
「やってみないと分からないだろう、妖怪。」
ここまでの会話、さっきの回避行動を見てこいつも警戒するだろう。
だとしても対処できるはずだ。かつて戦ってきた妖怪達に比べればこいつは弱い。